47_魔王教・教主(後編)
「急に何を言い出すのです、エマオ様?!
教主自らが出向くつもりですか?」
「それが最善でしょう。
北の町の魔物は少しは治まったものの、他の幹部を剥がす程の余裕はありません。
僕自身は、北の町ではあまり戦力にはなっていませんから、影響は少ない。
それに、仮にマッツさんが嘘を吐いていたなら、ヒトを遣わせてもはぐらかされるか、口封じされるだけです。
……僕自らが行けば、流石に口封じは出来ないでしょうから。」
エマオさんが急に突拍子もないことを言うものだから、ザーレンさんが慌ててしまった。
けれど、エマオさんは冷静に自分の意見を返している。
「……けどねぇ、心配だわぁ。
いくら男の子だからって、その容姿だもの、不埒な輩だって寄って来るでしょう?」
ん……?
今、ムーエット様が変なことを言ったような……?
「そうです!
ただでさえ町と町との往来には危険が付きものなのです。
魔物に加えて野盗など現れたら……。
せめて、私も同行いたします!」
「いや、ザーレンは北の町でまだ必要──」
「貴方の身の安全の方が、遥かに重要です!
あちらには冒険者も集まって来ていますから、私一人が抜けても大丈夫ですとも。」
「わ、分かったよ。」
ボクの疑問など気付かず、ザーレンさんもベルモンドへ行くことになったようだ。
「……あの〜、割り込んですみませんが、先程エマオさんの事を「男の子」と言いましたか?
聞き間違いであったら申し訳ないのですが……。」
二人の話が一息ついたタイミングで、ボクは先程感じた疑問をぶつけてみた。
「いいえ、聞き間違いじゃあないわよ?」
「エマオ様はこう見えても、れっきとした男性だ。」
「「……っ?!」」
ムーエット様とザーレンさんの二人に平然と返され、ボクだけでなく仲間も皆、驚いた様だ。
「ハハ……、男のくせにこんな格好していてすみません。
父から代替わりして僕が教主をする事になりましたが、僕の様な若造に皆をまとめ上げる威厳など無かった。
だから少しでも皆の好感を持たれる様にと、女装を始めたのです。
恥ずかしい思いをしたお陰か、今はなんとか皆をまとめる事が出来ていますよ。」
「へ、へぇ……。」
……なんか、そうなると「魔王教」の司祭見習の女性がエマオさんを褒めていたのが、別の意味に聞こえてきちゃうな。
……ほら、前世オジサンも心の奥底でサムズアップしているし。
オジサンもショタ物が好きだったらしいからなぁ……。
……ん?いや、女装とショタはまた別?
…………。
どやかましぃわ!!
ああっ、要らん事考えてる!
今はそれどころじゃない。
やっと、ヴェロニカさんに絡んで来ようとしている奴等のうち、「魔王教」に関わってる方の元凶に辿り着けそうなのに!
「……さて、話を戻すけど、クロ君?
君もベルモンドへは行く気なのかしら?」
「えっ?!あ、はい。
本当にそのマッツ支部長とやらが元凶なら、文句の一つや二つ、三つ……、ついでにド突き回さなくちゃ気が済みませんからね。」
コラペでの出来事は、正直そこまで怒ってる訳じゃない。
でも、カダー王国ニグラウス領の一件に関わって、カエデさんを派遣してきたことは、非常に気に食わない。
あの件を遡ると、ボクが国を追われる原因になった件にも行き着くし、あの時はルミやセーム様等が危険にさらされたのだ。
それに絡んでいるとなると、見過ごせない。
更には、カエデさんが派遣されたことからも、諸悪の根源であるハイエルフのクソ長老老害共との関わりがある事は確定している。
そんな奴等は潰しておくに限る。
「……聞きたいのだけど、何故そこまで恨みを持っているの?
……恨み、よね?その感情は?」
ボクが感情を滲ませたせいか、ムーエット様が尋ねてきた。
「……そうですね。
正直に言いますと、他国で騒ぎを起こしている事については、個人的にはそこまで腹を立てているわけではありません。
実は、ウチのパーティの一人が、元凶と思しき者達から執拗に執着されているので、それをどうにかしたいというのが本命です。」
そう、ヴェロニカさんを狙うハイエルフの里と協力関係にある、という事が一番の問題なのだ。
いやいっそ、「魔王教」を隠れ蓑にした、ハイエルフの里の出先機関に実質なっているんじゃないかと疑っている。
ならば、そんな物は何をおいても叩き潰しておかなくちゃならない、ボクとヴェロニカさんとセレナさんの幸せの為に。
「ああ、お仲間のためなのね?
それなら納得だわ。
……ねぇ、ズッ君。」
ボクの答えに納得したムーエット様はイズークェリシャさんに声を掛けた。
「ん、何だ?」
「エマオちゃん達とクロ君達のために、馬車とか用意してあげられないかしら?
一緒にベルモンドまで行くなら安心だわ。」
「なるほどな。
だがなぁ……、王族用のは無理だし、十人近く乗るとなるとなぁ……。
軍用の荷馬車兼用のやつなら貸せるかな。
だが、乗り心地は期待するなよ?」
「分かったわ。
……ということなのだけれど、どうかしら?
御者と移動中の食費もちゃんとこちらで用意するわよ。」
イズークェリシャさんと話をつけたムーエット様が、再びこちらに聞いてきた。
これはボクとエマオさんに向けたものかな。
「え……、そ、そんなことまで?!
申し訳ないですよ!」
突然のムーエット様の申し出に、エマオさんは戸惑っている。
「良いから良いから。
クロ君達への報酬が安くついたから、その分から出すだけだから。
それでも全然余裕たけれどね。」
「へ……?報酬?」
エマオさんからしたら、何の事がわからないよね、そりゃあ。
う〜ん、ボクらだけなら歩いて、というか『重力制御』を使った方が早いのだけど、エマオさん達が居た方が話が早そうだしなぁ……。
「ボクらとしては、ご厚意に甘えさせていただきたいと思います。
ただエマオさん方は、初対面の我々と行動を共にすることを良しとするでしょうか?」
「……は、はい、大丈夫です!
ムーエット様が信用されている方達であれば、私も信用いたします。」
「……。」
エマオさんの返答に対して、ザーレンさんは無言でいる。
特に反対意見は無いということだろう。
「良かったわ。
それじゃあ、馬車の手配は……、ズッ君、どのくらい掛かるかしら?」
「……そうだな、今日はもう日が暮れそうな時間だが、急がせれば明日には用意できるだろう。
明後日の早朝出発でどうだ?」
「異存はありません。」
「こ、こちらもそれで構いません。」
ボクが答えるのに倣ってエマオさんも返答する。
「オッケー。
じゃあズッ君、それまでクロ君達の宿を世話してもらえないかしら?
ここで寝泊まりするのは気を遣うでしょうから。」
「分かった。
今夜と明日の分だな。
近場で探させる。
……一部屋じゃあ狭いよな?」
イズークェリシャさんがボクに聞いてくる。
……なんとなくだけど、今日は二部屋に別れたい気がしている。
「はい、許されるなら二部屋でお願いしたいです。」
「ん、分かった。
手配が済むまでアンゼリカ達と会って話でもしていてくれ。」
「何から何までありがとうございます。」
「気にするな、国として憂慮する問題の一つを解決してくれた事を思えば、お安い御用だ。」
そう言ってイズークェリシャさんは部屋を出て行ってしまった。
「「……。」」
そんな様子を見て疑問に思ったのだろう、しばし無言でいたエマオさんがムーエット様に質問した。
「あの……、彼らは何をしたのですか?
そこまで殿下達に気に入られているなんて。」
「あ〜……、それは流石に話せないわね。
ただ、取り敢えず困難な問題を解決してくれる能力があって話も通じて問題行動も起こさない、これだけでも私達が気に入るには十分なのよ。
あ、だから、北の町で活躍してくれているエマオちゃん達のことも、私は気に入っているわよ?」
「こ、光栄です。」
「……。」
そのまま恐縮してしまったエマオさん達から追加の質問も無く、この会合はお開きとなってしまった。
明後日の早朝に、魔王教本部で待ち合わせる事を決めると、エマオさん達とムーエット様は退席されて行った。
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その後、ボクらは部屋に残って待機している。
リジュネア様達は来客用の離れを使用しているらしく、そこへは関係者以外は立入禁止なのだそうだ。
理由は、帝城内の構造を無闇矢鱈に部外者に把握させない為、らしい。
元から文句を言うつもりも無かったけれど、この説明には納得してしまった。
……あ、ふと外を見たら雨が降り出している。
さて、手持ち無沙汰なボクは、皆に話を振ってみた。
「……そういえば、皆ずいぶん静かでしたね?
何か話さなくて良かったですか?」
「無理ですわ!
帝国の第三皇子様なんて、雲の上の御方じゃないですか?!」
「……その上、あれ程インパクトのある御方だとは思いませんでした。」
ティアナさんとフラウノさんは疲れを滲ませた様に答えた。
うんうん……
そうだね、ティアナさん達とリックはムーエット様とは今日が初対面だものね。
あのインパクトでは何も言えなくなるか。
「そもそも、初見でなかったとしても、です。
帝国の第三皇子様となれば、この広大な帝国の中でも上から数えて二十人の中には必ず入るであろう重要人物ですよ?
普通なら緊張して硬直してしまいますよ。」
「そうだ。
平然と会話が出来るクローがおかしいんだからな?」
どうやら、セレナさんとヴェロニカさんも緊張してしまっていたらしい。
二人はムーエット様に会うのは二回目だけど、それでもダメだったか。
ところで……。
「まぁ、理解はしますが……。
でも、ボクまで黙ってしまったら、皆も困るじゃないですか?
おかしい、は言い過ぎじゃないですかね?」
「……すまん、言い過ぎた。」
ヴェロニカさんが素直に謝るとは、ちょっと珍しい。
いや、そもそもボクが言い返す事が珍しいのか。
「あ、いえ。
謝って貰いたい訳ではなかったです。
ただ……、今夜は覚悟しておいて下さいね?」
「えっ?!
お、おいっ、それは……!」
ボクの煽りにヴェロニカさんが慌てる。
でも、嫌がっている感じではなさそうに見える。
うん、せっかく良い宿を取って貰えそうなのだ。
帝都に来てから色々と問題があったが、それも一旦は落ち着いた。
なら……、偶にはこちらからお誘いしちゃってもよいよね?
その後ボクらは、雨降る中をこの部屋まで来てくれたアンゼリカさん、リジュネア様、カレンさんと話をしてから、イズークェリシャさんに用意してもらった宿へ向った。




