第二十九話「人を捨てた怪」
色々あって遅れました。(*■∀■*)
怪獣。
正式な呼称ではない。しかし、長年に渡り特撮に触れてきた日本人としては、その言葉はあまりに的を得たモノであった。
その光景が中継されたのは世界。各種通信やインターネットに接続せずとも使える謎のアトランティス・ネットワークを利用した中継を、世界の大多数が目にする事となった。概念回帰したSM怪人ザ・セルフを目にした者たちが口にした言葉は様々で、数多の言語による無数の表現……特に英語でモンスターと口にする者は多かった。
しかし、その中の極一部地域、日本で一斉に呼ばれた『怪獣』という呼称はあまりにも印象強く、世界中……そして他ならぬ世界自身によって定着した。
世界に及ぼす影響力を考慮するなら、あるいはマスカレイドがそう呼んだからという可能性もあるが、とにかくSM怪人ザ・セルフの概念回帰した姿は世界初の怪獣として記録される事になる。なんてこった。
圧倒的威容。圧倒的質量。圧倒的全長。それはまさしく脅威であった。
級としてはただ一つの差。しかし、A級とは比較にならない基礎スペックを誇るS級怪人が己の我を捨て、人としての姿を捨て、数分後の消滅すら受け入れ、すべてを捨てて発動する強化システムによって得る姿が、まさしく巨大な暴威と化す姿が脅威でないはずがない。
単純に全長だけ見ても十倍以上。質量にすればおよそ千倍にもなる巨体は、ただ一歩歩くだけで大地を割り、軽く腕を振るだけで構造物を薙ぎ払うだろう。
怪人の時点で物理法則を無視している以上、普通なら自重で潰れるなどという常識は通用しない。今の世で、それをご都合主義と呼ぶ事こそ、ご都合主義と笑われるはずだ。
加えて、概念回帰という言葉から連想するに、このシステムは怪人の根源となる力を更に強化するものに違いない。怪獣の姿を見て、多くの者がそう考える。実際、その考えは間違っていない。……つまり、この場合はマゾヒズムとサディズム、そしてセルフSMが当てはまる。どんな強化がされるのかはさっぱり分からないが、方向性は分からずとも得体の知れなさは強大そのものだ。とにかく怖い。
人間では怪人ですら歯が立たない。ヒーローでさえA級怪人相手には苦戦するのだ。なのにあんなものが暴れ出して、果たして勝てるのか。
その圧倒的質量と威容は、世界のヒーローたちを萎縮させるの十分過ぎるインパクトを伴っていた。
……だからこそ、マスカレイドはそこに立っている。
「ホワチャッ!」
怪獣の足元から斜め上方に向けての飛び蹴り。話に聞く必殺技、《 マスカレイド・インプロージョン 》ですらない、ただの蹴り一つ。
その一発は巨体を背中まで貫き、あっさり絶命させた。満を持して登場したはずの怪獣が咆哮一つ上げず、被害すら出さす、ただ一撃の元に粉砕され、退場した。
今更、マスカレイドが負けると思った者はほとんどいないだろう。しかし、あまりにあっけない幕切れを世界中が目撃してしまった。
『……は?』
果たして、世界のどれくらいが同じ言葉を上げたのか。ひょっとしたら億に届くかもしれない。
巨大な体躯が爆散。マスカレイドとの縮尺が変わっただけで、これまでと一切変わらない様式美のような光景がそこにあった。
「たいした事ないぞ、こいつ」
わざわざ中継に載せるように発した言葉は、怪獣のインパクトが膨張する事を抑制するためのものだ。
その瞬間、怪獣は未知の脅威から既知の強敵へと変わった。
-1-
「ただいまー」
『お疲れ様です』
極々自然に、いつも通りに帰還した俺を待っていたのは、慣れ過ぎて当たり前になったミナミと平静を装うアルジェント、そして素直に絶句する妹ミナミだった。
おそらくだが、世界各地での反応は妹ミナミのそれに近いはずだ。
『ちなみに、どんなもんでした?』
「……お世辞にも雑魚とは言えんな」
「え?」
妹のほうは意外だったらしいが、いい加減長い付き合いになる姉ミナミのほうは分かっている反応だった。
いつも通り一撃だったじゃねーかと、そう言いたくなるのは分かる。実際そうだし、そういう風に見せたのは確かなのだ。
マスカレイドの実力を知っているとはいえ、必殺技すら使わずにただの飛び蹴り一発で沈む相手に対する評価には聞こえないだろう。
中継だけ見ていればただの雑魚。無駄に段階を経て強化変身を繰り返し、最終的にただでかくなっただけ。そのイメージを目的に演出したのだから、それも間違ってはいない。
あんな手間をかけて得た強さがそこまででないというイメージが広まればこちらの思惑通りである。
「感覚としては、だいたいバベルや軌道ステーションで戦ったロボットと同じくらいかな」
『あー、アレ。……となると相当ですね』
「ロボット? アンチ・ヒーローズってやつは動画で見ましたけど」
「直通エレベーター手前あたりにいたんだよ。クリスは直接目にしてる」
内輪向けでもあまり出していない資料だったが、良い機会なので妹ミナミにも資料を見せておく。
一番でかいモニターに表示されたのは、かつて俺がバベルの塔でクリスを探していた時の映像。その途中で遭遇したロボット群との戦闘シーンである。
妙に洗練された人型ロボットを見て怪人と呼ぶ者は少ないだろうが、反応自体は怪人らしい。普通のそれではないという但書きが付くものの、少なくともロイドや完全な人工物でないのは確からしい。
概念回帰したSM怪人ザ・セルフに比べればコンパクトではあるものの、サイズ感的なインパクトは怪獣に近いと言えない事もない。
「……あんまり違いが分からないんですけど」
それを見た妹ミナミの反応は薄い。結局マスカレイド相手だと苦戦にはなり得ず、あっさりと倒されているように見えるからだ。
この時は割と戦闘らしい何かにはなっている気はするが、苦戦はしていないからそう見えるのかもしれない。
「戦闘中も言ってるが、下のほうに配置されていたアンチ・ヒーローズと比較してもあきらかに強かった。といっても、硬さとか能力的な部分でしか判断していないんだが、それだけ見てもだ」
第二次グランドイベントで配置されたイベント用S級怪人はアンチ・ヒーローズで、それはほぼ間違いない。しかし、普通なら手を出さない場所に配置されていた裏面ボスのような存在があのロボットだ。
怪人たちの内部事情は知らんが、あんな強力な手札があるのにバベル内での防衛に投入してこないのは不自然の一言。
マスカレイド相手にはたいして変わらんが、コレが一体でも投入されていたら戦局はかなり傾いたはずだ。キャップが統率している以上、負けるとは言わんまでも一時撤退、イベントの長期化は避けられず、あるいはヒーローから死亡者が出ていた可能性も否定できないのだから。
「コレは、なんでこんなところに?」
「多分だが、制約的な何かだろうな。ルール上、ここにしか置けなかったとか」
「……ああ、そういう」
普通に考えるなら、投入できる戦力をこんなところで遊ばせておく理由は存在しない。だから、理由はあるはずだ。
かぐやの話を聞くまで漠然とした疑問でしかなかったが、おそらくアレはルール的な問題か何かで正面からの投入はできなかったのだろう。
普通ならあの時点で存在してはいけない、S級を超えたS級怪人。それを、本筋とは別の場所に置いてルールの枠外としたのが実情なんじゃないかと思ってる。
だって、こうして映像が残っているのはウチのローカルだけで、ヒーロー・ネット上には俺の出撃動画にすら含まれていない。
なんなら、存在があきらかになった時点で登録されるデータベースにもその姿はない。つまり、全面的にはでないが規制対象なわけだ。
ミナミの存在や途中の動きを隠蔽したいウチとしては助かるが、不自然なのは変わらない。
「怪人幹部Cはあきらかに縛られてますしね」
妹ミナミの言葉が真理だ。今回のイベントではそのルールがより顕著に現れていると言える。だからこそコレに関してはすんなりと受け入れられるのだろう。
「こいつの正体は今は置いておいて、概念回帰したSM怪人はコレくらいの強さだったって事だな」
『間違っても、S級に毛が生えた程度ではないと』
「ああ」
これまでに確認できたS級は主にイベント専用に創られた個体で、その個体差は大きいから一概には言えんが大雑把に言ってもそんな感じだろう。
「正直なところ、アレを単独で正面から相手にできるヒーローは、今のところ俺以外いない」
「え……それってまずいんじゃ」
相性もあるし、奇策の類を持ち出すならまた別だが、真っ向から当たって倒せる相手ではないだろう。
実力を読み切れていないセカンド・フォームのヒーローたちなら分からんが、彼らも自身の力を把握し切れていないみたいだし。
「とはいえ、まったく相手にならないほどじゃない。特に時間制限が大きいな」
『足止めさえしていれば自壊するなら、他のヒーローでもやりようはありますね。スパイさんからのリーク情報だと、個体もよるけど長くても数十分でしかったっけ?』
「大多数はせいぜい十分くらいで、一時間は超えないって話だったな。専用に特化して調整されるなら別らしいが、現時点でそんな個体はいないだろうとも」
概念回帰が表に出る前から専用に調整された個体などいるわきゃないのだが、コレについては少々懸念がある。
リサイクル・リベンジャー。あいつが直接改造・調整するなら、あるいはそういう個体が出てくるかもしれない。
とはいえ、そういう調整がされるという事はそれ以外の何かを犠牲にしているだろう。以前ミナミが作ったミナミ・ボディーズもまさにそういう個体だったはずだ。
「そんな風に、概念回帰は発動させたら対処困難だが、無敵の力でも絶望の象徴でもない、ただのパワーアップ。特に、容易に発動可能な強化システムじゃないっていうところがポイントだ」
『推測でもS級が発動前提ですし、甘めに見ても相当に厳しい前提条件が必要でしょうね』
そういう事である。概念回帰は確かに強力だが、パッと見だけでも相当に穴のあるシステムという事である。少なくとも安易に連発できるものじゃない。
イベントのために用意されたS級怪人、侵略怪人バルバロッサとやらなら全個体で発動してくる可能性はあるが、確実なのはそれくらいだ。
リサイクル・リベンジャーによる強化を除くなら、本来はそれ以外の弾がなかった可能性すらある。
また、今回のような多段階の強化が必要となるなら、途中で止める手はあるだろう。俺はわざと手を出さなかったが、変身にかかった時間はかなり長いし。
「概念回帰させない方向性ならいくらでも手はあると」
「俺はそれを示した。第一印象もそうだし、ちょっと解析すれば穴がある事は誰でも分かる」
インパクト自体はでかいから大衆は引き摺られるかもしれないが、それもかなり軽減されたはずだ。
どれだけ脅威を叫ぼうが、でも結局一撃だったじゃんという大衆の無責任な一言が今回ばかりは力になる。
「今回の出撃での目的は、下手に萎縮せずに立ち回れば現行のヒーロー戦力でもなんとかなるって事を世界に発信しようって話だな」
「そういう話なんですか? だから、変に煽ったり、わざと概念回帰を使わせたりしたと?」
「まあ、そこら辺は別の狙いもあるが、概ねはそうだ」
確実にこれは怪人幹部Cに読まれていない。でなければ、概念回帰のイメージを失墜させるような決闘を、わざわざイベントの頭に持ってきたりはしない。
思考トレースの範囲で考えるなら、怪人幹部Cが予定していたのは俺の足止めまでで、概念回帰を見せるつもりはなかっただろう。
おそらく、アレらはリサイクル・リベンジャーの独断。そこのズレを利用した。そのズレが大きくなってくれないかなという期待を込めての小細工と共に。
さすがに怪人幹部Cへの不信に繋がるところまではいかないだろうが、疑念や認識のズレくらいは期待できる。ついでに、怪人幹部Cの周囲でスパイ探しが始まれば再考だ。かぐやの存在は遠過ぎるから、さぞいいカモフラージュになってくれるだろう。
『わざとらしい演技や台詞でも、ほとんどの人は表面的な部分しか見ませんしね。翻訳されても細かいニュアンスは伝わりませんし』
「……なるほど」
俺としては以前から考えていたプランだが、周りから見ればさっき聞かされた話だから、妹ミナミの反応は極当たり前のものだろう。
都合がいいから決闘を利用したものの、いきなりそんな仕込みがありましたと言われても飲み込むのは難しい。
ミナミはすんなり受け入れているが、それはこれまでマスカレイドさんがさんざんやらかしてきた下地あっての反応である。
「だから、もう少し具体的に発信したい。少し予定は前倒しになったが、メディアを使って展開したいところだな」
「クリス君やヒーロー・ネットとやらでは?」
「そっちもやるが、内輪でない場所からも発信したい」
できれば次の概念回帰を使う個体が出てくる前に。
『そうくると思って、長谷川さんのご友人の記者を中心に数名アサインしておきました』
「仕事早いのはいいが、見切り発車過ぎじゃね?」
そりゃ、インタビュー記事出したいって言ったら何を差し置いても来るだろうが……。
『今頃政府の車で連行されてるんじゃないでしょうか。事情を説明せずにスケジュール埋めただけなので、やっぱりなしでも問題ないですし』
確かにそうかもしれんが、振り回される側としてはたまったものじゃないだろうに。
とはいえ、人選自体は悪くない。そこまで遠くもないが、ある程度近くもあり、人柄や仕事へのスタンスも分かっている。
本人は多分やりたがらないだろうが、周囲との兼ね合いから絶対断れないというくらいがちょうどいい塩梅だ。
「じゃあ、そっちはそれでセッティングしてくれ。あとは、前にヒーロー・ネット向けの記事書いてもらったブンヤマンにも」
『そっちは言うまでもなく依頼が来てるので。……早いほうがいいというが最優先ですよね?』
「ああ、今日明日中にでも」
あとは少し遅れてウチの広報経由でも正式に発信はしておきたい。こっちはサーバー上に掲載するだけだからクリスは必要ないが……本人がやる気なら担当してもらってもいいだろう。
「じゃあ、概念回帰の件はこれでいいとして、世界の動向について確認したい」
-2-
イベント開始した直後の世界情勢は概ね予測通りと言えた。予想通りの大混乱で、そこから逸脱はしていない。
事前に橋頭堡として存在していた怪人拠点からの進撃に加えて、世界各地で無差別の出撃が増加。スタートダッシュ的な勢いに飲まれて多少押され気味だが、元々想定できる事態であり、準備もしていただろうから、これは一時的なものだろう。
多数の死傷者に加えて都市の被害も大きいが、これまでにも起きていた戦闘の延長線のものでしかないし、現在進行中のロシアや中国の内戦のほうがよほど犠牲者の数は大きい。……あんまりポジティブに考えたくはないが、コレらで慣れていたから影響が減ったとも言えるのか? うーむ。
『< ヒーロー・ボトル >の大量配布が効いているようですね。多少タイムラグがあるとはいえ、短時間で完全回復可能な手段がある事で余力の心配が必要ありません』
「俺が裏で提供数増やすって言ってからほとんど時間は経ってないが、それを見込んで在庫放出したとか?」
『そのようです。普段利用している流通網のキャパを超過しているからか、いつもよりも横流しは多く見られますが』
「多少怪しい流通はあるが、それは折込み済みだしな」
キャップも理解した上での行動だろう。
元々足りないと言われていた時期から横流しはあったのだから、それが増えただけとも言える。むしろ、割合的には減ったと見てもいいだろう。
さすがにイベント前だからって事情が大きいだろうから、平時ではまた違う流れになるとは思うが。
『避難活動に関しては概ね予測通り。各国ともこれまでの活動実績があるからか、大災害の避難よりはスムーズに動けています』
「突発的な怪人の出現じゃなく、目に見える拠点からの避難って違いも大きいだろうな」
『元々、本格的な拠点が構築された地域からは避難が進んでましたしね』
少なくとも、事前に大規模な拠点が設置されていた場所は分かっているのだから、そこから避難するのは簡単だ。
増加した分の怪人についても、避難態勢を計画していた国も多いからそこまでのインパクトはない。
怪人が出現し始めて何年も経っているのだから、最低限の避難計画や訓練は確立している国は多い。まったく確立できていないところもあるが、さすがに少数派だ。
この点、災害大国で避難に慣れているはずの日本のほうが進んでいなかったりもする。主に、絶対的守護者であるマスカレイドさんの存在が理由だ。
「問題の要塞出現に関しては?」
『それはちょっと予想外というか……とりあえず、確認できた要塞の位置を確認して下さい。……アルジェント』
「はい」
ミナミがアルジェントに促すと、部屋中央の巨大デスクに表示された世界地図が立体表示に切り替わった。
「おー、すっげ。こんな機能あったのか」
「立体表示自体は使ってなかっただけで元からあった機能ですが、今回のイベントに合わせ、海中、地中、空中にも対応しています」
立体表示された地図上に無数の光点が出現。それは怪人の拠点が設置されたものを表す光であり、そこに加えるようにこれまでならあり得なかった部分にも別の色で光点が出現した。地中などに関してはちゃんと地面が透過しているのがありがたい。
これが、イベント開始に合わせて出現した怪人の拠点……。
「……少なくね?」
しかし、追加分を良く見てみると、想定していた数よりあきらかに少ない。
かぐやのリークにあった情報によると予想される拠点の数は少なくとも一〇〇以上、上限は三〇〇~五〇〇と幅があった。
この表示はその最低限度に近く、ひょっとしたら割り込んでいる可能性もあった。
「まだ転移していないケースや、既存の拠点に重なる形で出現したものありますが、現在確認されている数は八十七箇所ですね」
「出し惜しみする理由はないよな? このケースで戦力の逐次投入して得られるメリットは皆無だ」
あえて言うなら、移動に時間のかかる人間の勢力への牽制くらいだが、この状況であまり意味はないだろう。
『まだ様子見の必要はありますけど、どうもこれで全投入っぽいんですよね』
「なら、規模の問題か? 少ない分、巨大とか堅牢とか」
『それもありそうですけど、そもそも全体の規模が少ないみたいです』
「……多分だけど、ここまで無理をした代償だと思う」
「……ああ、なるほど。それか」
妹ミナミが発した言葉は、俺としてはすんなり受け入れられる可能性だった。ここまでさんざん押し通してきた怪人幹部Cの無理がここに反映されていると。
ここまであいつが相当に無理をしていたのはあきらかで、どこかで代償を支払って帳尻わ合わせる必要はあった。
それが要塞の規模だけとは限らないが、より顕著に現れていると。
『マスカレイドさんがいる以上、要塞が要塞として機能しない事を懸念して優先度が下がったとか?』
「ありそうだな」
「……私でも、優先度を下げるなら確かにここかも」
その理屈は分からんでもない。天下無敵のバグであるマスカレイドさんにかかれば、どんな強力な要塞だろうがあっという間に沈黙させられる。
第二次イベントの際にバベルの塔を攻略したのはあくまで人質がいたからで、そういった問題がなければ外から壊すだけだ。周囲の被害くらいは考えるだろうからパンチ一発で終わるとは断言できないものの、手間としてはたいして変わらないだろう。
そんな前提なら、力を入れて準備するのは無駄になると考えてしまうのも分かる。
『その分、重要……というか、普通なら攻略困難な場所への出現が目立っている感じですね』
「たとえば?」
『マリアナ海溝、エベレスト山頂付近、コラ半島……』
「……コラ半島?」
『ロシア……というか、旧ソ連時代に掘った世界最大の穴ですね。ここを占拠されています』
詳しく聞いてみれば、なんと一万メートル以上の深穴らしい。そんなもん良く掘ったなというか、なんでそんなもん掘ったのかというか。
他の要塞に関してもそうだが、人類には到達するのも困難で戦力を送り込めるような場所ではない。ヒーローが攻略するにしても、かなり制限がかかるだろう。
数が少ないながらも、それの効果を最大限発揮できる場所を選定したって事か。
「減少分に関わらず、ここら辺は出現位置として元々予定されていた感があるな」
『はい。イメージ的に踏破困難という場所を選んでいる感があります』
名前だけで攻略が難しいというイメージを抱く場所ばかりだ。人がほとんどいない場所だから、エリア支配率も稼ぎ易い。場所としては有名なのも、この場合は好材料である。知っている場所が占拠されているという事実を認識し易いという事は、認識上の支配が加速する材料になるからだ。
『それ以外だと、狙ったように国境や勢力圏の境目を陣取られています。パッと見だけでも、安易に手を出すと面倒臭い場所ばかり』
「マスカレイド対策だろうな。実際、ちょっと手を出したくない場所ばかりだ」
『普段出撃を避けているところが多いですね』
そんなところに手を出して一時的にでもエリア支配権を得ようものなら、いろんなところから空気の読めない声が上がる。そういう場所だ。
マスカレイドのような第三者だけでなく、その国担当のヒーローがやっても問題が噴出しそうな面倒さである。
ここまで来ると、むしろマスカレイドがやったほうがいいんじゃないかとも思うのだが、その地域の空気感が分からない身としては極力手を出したくない。
できるならヒーローの人数を調整して共同攻略させ、お助けで参加する下地を整えたい。そんな、世界中が混乱している中で叶わない願望を抱くような場所ばかりである。
「まあ、そういう社会的に面倒そうなのは基本現地の担当ヒーローに任せるとして……」
『いつものように壊して回ったりはしないと』
「頼まれたら検討するが、基本的にはしない。単一のエリアにしか属さない拠点でも同様だ」
「……怪人にエリア支配されても、ですか?」
「戦況によっぽどの偏りが出るならともかくな。でないと、世界中がマスカレイドの支配エリアだらけになるし」
ここら辺、普段の散歩出撃とは事情が異なる。
イベント中は倍速だから一日で引き渡せるにしても、どうやってとか誰にとかそういう問題があるのだ。
「だから、俺が出撃するなら、さっき言ってた極端な場所が優先度が高くなるな」
マリアナ海溝に陣取られたら、他のヒーローでは取り返すのも容易じゃない。
『その場合、拠点は壊します?』
「……あー」
……どうしようか。ちょっと考えなかった。というより、とりあえず全部壊せばいいや的な考えだったのだが……。
国境付近みたいな場所は迷わず全破壊でいいだろう。のちのち持て余す事になって、火種化する未来が見える。現地のヒーローや人間だけで確保できるならともかく、俺が加わるなら破壊する。
問題はそれ以外のいくつか……先ほどから話に出てる極端な場所と、元々そのエリアに属しているような拠点に出現したケース。
「どこのでもいいが、要塞の情報はあるか? 映像とか」
『詳細な情報はありませんが、空中に出現した要塞の映像でしたら……』
ミナミがそう言うと、モニターの一つに宙に浮かぶ巨大要塞の姿が映し出される。一つだけでなく複数だ。
「思ったより統一感がないんだな」
『サイズやデザインもそうですが、映像上で見るだけでも機能に大きな差がありそうです』
収容人数や居住性、迎撃機能、移動能力の有無やその速度、その他にも大量に未知の機能が存在するだろう事は分かる。
これらは今俺が確保している軌道ステーションのそれとは違い、活きている機能だ。
「ちょっと気が変わった」
『え? 一応の確認ってだけだったんですけど、ひょっとして確保します?』
「俺が支配する気はないが、所在がはっきりしている場所なら、その勢力圏の代表に引き渡してもいい」
せっかく支配率変動が三十倍なのだから、うまく利用しない手はない。
『すいません、ちょっと目的が……』
「人類の文明を加速させる。少し前から考えていたが、このままだと人類社会は置き去りにされるだけだ」
『そのためのエサを用意すると? それ自体が火種になる事は確実ですし、解析できるとも限りませんが』
「そこら辺は折込済というか、劇薬として飲み込んでもらう。それに、所在の怪しい場所の要塞は問答無用で破壊だ」
『ふむ。……アルジェント、暫定でシミュレーター回して』
「はい」
どんな影響が出るかは分からないが、現在の世界的混乱を前提とするなら決して大きな混乱にはならないはずだ。
平時なら大混乱で、それこそ世界が傾くレベルのインパクトになるとしても、それをゴリ押しできる状況にある。
それに、所在の確かなエリアに出現した施設の保有権なら、アトランティスを侵略しようとしている連中よりもよっぽど正当性があるだろう。
お前らは堂々と侵略しておいて、どの口で文句を言うのって話になる。
「じゃあ、それと平行して、イベント後からの世界情勢とアトランティスの状況報告くれ」
『はい。リアルタイムで状況推移してますので、数分時間下さい』
ミナミの事だからすぐ始まると思ったが、思ったよりは予想にズレが出てるのかもしれない。
クリスの記者会見はそれくらい大きな影響があったって事か。
「ちなみにだが妹ミナミよ。コレ、怪人幹部Cは予想してると思う?」
「要塞を無傷で確保・提供するって話ですよね? ……してないと思います。私も考えてませんでした」
「だよな」
だって、俺が今思いついたんだもの。つまりそれは、あいつもこれから考えるかもしれないという事でもあるが、すでに状況が動き出してしまった今、主導権はこちらにある。
-3-
『イベント開始から一時間経過した現時点で、アトランティス侵略や領有宣言を出す動きはほとんど見られません』
「なんとなく予想はつくが、別に諦めたわけじゃないだろう?」
『真意は分かりませんが、おそらくは。代わりと言ってはなんですが、各国とも準備の手を緩める気配はありません。……エリア支配率変動ルールの影響でしょうね』
「だろうな」
ようは一日ごとに判定されるのたがら、その手前で実態を固めるほうが無難という話だ。周囲も同じなら、様子見が最善と判断したか。
一部とはいえ、大陸規模に軍を展開するには厳しいタイミングだろうが、各国の精鋭と呼ばれる部隊なら橋頭堡の確保くらいはできるはずだ。
もちろん出遅れる可能性もあるが、最低限そういった動きに対応する準備は整えた上での事だろう。
つまり、アトランティスに関しては半日後くらいから動き始めると考えるのが無難かな。んで、どこかが動き出したらそれに合わせて実態無視で領有宣言開始と。
『もちろん一切動きがないわけではなく、極少数勢力はアトランティスの一部へ進駐、領有宣言しています』
「どこの国だ?」
『国というか、主に武装勢力ですね。バックを探ってみたら、マフィアと新興宗教団体でした』
「あー」
そういう奴らは手綱を制御できなかったか。
『あと、まったく背景のない個人も数人。こちらは主に配信者ですね』
「ノリだけで生きてる奴はすげえな」
多分死ぬ事になるだろうが知った事ではない。
「今からアトランティス実効支配しちゃいまーす的な?」
『そんな感じで』
「うえ……。さすがにBANされて終わりじゃ」
『残念だけど、アトランティス・ネットワーク上の動画サービスなんですよねー』
「あ……」
そう。まだ数は少ないし匿名性もないが、アトランティス・ネットワークではそういうサービスも提供している。
本名がバレても構わない無敵の人なら、どれだけセンシティブな活動をしても許される超グレーというかブラックなゾーンだ。
まあ、この場合サービスプラットフォームからのBANはなくとも、別の勢力から物理的にBANされて終了な気しかしない。ひょっとしたら、スナイプされる瞬間が中継されてそのまま残るなんて事もあり得るだろう。
『アトランティスではありませんが、似たようなノリで他人の土地を占拠する者もすでに出始めているようです』
直近でやっかいなのはむしろこちらだろう。放棄された以上誰の土地でもないアトランティスを占拠するのに法的根拠は必要ないが、コレは歴とした犯罪である。
国によって違うだろうが、まさか武力によって実効支配するのを認める国なんてないはずだ。普通ならただの強盗による不法占拠である。
問題は、そういうバカが日本国内にもいるという事だ。アトランティス・ネットワークのエリア情報が更新されていない今は自前の情報網でしか確認できないが、目の前の立体地図にはそういった動きがポイントとして表示されている。
これは警察をはじめとする国内の監視網に加え、ミナミが持つ調査能力を反映したものだ。
「プラタとインを応援に送れるよう準備させとけ。どうせ要請が来るだろ」
「今は、ボトルの詰替え作業に割り振ってますが」
「自動化しているところ放り込んでもたいして変わらんだろ」
むしろ、なんでそこに配置した。罰ゲームか。
「……いや、場合によっては、自己裁量で動けるようにすべきかもしれんな」
『警察や自衛隊の命令下に入れないと?』
「ああ。政府としてもそのほうが動き易いだろう。根回しだけはしておいてくれ」
『はい』
首切り近藤が内部で進めてきた改革の余波で改善されつつはあるが、国内の警察が問答無用で占拠者を拘束できる気がしない。
件数がたいした事なければそれでも別にいいのだろうが、アホは増えるだろうし、何よりここからは長期戦だ。マスカレイドの背景を使って好き勝手に動き、後始末だけ任せる形のほうがいいだろう。文句を言われても、逮捕できない、国民ですらない、なんなら人間でもない奴が勝手に行動しただけですという言い訳も使える。
そんな方便や絶対的背景があろうが文句を言う人はいるだろうが、今は実利を優先すべきだ。
銀河と銀華に陸海空のロボットと、すでに最低限の助力はしているのだから押し通せない事はないはずだ。
こういう時、マスカレイドの超パワーどころかヒーローすら過剰な現場に割り振れる人員があるのは助かるな。問題は数が足りないって事だが。
「アルジェントも準備はしておいてくれ。こっち優先だが、手が足りなくなるかもしれない」
「了解しました。プラタたちに制圧用の非殺傷ガトリングガンも用意してもらいます」
非殺傷ならガトリングガンである必要はないのだが、何故か頑なに手放そうとしない事は分かっているのでつっこまないでおいた。
どうせ、インも非殺傷チェーンソーとか持ち出すだろうし。
そう考えると、プラタの格闘武器や暗器類って視覚的にはかなり穏便だよな。威圧感出す必要が出てくる場面もあるだろうから、一概どちらがいいとは言えんけど。
『あ、記者の人が全員揃ったようです。すぐに取材に入りますか?』
「ブンヤマンは?」
『え、彼も待機してますが、一緒に?』
「ああ。あいつがそれでもいいならだが」
『確認します』
そろそろ、中立怪人がいるって事もある程度発信したほうがいいだろうしな。別に何度も取材対応するのが面倒なわけじゃないぞ。
-4-
[ ヒーロー会議室 ]
俺が普段キャップや長谷川さんと密談している会議室……と言ってもポイントで一時的に借りるレンタルだから同じ部屋とは限らないんだが、そこに三人の記者とブンヤマンが現れた。
「こ、ここは……」
「ようこそ。俺がマスカレイドだ」
三人の一人は長谷川さんの旧友である後藤良治。俺とは初対面だが、以前クリスの独占取材を担当した事もある。
その他の二人は完全新規で、ミナミが厳選した上で問題ないだろうと判断された記者である。
この三人はバラバラの場所からここに転送されたので、多分ブンヤマンも自分たちと同じ存在だと思っているだろう。見た目はただの記者風のおっさんだし。
「あ、あの……本当にマスカレイドさんですか?」
「ん、疑う余地はあるかな? こんな状況で」
「いえその……お召し物が」
「ああ……。いや、別にいつでも銀タイツ着てるわけじゃない」
「は、はあ……」
転送で混乱していたのか、最初に口を開いたのは後藤氏だった。といっても、果たしてそれは最初の挨拶以前に口にしていいものかは怪しい言動だ。
確かに今の俺は取材対応に合わせてビジネススーツに蝶マスクなしの出で立ちだが、こんな髪の色した奴がいるはずないんだから疑われても困る。
その後、日本人らしくというかなんというか、名刺交換から開始。俺も、ちょうど良かったので銀嶺機関の名刺を使わせてもらった。
その名刺にも結構な反応があったのだが、もっと強い反応があったのは謎の四人目の記者が挨拶をした時だ。
「取材怪人ブンヤマンと申します。南スーダンの一件ではお世話になりました。あの記事も結構な評判でして」
「普通に続けるな。あー、皆さん、こちらは中立怪人のブンヤマン。名目上怪人を名乗っているが、人間にもヒーローにも怪人にも所属しない中立的な記者だ」
「どうも人間の同業者さん」
「…………」
三人とも絶句。そのまま固まられても話が続かないので俺がフォローする事にした。
「こういう中立勢力は結構いて、実は調べれば地球上で名前を出して活動している者も複数いる。彼はその一人ってわけだ」
「主な活動は人間社会と被らないので、ご安心を」
「あ、あの……本当に? いえ、そうじゃない。あなたの事を記事にしても?」
いち早く立ち直った後藤さんの質問は意外だったが、この取材の内容は事前に伝えてないので勘違いしたのかもしれない。
「構いませんよ。と言っても、私も取材に来た身なので、本題は別にあると思いますが」
「ああ。いくつかあるが、終わったあとに余裕があるならブンヤマンへの取材をしていくといい。後日でもいいし」
「は、はあ……」
さっきから、残り二人の記者さんが固まったままだな。そう考えると後藤さんは大物なのか。
というわけで、まずは先ほどのSM怪人ザ・セルフについて。
イベント開始に被るように要請された決闘への経緯や、かつてあそこで倒した怪人が再生した事、そして強さについて語る。
ある程度話が進むと他二人の記者も立ち直ってメモを取り始めた。
マスカレイド:「まあ、簡単に言えば見た目ほどたいした強さじゃなかったという話です」
ブンヤマン:「それだけなら、ヒーロー同士のコミュニティでも構わないのでは?」
マスカレイド:「この場をセッティングしたのは、これがむしろ人間相手に向けての発信だからですね。ヒーロー本人に言っているのではなく、他のヒーローでもどうにかなる相手だから特別萎縮する必要はないと」
ブンヤマンが気を効かせたのか一瞬の間。しかし、他の記者が動かないので続ける。萎縮しているのはここの記者も同じだった。
ブンヤマン:「おそらく誰も思う事でしょうが、それはあなただからたいした事がないと言えるのでは?」
マスカレイド:「実際にやり合ってみた感覚として、アレは以前バベルの塔で戦ったアンチ・ヒーローズより多少強い程度の感触でした。奴らの対ヒーローの特性を考慮すれば同等とまではいかずとも、そこまでの差はないかと。少なくとも、あの時のように多人数で連携すれば倒せる相手と感じています」
ブンヤマン:「なるほど、興味深い」
マスカレイド:「加えて、アレは数十分で自壊する類の能力です。足止めすればいいだけだから、余計になんとでもなるでしょうね」
ブンヤマン:「……その情報はいったいどこから。私も把握してませんし、公開されたルールにもなかったような」
マスカレイド:「情報源については秘密です」
記者A:「あの……これも記事に?」
マスカレイド:「ええ、情報源が開かせないという事を含めて、記事にして頂いて構いません」
ブンヤマン:「私の記事は怪人も読めるのですが」
マスカレイド:「問題ありません」
むしろ、それが狙いだ。怪人内にスパイがいる説が拡散するのは好都合である。どうせかぐやには辿り着けない。
マスカレイド:「そもそも、そんな気軽に使える力ではないでしょうしね。それでも、いざ使われた時に、人類の皆様とヒーローの心構えができたらと」
記者A:「きょ、恐縮です」
ブンヤマン:「…………」
考え込んでるな。ちょっと、匂わせが過ぎたか?
マスカレイド:「あとは、いい機会なので何かご質問があれば答えますよ」
記者C:「あ、あの……っ」
マスカレイド:「はい、どうぞ」
記者C:「さ、サインいただけないでしようかっ!」
マスカレイド:「…………」
あまりに予想外の発言だったので、俺がフリーズしたわ。なんだこいつ、俺のファンか何かなのか。
別に構わんというか、せっかくなので読者プレゼント用にグッズ提供もするか。店舗で売ってるやつしかないけど。
記者C:「す、すげえ……これは一瞬で店舗から消えたというゴールドマスカレイドフィギュア」
異様なほどに食いつきのいい記者Cだが、残り二人も反応は悪くない。
その後、結局この金タイツはなんだったのかという話へと脱線したりもしたが、軽くなった空気の中、質疑応答が続く。
そして、ある意味締めとも言える話題へと移行した。
記者B:「それでは、マスカレイドさんの今後の予定などをお聞かせ願えれば」
マスカレイド:「実はそれも本題の一つですね。次の行動について気になる方もいらっしゃると思いますので、ここで伝えておこうかなと」
記者B:「ほう、それは今回のイベントでの予定という事でしょうか」
マスカレイド:「はい。明日、この記事の電子版が掲載された直後を見計らってマリアナ海溝に出現した要塞を攻略します」
当然だが、一瞬にして空気が張り詰めた。しかし、それは予定調和と続けて爆弾を投下していく。
マスカレイド:「この取材のあとに協議した上でとなりますが、この要塞の支配権を日本政府にお願いする事になるかと」
今度こそ、ブンヤマンを含めた全員が絶句し、固まった。
マスカレイド:「もちろん、あくまでシステム上での支配権でしかありません。国際的にどういった扱いになるかはまた政府に対応にもよりますが……」
記者A:「あ、あの……まさか、他の出現した要塞についても……?」
マスカレイド:「ああいや、すべて日本政府に引き渡すとかそういう話じゃありません。そもそもすべて私が対応する気もないですし」
記者A:「そ、そうですよね」
マスカレイド:「担当ヒーローや政府との協議は必要ですが、その国にお願いする事になるかと」
記者A:「…………」
記者C:「すげえ、スクープってレベルじゃねーぞ」
もちろん、世界に激動が走るだろう。それを見越しての取材なのだから当然だ。
これがたとえば一人だけが相手の独占取材ならお蔵入りになる可能性もあるが、共同取材となれば自分だけが尻込みしても他社が発表すればただスクープを逃しただけになってしまう。社会的な爆弾とはいえ、自分だけ尻込みしていられないだろう。
ブンヤマンがいる事で、三社だけで止めればいいという話にもならない。
マスカレイド:「というわけで、みなさんには明日を目処に記事の作成、公開をお願いしたいですね。とりあえずは電子版で構わないので。ああ、もちろん明日以降ではあればどれだけ早くとも構いませんよ」
今、彼らの頭の中では様々な障害とそれに対する対応策がグルグルと巡っている事だろう。
実際、これだけのスクープとなれば簡単にはいかないはずだ。ただ、絶対に握り込んだままスルーはできない。そう仕向けた。
これはある種彼らの試練になるだろうが、その代わりに俺は派手に要塞を攻略してやろうじゃないか。
いやー、頑張ってくれたところには独占取材とか検討してもいいなー。
-5-
その後、協議に入った政府関係者の大半はかなり渋い顔を隠せなかった。
マリアナ海溝は日本の領海内ではない。周囲の東南アジア諸国は無視できないし、グアムの存在からアメリカも口を出してくるような場所だ。要塞がどこら辺にあるのかは知らないが、海底一万メートルという距離も領有の言い訳には使えないだろう。
とはいえ、こんな日本に近い場所にある要塞は政府としても放置できない。東南アジア諸国もそうだ。
かと言って、じゃあ完膚なきまでに破壊しますと言えば、それは待ってくれとなる。日本としても、人類社会としても、怪人の拠点にある情報や資源は手が出るほど欲しいに決まっているのだから。
他国に出現した要塞の確保に助力するというエサがあれば、ある程度は黙らせられるかもしれない。
そこまで説明しても、はっきりと答えは出せない。これは日本政府が日和っているというよりも、国家として当然のスタンスだろう。こんな巨大な案件を即決断できる国はそう多くない。
なので、とりあえず要塞は落とすから協議しておいてねという形で締める事にした。
その後、政府内のみならず紛糾する事になるが、ある程度改革した日本政府ならちゃんと決断してくれると思いたい。
まあ、本音を言えば明日まで決断しなくてもいい話ではあるのだが、そこは別に言及したりはしない。
「さて、じゃあそろそろ行ってくる」
『まだ記事は出てませんけど』
「しばらくすればブンヤマンの記事は出るし、事前にミラージュの新オプションも試したいし」
『むしろそれが目的なのでは?』
「そ、そんな事はないし」
海中専用のオプションを試したいのはやまやまだが決してそれが一番ではない。
できれば宇宙用と合わせて海中用のフォームも欲しいよな。オプションで対応できるにはできるが、他のパーツ付けられないし。
『あ、いえ、記事出ましたね。ちょっと意外ですが、後藤さんのところの電子版』
「確かに意外だな。他の二社と比べてかなり小さいところなのに」
むしろ、だからこそだろうか。本人は記者としての上昇志向は希薄って話だが、会社までそうとは限らんし。
まあ、ちゃんと記事として出したなら問題ない。予定通りそれが合図だ。
「それじゃあ、行ってくる」
さあ、マリアナ海溝要塞の攻略戦だ。
ちなみに、記者Aが後藤です。(*■∀■*)
尚、SM怪人の戦闘シーンが短いのは仕様です。
本投稿とだいたい同じタイミングで、その無限の先へ第四巻(転章)のリターン分が到着する予定です。
早い人はもう受け取っているかもしれません。
本販売はもう少し先で23とか24とかそのあたりになる予定です。







