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無銘のジモン  作者: 山本田38ページ
記録にない目覚め
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第三話 森

翌朝、ミラは、ジモンを、森へ連れ出した。


「初依頼にちょうどいいの、見つけたよ」依頼の貼り紙を、ひらひらと振っている。


「薬草採りか。いきなり魔物退治じゃなくて、ほっとしたよ」ジモンは苦笑した。「昨日の今日で、また牙の生えたのと追いかけっこは勘弁してほしいからな」


「ふふ、最初はみんな、これからだよ。簡単、簡単。ついてきて」


森は、昨日とは、別の顔をしていた。


「青光草はね、こういう、湿った岩陰に生えてるの」


ジモンは、見よう見まねで、草を摘んだ。


存外、悪くなかった。土に膝をついて、草を探す。単純で、迷いがない。会社で、終電まで数字を睨んでいた日々とは、何もかも違った。


「ジモンさん、筋いいね」ミラが、感心したように言った。


「そうか? まあ、草むしりなら得意かもしれん」ジモンは肩をすくめた。「前の仕事じゃ、土どころか、お天道様を拝むこともなかったからな。こういうのも悪くない」


「ジモンさんの前の仕事って、なんだったの?」


「窓際の傭兵……かな」


「え。何それ? 戦うの?」


「いつも、眠気に負けてたっけな」ジモンは、おどけてみせた。


「あやしー」ミラは、唇を尖らせた。「ま、いいけど。あたしなんか、最初、根っこごと引っこ抜いて、バラッドさんに、こっぴどく怒られたもん」


「そりゃあ、災難だったな」


ミラは、よく喋った。ジモンも、いつのまにか、軽口を、返していた。


この村に来て、数日。張り詰めていた何かが、少しずつほどけてきている。そんな気がした。


ムニンは、ジモンの肩で、揺られていた。


何も言わない。ただ、時折、その黒い目が、森の奥へ、向けられた。


---


籠が、半分ほど、埋まった頃だった。


ムニンが、肩の上で、身じろぎした。


『前方に、反応。』


頭の中に、声。ジモンは、足を止めた。


「どうしたの?」ミラが、振り返る。


『注意。人間複数。』


森の、ずっと先。木々の、その奥。言われてみれば、かすかに、声のようなものが、聞こえる気がした。人の話し声。ひそひそとした、押し殺した調子の。


「ミラ」ジモンは、方角を指差し小声で言った。「あっちに、何かあるのか?」


「え?」ミラは、きょとんとした。「あっちは、聖域に近いし。村の人は、近づかないよ」


「聖域?」


「青目様の、いる方。立ち入っちゃいけない場所なの」ミラは、声を潜めた。


ジモンは、答えなかった。


代わりに、足が、勝手に、そちらへ、向いていた。


「ちょっと、ジモンさん!」ミラが、慌てて、ついてくる。「だめだって、そっちは——」


「静かに」ジモンは、低く言った。


ミラは、ジモンの、その声に、何かを感じたらしい。口をつぐみ、頷いた。冒険者の、顔になっていた。


二人は、音を立てずに、木立を、縫った。


---


開けた場所の、手前だった。


大きな岩の陰に、身を伏せる。その向こうに——いた。


三人の、男。


旅装の、商人風。だが、ミラが「商人」と呼ぶには、目つきが、鋭すぎた。一人が、地面に、何か図のようなものを広げ、残りの二人と、低い声で、話している。


一人が身じろぎした拍子に、外套の裾から、鈍く光る刃が、覗いた。商売道具では、ない。隠しているつもりだろうが、ジモンの目には、留まった。


そして、その三人と、向かい合うように——


村の、男が、一人、立っていた。


見覚えがあった。今朝、村の広場で、見かけた男だ。でっぷりと太り、身なりだけは、村でいちばん、よかった。たしか、村長に、しきりに、取り入っていた。


「……ゴルドさん」ミラが、息を呑んで、囁いた。「なんで、あの人が、こんな所に」


ゴルドと呼ばれた男は、しきりに、揉み手をしていた。媚びるような、卑屈な笑み。男たちに向かって、何度も、頷いている。


声は、切れ切れにしか、届かなかった。


「……だから、聖域の、警備は……夜は、誰も……」


ゴルドは、揉み手の合間に、「礼は」「約束は」と、しきりに、確かめている。


それに答える、男の声は、低く、乾いていた。


「……金など、どうでもいい。これは、世の、理を——」


その先は、風に、紛れた。


「……あれの、起こし方は……」


風が、運んでくる断片。意味は、繋がらない。


ただ、金など、どうでもいい、と言い切った、あの乾いた声。あれだけが、なぜか、ジモンの耳に、残った。


知ってはいけない類の話であることは、ジモンにも、わかった。


ミラの顔が、青ざめていた。


「帰るぞ」ジモンは、囁いた。


「で、でも、ゴルドさんが——」


「だめだ」ジモンは、ミラの腕を、軽く引いた。「どう見ても、まともな連中じゃない」


ミラは、唇を、噛んだ。だが、ジモンの言うことの、正しさは、わかったらしい。


二人は、来た道を、後ずさった。


そのときだった。


ジモンの肩で、ムニンが、ぴくりと、動いた。


『一人、接近。注意。』


足音。


岩陰の、すぐ向こう。男の一人が、見回りにでも来たのか、こちらへ、歩いてくる。あと、十数歩。隠れる場所は、ない。逃げれば、足音で、気づかれる。


ミラが、短剣の柄に、手をかけた。だが、その手は、震えていた。


ジモンの、頭が、冷えた。


不思議と、恐怖は、なかった。ただ、どうすればいいか、それだけを、考えていた。いや——考える、より、早かった。


足元に、石が、転がっていた。


ジモンは、それを、拾った。


そして、岩陰から、わずかに、身を、乗り出す。近づいてくる男の、その、さらに向こう。少し離れた木の、太い枝に、止まっていた、一羽の鳥へ——


指で、弾いた。


石は、見えない速さで、飛んだ。


枝を、撃つ。鳥が、けたたましく、鳴いて、飛び立った。葉が、ばさばさと、揺れる。


男の足が、止まった。


「……なんだ?」


男は、ジモンたちのいる岩陰ではなく、鳥の飛び立った方へ、視線を、向けた。舌打ちをして、そちらへ、数歩、近づく。何でもないと知ると、面倒くさそうに、踵を返し、仲間の方へ、戻っていった。


ジモンは、ミラの腕を引き、その隙に、岩陰から、離れた。


---


森を、抜けるまで、二人とも、口をきかなかった。


浅瀬の、せせらぎの音が、聞こえる頃になって、ようやく、ミラが、足を止めた。


「……ジモンさん」ミラの声は、まだ、少し、震えていた。「今の、何?」


「何、とは」


「どうやったかわからないけど……鳥に、石を当ててなかった?」ミラは、ジモンを、まじまじと、見た。「あんな遠くのを、指で。あたし、投げる動きも見えなかった。気づいたら、もう当たってたんだもん」


ジモンは、自分の、手を、見た。


石を弾いた、その指を。


「……まぐれだ。本当に当たるとは思わなかった。」


本当に、そう思っていた。以前の感覚を思い出して試してみたのだ。


なのに。当たった。一発で。狙いすましたように。


「まぐれって」ミラは、信じられない、という顔をした。


「それより、今見たことは、村の連中には、言うな。」


「……でも」ミラは、不安げに、言った。「村長に、報せなくて、いいの? ゴルドさん、あの人たちと、何か、よくないこと——」


「報せて、どうなる」ジモンは、低く言った。「ゴルドは、村長に取り入ってる男だろう。俺たちが見ていたと知られたら、何をされるか、わからない。藪蛇だ」


ミラは、唇を、噛んだ。


「だが」ジモンは、続けた。自分でも、意外なほど、はっきりと、声が出た。「ナギに相談しよう。……何か、嫌な予感がする」


ミラは、ジモンを、見た。それから、小さく、頷いた。


ジモンの言うことは、正しかった。だが、正しいからといって、すっきりするわけでも、なかった。


「……ジモンさん、なんか、変だね」ミラが、ぽつりと、言った。「来たばっかりなのに、すごく、落ち着いてる。あんな、怖い男たちを見ても」


「そうでもない。俺も怖いさ。」しらばっくれた。


「うん。あたしの方が、よっぽど、震えてた」ミラは、少し、笑った。ぎこちない、笑みだった。「ジモンさんが、いてくれて、よかった。一人だったら、あたし、どうしてたか」


ジモンは、答えなかった。


ただ、肩のムニンを、ちらと、見た。


森を出ると、午後の日が、傾き始めていた。


籠の中の青光草が、夕日を受けて、淡く、青く、光っていた。


---


村に戻ると、日が、落ちかけていた。


ミラが、夕餉の支度に、入る。その隙を見て、ジモンは、薪を割っていたナギの、傍へ寄った。


「ナギ。少し、いいか」


ナギは、手を止めず、ジモンを、ちらと見た。「なんだ」


「昼間、森で、妙なものを見た」ジモンは、声を落とした。「村の男が一人。ゴルド、とかいう太った男だ。森の奥で、余所者の男たちと会っていた。三人。商人を装っていたが、武器を持ってた。堅気じゃない」


薪を割る音が、止まった。


ナギは斧を下ろした。ゆっくりと、ジモンの方へ向き直る。その目から、いつもの飄々とした色が消えていた。


「……どの辺りだ」


「聖域に、近い方角だ。青目様の、いる方だ」


ナギは、しばらく、黙っていた。


それから、低く、聞いた。


「ミラには」


「口止めした。村長にも、言うなと」


「賢明だ」ナギは頷いた。


ナギは、割りかけの薪を、見下ろした。


「——爺ちゃん」


いつのまにか、ミラが、すぐ後ろに、立っていた。洗いかけの鍋を、提げたまま。話を、聞いていたのだ。


「あいつら、どう見ても、怪しいよ。村のみんなにも、知らせた方がいい。ゴルドさんのことも」


ナギの動きが、止まった。


「……余計なことに、首を突っ込むな」


ミラを、見ていなかった。


「どうして」ミラの声が、尖った。「村が、危ないかもしれないのに。なんで、爺ちゃんは——」


「ミラ、わしらは所詮、余所者じゃ。」


それきり、ナギは、口を、つぐんだ。割りかけの薪を、見下ろしたまま。


ナギの目が、ふと、村の中心の方——黒い巨体の、立つ方角へ、向いた。


何か言いかけて、やめる。


「……まあ、気のせいなら、それでいい」


低く、それだけ言った。ミラの問いには、とうとう、答えなかった。


その横顔に、ジモンの知らない、重いものが、よぎった気がした。ミラも、何か言い返そうとして——できなかった。ナギの、そんな顔を、見たことが、なかったのだろう。


ジモンは、その横顔を、見た。


夕闇の中、青目様の黒い影が、いつもと変わらず静かに立っていた。


なのに、ジモンの胸の奥では、あの小さな棘が、昼間より深く疼いていた。


---


その夜、ジモンは、寝床で、天井を見ていた。


考えるのは、これからのことだった。


そもそも俺は何者なんだ? なんでこんなところに来たんだ? 何か意味があるのか?


それにこの村に、いつまでも、世話になるわけにはいかない。ここにいても何かわかるとも思えない。


ジモンは、決めた。


冒険者として、稼ぎ。力をつける。そして、大きな街へ、出る。そうすれば何かわかるかも。少なくとも、立ち止まっているよりは。


決めると、不思議と、気が、楽になった。


「ムニン」ジモンは、闇の中で、小声で呼んだ。「起きてるか」


足元で、黒い目が、二つ、灯った。


『常在戦場』


「……聞きたいことがある」ジモンは、身を起こした。「今日の、あれだ。石が、鳥に当たった。あれは本当に、まぐれか。……いや、違うな。森で最初に魔物に襲われた時も、おかしかった。俺は、躱せるはずのない一撃を、躱した。あんな芸当が、普通の人間にできるのか」


ムニンは、しばらく、沈黙した。


それから、言った。


『ジモン、身体能力異常。変態レベル』


「……え。それどう言う意味?」ジモンは、低く言った。


森で石を弾いた、あの時から。鑑定具が自分を映さなかった、あの時から。薄々、感じていた。自分は、なんかおかしい。普通の人間は、二十歩先の鳥を指で撃ち抜いたりはしない。


それが、嬉しいわけではなかった。むしろ——薄ら寒かった。自分の体の中に、自分の知らない何かが潜んでいるような心地。


ジモンは闇の中で、手を握った。開いて、また握る。何の変哲もない自分の手だ。だが、この手は時々、自分の意志より先に動く。


だったら、と、ジモンは、思った。


知ってやる。怖いなら、なおさらだ。この体が何をできるのか。自分が何者なのか。膝を抱えて震えているより、よほどましだ。


その夜から、ジモンの修練が始まった。


---


人気のない、夜明け前の、森の外れ。


ジモンは、木立を相手に、体を、動かし続けた。


ムニンは、ジモンの動きを観察し、分析した。指摘するたびに、ジモンの動きから、ぎこちなさが消えていった。


驚いたのは、その、上達の速さだった。


普通なら何年もかかることが、数日で身についた。一度、体が覚えた動きは、二度と忘れなかった。まるで、最初からその動きを知っていたかのように。体が覚えていることを、思い出している——そんな感覚さえ、あった。


石を、弾く。狙った的に、寸分違わず、当たる。十発でも、百発でも、外さない。


予備動作を削る。構えてから動くのではなく、止まった状態から、いきなり最高速で動く。気づけば、ムニンですら、ジモンの初動を捉えきれなくなっていた。


研究所がくれた、あの恐ろしく切れるナイフ。それも扱いを覚えた。薄すぎて握りどころの難しい刃が、いつしか手の延長のように馴染んでいた。


ジモンは、自分が、変わっていくのを、感じた。


いや——変わっていくのではない。元からそうだった何かが、表に出てこようとしている。そんな感覚だった。


それが、頼もしくもあり、同時に、ほんの少し怖くもあった。


---


数日後。


ミラと、二たび、青光草の依頼を、受けた。


森に入って、半刻と、経たなかった。


「……え?」


ミラが、籠を覗き込んで、間の抜けた声を、出した。


ジモンの籠は、もう、青光草で、いっぱいだった。


「な、なんで? あたし、まだ、これだけなのに」ミラの籠は、底が、隠れた程度だった。


「こつを、掴んだ」ジモンは、短く言った。


実際には、それだけではなかった。ムニンが、青光草の在り処を的確に感知し、ジモンが、無駄のない動きでそれを摘んでいく。二人がかりというより、一つの精密な機械のようだった。普段の十倍は速い。


「こつって……」ミラは、呆然としていた。「ねえ、ジモンさん。本当に、ただの初心者なの?」


ジモンは、答えに、詰まった。


その時だった。


藪が、揺れた。


一匹では、なかった。


四つ目の、裂けた口の獣——グナー・ハウンド。ジモンが最初に森で出会った、あの魔物。それが群れていた。三匹。いや、四匹。低い唸りを上げ、二人を囲むように現れた。


「っ、群れ……!」ミラが、短剣を抜いた。顔が、強張る。「ジモンさん、下がって! 群れは、まずいよ。一匹でも、Eランクが手こずる相手なのに、こんな——」


ジモンは、前に、出た。


ミラを、庇うように。


そして——動いた。


一匹目が跳んだ瞬間には、もう、その喉にナイフが吸い込まれていた。予備動作はなかった。立っていたかと思うと、次の瞬間には、魔物の懐にいた。刃が抵抗なく通り、魔物が声もなく崩れ落ちる。


二匹目には、石。指で弾く。眉間を撃ち抜かれた魔物が、横ざまに倒れた。


三匹目が、背後から。ジモンは振り向きもせず、身を半歩ずらした。牙が空を切る。そのまま流れるように、ナイフが首を薙いだ。


四匹目は——逃げた。


仲間が瞬く間に三匹、沈むのを見て、本能的に危険を悟ったのだろう。だが、ジモンの指から石が放たれる方が、速かった。逃げる後ろ脚を撃ち、よろめいたところに、追撃が首筋へ。


森が、静かになった。


すべて、十数えるほどの間の出来事だった。


ジモンは、ナイフの血を振るって落とした。


濃い血の匂いが、立ちこめている。なのに、息は、上がっていなかった。それが、かえって、不気味だった。


四匹の魔物。さっきまで殺気を撒き散らしていたものが、今は四つとも、地に転がっている。自分がやった。十、数えるほどの間に。


なのに——覚えて、いない。


どう動いたのか。どこを狙ったのか。気づいたら、終わっていた。体が勝手に、答えを出していた。ジモンはただ、それに乗っていただけだ。


手を見た。震えていなかった。これだけのことを、して。


——俺は、何を、してるんだ。


背筋を、冷たいものが、這い上がった。


肩の上で、ムニンが、身じろぎした。


『テッテレー……ジモンはレベルが上がった。』


頭の中に、ぽつりと、声が、落ちた。また、あれだ。ジモンの記憶の断片。よりにもよって、こんな時に。


「……何のだよ」ジモンは、小声で、返した。


ムニンは答えなかった。ただ、その黒い目が、ジモンの震えない手を、じっと見ていた。


「……ジモンさん?」


ミラの、声で、我に返った。


振り返ると、ミラが短剣を抜いたまま、固まっていた。一歩も動けていない。


「今の……グナー・ハウンドの群れ、だよ? それを、一人で、傷一つなく……」


ジモンは、ナイフを鞘に収めた。手のことを、見られたくなかった。


「……無我夢中、だった」


嘘ではなかった。本当に、覚えていない。だが、それをまぐれと呼ぶには——もう、あまりに何度も当たりすぎていた。


「無我夢中で、グナー・ハウンドの群れを……」ミラは、ぺたりと座り込んだ。腰が抜けたらしい。それから、力なく笑った。「……あたし、何のために、ついてきたんだろ」


ジモンは、その軽口に少しだけ救われた。苦笑して、手を差し出す。


ミラは、その手を、しばらく、見て——おずおずと、握った。


引き起こされながら、まじまじとジモンを見上げる。その目に、もう、昨日までの気安さだけではない色が混じっていた。


ジモンは、気づかない、ふりを、した。


---


その夜。


ナギの家の、囲炉裏端。


ジモンが昼間の群れの話をすると、ナギは片眉を上げた。だが、ナギが気にしたのは、魔物のことではなかった。


「……まだ、いる」ナギは、低く、言った。火を、見つめたまま。「あの余所者どもだ。村を出ていった様子がない。畑の連中が、聖域の方で、夜中に灯りを見たと言ってた」


ジモンは、椀を、置いた。


「何を、する気だ」


「さあな」ナギの目が細くなった。「だが、ろくなことじゃない。明日、村長にそれとなく言ってみる。聖域の見張りを増やせとな。……聞く耳を持つかは、知らんが」


囲炉裏の火が、ぱちりと、爆ぜた。


その夜、ジモンは、なかなか、寝つけなかった。


胸の奥の棘が、疼いて仕方がなかった。何か大きなものが、もう、すぐそこまで来ている。理屈ではない。ただ、そう感じた。


この奇妙な「勘」が外れたことは——思えば、一度もなかった。


眠りに、落ちる、間際。


ジモンは、願った。


この勘だけは、外れてくれ、と。


——その願いが、聞き届けられることは、なかった。

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