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悪役貴族、善政で殴り合う  作者: Rien
第一部 領地開拓編
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6/12

第6話 答え合わせ

その夜、公爵邸の応接室にカイルが乗り込んできた。


「話がある。今すぐだ」


「奇遇だな。私もだ」


二人は人払いを済ませ、テーブルを挟んで座った。それぞれが持参した報告書の束を、同時にどさりと置く。


カイルが一枚目をめくった。


「ルシアン。お前、俺の領地の盗賊ギルドを買収して警備会社にしたのは、お前の指示か?」


「そうだ。貴様こそ、我が領地に魔導農具と灌漑設備を匿名で配ったのは?」


「俺だ。お前、街道の整備と孤児院の建設も?」


「私だ。貴様は療養所と薬草園、それに新種の小麦まで?」


「俺だ。……待て」


二人は報告書を見比べた。支出の時期、偽名、資金の流れ。点だった情報が、次々と一本の線につながっていく。


「……お前、悪事のつもりだったのか?」


「貴様こそ、嫌がらせのつもりだったのか?」


「俺は、お前を善人に仕立てて、最後に『その名声は俺の仕込みだ』と公表するつもりだった。お前の功績を、俺の策略の証拠に変えてやるつもりだったんだ」


「私も同じだ。貴様を名君に祭り上げ、最後にすべて私の掌の上だったと明かす。貴様が誇るものを、私の手柄にしてやるつもりだった」


沈黙が落ちた。


「つまり……」


「つまり、我々は……」


二人は同時に頭を抱え、椅子からずり落ちた。


「悪のカリスマになるはずが……」


「人類の宝、と呼ばれている……」


窓の外から、領民たちの歓声が聞こえた。『二人の名領主、万歳!』。王宮から戻った二人を祝う声だった。


長い沈黙のあと、カイルが床に座ったまま口を開いた。


「……お前の領地の治安改善、悔しいが完璧だった。元盗賊たちの雇用まで考えていたのは、正直、俺には思いつかなかった」


「貴様の農業改革も見事だった。農具を配るだけでなく、流通と保守まで組み立てた。あれは簡単に真似できない」


「褒め合ってる場合か?」


「そうだな。これは敗北の確認だ」


ルシアンは床から立ち上がり、眼鏡の位置を直した。冷徹な瞳の奥で、別の闘志が燃え始めていた。


「ベルナード。決めたぞ」


「なんだ、グラウスト」


「悪役として勝つことは、ひとまず諦める。だが、善政で貴様に負けることだけは許さん。次は私が、より多くの領民を豊かにしてみせる」


カイルは口元をゆがめた。


「奇遇だな。俺も同じことを考えてた。次は医療だ。お前の自慢の治安なんて、健康な領民の前じゃ霞むぜ」


「望むところだ」


二人は握手した。ぎりぎりと音がするほど強く。


翌月、王都の劇場では新作が幕を開けた。二人の領地を取材した脚本家が、彼らの功績をもとに書き上げた大作である。


題は『慈悲深き二人の大賢侯』。


客席の隅で、変装した二人は舞台を見つめていた。舞台上では、二人をモデルにした主人公たちが、民を救うために手を取り合っている。


「……悪役、どこ行った」


「知らん。次の領地改革の話をしろ」


二人の善政競争は、まだ始まったばかりである。


(了)

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