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浅原さんと梅雨の雨です

「宮坂く〜ん、テストの点どうだった?」


 この間のテスト勉強を1週間頑張った浅原さんは、ドヤ顔で僕の机の前に立っている。

 どうやら、テストの点数に自信があるらしい。先生から受け取った時の言葉も、いつもより良かった。みたいなことを言われてたっけ。


「僕はいつも通りでしたよ」


 こういう会話も、昼間の教室でできたらいいんだけど。僕らはそれをしない。

 いつも通り美術室で休憩している。


「いつも通りって言われてもわかんないよ」

「僕にとってはいつも通りなんですよ」


 そう言われても、大体平均以上は取れるように頑張っているから、それなりの点数は取れている。


「よし、宮坂君」

「はい、なんでしょうか」

「得点競おうよ」


 まさか、浅原さんからその申し出がくるとは思っていなかった。今回のテストが初めてだから、浅原さんの実力が全くわからない。

 唯一わかっていることは、浅原さんは圧倒的文系であるということだけ。勝負の分かれ目は、英語にかかっていると思われる。


「準備はいい?」

「はい、いつでも」


 話し合った結果。お互い最初は苦手教科から開けることにした。僕は国語、浅原さんは数学だ。ここで英語が出てこないあたり、僕の予測は当たっていそう。


「せーのっ」


 掛け声に合わせて、同時に用紙を開く。点数を見る前に解答欄を見ると、どちらも悲惨なことになっていた。

 だが、大事なのは点数だ。どっちが多くとっているか。まあ、苦手教科だから、あまり気にしなくてもいいかもしれない。


「これは......僕の勝ちですね」

「ちくしょう、教えてもらったとこばっかだから勝ったと思ったのに」


 僕が54点で、浅原さんが46点だった。数学が壊滅的だった浅原さんが、赤点を回避できている時点で成長だと思う。

 教えてよかったと、思えるような結果を出してくれてありがとう。


「うむむ……もう8点も差ができちゃった」


 今8点の差があるだけで、今回のテストで僕がやらかした部分がある。その教科さえ勝てれば、僕の勝ちはほぼ確定だと思う。ただ、浅原さんが予想外に英語ができた場合は話が変わるけど。


「今苦手教科出したし、お互い出した教科逆にしよっか」

「確かに、そうした方がいいですね」


 浅原さんが国語、僕が数学を出すことになった。お互いの得意分野で勝負するわけだから、これはハイレベルな戦いになりそうだ。

 お互いの点数を見せ合う。ほぼ満点同士だったが、同点の97点だった。浅原さんの数学の点数からは予想できない点数が出て少し驚いている。


「えへへ~このために頑張ったんだもん」

「すごいですね」

「そう?私すごい?」


 露骨に嬉しそうにする浅原さん。こういうことを思うのは久しぶりだが、かわいいと思ってしまった。

 食レポをしたときのセリフの「ほっぺが落ちちゃいそう」という風に、頬に手を当てて恥ずかしそうに喜ぶ。なぜか懐かしさを感じながら次のテスト用紙を準備する。


 そのあとは、続けて英語社会と見せ合ったがほぼ同点。英語が、僕と同じでそれほどできていなくて少し安心した。そして、僕が3点リードした状態で迎えた、理科のテストの点数。

 僕のやらかしたテストというのは、この教科だ。勉強する範囲を間違えてしまって、ほとんど正解していない。それでも授業を思い出しながら解いて、つかみ取った点数は57点。果たして浅原さんの理科の実力派いかに。


「せーのっ」


 お互いに開いた。当然だが、めくられるテスト用紙に注目している。最初の一桁目の点数は『2』だった。まだわからない。これで後ろが『6』だった瞬間、僕の負けが決まってしまう。


「やっほーう!私の勝ちー!」


 結果は彼女の勝ち。62どころか82点だった。よくテストを見てみると、ほとんど授業中に配られたプリントにある問題を、そのまま張り付けたようなテストだった。

 社会のような、ただ覚えるだけのテストだったから負けたのか。勉強する範囲さえ間違えなければ完ぺきだったのか。


「じゃあ、罰ゲームね」

「え? 聞いてないですけど」


 本当に聞いていない。罰ゲームがあるなら最初に言ってくれたら、いろいろ覚悟できたというのに。

 まあ、浅原さんはこんなことをよくするから、少しは覚悟していたけど。


「はあ……で、何をするんですか?」

「う~ん……あ、宮坂君傘持ってる?」

「持ってますけど」


 当然持っている。今は6月頭で、少し前から早めの梅雨入りを天気予報が告げていた。いつ雨が降るかわからない現代で、傘を持ち歩かない方がおかしいだろう。

 持ち歩かないにしても、折りたたみ傘くらいは持っておかないと安心できない。


 今はちょうど雨が降っている。朝も降っていたけど、朝ほど激しくない。朝は『ザーザー』という擬音語で表すには少し激しすぎる雨で、傘が少し曲がってしまうほどの強い雨だった。

 だが、浅原さんの考えを読むことができないでいる。いったい何をするつもりなんだ。


「じゃあ、私の傘に入って」

「嫌です」


 いきなりどんなお願いをしてくるかと思えば、相合傘のお願いとは。僕が傘を忘れていて入る分にはまだ納得できるけど、傘を持っていながら人の傘に入るのは、周りの人から見れば変人みたいになってしまう。ましてや、今僕が持っている傘は長い普通の傘だ。折りたたみの方じゃない。

 

「だめ~罰ゲームで決まってるもん」

「そんな理不尽な……」


 浅原さんは、考えを変える気はないらしい。さすがに傘を持ったまま人の傘に入る珍光景は誰も見たがらないし、僕も見られたくない。僕も考えを変える気はないから、これは我慢勝負といったところか。


「私は譲らないよ」

「僕もです」


 子供の喧嘩みたいになってしまってどうにかしたい思いと、この人だけには負けないという思いが葛藤している。

 昼間は止んでいたし、今回も少ししたら止むだろうと思ってスマホを見る。今の時間は17時少し前。これから何分続くかわからないから、念のため30分先の天気予報を見てみることにした。

 僕の家まで大体15分くらいだし、これくらいは見ておかないとまずい。


「……仕方ないですね」


 なぜ僕がすぐに折れたのかというと、天気予報で『この先さらに激しくなります』という危険表示付きで出ていたからだ。さすがに、赤に三角ビックリマークは早く帰らないとまずいと思わされてしまう。


「やったー」


 得意教科で勝った時と同じように喜んでいる。やっぱりハムスターに見えなくもない、そういうかわいさがにじみ出いている。

 無気力に喜んでいるように見えても、心の中ではちゃんとうれしくしているんだな。


「あ、今日はこっちから帰ろ」


 傘に入って帰り道にいる。雨のせいもあるが、ゆっくり歩いて帰っていると、浅原さんが言ってきた。

 浅原さんが僕の傘を持っているから、道を進むすべての権利が浅原さんにある。もしかしたら、僕が自分の傘を使って逃げないようにするためらしい。


「何でですか?」

「いいからいいから~」


 背中を押されるのではなく、傘のたどる道を沿って進んでいく。ほぼ強制的に導かれてたどり着いた場所には、行ったことがなくても懐かしさを感じさせるような、古めの駄菓子屋があった。


「おばあちゃん、これちょーだい」

「あいよ、1個20円ね」

「ありがと、はいこれ。私のお願い聞いてくれたお礼」


 子供の頃よく食べていた、コーラのラベルの貼ってあるラムネを渡された。久しぶりに食べる味に少し懐かしさを感じながら、浅原さんと一緒にそれを食べる。


「美緒ちゃん、その子は彼氏かい?」

「なっ!おばあちゃん違うよ!」

「でも……」

「おばあちゃん!」

「はいはい、ふふふ。美緒ちゃんもかわいくなっちゃってね~」


 おばあちゃんは、そう呟きながらお店の奥へと入っていった。僕はおばあちゃんが言いかけた『でも』の続きが気になって仕方ない。今日の夜は眠れるだろうか。気になって眠れなかった経験があるから、ちょっと怖い。テストが返された次の日くらいはゆっくり寝たいからな。


「付き合ってくれてありがと」


 ラムネを食べ終わって、少しだけお菓子について雑談をした。

 懐かしいお菓子の話、昔とラインナップが変わった部分を紹介してくれたり、浅原さんのおすすめについての紹介もしてくれた。

 もしかしたら、僕もここに来たことあるかもしれない。そう思わせるほど、浅原さんのこの駄菓子屋の紹介は鮮明だった。そういえば、この先に通ってた小学校があったな。もしかしたら、僕も一回くらいはここに来たことがあるかもしれない。


「大丈夫ですよ。また行きましょう」

「……うん!」


 今は、家の前にいる。いつもみたいに家に入りたいとごねないあたり、今日の出来事について満足したのかもしれない。そういえば、これから雨が強くなることを伝えていない気がする。


「浅原さん」

「うん? なにかあった?」

「これから雨が……」


 そう言う途中で空を見上げると、空が開いていった。そこにはきれいな夕日が見えている。もう雨の心配もない。そう思わせるほどにきれいな夕日が、そこにはあった。


「雨がどうかしたの?」

「いえ、何でもありません。夕日がきれいなうちに家に帰った方がいいですよ」

「あ、そうだ」


 僕が家の扉に向かおうとしたとき、突然手を引かれた。浅原さんに激突しながら、浅原さんがかざしているスマホに目が行ってしまう。

 パシャリと音が鳴った。


「わ~これめちゃよくない?」

「きれいですね」


 夕日がきれいなのは当たり前だ。それよりも彼女の顔が、輝いて見えたのは僕の気のせいだろうか。

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