55_探し人
「──ベグナルド。」
「……なに?」
ボクの呟きを聞き逃さず、マッツ元支部長が反応する。
「先日、帝都で騒がれていた、ベグナルドと呼ばれる人物と会ったのです。
しかし、本人は何故ベグナルドと呼ばれるのか、分かっていない様子でした。
つまり、その人物をベグナルドと呼んだのは別の者という事になります。」
「ふむ、それで?」
マッツ元支部長が話の先を促してくる。
どうやら関心は引けたようだ。
「マッツ元支部長、貴方は定期的に帝都へ足を運んでいたんですよね?
ひょっとして、貴方がそう呼び始めたのではないですか?」
「ふふ……、そうだ。
推測の通り、私が名付けたのだ。
偶然、アレを見掛けてな。
黒ずくめでマフィアと単身で立ち回っておったので、ピッタリだと思ったのだ。
万が一にも、偽者のベグナルドの噂が本物に届き、帝都へ呼び込めたなら、しめたものだからな。
……まぁ、可能性が低くとも何もしないよりは幾分マシ、程度のものだったが。」
マッツ元支部長はボクの推測をあっさり肯定した。
やっぱりか。
帝国でベグナルドの名前を知っている者なんて、ハイ・エルフの里の関係者くらいだろうと思ったんだ。
「さて、私にベグナルドの話題を振るということは、ひょっとして君は、何故私達がベグナルドをさがしているのか知っているのか?」
「……。」
おっと、そりゃあベグナルドの話題をここで振るのだから、その背景まで分かってるとバレるか。
「フッ……、その様子では知っていそうだな。
もしも、本物のベグナルドについて知っている事があるのなら、語ってもらいたいものだな。
私達のため、そして、ナルの為にもな。」
「……ナルちゃんの、ため?」
ボク思わず反芻してしまった。
「そうだ。
ナルはベグナルドを探すため、裏稼業に身をやつしたのだ。
どうやら、親の仇であるらしくてな。」
……えっ?!親の、仇?
ボクかベグナルドとして活動したのは、実質はカダー王国の売国奴貴族三人たけのつもりだ。
その身内というなら、ナルちゃんは元貴族という事になるけれと……。
「……そう言えば、ナルちゃんはヒトを探しているって言ってたね。
それがベグナルドだったんだ?」
「……うん、そう。
裏稼業に関わるようになったのも、カダーからジサンジに来たのも、ベグナルド……、を見付けるため。」
ナルちゃんは感情を出さず、淡々と答える。
「そっか……。」
何にせよこんな娘にそこまで恨みを持たれる様な事をしたということだ。
……せめて本当の事は話しておこうか。
「さっきも言ったように、ボクが会った、春先から騒がれていた人物は偽者だった。
でも、マッツ元支部長の意図とは違ったけど、ちゃんとベグナルドも帝都に来ていたよ。」
「──っ?!」
ボクが告げると、ナルちゃんはボクと会って初めて感情を表情に出した。
目を見開いて驚いている。
「なにっ?!
それは本当か?」
マッツ元支部長の方も、やや興奮気味に聞いてきた。
『束縛』の方はもう大体解く事が出来ている。
上手くすればマッツ元支部長を奇襲する事も可能だろう。
でも、そうなった時にナルちゃんはどう動くか……。
もしかしたら、マッツ元支部長を庇う動きをするかも知れない。
ナルちゃんを攻撃に巻き込むのは、なるべくなら避けたい。
……もうちょっとだけ、会話を続けようか。
「じゃあ、今、帝都に行けば……。」
「いや、今はもう帝都にはいないよ。」
「どういう事だ?」
ナルちゃんの言葉に答えたのに、即座に反応したのはマッツ元支部長の方だった。
「……ちょっと前までは帝都にベグナルドは居た。
でも、こっちに来ちゃったからね……。
こうして、ナルちゃんの目の前に。」
「え……?!」
「まさか……!」
ボクの言葉の意味に気付き、ナルちゃんとマッツ元支部長が動揺する。
「そう、ボクが本物のベグナルドだよ。」
「「──っ?!」」
ボクがハッキリと答えると、二人は声もなく驚いた。
「馬鹿な、そんな事があり得るのか……?」
「クロ。
もしもクロが本物だと言うなら、答えて欲しい。」
整理し切れないマッツ元支部長と比べ、ナルちゃんは多少冷静な様子だ。
「ん?」
「二年前、カダー王国王都で剣術大会直後に、あるマフィアを全滅させたのがベグナルドだと言われてる。
それは合ってる?」
「……ああ、それもボクがやった。
そっか、同じ格好だったから、あっちもベグナルドの仕業と思われてるのか。」
「じゃ、じゃあその時、地下に囚えられていたヒト達に向かって、ベグナルドが何て言ったか覚えている?」
ん?
そんな質問をするなんて……。
ナルちゃんはひょっとして……。
「え〜っと……、一言一句合ってるか自信はないけど、確か……、「邪魔する者は居ない、好きに逃げろ」だったかな?」
「──っ!!」
声には出さないが、ナルちゃんは信じられないといった表情を浮かべている。
「どうなんだ、ナル?」
「……本物。
本物のベグナルド……、に間違いない。」
「そうか!
この少年が本物のベグナルドなのか!
という事はだ……、彼の仲間にエルフが居ると言ったな?
名前は……、そう、ヴェラだ。
ん?ヴェラ……?
ヴェロニカ、と似ているな。
まさか、そうか、そのエルフこそが「紅の魔王」の継承者なのか?!」
そこまで気付かれるか。
やはり、重要な役割をハイ・エルフの里から任されているだけあって、頭は回るようだ。
「フフフ……、ハーハッハ!
素晴らしい!
そうかそうか、だから魔王教の中でもハイ・エルフの里に関係のあるこの支部を突き止め、どうにかしようとした訳か?!
だが、残念だったな。
その目論見は崩れ、逆に私に継承者を差し出す形になってしまったのだから!」
誰が差し出すか!
テンションの上がった今のコイツなら簡単に不意を突けるだろう。
いい加減、不快になってきたしそろそろ──
え……?
「これで、私への里の評価は跳ね上がる!
長老の席に就く事も夢ではッ──!!」
トスッ……
マッツ元支部長は急に静かになった。
横っ腹にはナイフが突き刺さっている。
そのナイフを握っているのは、ナルちゃんであった。
「「──っ?!」」
ナルちゃんの行動を目の当たりにしたボクらは、目の前であった出来事を理解するまで、少し時間が掛かってしまった。
「……な、なに、を?」
一方、刺されたマッツ元支部長は、何が起きているかも分かっていなかったかも知れない。
しかし、そんな疑問を持てるのも一瞬であった。
ヒュッ……、スパンッ!
いつの間にかもう一本持っていたナイフで、今度はマッツ元支部長の喉をナルちゃんが掻っ切った。
その首から大量の血が吹き出す。
「──カッ!」
もはや声を出す事も叶わず、マッツ元支部長は倒れ伏した。
「「……。」」
その様子を、ボクもリックも、そしてエマオさんも呆気に取られながら見ていた。
そんなボクの元にナルちゃんは歩いて来て、頭を下げ、かしずきながら語った。
「ベグナルド様、これまでの無礼お許し下さい。
ナルは貴方にお礼がしたく、貴方の力になりたくて裏稼業に手を染めました。
貴方が望まれるなら何でもします。
この命を捨てろと命じられるのなら、この首掻っ切ります。」
ヤバい、ナルちゃんが何か危ない事を話し出した。
「待った待った!一旦整理させて!」
「はい、お望み通りに。」
「え〜っと……、取り敢えず待機してもらって良い?
先にザーレンさんの手当てをしたいから。
あっ、リック、多分もう大丈夫だから、『魔術消去』でその『束縛』消しちゃって良いよ。
エマオさんの方もお願い。」
「あっ、はいっす!」
そう答えると、リックは自分で魔術を唱え、自分とエマオさんの『束縛』を解いている。
「あっ、そうだ、これだけは聞いておきたいんだけど。」
ボクはザーレンさんの治癒をしつつ、ナルちゃんに声を掛けた。
「はい、なんでしょう。」
「マッツ元支部長の仲間って、この近くに居る?人数は?」
「はい、一人居ます。
食堂の方で彼ら以外の魔王教徒を眠らせていますので、その監視と周囲の警戒をしてます。」
「ん、分かった。」
おそらくその一人もこちらの異変に気付いているだろう。
戦いは避けられない。
というか、こちらの話を聞いている可能性もあるので、逃がす訳にはいかない。
ヴェロニカさんに関する情報を持ち出されたら厄介だ。
ザーレンさんの手当てをしたら、そっちの確保も急がないとね。
たった二人で護衛の警備兵を含めた魔王教支部を制圧出来る腕前なので、油断は禁物だけど。




