浅原さんと夏祭りの予定です
「んにゃ~わかんな~い」
梅雨も明けて少しした頃、そろそろ学期末考査がある時期になってきた。今学期学んだ範囲全部から問題が出題されるやつ。正直僕は大体覚えてるから今更勉強の量を変えても仕方ない。
ただ、浅原さんは結構苦戦しているところがあるらしい。今回のテストは自分の力で挑んでみたいと言っていたので、僕はただ隣で勉強している様子を聞いているだけにしている。
「みや……何でもない」
わからないところがあるとすぐに聞いて来ようとするが、それを自分の力で制止する。今までの浅原さんだったらすぐに折れていたと思う。浅原さんもそれなりに成長しているのかもしれない。
僕はというと今日の分を終えてしまっているから、浅原さんが終わるのを待ちながら本を読んでいる。というか六月の後半だというのにもう期末考査があるなんて、この学校はせっかちなのだろうか。周りの学校に比べて早い気がする。
しばらくして、浅原さんの勉強がようやく終わったらしい。勉強といっても範囲のテキストを終わらせるというだけだが。それでも一人でやり遂げたという現実は素晴らしいものだと思う。ちょうど本も読み終わってしまったし、すぐに帰りの準備を進める。
「宮坂君」
「なんですか?」
「ご褒美が欲しい」
いきなり何を言い出すかと思えばご褒美か。何をどうするのかは知らないけど、浅原さんが求めてくるご褒美というのはろくなものでないと思うのだが。いったい何が欲しくてそんなに頑張ったんだろうか。それともこれから毎日こうやってご褒美を求められる日々が続いていくのか。
「何がいいんです?」
「夏祭り、一緒に行こう」
夏祭り、それは夏休み真っ只中のイベントごとだ。僕はそういうイベントごととは無縁の生活を送ってきたから、それに誘われるというだけで少しうれしい。というかそんな先のことを今決める必要もないと思うんだが。
浅原さん的に今決めておかないとなにか不都合があるのかもしれないし、いったん予定を確認してみよう。当然一か月後の予定などお盆以外埋まっているはずもなく、了承以外の選択肢がなかった。
「いいですよ」
「ほんと? やた」
今更思うことでもないかもしれないが、浅原さんのキャラクターがブレブレになっている。冷静な時もあれば年相応の女の子のような反応を見せる時もある。何ならギャルっぽくなっているときもあるし。
「浅原さんってなんだか猫みたいですよね」
「どういうことだい?」
「ん~たまにギャルっぽくなったり、漫画に出てくる科学者っぽくなったりしますよね」
「そ、そう?」
少し動揺しているようにも聞こえたけど、もしかしてあれ狙ってやってるわけじゃないのか。てっきり狙ってやってるものだと思ってたけど。それはそれで自由奔放な浅原さんらしいと思う。
「そういえば宮坂君はあんまり勉強してなかったけど大丈夫なの?」
とてつもない早口で切り出してきた。
「僕は日ごろからしてますから。浅原さんと違って」
「何だねその言い方は、うりゃうりゃ」
少し前から浅原さんにはやり始めた僕につつく攻撃をされる。くすぐったいからできればあんまりしてほしくないが、浅原さんならなぜか許せてしまう。理由がわからないのが個人的に怖いところではあるから、早めに解明してほしい。
「そういえば夏祭りってどんなものがあるんですか?」
「え?」
まあそりゃそうか。浅原さんみたいな人は多分夏祭りとかのイベントごとによく参加してそうだし。いろんなことを知ってて当然と思っててもおかしくないよな。そうだよな、僕がおかしいんだもんなこれに関しては。
実際一度もこういうことに参加したことがないから、漫画の世界のものしかわからない。本当に金魚すくいとか射的とかがあるのかわからない。花火がとても大きいというのは本当なんだろうけど。
「夏祭りはね、いろいろあるよ」
「例えばどんなものですか」
「宇宙人観察スポットとか、あと金魚すくいに射的、花火はまあわかるよね」
「ん?」
なんかわからないけど、最初にとんでもないものが混ざっていなかっただろうか。宇宙人観察スポットみたいな名前している何かがあったと思う。本当にそんなものがあるならなぜニュースに取り上げられないんだ。もしかして浅原さん専用のスポット的なものがあるのか。
「まあ最初のは嘘だけどね~」
「夏祭りの話はなかったことに」
「ごめんごめんごめんごめん」
そんなに謝るほど夏祭りに一緒に行きたいのか。教室にいる間は一人でいることが多いものの、浅原さんは友達は普通にいるように見えるから、その人たちと行けばいいと思ってしまう。僕なんかと行ったところで楽しめるとは思えない。
「まあ夏祭り以前に期末考査ですけどね」
「現実見せないでくれよ~」
定期的に浅原さんには現実を見てもらわないと、課題にも挑んだりしないし何かに取り組もうとも思わないだろう。だから現実に引き戻していく必要があったんですね。
それでも強制のし過ぎは良くないとは思うから、適度に息抜きもはさみながらやっていくことが大切だと思う。
「お、宮坂君」
時間は少し過ぎて、一週間後。六月も終わりかけに入ったころだが、僕たちの期末考査が始まった。今は朝の登校途中。珍しく浅原さんと出くわして、一緒に行くことになった。
僕が行く時間帯は大体教室に一番乗りする時間帯だから、浅原さんとは真逆の時間帯だと思っていた。浅原さんがこの時間に起きられたことに驚いている。勉強を理解していない理由として先生の話をきいているうちに眠ってしまっているからという理由がある。そうなるくらいだから朝も弱い方なのかと勝手に思っていた。
「あ、失礼なこと考えてるでしょ」
「そんなことないですよ。浅原さんでも朝起きることができたんだなって」
「そんなにいうことないじゃないか」
学校に来るのも遅いから多分本当に朝は弱いんだと思う。今日がたまたま早かっただけの可能性もあるし、これ以上は何も言わないでおこう。
「夏祭りについて調べてみたんですけど、ここのは少し違うみたいですね」
「そうなの? どこも同じだと思ってた」
「はい、まず規模が町レベルであるのはここくらいらしいですよ。ここに来た人が回り切れないほどの広さで開催されてるみたいです。花火も他と比べて大きいみたいですし」
小さい時から、家の窓からしか見えなかった花火をまじかで見られるのはとてもいい体験になりそうだ。ただし、この期末で浅原さんが赤点を取らなかったらだが。なぜか知らないけど、この町全体のイベントごとが回りより少し早めに開催されるせいで、補修期間と夏祭り開催期間が被ってしまっているからだ。
だが、浅原さんは頑張っていたようだから期待しておこう。そしてこれを浅原さんに言おうものならすごく重圧がかかるか、さらに奮起するかの二択だから一応言わないでおくことにした。
「へ~でも先に期末だ~」
「意外と現実を見てるんですね」
「当り前よ」
意外と現実も見ていた浅原さんに少し驚きながら、学校に登校した。
早く着いたこともあり、一緒に少しだけ復習をした後期末考査がついに始まった。
「一日目終わった~」
「どうでした?」
一日目は数学と現国だった。浅原さんの苦手な数学が早めに終わってくれて嬉しそうな顔が見える。僕としても現国が早めに終わってくれてよかった。ここから先はなんとかなる領域だから、ゆっくり勉強して赤点を取らないことを最低限に頑張っていこう。
「数学難しかったよ~」
「提出物は出せました?」
「それは大丈夫。因数分解は一生理解できない気がする」
因数分解なんてそんなに社会で使わなさそうなものを学んでどうするんだという話ではあるのだが、理解できて損はない。暇なときに教科書の少し先を見てみたけど、因数分解を理解できていないとだいぶつらいものがあると思うけどな。
「少し先の数学を見てみましたけど、因数分解は結構使いそうですよ」
「うげっその時は助けてくれるよね」
「どうしましょうかね」
そんなことを話しながら帰っていると、いつの間にか家についていた。浅原さんといるとなんだか楽しい。なぜかは知らないけど、楽な感じがする。この時間が長く続くことを祈って、今は夏祭りに向けて勉強をしよう。
「じゃあね」
「はい、また明日」




