第4話 悪意の高度な読み合い
王宮の夜会で、二人は久しぶりに顔を合わせた。
シャンデリアの下、グラスを手にした二人の間に、見えない火花が散る。
「フッ、ベルナード。お前の領地、最近ずいぶん景気がいいようだな」
(あの儲けは異常だ。裏で何を握った。必ず探り出してやる)
「それはこちらの台詞だ、グラウスト。お前の領地こそ、聖騎士団が視察に来るほどらしいじゃないか」
(あの数字は不自然すぎる。金の出所を隠す気だな)
「民が笑っているうちが花というものだ」
(その笑顔の下に、何を埋めた)
「花はいずれ散る。散らせる者がいればな」
(散らす前に、必ず尻尾を掴んでやる)
二人の会話を聞いていた貴族たちは、感嘆の息を漏らした。
「ご覧になって。民の幸福を花にたとえ、散らせぬよう競い合っておられる」
「あの二人は、領地を越えて王国全体を見ているのだな」
二人は聞こえていないふりをした。聞こえていたとしても、訂正する気はなかっただろう。訂正すれば、自分たちが善政を競っていると認めることになる。
そのころ、領地では別の噂が広がっていた。
「ルー様は、あれは絶対にグラウスト公爵家の方だよ。歩き方がそっくりだ」
「ケン様だって、ベルナード様に違いない。あの高笑い、隠せてるつもりなのかねえ」
「でも、本人たちが秘密にしたがっているんだ。気づかないふりをしておこう」
領民たちは、二人の正体に薄々気づいていた。だが、本人たちが匿名の善行にこだわる理由までは分からない。まさか、相手を辱めるためだとは夢にも思わなかった。
セバスとマルタは、それぞれ主人に領民の評判を報告した。
「ルー様は、街道の守り神と呼ばれております」
「ケン様は、農家の恩人だそうです」
「そうか。計画は順調だ」
「はい。領民の皆様は大変喜んでおります」
二人の部下は、そこから先を説明しなかった。説明する必要がないほど、主人たちは満足そうだった。




