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ボンジュール!パレス・ロレーヌ

帝国統一歴709年1月某日 惑星エレギオンの月面基地"ミナス・アノール"周辺宙域


彼ら、"ロタリンギア浸透チーム"が搭乗する旅客船・・・当然ながら彼ら以外の客はいない・・・の所在地は、ロタリンギア領に程近い惑星エレギオンからロタリンギア領を僅かにかすめるようにして、マリーエンブルク領内に戻るルート上にあった。

あと30分もすれば、この旅客船は"時空転移"によりマリーエンブルク領内に戻るのであるが、彼らは時空転移中に"風の回廊"にて、ロタリンギア領内にこっそりと”途中下車”すると言う訳である。

そこでは本ミッションの″統括官″となったイーリスの指示を受け、ギルが参加メンバーに対して最後の注意をしていた。

「それじゃ・・・時空転移したちょうど5分後に"風の回廊"を繋ぐんだけど、″裏口バックドア″はロタリンギア軍令本部のすぐ隣、第13区画の第22大隊宿舎の厨房ドア付近になりそうだね」

ルチアが唇を尖らせ、早速文句を言う。

「厨房って・・・。もうちょっとましな場所に出来ないの?ギル」

ギルが苦笑しつつルチアを宥める。

「・・・そいつは無茶ってもんさ。だって"量子トンネル効果"での出口ってさ、やっぱり確率論的にロタリンギアのあらゆる場所に出現しうるんだけど、バッドな可能性としては・・・大気のない宇宙空間だとか・・・首都星系の恒星ど真ん中・・・とかもあり得るわけで、当然そんな事にならないようベリルたち宝玉が全力で多元宇宙のバッドな確率を潰しまくって、残った最有力の出口がその厨房って訳さ。つまり必要な出口は自分で探すって事だけど・・・これが予め出口が用意されている"時空転移"とは違う点だね」

そこにベレンが意地悪そうに笑いながら、ルチアに茶々を入れる。

「僕なら・・・いきなりトイレの便器の中に出現しないだけありがたいと思うけどな」

その一秒後・・・イーリスが無言でベレンの後頭部を殴りつけ・・・ベレンは後頭部を抱えて悶絶している。

・・・取り敢えずルチアとベレンが大人しくなり、統括官のイーリスが説明役をギルと代わる。

「それではみなさん。"時空転移"に備えて"クローン兵装"をご準備ください。一度に全員は移動出来ませんので、第1陣はジョアンさんとテオさんたちホーク・アイ大隊、第2陣が私とバルドさんたち保安局員チーム、そして第3陣がグレーテさんと兵站チームが″あれらの装備"と共に、最後第4陣がギル達のエルフチームとなります。全員の出現完了までの所要時間は1時間と想定しています。よろしくお願いします」

ホーク・アイ大隊のテオがイーリスに確認を入れる。

「全員が出現完了するのに少し時間がありそうだが、出現後の行動開始については、作戦計画に沿う限り各チームの任意と言う事で良いか?」

イーリスは頷く。

「その通りです。私は統括官として全体のコーディネートを担当しますが、各チームへの指揮命令の権限は皆さん方チームリーダーご自身にあります。各チームは現地に出現次第、他のチームの出現を待つことなく行動開始となります。ただ、互いに現地での連絡は絶やさないようにお願いします。その時々の状況に応じて、その後出現するチームが随時援助を行う形となります」

グレーテがテオとバルドに声を掛ける。

「当初計画では戦闘行為は発生しないはずだったけど・・・どうやら雲行きが怪しいみたいだから、お二方には″あの坊やたちが作ったオモチャ″を追加で支給しようと思います。多分あなた達が先発して必要な装備を準備している間に、わたくしたちが″それ″を運び込んでお二人に引き渡すので、お二人の行動開始はそれからにして貰えるかしら?」

バルドもグレーテに確認する。

「そいつは俺たちの出現後、20分以内でお願いしたい。テオ達とはその後すぐに別行動となるからな」

テオも頷く。

「こちらは出現後30分以内での補給を希望する。あちらに出現後30分以内に第22大隊とは入れ替わるつもりだ」

「了解しました!なるべく早くそちらに移動するわ」

そうグレーテは二人に約束した。

次いでジョアンが、おっとりと自身の行動予定を述べる。

「わたくしはテオさま達と現地移動後、すぐさま第22大隊指揮官を引き合わせた後は・・・単独行動を取ります。・・・もう皆様と一緒には戻りませんので、あとの事はどうかお気遣いなく」

イーリスがその発言に頷きながら、最後に自分たちの取る行動について述べる。

「皆さんが各自行動開始した後、私は4人のエルフチームと共に出現拠点にて全般的な状況把握を行うと同時に、グレーテさん達の保護と″回廊″を維持しつつ撤収時に備えます。万一不測の事態発生時には、かれら4人の内何れかが皆さん達の応援に向かいます。・・・作戦終了時間は最初の出現時から24時間後で、現地時間では00:00時となります。これは"回廊"の維持が限界に達する約30分前となります。そして・・・ジョアンさんを除く全チームは、この時間までに・・・その作戦行動の成否にかかわらず、第22大隊宿舎に帰還してください。・・・以上です」

「「了解!」」

"ロタリンギア浸透チーム"の全員が、それぞれに自信に満ちた顔つきで返答した。


そして予定の時間通りにジョアンとテオとホーク・アイ大隊の士官達が、ロタリンギア領内の予定通りの場所ちゅうぼうに突如として出現した。

テオが目の前のドアを開いたところ、既にフロランス首都治安維持第22大隊の指揮官クロチルドが彼らを待ち受けていた。

「ようこそお出で下さいました。ジョアン様・・・そしてギーエン中佐殿。直ちに部隊の引継ぎを開始したいと存じます」

そう申し出たクロチルドに、ジョアンが新たな指示を加える。

「・・・情勢の変化がありました。可及的速やかにあなたは引継ぎを終わらせ、わたくしたちは作戦プラン"ジャンダルム"の実行に移ります。・・・よろしいかしら?」

クロチルドは事態を予測していたかのように、納得顔で大きく頷きつつジョアンの指示を復唱する。

「やはりそうなりましたか・・・。我々は可及的速やかに部隊の引継ぎを完了させ、直ちに作戦プラン"ジャンダルム"を開始します!」

ジョアンはテオに微笑みかけ、別れの挨拶を告げる。

「・・・そう言うことで、テオさまとはここでお別れとなります。次にお会いする機会があるか分かりませんが、ひとまずはお互いの作戦行動の成功を祈ることといたしましょう」

そう告げたジョアンはテオの返答を待つことなく、素早く身を翻すと直ぐに厨房の外へと消えた。

その様子を無感動に眺めていたテオは、クロチルドに向き直り予定の行動を促した。

「では、速やかに引継ぎをお願いする。・・・我々もあまり時間的余裕はないのだ」

そして・・・そのちょうど15分後に、同じ場所にイーリスとバルド達保安局員達、およびその指揮下に入った2個中隊の士官達が出現した。

テオ達ホークアイ大隊の面々は、隣の食堂で準備されていた第22大隊の装備等を受領し、部下となるアンドロイド兵のコントロールを引き継いでいた。

イーリスは直ちにスケジュールの進捗状況の確認を行い、一方バルド達のチームも直ちに準備されていた装備の受け取りを済ませ、続けて出現する予定のグレーテ達の兵站チームの到着を待つ。

・・・そしてその10分後には、グレーテ達兵站チームが・・・見たこともない何やら"物騒な装備"を多数伴って出現する。

「二人ともお待たせしました!さあ・・・約束の追加装備をお渡しするわ。かなり”ヤバいシロモノ”なので・・・"使いどころはよくよく考えてくださいな"とは、"あの坊やたち"からの伝言ね」

どうやらグレーテはシン・皇帝府の雰囲気に馴染むのも早く、かなり言葉が砕けてきた感じだ。

その・・何やらヤバそうな追加装備を受け取った、テオ達ホークアイ改め"偽装第22大隊"は早速行動を開始すべく食堂を出ていく。

クロチルド達、旧第22大隊士官たちの姿も既にない・・・。

同じく追加装備を受領したバルたち保安局員+αチームであるが、この後別任務に従事予定である彼らは、そのためにギル達チームの到着を待っている。

そして最後に・・・ようやくギル達エルフ4人組が現れた。

「ヤッホー!みんなーお待たせー!そして・・・ハロー!花のフロランス!・・・ボンジュール!麗しのパレス・ロレーヌ!」

またまた喧しくも、ルチアが能天気な大声を上げる。

「ルチア・・・少し静かに」

直ちにイーリスが、額を押さえつつルチアに注意する。

いきなりのお小言に、ルチアが不満そうに唇を尖らせる。

「どうして?・・・別にいいじゃん、初めて来たロタリンギア星系領首都のフロランスと、かの有名な・・・カール宮中伯のロレーヌ宮殿に挨拶するぐらい」

確かにロタリンギアの首都は″花のフロランス″として知られていたし、ロレーヌ宮殿はその代表的な名所であった。

そしてこれもお決まりの様に、溜息を吐きつつルチアを宥めるギル。

「ルチア・・・これたぶん″TPO″ってヤツ。周りはすごく緊張感に満ちてるけど、ルチアだけちょっと浮いてるよ」

ベレンとミスティは小さくクスクスと笑っている。

ルチアはギルを暫く睨みつけた後、(あんたに言われたくはないとばかりに)ツンとそっぽを向いた。

イーリスがそのやり取りは無視して、額を押さえたまま・・・彼らに対しての指示を出す。

「4人のこれからの行動です。ギルとルチアそしてベレンとミスティでここを確保、そのままこの″回廊″を維持すると共に、4人で別途"回廊"を創作しバルドさん達を・・・"別の宮殿"に輸送します」

ベレンが残念そうに零す。

「・・・また裏方か。どうやら今回僕らの見せ場はなさそうだね」

ミスティが仕方なさそうに同意する。

「だって・・・"くれぐれも表でおかしな真似をするな"って、ノエルに釘を刺されたじゃない。他のメンバーはいざ知らず、私たち4人の活動の痕跡を残したら、あとあと面倒になるって・・・」

それを苦笑しながら、二人をグレーテが諭す。

「あら、わたくしなんていつだって裏方よ?でも、わたくしたちが裏で支えなければ、どんな作戦だって実行できないの。これはこれで大切な任務なのよ。・・・その代わり今回は"あなた達のおもちゃ"が存分に活躍してくれるわ」

イーリスが最後に、自分と共にこの場に残る5名に確認をする。

「そう、グレーテさんの言う通り・・・あなた達の責任は重大よ。テオさん達の作戦行動が花形だけど、それだけではこのミッションはコンプリート出来ない。バルドさん達の作戦行動も今回のミッションの大切な肝になるの。ルチア・・・あなたが言う、麗しならぬ・・・"荒鷲の宮殿"にバルドさん達を送り届けてからがね・・・」


こうして・・・複数の別の作戦が別々の場所で同時に進行すると言う、制限時間24時間の作戦オペレーション"ロタリンギアの裏口バックドア"が始まったのだ・・・。

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