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99_エピローグ

「あーーっ、もうっ!

こんなことなら、サバイバル訓練もしっかりやっておくべきでしたわっ!」


見渡せば辺り一帯が木々に覆われた森林の中。

小休止している時にティアナさんが盛大に愚痴り始めた。


ベルモンドから「魔獣の森」を進んで、今日で一週間目だ。

曇天のせいか、低気圧のせいか、みんな少し言葉少な気である。

そんな中で響いたティアナさんの叫びには、すぐに反応があった。


「ティアナ様、実地訓練はとことん敬遠してたからニャ。」

「最初の勢いは何処へやら、ですね。」

「貴女達、最近わたくしに対して辛辣過ぎじゃありません?!」

スノウノさんフラウノさんも疲れが出ているためか、言葉に容赦が無い。


「コラッ!そこっ!

いくらこの場所がセーフゾーン気味とは言え、大声を上げれば魔物を引きつける。

小声で喋れと言ってるだろう。」

「す、すみません……。」

流石に見過ごせない声量だったためか、ヴェロニカさんが注意する。

ティアナさんも反論する気は無いらしい、素直に謝罪の言葉を口にした。


「……うん、周囲に脅威となりそうな魔物の反応なし。

しばらくは大丈夫そうです。

だからヴェロニカさん、その辺で。」

「……分かった。」

まだ言い足りなさそうな雰囲気を出しつつも、一旦、ヴェロニカさんのお説教は止まった。


この中で、森の中で過ごす事に一番長けているのはヴェロニカさんだ。

なので皆、ヴェロニカさんの指示に従って行動している。

ヴェロニカさんもそれが分かっているからか、必要以上な発言をして、皆の負荷としない様に心掛けているのだった。


「それにしても、なかなか思う様に進めませんね。

それがまぁ、面白いっちゃあ面白いんですが。」

ボクは場を和ませようと、ちょっとした感想を語った。


うん、楽しい。

道なき道を何日も進むなんて、一人旅をしていた頃以来の事じゃなかろうか?

このサバイバル感が、旅をしてる事を実感させてくれる。


「わたくしは、もう十分にサバイバルを堪能しましたわ。

そろそろ安心してベッドで寝たいです。」

対して、ティアナさんは相当参っているようだ。


「……ちょっと何処か、本格的に安全な場所を見付けて、一日位休んだ方が良いかもっすね。」

「同感ニャ。

私は十分楽しめてるけど、ティアナ様が疲れてるのは気になるニャ。」

ティアナさんの様子をリックとスノウノさんが心配する。

ボクとしても、自分が楽しければ他の皆が苦しんでも良いとは思えない。

このまま進むより、ティアナさんのケアを優先したいと思う。


「分かった。

う〜ん……、あっちの方がやや崖になってる。

洞穴の様な場所があれば、平地よりは安心して休めるだろう。」

ヴェロニカさんもティアナさんの事は気になる様で、休憩の提案をしてくれる。

もちろん、ボクもそれに賛成だ。


「分かりました。

そっちに向かうということで──

おや?」


バサッ!バサッ!


ボクが言い掛けた所で、頭上から大きめな羽音が聞こえてきた。

というか、この羽音はもう誰のものかは分かっている。


「やっ!

だいぶ進んだねぇ。

丁度半分くらい来てるよ。」

羽音の主は「翼の魔王」アリアさんだ。

ベルモンドとの行き来をする途中でボクらの様子を見に来てくれるのだ。


「は、半分、ですか……。」

ティアナさんが、アリアさんの言うこの先の道のりの距離に絶望する声を出す。


う〜ん、それならいっそ……。


「ティアナさん、もし限界なら一つ方法がありますよ。」

「えっ?!何です?」

ボクの提案に、ティアナさんは跳ねるようにノッて来た。


「『重力制御』で自身の重さを軽くしてから、アリアさんに掴まって運んでもらうんです。

そうすれば、「魔王領」までひとっ飛びですよ。」

「えっ!そんなこと可能なんですか?!」

案を聞いたティアナさんは、思わずアリアさんの方に顔を向ける。


「ん〜……、出来ると思うよ?

でもさぁ、一方的に運ばれるのって怖くない?

君らからすると、すっごく高い上空を運ばれるんだよ?

それでいて暴れられちゃったら、私も手を離しちゃうかもだし、暴れなくても魔術が切れて重さが一気に来たら持ってられないかも知れない。

そしたら、地面までノンストップだよ?

無事でいられる?」

「う〜ん……、落ちながら『重力制御』を使えば、死ぬことはないでしょうが、出来ます?」

アリアさんの懸念ももっともだ。

なので、対応策を考えて語ってみたのだけど……。


「無理です!ごめんなさい!

そんな極限の状態で魔術を正確に発動するなんて、わたくしにはまだ出来ませんわ!」

ティアナさんは乗り気ではないようだ、残念。


「ははっ、そうだよね。

ま、私は構わないから、やりたくなったら言ってよ。」

「は、はぁ……。」

アリアさんも試したい気持ちはあるらしい。

ボク自身ならさっき言った対応も出来ると思うので、今度お願いしてみようかな。


ま、それは一旦置いておく。

せっかくアリアさんが来てくれたので、ちょっとお話ししておこう。


「それにしても、毎回、よくボクらを見付けられますね?」

「なに、ヒトの気配は特殊だからさ。

それに、前に会った場所からだいたいどのくらい進んだか予測すれば、その辺りを探すだけだしね。

私が誘った手前、悲しい事になられたら嫌じゃん?」

「はは、十分に気を付けますよ。

今日はベルモンドからの帰りですか?」

「そうそう。

エマオちゃんといっぱいお喋りして触れ合って来たよ。

これはもう、付き合ってるって言って良いのじゃないかな?」


アリアさんはニコニコ上機嫌で答える。

本当にエマオさんを気に入ってるのだなぁ。


「……止めはしませんが、付き合っていると公言するのは、正式にお付き合いを始めてからにしましょうね?」

「正式にかぁ……。

でもさぁ、私から告白してもエマオちゃんは立場上、断れないよね?

そうやって無理矢理、ってのは流石に好みじゃないんだよねぇ……。」


となると、エマオさんの方から告白されるのを待つしかないのだけど、自分が教主を務める宗教で崇めている対象に告白するなんて、それこそハードルが高い気がする。

……うん、まぁ、お互いになんとか頑張ってもらいたい。

ボク個人としては、上手くいく事を願っているしね。


「そうだ、アリアさん。

この辺りで休むのに丁度良い洞穴とかあるっすか?

ちょっと休憩したくて。」

ここでリックが話題を挟んできた。


「そうだねぇ……。

あそこに崖が見えるだろう?

そこに一つ二つ、状態の良い洞穴があったと思うよ。」

アリアさんの指さした先は、先程ヴェロニカさんが言っていた崖であった。


「やっぱりそこか……。

よし、ティアナ、そこでひとまずゆっくり休むとしよう。」

「分かりましたわ〜。」


なんとかティアナさんの気力を振り絞らせて、ボク達はその崖の方に向かった。


**********


「ふうっ!

一眠りしたらスッキリしました。

ご迷惑お掛けしました。」

「いや、こういった事はお互い様だ。

それに同じパーティの仲間の事なら、このくらい気にもならないさ。」

元気いっぱいに語るティアナさんに、ヴェロニカさんも笑顔で応じる。

良かった、少し仮眠してもらったら気力が戻ってきたらしい。


ここは先程見ていた崖にあった洞穴の中だ。

安全確認をした後、ティアナさんら疲労の溜まり気味なメンバーには仮眠を取ってもらっていた。


「……ありがとうございます。

それにしてもこんな場所で、まるでベッドの様なフカフカな寝具を用意してもらえるとは思いませんでした。」


ティアナさんを休ませていたのは、落ち葉や枯れ草を敷き詰めた上に、ボクが『アイテムボックス』から取り出した寝具を乗せただけの簡易的なベッドだ。

それだけでもティアナさんの疲労はある程度回復出来たらしい。

やはり睡眠がちゃんと取れていないのは負荷となっていた様だ。


さて、じゃあ睡眠欲の次は──


「もうちょっとで夕食も出来るので、待って手下さいね。」

「ありがとうございます。

野宿の最中でも、食事でちゃんと美味しいものが食べられるのが、このパーティの最大の魅力かも知れませんわね。」

夕食の用意もあると聞いて、ティアナさんはさらに機嫌が良くなった気がする。


「寝具も調理器具もクロー君の『収納』魔術のお陰ですけどね。」

「師匠譲りの便利『収納』ですからね。

……さて、後はちょっと煮れば良いかな。

雨も降ってきたし、明日もゆっくりするしかないかもですね。」


セレナさんの言葉に答えつつ外を見ると、本格的に雨が降り出していた。

……この様子だと、しばらくは止みそうにないかな。


じっと雨を眺めてしまっていたボクに、リックが話し掛けてきた。

「そういえば、クロー。

アリアさんに言われてた、魔王領の今後についてって、何か考えてるっすか?」

「随分、急に話を振ってくるねぇ。」

「いやぁ、オレも気になっちゃってるんすよ。

こんな危険な森の奥にある町なんて、どうにかできるのかって。」

「ん〜……、ボンヤリと考えていることはあるよ。

けど、まずは実際の町を見ないと何とも言えないかな。」


うん、ここ一週間くらい頭の片隅にあって、意識はしていたんだよね。

そして、何となく思い浮かんでいる事もある。

でも、それも今は空想でしかない。

「魔王領」に行って、アリアさんや住民と話してみないと……。


そんな事を考えていたら、ボクの発言を勘違いしたフラウノさんとスノウノさんが悪乗りしだした。


「えっ?!

まさかクロー君が第二の魔王に?」

「マジかニャ!」


「いや、ならないならない。

……話を聞く感じ、「魔王領」は外部と隔絶された陸の孤島になってる訳じゃないですか?

それをどうにかすれば、アリアさんに頼らなくてもよくなる筈なんですよ。」


ボクが冷静にツッコミを入れると、それを聞いたヴェロニカさんが聞いてきた。


「しかし、どうするんだ?

ここまで進んで来て分かったろうが、ここまでの道のりを私等だけで整備するなんて事は出来ないぞ?」

「ま、詳細はおいおい考えましょう。」


今、ボクらで詳細まで詰めても仕方ない。

まずは無事に「魔王領」に着いてから、それからだ。


くいっ!


ん?

服を引っ張られたので振り向くと、見上げるナルちゃんと目が合った。


「……お父様、聞いても良い?」

「ん?良いよ、なに?」

「お父様は、魔術も使えて知識も豊富、喋り方もいつも丁寧。

知識だけじゃなく、発想?、もヒトとは違う。

多分もっと偉い立場にもなれるヒトなんだと思う。

それでどうして冒険者なんてやってるの?

なんでベグナルドと名乗ってマフィアと戦ったりしたの?

……よく考えたら、私、お父様の経歴を知らない。」

「ああ、そうか……。

うん、じゃあ、食事の後で話してあげるよ。

あ、ティアナさん、スノウノさん、フラウノさんも一緒に聞いて下さい。」


ボクが声を掛けると、ティアナさんは驚いたように答えた。

「え?

いえ、わたくし達は前にお聞きしていますが……。」

「その時話さなかった事があったんです。

ここでその事もお話ししますよ。」


ボクの言葉に、今度はスノウノさんが反応した。

「秘密にしてた事があるのニャ?」

「秘密って程の事ではないんですが、荒唐無稽な内容なんで話さなかった事があるんですよ。

ついでにお話しします。」

「荒唐無稽……?」

ボクの意図がいまいち伝わらなかったか、フラウノさんは言葉を反芻する。


「まぁ、クローのやってる事は、大概が荒唐無稽だけどニャ。」

「分かりました。

伺いますわ。」

一方、スノウノさんとティアナさんは、考えるのも無駄とばかりにすんなりと受け入れてくれたようだ。


「はい。

じゃあ、その前に夕食にしましょう。」

「「は〜い。」」


こうして、およそ常人が足を踏み入れる事のない「魔獣の森」のド真ん中で、ボクらは呑気に夕食を食べた。

その後、ボクはナルちゃんにこれまでの半生を語るついでに、前世の記憶がある事も打ち明けるのだった。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

「帝国編」はぬるっと終了です。

思っていたよりも長く続けてしまったのは、途中で登場したキャラ達が話を膨らましてくれた結果かも知れません。

この後、「異世界貴族に転生しましたが、なんやかんやで国を追われました6」は多分すぐに投稿始めますので、そちらもお付き合いいただければ幸いです。

いよいよ最終章、クロー達は最後に向かった先で何をするのか?

一気に影響力を失ってしまった老害たちはどう動くのか?

最期まで楽しんでいただけると嬉しいです。

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