第1話 善政が拾った異変
半年が過ぎた。
ルシアンとカイルは、互いが善人だと知っている。だが二人の間には、暗黙のルールができていた。
善人だと認めた方が負け。
人前では今も互いを「底知れぬ悪党」と呼び合い、月に一度の「経過報告会」では、自分がいかに悪辣な計画を進めているかを自慢し合っていた。悪の会合というより、ただの品評会だった。
その日の報告会は、いつもと違った。
「ルシアン。公爵領の農民から報告が来ている。老人の炊き出し団経由だ。種が芽吹かない村が増えているらしい。土が、妙に光るそうだ」
「こちらも妙だ。街道の宿場から、魔物の目撃が増えたと伝令が来た。診療所には、原因不明の頭痛を訴える患者が急増している」
「商人組合からは、穀物の相場が跳ねたと報告があった。昨日の三倍だ」
二人は黙って顔を見合わせた。
「……農民、商人、宿場、診療所。どれも、王宮にはまだ届いていない情報のはずだ」
「役人を通せば十日はかかる」
「ベルナード、貴様、何を仕掛けた」
「それはこっちの台詞だ。お前の仕業だろう、グラウスト」
睨み合うこと、数秒。
「……お互い、仕掛けていないな」
「ああ。これは本物だ」
セバスが書類を差し出した。
「魔力の乱れが、広い範囲で起きている可能性が高いです。王宮の観測より、三日は早く掴めております」
ルシアンは、苦い顔で呟いた。
「皮肉なものだ。領民を甘やかして依存させるために作った網が、国で一番早く異変を拾っている」
「俺は、商人を囲って金の流れを掌握するつもりだったんだがな」
「その金の流れが、国の異変を先に映している」
二人は同時に立ち上がった。悪の会合は、その瞬間に終わった。
三日後、王都の緊急会議で、王は諸侯に頭を下げた。
「国難である。食糧と資金を、どうか王国のために出してほしい」
返ってきたのは、沈黙だった。
「我が領も不作でして」「まずは領地の守りを固めねば」「国債? 今は買い手もつきますまい」
末席の二人は、そっと視線を交わした。
もう手は、打ってある。




