表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

46_魔王教・教主(前編)

「これはムーエット様、ご機嫌麗しゅう。

本日はお話があるとのことで。」

「はい、ごきげんよう。

相変わらず可愛いわね。」


ムーエット様とは顔なじみなのだろう、部屋に入るなり小柄な女性がムーエット様に挨拶ををしてきた。

それにムーエット様も笑顔で応じている。


「ごめんなさいね、呼び留めちゃって。

実はこの子達が貴方と話したいと言うので、私の名前を使わせてもらったわ。」

「……この子達?」

「そう。

私が懇意にしている冒険者なの。

この子がリーダーのクロ君よ。

そしてクロ君、この子が会いたがっていた「魔王教」の現教主のエマオ・アンヌットちゃん、隣の男性はお付きのザーレンさんよ。」


ムーエット様に振られて二人を見る。

エマオちゃんと呼ばれた女性は小柄で細身の人物だ。

長い髪を両脇で束ねた髪型をしている。

前世オジサンの世界風に言うと、ツインテールという髪型になるのかな。

一見、ボクと同い年くらいにも見えるけれど、表情をよく見るとそこまで幼い感じではなく、ティアナさん達と同じ二十歳前後くらいに思える。


そしてその隣のザーレンさんは、ガッチリとした精悍な体つきの男性だ。

歳は三十代くらいに見える。

身体的な衰えもなく、経験からくる勘も円熟味を増す、個人では最も脂の乗っている時期だ。

北の町で魔物を相手するのに、さぞ貢献したことだろう。


「どうも、初めまして。

クロと申します。

本日はお忙しい中、お時間を取っていただいて、ありがとうございます。」

「えっ?!

あっ、ハイ、ドウモ……。」

「ご丁寧に……。」

ボクが挨拶をすると、エマオさんとザーレンさんが応じてくれた。


「え〜っと、僕に話がある、とか?」

あ、エマオさん僕っ娘なんだ?


「はい、では早速、本題に入らせてもらいます。

単刀直入に言うと、「魔王教」に他国での犯罪行為を止めてもらいたいのです。」


「はい〜〜っ?!」

「はぁっっ?!」

ボクがブッ込むと、エマオさんもザーレンさんも素っ頓狂な声を上げて驚いた。


「……っ!!」

ムーエット様も、声は出していないけど驚いているみたいだ。


「ちょっ、どういうことですか?!

ウチが、「魔王教」が犯罪行為なんて!」

「そうです!

いくらムーエット様が懇意にしているからと言って、冗談にしても悪質過ぎる!!」

落ち着いたエマオさんとザーレンさんは抗議の声を上げてきた。

ま、立場的にそう言うしかないのだろうけれど。


「まぁ、そんな反応になりますよね……。

ですが、これを見てもらえますか?」

そう言ってボクは、とある端布を机に差し出した。


「これは……、「魔王教」の紋章ですね。」

「はい。

これは、昨年秋にコラペ王国の式典襲撃を企てていた者達が着ていたローブに縫い付けてあったものです。」


「「えっ?!」」


「更にこれ……。」

二人が驚くのに構わず、ボクは同じ様な端布をもう二つ差し出した。


「……これも同じ紋章。」

「これはカダー王国でこの年初に副宰相様を狙った謀反が起こった際に、副宰相様を狙った連中に与していた魔術師の服に縫い付けてあったものです。

ちなみに、この時の騒動はジサンジ帝国南部の貴族が、カダー王国に侵攻する事前準備として、カダーの一部の貴族と結託して行われたものである事がハッキリしています。

つまり、ジサンジ帝国にとって都合の良いように「魔王教」が動いていたことになります。」


「ちょ、ちょっと待って下さい!

どちらも僕が知らない事ですよ?!」

「知らない……、ですか?

別に隠す事ではないのでは?

どちらもジサンジ帝国からすれば、他国に打撃を与える作戦です。

成功こそしませんでしたが、帝国の為に動いた事は恥じる事でもないでしょう?」


うん、エマオさんは否定するけれど、一連の動きは

帝国の側からすれば非難される行動ではない筈だ。

なので、エマオさんが感情的になっている理由が分からない。


「いいえ!そんな事はありません!

我が「魔王教」は、魔王様のイメージ回復を、最終的には魔王様とヒトとが共存するとこを目的として発足・活動してきたのです。

他国とは言え、「魔王教」の名を出して犯罪行為をするなど言語道断です。

それでは、魔王様を崇める者は犯罪者であるかの様に認識されてしまうではないですか!」


「……しかし、ボクは冒険者として他国を巡って来ました。

少なくともコラペ王国においては、「魔王教」は既に邪教扱いとなっていますよ?

それはこれまでの永い活動の積み重ねがあっての事と思いますが、エマオさん達は本当に知らなかったと言うのですか?」

「し、知りません!

僕も父上も、そんな指示なんて出していない。」


う〜ん……、エマオさん、嘘を吐いている様でもないんだよなぁ。


「……そうですか。

本音を言うとボクは、どうせ教主さんは本当は知っていたとしても、答えをはぐらかすか嘘を吐くと思っていました。

だた、帝都で「魔王教」について聞き込みを行っても、皆口を揃えて好印象だと答えるんですよ。

それを信じれば、他国で犯罪を行うように指示を出すとは思い難い。

かといって、他国で「魔王教」が犯罪を行っているのも事実なんですよ。

これは、実際に他国へ行って調べれば、すぐに分かる事です。」


「……そう言われても、信じてもらえないかも知れませんが、僕からは何も指示なんて──」


やはりエマオさんは否定する。

なら、やっぱりアッチの線が濃厚かなぁ……?


「──そこで、お聞きしたいのですが!」

ボクは話しの流れを変えるように、ワザと声を強めて語った。


「は、はい?!」

「これから言う人物像に当てはまる方が、「魔王教」に居るかお聞きしたいのです。」

「……は、はぁ。」

ちょっと気圧されてしまった様子のエマオさんに、ボクは条件を挙げていく。


**********


1.本部から離れた支部の支部長クラスの者

2.帝都からコラペやカダーと行き来する通過点となる町の支部に所属する者

3.本部の主要な者達から信頼されている者

4.多額の資金を差配出来る立場にある者


**********


「──この四つの条件に当てはまる方は居ませんか?」


「え……。」

「そ、それは……。」

エマオさんとザーレンさんは互いの意見を探る様に顔を見合わせる。


「その様子では、居るのですね?

条件に当てはまる方が。」


「……。」

「……マッツ支部長が、条件に全て当てはまるかと。」

ボクの問いに答えてくれたのはザーレンさんであった。


やっぱりね……。

しかも、確かマッツというヒトは、フラウノさん達が見掛けたエルフであった筈。

ボクが敢えて言わなかった5つ目の条件の「エルフであること」もバッチリ満たしていそうだ。


「……この条件に当てはまると、どうだと言われるのですか?」

「簡単な事です。

そのマッツ支部長さんが「魔王教」の教義を曲げて他国の教徒に伝えているのだと思います。

そして、魔王様へ奉納する資金を横領して、その資金を元に配下の支部を操っているのです。

……おそらく、魔王様には基の話より少ない額しかお渡ししていないのではないですかね?」


「「──そんなっ?!」」

ボクの推測に、またもエマオさんとザーレンさんは驚く。


「ま、待って下さい!

マッツさんは父の代の頃から、気難しい「翼の魔王」様との遣り取りを続けてくれている方なんです。

我々を欺くなんて……。」


んん……?


「……今、おかしな事を言いましたね?」

「えっ?!」

「「翼の魔王」アリア様とは、ボクらも二度ほどお会いしてお食事を共にした事があります。

とても気さくで、親しみ易い方ですよ?」


「「──っ?!」」

……もう何度目の驚きだろう?

そろそろエマオさんもザーレンさんも驚き疲れそうだなぁ。


「それにあの方は、魚が食べたいからといって、自ら港町まで赴いて地元の漁師さんから魚を買い付けるくらいには庶民派ですよ?

そこまで贅沢したがるとは考え難いんですよねぇ……。」

「ど、どうやってあの方とお会いしたのです?!

その姿を見た者すら希少なくらいなのに、二度もお会いしたなんて!」


え、そうなの?

確かに神出鬼没そうだから、狙って会うのは難しそうだけど……。


「……それは、普段のあの方の姿を見た者が、パッと見て「翼の魔王」とは分からないというだけだと思いますよ。

普段から帝国内にも足を伸ばしているらしいですし、アリアさんは。

まぁあの方は、普段出歩く時は庶民的な服装をしているみたいですから、すれ違っても魔王様とは思えないかもですね。」


「「……。」」

エマオさんとザーレンさんは、ついに声も出せない状態になっている。


「ええと……。

取り敢えず、そのマッツという支部長を呼んで確認することは出来ないのかしら?」

黙り込んでしまった二人を見兼ねて、ムーエット様が助け舟を出された。


「それが……、昨日までは帝都に来ていました。

しかし昨夜、私が戻っていると聞いて訪ねて来て、魔王様への奉納金相当額をお渡ししたら、夜のうちにベルモンドへ帰ってしまって……。」

「あら、一歩遅かったわね。」

エマオさんの答えにムーエット様は残念そうな声色で応じた。


「……というか、何故それほど急いでいたのでしょう?

教会本部にお金が有ったとはいえ、一日待てばエマオさんが帝城に来て、今月分の奉納金を受け取るわけでしょう?

何か急ぐ理由でもありましたか?」


「ええと……、聞いた所によると、魔王様が定期的にベルモンドの支部を訪れる日まで余裕が無かったとか。

魔王様は気難しい方だと聞いていましたし、私共も北の町から戻るのが遅れましたので、焦っているのだと思い、疑問も持ちませんでした。」


ボクの疑問にエマオさんが答えてくれる。

……やっぱり何か怪しい動きをしてるんだよなぁ、そのマッツ支部長とやらは。


「……なるほど。

エマオさん達の理屈は分かりましたし、不自然とは思いません。

ですが、そのマッツ支部長が急いだ理由や、アリアさんを「気難しい」と吹聴する理由は分かりませんね。

ボクとしては、今の話でマッツ支部長への疑念が強くなったと感じます。」


「「……。」」

ボクが感想を述べると、エマオさんとザーレンさんは沈黙してしまった。

そしてしばし後、エマオさんが意を決したように口を開いた。


「……分かりました。

そこまで言われるのであれば、僕も教主として看過できません。

これからベルモンドまで行って、マッツさんに問い質してきます!」


「「ええっ?!」」

エマオさんの宣言に驚いたのはボクだけでなく、ザーレンさんやその他この部屋に居るほぼ全員であった。


どうやら話は思わぬ方向に進んでしまいそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ