インターミッション 2.5
星系の闇に巣くう者ども
帝国統一歴709年1月某日 ロタリンギア領某所にて
「・・・それで、マリーエンブルク星系軍の動きは?」
彼、オーギュスト・ドゥ・ネウストリア伯爵は傍に控える陪臣たちに鷹揚に尋ねる。
「星系軍自体に目立った動きはありません。・・・ただ我が方のエージェントの報告では、プトレマイスとドラコ紛争領域に、どうやら皇帝特使が派遣されるとの噂が・・・」
オーギュストは小馬鹿にしたように嗤う。
「笑止千万なことよ・・・。さすが"元平民"皇帝陛下は、突然降って湧いた権威を早速ひけらかしたいと見える。まったく"皇帝特使"などいつの時代の話やら・・・。そんなもので星系間紛争が終結するなら星系軍など要らんと言う話だ」
幕僚の陪臣が補足する。
「我が方の分析でも、あの現実主義者のリンハルト辺境伯が、周りの敵意を買うだけの大義名分すらなく、しかもマリーエンブルクに全く益がない武力介入などに動くはずがないと・・・」
オーギュストが顔を顰めつつ吐き捨てる。
「所詮はお飾りの皇帝陛下だ・・・。まだ若くて軍令長官を兼ねるとは言え、リンハルト殿が同意しない限りは艦の一隻も動かせまいよ・・・。身の程知らずにもほどがあると言うことだ」
「そう、身の程知らずと言えば・・・あのカールでさえも全く同じだ。たかだか宮中伯でしかない小物が、畏れ多くも由緒正しき彼のファルツ公爵領を図々しくも未だに横領し続けるとは・・・。草葉の陰では公爵殿下もさぞ嘆かれている事であろう・・・」
「しかし・・・そう思う者は、我らだけでもないと言うことが・・・せめてもの救いでもあるな。・・・それで、あちら側の準備状況は?」
幕僚の一人が平然と返答する。
「全て順調との事です。これから互いに大芝居を打つ間に、こっそりと・・・残り全てを終わらせると」
オーギュストは満足そうに頷き、かすかに含み笑いを零す。
「んふふ・・・。まあ昔から・・・"果報は寝て待て"と言うではないか。もちろん・・・それはそれで楽しみにさせてもらうとしよう・・・」
そして・・・一転してオーギュストは居並ぶ自身に忠実な陪臣たちをぐるりと見回し、自信たっぷりと宣言するのだ。
「諸君!・・・ようやく我ら旧ファルツ公爵家に繋がる者たちが、今こそ偽物の占有者共に永遠の決別を告げ、"ロタリンギア"と言う名の恥辱に塗れた軛を離れ、・・・偉大なる栄光の"ファルツ公爵領"を復活させる時が来たのだ!」
同じ頃、ロタリンギア領首都惑星フロランス シャトー・ベルサイユ軍令本部にて
参謀部の情報幕僚が報告する。
「やはり、マリーエンブルク星系軍に動く気配はありません。彼らがよほどの力技で来ない限り、境界領域の防御態勢は万全です」
軍令長官のペレアス・ドゥ・ロジェ大将がその報告に頷く。
「・・・動けるはずがない。"帝国皇帝"の名は"ある種の枷"だ・・・。一旦"皇帝領"を名乗れば、大義名分無き領土拡張戦闘など事実上不可能となる。メロヴィングのクローヴィス殿も、随分と気の利いた贈り物をマリーエンブルクに寄越したものだな・・・」
そして・・・作戦局幕僚に指示する。
「そして、その間に我々が取るべき行動とは・・・。そろそろ頃合いだろう。・・・″計画″を次の段階に進めよ」
作戦局幕僚が次なる計画を復唱する。
「はい。・・・これまで進めて来た全軍の配置転換の結果、旧来の宮中伯派貴族たちは全て他星系領との境界領域に配備されています。現在の首都星系周辺宙域には、我々の同志一派と旧ファルツ派に繋がる艦隊司令しかいません。次の段階ですが・・・首都フロランスでは、裏で旧ファルツ派が扇動する反政府派民衆が、予定通り3日後に宮中伯宮殿周辺で一斉に暴動を起こします」
「それで、その対応への指示は?」とペレアス。
「首都治安維持第22大隊に対して、″宮中伯家の危機である。暴徒を実力排除せよ。手段は問わない″との命令を既に出しています」
「その・・・第22大隊の構成は?」
「宮中伯に極めて忠実な貴族から成る宮中伯の元近衛大隊です。士官全員が普段より宮中伯家の紋章を象った仮面を着用しています。彼らであれば、私情を交えることなく宮中伯家のため粛々と任務を遂行するでしょう」
そう第22大隊の情報を伝える作戦局参謀。
ペレアスが頷きながら論評する。
「そして彼らが・・・愛国者たる民衆の大量虐殺を行った部隊として・・・″新生″ロタリンギア出発のための生贄となるのだ。それで・・・宮中伯宮殿に残る兵力は?」
「親衛隊となる保安局1個中隊のみです」と同参謀。
そしてそれを確認したペレアスは、最後の・・・自身の野望にもとづく命令を下した。
「第22大隊の任務完了後、同大隊の士官全員を拘禁せよ。それと同時に"暴徒に偽装した"別の1個大隊を宮殿に突入させよ。そして・・・宮中伯殿下とペレグリン伯太子殿下は・・・大混乱のさなか不幸にも・・・落命された事にせよ」
そして、彼はいささか口調を変える。
「旧ファルツ領を、みすみすオーギュストのヤツにくれてやるのは業腹ではあるが、お互い時間の制約もある・・・。事ここに至れば今更ヤツと組み合っても誰の得にもならんし、万一真相を知らされた境界領域にいる宮中伯派の艦隊が戻ってくれば、最早収拾は互いに不可能となる。・・・であれば、ここらでの手打ちがヤツとの相場であろう」
「さて、いよいよ″新生″ロタリンギアの誕生か・・・。何・・・マリーエンブルクでも、従弟が跡を継いだのだ。ここロタリンギアであっても、甥がその跡を継ぐことに何の問題もあるまいさ・・・」
そう・・・カール宮中伯の甥でもある・・・ペレアス・ドゥ・ロジェ軍令長官は嘯き、ゆっくりと自身の将来に思いを馳せるのだ。
最後に・・・某星系領の某所にて・・・やはり偶然にも同じ頃
「やれやれ・・・。ようやく休みを取って、清閑なところにバカンスに訪れたはずなんですけど・・・。何の因果か、こんな情報までいきなり飛び込んで来るとは・・・」
「今回だけは静かに、・・・すべてをあなたにお任せしたはずなんですけれどもね。・・・ねえ、ジャンヌさん」
「でも、こんな情報を聞いてしまえば、やっぱりお伝えしない訳にも行きませんからね・・・。あなたがこれでしくじれば、それは結局のところ私のしくじり・・・」
「それは到底許されるところではないとなりますね・・・。何よりも、今後の私とお嬢様のゲームがつまらなくなる・・・。結局は・・・そういう事です」
「こう言う助け舟は、私の本意ではないのですけれど・・・。万が一の穴を一つずつ潰すのが私の役割だとすれば、伝えざるを得ませんね。そう・・・すべてはお嬢様の為に」
そうして、珍しくも休暇中であった変人は、お嬢様に”一言だけ”メッセージを送った。
・・・"ペレアスは黒"・・・とだけ。
はい。第1話の敵役の登場です。若干1名部外者と言うか・・・変人もいますが・・・。
さて、・・・次号は少しばかり忙しくなりそうな予感です。




