48_馬車に揺られて
「へぇーっ!!
あの「北の山脈」まで行った事があるのですか?!」
「はい。
でも、ボクが思っていた様な牧歌的な佇まいの町では無かったんですよね……。
山脈の麓には山賊がひしめいているとかで──」
「ふんふん──」
……なんででしょう。
クロー君とエマオさん……、エマオ君と呼ぶのが正しいのですかねぇ?
まぁ、その二人が仲良さそうに話しているのを見ると、何かこう……、モヤモヤします。
男性同士だと分かっているし、クロー君が男性に浮気する趣向でないことも頭では理解しているのですが……。
ビジュアルがもう、お似合い過ぎて、変な想像が止まりません!
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あ、どうも、セレナです。
私達は帝都ラカニエを経って、ベルモンドへ向かっています。
向かってはいますが、馬車の中というのは基本的にやる事がありません。
一応、交代で魔術を使い、周囲の監視は行っているのですが、そのせいで逆に自分の番以外の時間は魔術を無駄に使う事も出来ないのです。
となると、あとやれる事と言えば、お喋りくらいのものです。
ちなみに、帝国軍で飼っている馬は優秀な血統らしく、十人乗せた馬車を引いていても、上り坂をスイスイ登って行くほどです。
しかしずっと馬車に乗りっぱなしだと体がなまるというか、揺られ続けて体がおかしくなりそうになります。
なので私達は、特に長い坂道とかでは降りて歩く様にしています。
パーティの中でも一番体力の無い私ですら、歩くのは苦にはならないほどには、皆歩くのは慣れていますからね。
と言っても、ずっと歩いてばかりでは馬車の利点である速度が活かせません。
結局、ある程度は馬車の中でお喋りをする事になります。
そうなると、男子は男子同士、女子は女子同士で話す様になります。
……別に私達が嫌がっている訳ではないですが、主にクロー君とリック君が主導でその様にしています。
理由はエマオさんとザーレンさんが共に未婚であるため。
なので暫く旅を共にする間に、パーティの女性陣に色目を使われるのを嫌がったものらしいです。
……その理由は分かるのですが、そうやって分けておきながら、自分はエマオさんと楽しげに話しているというのはどうなのでしょう?
いえ、分かっていますよ?
エマオさんは男性で、クロー君やリック君に色目を使ったりもしていないし、クロー君も男性に興味が有るような趣向は無いと。
……でも、クロー君に関しては、うっっっすらながら疑惑があるんですよね。
自分達の言動が基になった「クロとリューク」について、題材になった事に辟易してはいるものの、こういった物語のジャンルがある事には理解を示してくれているのです。
しかも、たま〜〜〜にリック君との関係を匂わせる様な発言もしますし……。
リック君はリック君で、クロー君に向ける感情が尊敬的なものか恋心的なものか、微妙に分からない時があるんですよね……。
……じっとり
「……おい、セレナ。
そんなに物欲しそうにクローを見るな。
……とても、一時「聖女」とまで呼ばれた者とは思えないぞ?」
私の様子を咎めるようにヴェロニカさんが言ってきます。
「ヴェロニカさんは気にならないんですか?
あんなに仲良さそうに話しているんですよ?」
「いや、だってな……、エマオは男性なんだろ?
そして、クローが女性を好きなことは、その……、私達が一番良く分かっているだろう?
なら、何も心配することなんて無くないか?」
「……そうですけど、なんか、こう、モヤモヤしませんか?」
「クローはアプリコット公爵と話してた時もあんな感じだったからなぁ……。
社交性はそこそこあるんだよ。
……まぁ、あの絵面だけ見たら気になってしまうのも分かるが、車内の空気を悪くするの控えような。」
「ゔ〜〜……。」
ヴェロニカさんの言う事は分かりますし、それが正解だと頭では理解出来ています。
でも心は納得出来ていません。
なので、ついつい唸ってしまいます。
「分かりますよ、セレナさん。
私もリックがエマオさんとにこやかに話しているのを見ると、こう……、込み上げてくるものがありますから。」
「ですよね?!」
ティアナさんは分かってくれるようです。
そうですよね、同じ気持ちのヒトが居てちょっと安心しました。
「……言うて明後日にはベルモンドに着くらしいニャ。
それまで辛抱するニャ、二人とも。
実害は無いわけだしニャ。」
「「……。」」
スノウノさんの呆れた様なツッコミに、私達は何も言えず黙ってしまいます。
その時──
ガッタンッ!!
きゃっ?!
突然、馬車が大きく揺れて止まりました。
座っていた私達は、傾いて重なってしまいました。
私はティアナさんに被さる形になりました。
「すっ、すみません!」
「いえ、お気になさらず──
あっ!」
おや?
ティアナさんが息を呑んだのが分かります。
その視線の先、クロー君達の方に私も視線を向けました。
「──っ?!?!」
その先ではエマオさんがクロー君の腕の中にはしなだれ掛かっていました。
「……あっ、ご、ごめんなさい。」
「い、いえ、お気になさらず。」
エマオさんは、やや頬を染めて上目遣いにクロー君を見ています。
その表情は完全に恋する乙女の様で──
「あーー、いけませんお客様!
お触り厳禁でお願いします!」
私は思わず声に出してしまいました。
「そうです!
よりによって、付き合ったばかりの恋人の前でその様な!」
あら?
ティアナさんまで抗議の声を上げました。
驚きましたが、よく見るとリック君もザーレンさんにもたれ掛かっていますね。
うん、これもダメですね。
「……いや、なに言ってるんですか、セレナさん。
こんなの不可抗力じゃないですか。」
「そうっすよ。
異性ならまだ分からなくもないっすけど、同性同士っすよ?」
「いえ、だとしても──」
クロー君もリック君も呆れ顔ですが、ティアナさんは尚も抗議の声を上げようとしました。
「──そんな事より、レインどうかしたかニャ?
……あ、あれ?レイン?」
そんなティアナさんに構わず、スノウノさんがレインさんに状況を聞こうとします。
が、御者台に居た筈のその姿がありません。
レインさんは帝国の軍人さんで、今回、御者を引き受けてくれた女性です。
ウチのパーティに女性が多い事から、イズークェリシャさんが気を利かせてくれて、女性の御者さんを選んで下さいました。
「あ、すみません!
この子をあやしていました。
怯えているみたいで。」
よく見るとレインさんは、御者台を降りて馬の首に手を回す形で抱きついていました。
馬さんも今は落ち着いているようです。
「どうしたのですか?」
「それが、分からないんです。
本当に急に何かに怯え出して──」
私も聞いてみますが、レインさんにも馬さんが怯えた理由は分からないようです。
しかし、ここで御者台で周囲監視をしていたフラウノさんが声を上げました。
「──魔物です!」
「「えっ?!」」
魔物?!
皆も驚きます。
そんな中、フラウノさんは簡潔に状況を語ります。
「この先で多数の魔物が馬車を襲っています!
それに怯えて、歩みを止めたものと思われます。」
「「──っ?!」」
再び皆が息を呑んだのが分かります。
目的地のベルモンド直前で、予期せぬ出来事が起きたようです。




