第六話 銀級上級
話の中に冒険者の等級がちょっと出ますが、下記のようなランクになってます。
鉄級下級→鉄級上級→銅級下級→銅級上級→銀級下級→銀級上級→金級下級→金級上級→白銀下級→白銀上級→超級→英雄
話のとはほとんど関係ないですか一応こうなってます。
戦いは、ぼくたちが経験したものとはまるで違っていた。
魔法使いの女性は、ただ強力な魔法を放っているわけではなかった。
炎で狼の進路を塞ぎ、群れの連携を崩し、剣士が攻撃しやすい状況を作っている。
剣士の女性は、その隙を逃さず一匹ずつ仕留めていく。
レッサーウルフたちは何度も反撃しようとした。
しかし、二人の連携を崩すことができない。
やがて、傷を負った狼たちは森の奥へと逃げていった。
「ふう……。こんなところに新人がいるなんてね」
魔法使いの女性が杖を下ろした。
剣士の女性は周囲を警戒しながら、ぼくのそばへ歩いてきた。
「怪我は?」
ぼくは首を振ろうとした。
けれど、うまく動かなかった。
口を開いても声が出ない。
彼女はぼくの顔を見て、静かにしゃがみ込んだ。
「大丈夫。もう大丈夫だから」
その言葉を聞いた瞬間、ぼくの目から涙があふれた。
「うっ……あ……」
止めようとしても、止まらなかった。
「うわあああああっ!」
ぼくは泣いた。
大声で、子供みたいに泣いた。
怖かった。
死ぬと思った。
みんなが目の前で死んでしまった。
助けられなかった。
何もできなかった。
ただ逃げて、震えていただけだった。
二人は、何も言わずにぼくが泣き止むのを待ってくれた。
やがて、魔法使いの女性が口を開いた。
「私はハーモ。こっちはニー。二人とも銀級上級の冒険者だよ」
銀級上級。
冒険者の中でも、かなり高い実力を持つ者たちだ。
ぼくは泣き腫らした顔で二人を見上げた。
「……サイカ、です」
「サイカね。立てる?」
ぼくは、なんとかうなずいた。
ハーモとニーに支えられながら、ぼくたちは森を出た。
途中、ぼくは何度も後ろを振り返った。
そこに三人がいるような気がしたからだ。
けれど、誰もいなかった。
街へ戻ると、冒険者組合に報告した。
ヤタ、カラ、スー。
三人の名前を伝えたとき、受付の女性は目を伏せた。
ぼくは、自分が何を話しているのか、よく分からなかった。
ただ、起こったことを一つずつ説明した。
レッサーウルフが五匹いたこと。
ぼくたちは逃げようとしたこと。
三人が倒れたこと。
そして、ハーモとニーに助けられたこと。
報告を終えたあと、ぼくは椅子に座ったまま動けなくなった。
「サイカさん……」
受付の女性が、そっと声をかけた。
「今日は、もう宿へ戻って休んでください」
ぼくはうなずいた。
宿へ戻り、ベッドに横になった。
目を閉じると、森の光景が浮かんでくる。
ヤタの腕から流れた血。
カラが倒れた瞬間。
スーの悲鳴。
そして、自分に向かってくる狼の牙。
「うっ……!」
ぼくは飛び起きた。
心臓が激しく鳴っていた。
息が苦しい。
手が震える。
何度も深呼吸をしたけれど、恐怖は消えなかった。
あのとき、ぼくは本当に死ぬところだった。
冒険者になりたい。
そう思って村を出た。
冒険者になれば、いろいろな場所へ行ける。困っている人を助けられる。仲間と一緒に戦える。
そう信じていた。
なのに。
ぼくは、仲間を助けられなかった。
「……ぼく、冒険者に向いてないのかな」
誰もいない部屋で、ぼくはつぶやいた。
答える人はいなかった。




