56_メンバ加入
幸い、ザーレンさんは気を失っていただけだった。
治療をしたボクは、そのまま感知系魔術を発動して、もう一人のエルフを見付けた。
当然、警戒はされたけれど、相手もまさかベグナルドが来るとは想定していなかったろう。
あっさりと気を失わせて捕らえる事が出来た。
しかし、相手が魔術を使えるとなると、話を聞くのも難しいんだよなぁ。
そう思っていたら、助けた魔王教支部のヒトが教えてくれた。
「この教会には魔術を封じる小部屋があるので、そちらに置いておけば良いのでは?」
えっ?!それって魔術図書館と同じようなものってこと?
「そうです。
あちらの構造を流用しているのだとか。
ただ、建設資材が高額なので、普通は大きな規模の町の役所か軍の公舎なんかにしか設置しないのですが……。」
金を自由に使えるマッツ元支部長は、私財からと言ってその資金を出したという。
おそらくそれも、本来は魔王様にお渡しするためのお金だったのだろう。
まぁ、過ぎた事は仕方ない。
今は生きう残った証人から話を集め、マッツ元支部長が帝国を裏切っていた事、そして彼が語った「ハイ・エルフの里」の陰謀を明らかにしていきたい。
それが明らかになれば、魔王教や帝国内での「ハイ・エルフの里」の影響力は少なくなっていくだろう。
そうなれば、ヴェロニカさんを探そうとする余裕も無くなる筈だ。
帝国の資金等の後押しが無くなれば、里の者くらいしか探索に回す人手は居なくなる筈だから。
**********
さて、「ハイ・エルフの里」関連の方はその方針で良いとして、ひとまずボクは夜道を下町まで戻った。
そうして仲間に遅くなった理由と、状況を簡単に説明した。
そのままボクは、もう一度上町まで戻って就寝。
翌朝、再び下町へ降りて仲間を連れて上町へやって来た。
何故、仲間を連れて来たかと言うと、現状を報告したいのはもちろんだけど、もう一つ理由があった。
「お集まりいただいて、ありがとうございます。
実はナルちゃんの処遇についてなんですが、現状では「魔王教」で引き受けるのは難しくなりました。」
集まった皆に向けて、エマオさんが切り出した。
そう、昨夜話し合った結果、そのような結論となったのだった。
現在「魔王教」は、教主の知らなかった事とは言え、結果的に帝国を騙して何年も不要な出費を行っていた事になる。
この状況で、不正を働いていたマッツ元支部長に協力していた人物を迎え入れるのは、対外的に説明が難しいのだ。
加えてナルちゃん本人が、裏稼業に携わっていた事もマイナスになっている。
何より、ボクを助けるためとは言え、エマオさんの目の前でヒトを一人殺めてしまった。
これによって、エマオさんに簡単には拭いきれない衝撃を与えてしまったのだった。
これらの事を鑑みると、エマオさんの庇護の元で、「魔王教」に受け入れる事は出来なくなった。
「──なので、ナルちゃんはウチのパーティが受け入れようと考えています。」
「「──っ?!」」
ボクが説明の後にそう告げると、皆は一様に驚いた表情を浮かべる。
「もちろん、ボクの一存で決める事ではないと思っているので、皆の意見を聞きたいです。
ただ、その前にナルちゃんから、これまでの経緯を聞いてもらおうと思います。
それを元に判断して下さい。」
「分かった。」
ボクの提案に、代表してヴェロニカさんが答える。
他に反対意見が無いということは、皆も同意してくれたということだ。
「じゃあ、ナルちゃん。」
「ん。」
ボクが促すと、ナルちゃんはたどたどしく、生い立ちから語ってくれた。
**********
私はカダー王国王都近くの農村の生まれです。
二年前、両親と王都トロリスへゾマ祭に向けて、その年の収穫物を納めに行く途中で、山賊に遭いました。
その時に両親は殺され、私は山賊に拐われマフィアに売られました。
そして、暗い地下室で絶望していた私の前に、ベグナルド様が現れたんです。
監視役を殺し、私達の檻の鍵を開けてくれて、逃げろと言ってくれました。
地下から一階に上がった時、チラッと部屋を覗くと、その部屋に居た全員が殺されてるのが分かりました。
その後、一時は軍に保護されましたが、身寄りの無いまま村に戻されるより、ベグナルド様を恩返しをしたいと思ったんです。
私はとりあえず、同時に保護された数名とマフィアに入りました。
幸い、彼らは人手を欲していたので、受け入れられました。
一年くらい経った頃、ベグナルド様が見付からないのと、もう少し自由時間が取れるように、マフィアの伝手を使って別組織に移りました。
そこは、何と言うか……、汚れ仕事専門みたいな所でした。
私の村に居た頃の名前はルナだったんですが、この頃からベグナルド様にあやかって、ナルと名乗る様になりました。
あ、この時には、消息不明になったりとかで、私と一緒にマフィアに入った子は三人だけになってました。
私と一緒に組織を移った子はもう一人居たんですけど、入ってすぐにヘマをして亡くなりました。
そして今年の冬にイロイロとゴチャゴチャして、組織も元居たマフィアもどっちもなくなっちゃいました。
後に残ったのは私だけ。
それでもベグナルド様の行方を探していると、ある情報屋からジサンジ帝国の帝都で、ベグナルド様の噂があると聞きました。
私は思い立って、帝国に向かいました。
ただ、ヒトは殺める事が出来ても、魔物相手では勝手が違います。
幼い身で旅をするのは命懸けでした。
旅の途中はよく教会へ行きました。
信仰心が無くとも、軒下くらいは貸して下さるので。
そうして帝国南部のとある教会へ行った時、自分の素性を話したら、丁度人手が欲しがっているからと、此処ベルモンドの「魔王教」支部を斡旋してもらえたんです。
**********
「──後はみんな知ってる通り、マッツの指示で動いてました。
路銀を稼ぐのに丁度良かったし、一段落したら帝都に連れて行ってくれるとも言われてたので。」
「「……。」」
ナルちゃんが淡々と語ったこれまでの経緯の壮絶さに、皆は絶句してしまっていた。
当然だ、成人前の年端もいかぬ少女が経験して良い内容とはとても思えない。
「あ、あの、でもっ、マフィアでも優しいヒト達も居たよ?
私が一番年下で小さかったからか、命懸けで庇って逃してくれたヒトとか。」
「「……。」」
残念ながらナルちゃん、それも壮絶エピソードたから。
皆の気分は更に落ち込んだ様に見える。
「え〜っと、じゃあ、ナルちゃんが帝都に行きたがっていたのは、ベグナルドを探すためだったんだね?」
何も話さないのもまずいと思ったボクは、気になった点を聞いてみた。
「はい、そうです。」
「話を聞くと、ベグナルドが仇だってのは嘘だったって事っすか?」
すると今度はリックがナルちゃんに質問する。
「はい。
マッツがベグナルド様を排除対象としていたので、私も合わせてそう言ってた。
ベグナルド様を見付けたらマッツの事は裏切るつもりだった。」
「……その裏切りが、あのタイミングになったのは何故だったんです?」
目の前であの光景を見たインパクトが残っているためか、エマオさんも疑問を口にした。
「クロがベグナルド様と分かったから。
そのクロを殺そうとしていたマッツは始末するしかなかった。
あと、ベグナルド様であるクロにとって大切なヒトであるヴェラを捕まえようとしてたから、これはダメだと思った。」
実際はあの時点でボクは動ける状態だったんだけど、ナルちゃんに先を越されてしまった。
もっと早くボクが動けていたら、ナルちゃんにあんな真似させずに済んだろうか。
「……他は、無いですね?
ハッキリ言います、ナルちゃんはウチで面倒を見ます!
そんな壮絶な二年間を経験させた責任の一端はボクにもあろうと思いますので。」
もちろん、全てがボクの責任とまでは驕ってない。
犯罪組織を壊滅させたなら、被害者全員の世話まで見るべきだなんて言われても、無理に決まっている。
でも、それから二年が経って、公的機関の保護が届かず、未だに犯罪被害当時の業を引きずって、未来を見れていない目の前の少女一人くらいは何とかしてあげたい。
「いや、それが無くとも、こんな子を受け入れる所が他にありますか?
反対意見があれば聞きますので、言って下さい。」
「「……。」」
皆、黙ってしまっている。
ただ、それでは話が進まないと思ったか、ヴェロニカさんが口を開いた。
「異論は無いよ。」
「女の子一人くらい、どうって事ないです。
それにナルちゃんは、同世代の子と比べて遥かにしっかりしてますし。
……まぁ、しっかりせざるを得なかったのでしょうが。」
ヴェロニカさんに続き、セレナさんも受け入れる事を肯定する言葉を述べた。
そして、そんな二人の意見に皆も頷いている。
「ナルちゃんも、良いね?
ボクらのパーティに加わるって事で。」
「はい。
頑張ります。」
「いや、頑張らなくて良いんだからね。
今日からナルちゃんはウチの子だから。」
うん、どちらかというと、この二年間を忘れられるほど、うんと甘やかしたい。
そんなボクをヴェロニカさんが茶化してきた。
「……いや、過保護が過ぎるだろ。
父親にでもなるつもりか?」
「……ふむ、それも良いかもですね。
じゃあ、ボクが父親代わりって事で!」
「えっ、おい、本気か?!」
「はい。
だって父親なら、昨日の朝の様に二人きりで話していたからといって、怪しまれたりしないでしょう?」
「う〜ん……、いや、そうだが……。」
「……?何か気になります?」
「だってなぁ……、それだと、ワタシとセレナが母親代わりという事になるだろう?
まぁ、ワタシは良いが、セレナは若過ぎないか?」
「……それを言っちゃうと、クロ君が父親というのがそもそも無茶ですけどね。」
ヴェロニカさんのセリフにセレナさんが苦笑する。
「ん、じゃあ、オレは兄くらいの位置っすかね?」
「……待って下さいリック。
それだとわたくしは兄の恋人という、ナルちゃんにとって一番気まずい存在になっちゃいませんか?!」
先程までの重い雰囲気を変えるためか、皆は意識して明るく振る舞おうとしている。
ナルちゃんの加入も受け入れてくれるし、本当に優しいメンバーに恵まれたと思っている。
ほぅっ……
ふと見ると、ナルちゃんの表情が先程までよりも力を抜いたものになっている様に見える。
やはり内心緊張していたのか、皆のやり取りに安堵したのか、とにかく良い傾向だと思いたい。
このままこのパーティに馴染んで、年相応の感性が戻っていく事を願わずにはいられない。
仲間として、父親代わりとして。




