第九話 酒飲みたちの流儀
今回、短いですかよろしくお願いします。
五日間の特訓が終わったあと、ぼくは街中の依頼をこなしながら、空いている時間を鍛錬に使うようになった。
そんなある日の夕方。
冒険者組合の食堂に入ると、聞き覚えのある大声が響いてきた。
「だからよ! あの酒は最高だったんだ!」
ゴゾウだった。
その前にはロプニ、シミー、ワタールが座っている。
テーブルの上には空の酒瓶が並んでいた。
「お前、あれを飲んだときの顔、忘れられねえぞ」
ロプニが笑った。
「五臓六腑に染み渡るってのは、ああいう酒のことを言うんだよ」
ゴゾウが胸を張る。
「だからパーティ名が『琥珀の雫』なんだろうが」
シミーが酒を口に運んだ。
ぼくは、そっと通り過ぎようとした。
「おい、嬢ちゃん!」
やっぱり呼び止められた。
「……何ですか?」
「お前、最近よく走ってるらしいな」
ワタールが言った。
「組合の連中から聞いたぞ。朝も走って、昼は仕事、夕方は訓練だって?」
「はい。ハーモさんとニーさんに教えてもらっています」
「そうか」
ワタールは、ぼくの顔をじっと見た。
「それで、もう森へ行ったのか?」
「まだです。訓練は続けていますけど」
「なら、焦るなよ」
思いがけない言葉だった。
「強くなるのはいい。だが、早く強くなりたいと思って無理をすれば、また同じことになる」
ぼくは、黙ってうなずいた。
ゴゾウが酒瓶を置いた。
「そうだぞ! 無理して死んだら、酒が飲めねえからな!」
「お前は結局そこか!」
ロプニが怒鳴った。
「いや、でも、言ってることは間違ってないだろ」
シミーが真顔で言った。
「生きてりゃ、いつかもっと美味い酒に出会える。死んだらそこで終わりだ」
「……それ、すごく大事なことを言ってるんですよね?」
ぼくが尋ねると、ワタールが肩をすくめた。
「まあ、こいつらなりにな」
ゴゾウが笑った。
「嬢ちゃん! 今度森へ行くなら、ちゃんと準備しろよ! 薬草採取だろうが討伐だろうが、仕事は仕事だ。受けた以上は真面目にやれ!」
「分かっています!」
「分かってるならいい!」
そう言って、ゴゾウは酒瓶を持ち上げた。
「よし、乾杯だ!」
「お前、今の話と関係ないだろ!」
食堂に笑い声が広がった。
ぼくも笑った。
この四人は、確かに酒癖が悪い。
言い方も悪い。
けれど、冒険者として大切なことを、ちゃんと知っている。
危険を知ること。
仕事を選ぶこと。
無理をしないこと。
そして、生きて帰ること。
彼らはそれを、難しい言葉ではなく、自分たちの流儀で教えてくれていた。




