50_鉱山町ベルモンド
シルバーウルフに襲われていた馬車の集団は、ボク、リック、ザーレンさんが縛った状態のまま、最寄りの町の兵士に突き出した。
その取り調べ結果を聞いたのだけれど、なんと男共のうち御者のおじいさん含め四名が人身売買を行っているマフィア構成員で、残り五名は山賊とのことだった。
つまり、マフィアの密売人を山賊が襲っている所に、シルバーウルフが更に襲撃してきたことになる。
……なんだその地獄の展開?!
そんな状況から子供達を救出できたことは幸運だったと思う。
六人の子供達のうち、二人は山賊を軍に突き出した町、二人は周囲の別の町、そして後の二人はベルモンドで拐われたという。
そのため、話し合いの結果、ベルモンドの二人はレインさん預りとなり、ボクらと一緒にベルモンドまで同行する事になった。
同行と言っても、ベルモンドまではヒトの足でも朝に出れば夜までには着くという距離だそうだ。
なのでその日はボクやリック、ザーレンさんは馬車を降りて歩く事にした。
預けられた子供達は二人とも女の子だったしね。
……エマオさんは車内組、長距離を歩くのは慣れていないそうだ。
子供達とも違和感なく話していたし大丈夫でしょ。
──と思っていたのだけど、昼頃、休憩中に思わぬ話が告げられた。
「片方の娘は孤児らしいぞ。」
代表してヴェロニカさんが話してくれた。
二人のうちナルという子は、ベルモンドで拐われた孤児であったらしい。
警備兵の取り調べの際は、話が難しくて上手く話せなかったとのこと。
このままベルモンドに戻っても引き取り手は居らず、孤児に逆戻りとなる可能性もあるようだ。
とは言え、小さな町よりは大きめな町であるベルモンドの方が生きていき易いので、ベルモンドまで行くのは納得しているらしい。
「そう言われましても、軍としては保護した子を放り出す訳には……。」
レインさんも困っている。
せめて前の町で言ってくれれば、軍でも決定権のある者に判断を委ねる事が出来たらしいが、今更引き返す訳にもいかない。
一旦はベルモンドまで行き、そちらで判断を仰ぐ事になるという。
「ただ、それでも女児の引き取り手があるかと言われると……。」
レインさんの口調では、かなり厳しそうだ。
仕方ない、ある程度の力仕事でも即戦力となる男児と違って、女児の需要は多くないのがこの世界の現実だ。
勿論、いかがわしい目的で女児を求める者は居るだろうが、そんな者に帝国臣民を引き渡そうとする軍人など居ない、そう信じたい。
そのため、引き渡す人物の信用もある程度考慮する必要もあるため、なかなか適切な者が見つかり難いのだ。
「……では、魔王教で引き受けましょうか?
ベルモンドの教会に掛け合ってみしょう。
難しいようなら、帝都まで僕が連れ帰っても良いですし。」
そんな話をしていたら、エマオさんから提案があった。
なるほど、ある程度の教会組織なら女児一人を引き受けるのは可能だろう。
それにエマオさん達なら第三皇子ムーエット様に信用されているというお墨付きもある。
ただ……。
「う〜ん……。
やはり疑念があるベルモンドの教会へ、直ぐに連れて行くのは心配です。
二、三日ならボクらで見ておけると思うので、マッツ司祭の件が片付くまで待ちませんか?」
「分かりました。
疑念を持たれたままでは心配な気持ちも分かります。
では数日お願い出来ますか?」
「はい。
……皆も良いかな?」
ボクが意見を求めると、皆は無言で頷いていたけれど、リックだけがおずおずと手を上げた。
「あの、構わないんすけど、一つ。」
「ん?何、リック?」
「……一応、本人の意思も聞いてみないっすか?」
「「あ……。」」
リックに言われるまでそちらに意識が向かなかった、反省。
ナルちゃんは詳しい年齢は分からないらしいが、外見から判断するにボクよりも少し年下、およそ十一、ニ歳くらいに見える。
ある程度、どうしたいか希望はあるだろう。
「ごめん、リックの言う通りだね。
ヴェロニカさん、ナルちゃんに話は聞けるかな?」
「ん、聞いてくる。」
ヴェロニカさんはそう言って、ティアナさん達とセレナさんが見ている女児の元へ向かった。
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「……希望は、ない、です。
教会?でも、お姉さん達と一緒でも……、どこか屋根がある所が良い、です。」
セレナさんに手を引かれこちらにやって来たナルちゃんは、たどたどしく語った。
「「……。」」
ナルちゃんの話を聞いて、なんだかいたたまれない気持ちになってしまう。
屋根が無いことも普通にあり得る、って意識な所とか。
……可能ならボクらが引き取っても良いとまで思ってしまった。
でもなあ……、これから割と危険な事をしようとしているし、それが上手くいっても、この先普通の冒険者よりは危険な状況なんだよなぁ。
なので、ボクらが引き取るよりはエマオさん達に引き取ってもらった方が彼女も安全だろう。
「──では、先程話した通り、ボクらで預かった後に魔王教で身元を引き受けてもらう、という事で。」
「分かりました。」
こうして、ナルちゃんの扱いについて方針の固まった。
その後、休憩を終えた一行は今日中にベルモンドへ着くべく出発したのだった。
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予想外のトラブルで一日ほど予定よりも遅れたけれど、ボクらはこの日の夕方にベルモンドに到着した。
話は変わるが、レインさんに聞いたところによると、ベルモンドの町はちょっと変わった構造になっているらしい。
どの様に変わっているかと言うと、町が上町と下町に別れているそうだ。
これは、鉱山メインの上町と、流通・行政を中心とした下町とで役割を分けた為らしい。
ちなみに、領主や帝国軍の主要施設があるのは下町になる。
そして魔王教の支部は上町にあるらしい。
これは、魔王教徒による魔術の助けが鉱山でも必要とされているから、だそうだ。
また、魔王様が頻繁に訪れる魔王教施設を下町に作る事に、領主や主要な軍関係者が難色を示したものらしい。
何故この話をしたかと言うと、ボクらが教会に向かうのが翌日になったからである。
理由は単純に夜になってしまったから。
ボクらはベルモンドに着いて、最初に軍施設へ向かった。
そこでマフィアから救出した女の子の件や、ナルちゃんの件を報告していたら、文字通り日が暮れてしまったのだ。
それから上町まで行こうとはならず、エマオさん、ザーレンさんも含め、下町で宿を取ることになった。
何せ下町から上町まではニ時間ほど掛かるらしい。
夜道を歩くのは危険な距離だ。
加えてボクらは今日は歩き通しだった。
ここから更に二時間坂道を登るのは遠慮したい。
という訳で、今日は八人で大部屋に泊まることになった。
エマオさんとザーレンさんは別部屋である。
ナルちゃんはすっかり馴染んでおり、リックやスノウノさんがお気に入りの様だ。
けれど、寝る時はセレナさんの隣りが良いと?
ふむ、分かってるねぇ。
こうして、ベルモンドでの初日の夜は過ぎていった。




