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57_事後処理とその先

マッツ元支部長と対峙した日から一月程が経った。

ボク達は未だベルモンドの魔王教支部に居る。


「御免!

コラペのシルバラード支部から参った。

マッツ殿は居られるか。」

「あ、はい。

こちらです、案内いたします。」

「うむ。」


支部にやって来たのは、エルフ一人と付き人二人。

魔王教徒の紋章の着いたローブを着たボクは、三人を案内する。

成人前後くらいの年にしか見えないボクの事なんて、誰も疑っていない。

そして、とある小部屋の前に差し掛かる。


「今だ!掛かれ!!」

「「──っ?!?!」」


物陰に隠れていたリックとザーレンさん、その他魔王教徒の腕っこき三名が飛び出して、来訪者の三人を小部屋に押し込んだ。

お察しの通りその小部屋は魔術封じが施された部屋である。

三人は為す術無く制圧された。

何故、エルフが隠れた人物に気付かなかったのか?

それは、ヴェロニカさんが『魔術阻害結界』を使っていた効果である。


「よしっ!

警備兵詰所へ連絡してくれ。」

「はいっ!」

ザーレンさんの指示に従い、教徒の一人が駆け出して行った。


当然の事ながらこの世界では電波通信など行われていない。

情報は誰かが伝えなければ伝播しないのだ。

今、ボクの目の前で捕らえられたのは、コラペの魔王教支部との連絡要員である。

と同時に、「ハイ・エルフの里」から定期的に指示を受けていた者でもある。

マッツを介して指示が届けられていたのだ。


この一カ月の間、帝国南部やコラペの支部から何度も、マッツ元支部長と面会するために訪れる者があった。

そのことごとくを今の様に捕らえて尋問したのだけど、エルフは例外なく「ハイ・エルフの里」の傘下の者達であったのだった。

彼らは帝国への背任行為を知っていた者であったため、帝国軍に引き渡され、より詳細な情報を引き出される事になった。


また、エルフ達の尋問の結果、マッツ元支部長は遷都派の貴族とも通じていたらしい。

おそらく彼等の求めに応じた人員を派遣して見返りを手にしていたものと推測される。

マッツ元支部長が帝都から急ぎ帰ったというとも、遷都派との関係が発覚し、拘束される事を回避する為の行動だったのだろう。

こう考えると、マッツ元支部長は「ハイ・エルフの里」にとって、かなり有益な人員であった事が窺える。

そんな人員を抜けた事はボクらとしては願ってもない事であった。


これにより、帝国内における「ハイ・エルフの里」の影響力は格段に低下してゆくそうだ。

それもこれも、エマオさんが魔王教内の不正に立ち向かってくれたお陰である。


そのエマオさんは、ベルモンドに在中する事にしたそうだ。

それに伴い、魔王教でも帝都の北の町に詰めていた様な腕っこきを呼び寄せた。

幸い、北の町の方は冒険者も充実してきた上、魔物の流入も落ち着いたのだとか。


ただ、ザーレンさんを帝都へ向かわせ、ムーエット様への説明を行い、北の町の戦力を呼んで来るまでの間は此処が手薄になる。

その間の護衛をボクらが請負ったのだ。

もちろん、帝国軍への連携も忘れない。

その大部分はレインさんに担ってもらえた。

……御者役として遣わされた割には、かなり優秀そうなんだよねレインさんって。

イズークェリシャさんが気を利かせてくれたのかな?


兎も角、今の動きを見る限り、今後、同様に「ハイ・エルフの里」の関係者が来ても、彼らだけで対処できるだろう。

もうボクらが手を貸す必要は無くなったと思う。

そもそも、帝国への背任行為がバレて影響力が落ちた今、このベルモンドの一支部を再び落とした所で「ハイ・エルフの里」には旨味は無いだろう。

今後来るのは、片田舎から現状も分からずにマッツを頼って来る様な情弱くらいだ。

エマオさん達は大丈夫だろう。


むしろ、ザーレンさんに言わせると、北の森から町を逸れて帝国内に流入したと思われるシルバー・ウルフの様な危険な魔物達の方が、今後の脅威になるだろうとの事だ。

なので、魔王教の戦力をこちらに集めた意味も、ちゃんとあるとのこと。


**********


「──という訳で、そろそろボクらは此処を経とうと思っています。」

「……相変わらず、藪から棒だなお前は。」

夕食の席で唐突に宣言したボクに、ヴェロニカさんがツッコミを入れる。

今は夕食を終えて、皆ひと息ついたタイミングであった。

ナルちゃんはお気に入りのスノウノさんとじゃれている、微笑ましい。


「いえ、そろそろ「ハイ・エルフの里」本体が此処の異変に気付いて、様子を探ってくる頃合いだと思うんですよね。

おそらく少数で、戦う事は一切避けて、純粋に距離を取っての様子見といった形で。

そうなると、こちらは気付くのは難しいし、観察される中でヴェロニカさんに気付かれる可能性もある。

幸い、魔王教の戦力も十二分に集結したので、ボクらが離脱しても大丈夫でしょう。」


「……なるほど。

でも、じゃあ何処に向かいます?

帝国内をもうちょっと見て回ります?」

「いや、今後は「ハイ・エルフの里」が、帝国内で失った影響力を取り返そうと躍起になるでしょう。

帝国内に留まるのは避けたいですね。」

セレナさんの問い掛けに、ボクは簡潔に答える。


「じゃあ、カダー王国に戻りますか?」

「それには帝国南部を通る事になります。

多分問題は無いでしょうが、今は敗戦後の厳しい時期ですので、治安が悪そうです。

それにカダーはナルちゃんが裏稼業をしていた場所なので、それを思い出させる事になる。

今は避けたいですね。」

問いを重ねるセレナさんに、またもボクは消極的な答えを返した。


「……後は西方諸国かコラペくらいしか無いですけど?」

「西方諸国に行くのも面白い気はしますけど、流石にティアナさん達の故郷であるコラペから遠ざかり過ぎな気がします。

かと言ってコラペに行くのは、そもそも帝国南部を通る事になりますし、あちらの魔王教が混乱して暴走しているかも知れない。

他の選択肢よりはマシですが、ちょっと考えちゃいますね。」


どんどん行ける候補を無くしていくボクに、この中では一番付き合いが長いヴェロニカさんが、何かを察したようだ。

「……おい、クロー。

お前さては、また変な事を考えてるだろう?」

「はい。

色々と挙げてもらったのに、消極的な事を言ってすみません。

実はボクが行ってみたい場所があるんです。」


「それは何処ニャ?

さっき挙げた以外に行ける所なんてあったかニャ?」

ボクの「行ってみたい場所」という言葉にスノウノさんが反応した。


「ありますよ。

ここベルモンドから目と鼻の先、「魔王領」です。」


「「はあぁ〜〜〜っ?!?!」」

ボクの案に、みんなが声を揃えて驚く。

どうやら皆の頭からは候補地としては無くなっていたらしい。

声を挙げてないのは、薄々勘付いていた様子のヴェロニカさんとセレナさんだけだ。


「「魔獣の森」を突っ切る気かニャ?!

そんなの「行ける所」とは言わないニャ!」

「今のボクらの機動力なら、最悪、逃げに徹すれば魔物からでも逃げ切れると思うんですよね。」


スノウノさんが危惧するのは分かるけれど、今のこのパーティではナルちゃん以外は『重力制御』を駆使した移動に慣れている。

余程のスピード自慢の魔物でなければ逃げ切れると踏んでいる。


「けれど、道が切り開かれたのは、もう何十年も前の事なのでしょう?

おそらく、それ後は放置されている筈ですわ。

そんな道、辿ってなんて行けませんよ。」

「確かに、道は信用出来ないかも知れませんね。

でも、ボクらには心強いナビゲーターが居るじゃないですか。」

ティアナさんが心配するのはもっともなのだけど、今のボクらには心強い味方が居ると思っている。


「……お前の言うナビゲーターって、まさか。」

「はい、アリアさんの事です。」

「クロー、お前、「翼の魔王」様に道案内をさせる気か?!」

「そもそも、アリアさんだって「魔王領に来て」と言っていたんですよ?

道案内くらいお願い出来ると思いますけど。」

「いや、それにしたって、なぁ……。」

ヴェロニカさんはやはり魔王様に対しておよび腰の様だ。


「頼むにしても、どうやって……。

ああ!だから今その話題を?」

「そうです。

前にアリアさんがここに来てから一月が経とうとしています。

そろそろ魔王教に顔を出すタイミングだと思うんですよね。

その時にお願いしようかと。」

フラウノさんの気付きにボクは同意する。

アリアさんは月一で此処を訪れているそうなので、そろそろいらっしゃるタイミングだ。


「ただ、それにしたって、嫌がる者を無理やり連れて行きたい訳じゃないですし、反対多数なら諦めますよ?」

うん、ボクだって誰かが本気で嫌がる事はしたくない。

なので、どうしても嫌だというヒトが居ないか聞いてみた。


真っ先に反応したのは、リックだった。

「う〜ん、そうっすねぇ……。

オレ自身は賛成でも反対でもないっす。

他のヒトの意見次第っすかね。」


「「……。」」

し〜ん……。


「……えっ?あ、あれ?どうしたんすか、みんな?」

周りのただならぬ様子に気付いたリックは、動揺して周囲を見回している。


「リック君が、あのクロー君全肯定なリック君が、手放しの賛成じゃない?!」

「お、お前、何者だ?!

本物のリックを何処にやった?!」

その様子に、堰を切ったのはセレナさん、ヴェロニカさんであった。


「えっ、えっ?いや、ちょっと待って欲しいっす!

オレは本物のリックっすよ?!」

「……いいや。

リックはクローの言う事なら盲目的に何でも受け入れる、そういう奴ニャ。」


……みんなのリックへの認識が酷い。

酷いんだけど、正直に言うとボクもちょっと疑ってしまっている。


「みんな、落ち着いて下さい。

リックにも心境の変化くらいありますわ。

一旦、言い分を聞いてみませんか?」

「んっ……、まぁ、ティアナがそう言うなら。」

「聞いてやらん事もないニャ。」

そんな皆も、ティアナさんの一言で一旦落ち着いた。


「えぇ……。

え、えっと、前々からクローに言われていた事っすけど、もっとオレの好みや興味で行動した方が良いって。

それを、ちょっと前にティアナさんにも言われて、意識してみる気になったっす。

もちろん、クローの助けになりたい気持ちは変わらないっすけど、自分の意見を言う方がクローもティアナさんも喜ぶんでそうしてるって言うか……。

すんません、結局、二人の言うままやってる感はあるんすけど。」


「いいえ!慣れないながらでも、まずはやってみようとする気持ちは評価しますわ!」

「そうそう、初めから完璧になんて出来なくて良いんだよ。

まずは変えていこうとする所からで、全然大丈夫!」

ティアナさんとボクは、たどたどしく語るリックを興奮気味に肯定した。


その様子をヴェロニカさんが揶揄してくる。

「……むしろ、クローとティアナの方が、リックの事を全肯定してるよな。」

「良いじゃないですか、これくらい甘やかしたって。

それに、甘やかしているという点では、ヴェロニカさんやセレナさんもなかなかなものじゃないですか。」

「まぁ……。」

「否定は出来ませんね。」

ヴェロニカさん、セレナさんも、リックを甘やかしている自覚はあるらしい。


とは言え、リックの事ばかり構っていても話が進まない。

「兎も角、リックは中立に一票として、他は──」

「私はお父様の意見に賛成で!」

ボクが意見を求めると、ナルちゃんが勢いよく答える。


ちなみに、ナルちゃんにはボクの事を「お父様」と呼んでもらっている。

始めの頃は「クロー様」と呼ばれていたけれど、それは止めてもらった。

他の仲間ではティアナさんだけは、まだボクの事を「クロー様」と呼んでいる。

でも、成人済みの分別のある大人がそう呼ぶのと、成人前の少女がそう呼ぶのとでは、周りのヒトに与える印象が全く違ってしまう。

年端もいかぬ少女に様付けで呼ばせているというのは、そう呼ぶ事を強要している様で、悪印象だと思うんだよね。

なので、それよりはまだ「お父様」の方が印象が良さそうな気がしている。

……本当は「お父さん」を希望したのだけど、ナルちゃん的にはどうしても「様」は付けたいらしい。

なので、そこは折れた。


それにしても……。

ようやっとリックのイエスマンぶりが解消に向かおうしてるのに、新たなイエスマンが現れるとはね。

ナルちゃんについても、またじっくり考えを改めていってもらう事になりそうだ。

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