表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/54

49_シルバーウルフ

オレはザーレン。

魔王教教主エマオ様の付き人をしている。

訳あって今は鉱山町ベルモンドへ向かっている。


向かう馬車内の雰囲気は良い。

初対面の時は「何を言い出すんだ彼は」と思ったが、クロ君は話すとなかなか気の良い少年であった。

少々人見知りの気のあるエマオ様も安心して話せているのも良い。

思えばエマオ様は、春からこれまで気の休まる時が無かったように思える。

ベルモンドに着くまでのこの一時が、束の間休みとなれば幸いだ。


オレは先代様の頃からエマオ様に付き添っている。

そのためエマオ様に対しては、僭越ながら親心の様な感情も抱いている。

エマオ様の笑顔はオレにとっての癒しでもある。

……クロ君のパーティの女性達も見目の良い者ばかりだが、オレからすればエマオ様の方が余程可愛らしいと思っているぞ。


**********


「この先で多数の魔物が馬車を襲っています!

それに怯えて、歩みを止めたものと思われます。」


そんな和気あいあいの空気をガラリと変えたのは、クロ君のパーティの女性フラウノが発した言葉だった。

これまで行動を共にする中で、彼等の感知魔術が確かな事は分かっている。

本当にこの先で襲われている者が居るのだ。


どうする?

見捨てるのは教義に反する。

かと言ってこの馬車ごと突っ込む訳にもいかない。

エマオ様を危険な目に合わせる訳にはいかない。


「リック、ボクと一緒に来て!

他の皆はこの馬車でゆっくり進んで来て。

前方の魔物に気付かれないように注意して!

あと、別働隊が居ないかも監視を続けて!」

「「はいっ!」」


……先程までのポヤポヤした表情が嘘の様に、キリッとした表情でクロ君が指示を出した。

ん?まさか、二人で加勢に行く気か?!


「待て、オレも付いて行く!」

彼等にばかり危険を背負わす訳にはいかない。

エマオ様の行く先の露払いをするのもオレの役目だ。

エマオ様はここに居れば安全だろうしな。


「えっ……、分かりました。

けど、前の馬車の方達を助ける事が優先です。

ザーレンさんに歩調を合わせず先に行くので、そのつもりで。」

「えっ?!」


あまりの物言いに面食らってしまった。

いくら足に自信があるのか知らないが、体格的にはさほと差がつくとは思えないのだが?


「さっ、行くよ、リック!」

「はいっす!」


バッ!!


彼らはオレの疑問など無視して馬車を降りて駆け出す。

慌ててオレもその後を追った。


**********


早い!

彼等のアレは何だ、跳ねる様に移動しているぞ?!

おまけに樹木も足場にして跳ねる事で、状態の悪い街道部分を飛び越えて行ってる。

それに比べてオレはひたすら地面を走っているので、彼等との差は広がるばかりだ。


今にも彼等が視界から消えそうになる頃、前の馬車が見つかった。

そこでは数十匹の狼が馬車を取り囲んでいた。


「『火球』!」

「『火球』!」


ボシュッ!ドカンッ!!


彼等の放った魔術が、狼の一団の最も密集した位置に炸裂した。

そしてそこから取り囲む狼の内側に入り、馬車を背に狼達と向き合った。

オレも遅れながらも、どうにか狼の包囲網のほつれから滑り込んだ。


「助太刀します!

馬の居る側は任せて、負傷者を下げて下さい!

まだ戦える者は馬車の背後に回って下さい!」

「ありがてぇ!

恩に着るぞ!

おめぇら、言う通りにしろ!」


……ん?

緊急時なのは分かるが、少し口調が荒い奴らだな。

いや、気にするな。

今は魔物の方に集中だ。

こいつらは──


「こいつらはシルバーウルフだ!」

「えっ?!

全身黒ですけど?」

クロー君がシルバーウルフをあしらいながら反応する。

声に反応する余裕はあるのか、頼もしい。


「こいつらの後頭部から胴体にかけて白い縞が入っているだろう?

こいつらはリーダーへの忠誠心が高く、数匹を狩られたくらいでは怯んだりしない、厄介な奴らだ。

司令を出すリーダーは全身真っ白で、そいつを倒すか、群れを半壊させない限り延々と襲って来る!」


説明をしながら飛び込んでくる個体を捌くのは、意外に骨が折れる。

こちらの剣で傷を負わせる事は出来るが、致命傷を与えるまでは至らない事も多い。

かと言って肝心のリーダーの姿は見えないし、魔術を使おうにもそんな隙は与えてもらえなさそうだ。

……これは長期戦になるだろうか。


「──なるほど。

リックごめん、なんとか一瞬だけ持ち堪えて!」

「了解っす!」


──っ?!何をするつもりだ?


クロ君は馬車の幌の上に飛び乗った。

大した跳躍だが、先程の移動を見ていれば驚くことではない。


……どうやら、感知系の魔術を使っているようだ。

もしや、リーダーを探そうとしているのか?

しかし、仮に見つけたとして、どうやって攻撃を当てるつもりだ?

狼達を統制しているのはリーダーだ、攻撃しようと突っ込めば総力を挙げて防ごうとしてくるだろう。


「……見付けた。」


クロ君が呟くのが聞こえる。

くっ、問い質そうにも狼達の攻撃をいなすのに手一杯で、それどころじゃない。


バサッ!


なんだ?!

クロ君は突然マントを被った。

怖くて守りに入ったとか、そんな単純な事ではなさそうだが、意図が分からない。


バシュッ!バシュッ!バシュッ!……


──っ?!

なんだ?!

クロ君が何やら連射したようだが、これは魔術か?

自分の事に必死で彼の様子をつぶさに観察は出来ないが、目の端で光の線が数度走った事は分かった。


グル……


……ん?!

おかしい、狼達はまだかなりの数居る筈だが、怯んだ様子を見せている。

兵隊がまだ居る以上、リーダーが退却を選択でもしなければ、こんな様子にはならない筈だ。

……ひょっとして!


ザッ!


「リーダーは狩れました。

残りは配下だけです。

直ぐに次のリーダーが現れる事は無いと思って大丈夫ですかね?」

幌から降りて来たクロ君がそんな事を語った。


リーダーを狩った?!

姿さえ見せないものを遠距離から狙って攻撃したと言うのか?こんな短時間で?

それが可能としてもこの距離だ、単発の魔術なら避けられてしまうだろう。

だからこそ連射が出来る魔術を使ったのか?

……いや、連射が利いて殺傷力もある魔術ってなんだよ!


「……そんな事例は聞いたことが無い。

そもそもリーダーだけ狩る事自体が難しいしな。」

「分かりました。

じゃあ万が一、次のリーダーが現れるとも限らないので、指揮の取れていない今のうちに叩くだけ叩いて追い払いましょう!」

「うっす!」

「お、おう……。」

クロ君達の手際の良さにちょっと引きつつも、彼の言う通りにオレはシルバーウルフを狩り続けた。


**********


その後、士気の下がったシルバーウルフどもを狩り続けたら、奴らはあっさりと退散して行った。

完全に勝ち目が無いと諦めたものだろう。


「ふうっ、なんとか一段落したな。」

「……いいえ、まだです。」


ん……?

どういう事だ?

クロ君はまだ厳しい目つきのままだ。

シルバーウルフが体勢を立て直してまた襲って来るとでも言うのか?

それとも、別の魔物か?


「リック、今のうちに『闇纏い』を使って。

体に展開はしなくて良いから。」

「りょ、了解っす。」

クロ君はリック君に戦闘継続を告げている。

何なら先程までよりも警戒しているくらいだ。


「どうしたんだ?

何か脅威が迫っているなら教えてくれ。」

「いえ、脅威は迫って来てはいません。

始めから、この場にあったみたいです。」

「んん……?」

クロ君の言っている意味が分からない。


「……さっき、『空間把握』をした際に分かったのですが、この馬車の中に子供が多数居るんです。」

「……は?」

それは……、まぁ、そんな事もあるのではないか?


そこで、オレが問い返す前に、この馬車のを守っていた男が話し掛けてきた。

「よおっ!助かったぜ、ありがとうな。」

その手には先程までシルバーウルフと戦っていた際に使っていた得物を握ったままだ。


「それは良かった……。

ところで聞きたいのですが。」

男に応じたクロ君の声は、淡々とした口調だ。


「んっ?なんだ?」

「……中に居る子供達は何故縛られているのです?

そもそも、大の大人が男ばっかり九人と、縛られた子供が六人。

どういう関係か説明出来ますか?」

「──っ?!

はっ?!

え゛っ……、い、いやその……。」


──なっ?!

おいおい、それが本当なら、どう考えたって……。


「『眠り』!!」

え……っ?!

クロ君は唐突に魔術を放った。


「あぅ……。」


バタッ!

バタタッ!!


目の前の男と、その後ろで様子を伺っていた男二名が揃って倒れた。


「眠ってもらいました。

今の反応を見るに、やましい事をしていたって事で確定でしょう。

男共は全員ふん縛っちゃいましょう。」

「了解っす!」

「お、おう。」


な、なんだ?

速攻で事態が進んで行って理解が追い付かない。

ただまぁ、クロ君達の判断に間違いは無いように思える。

この場は彼等に任せておくか。


「リック、皆に合図を送っておいて。

あ、ザーレンさん、縛るのを手伝って下さい。」

「うっす!」

「ああ、承知した。」


とりあえず、エマオ様が来る前にこいつ等を拘束しておくとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ