第9話 満を持して現れる、最後のキャラ①
「また、繰り返すのか」
クレスが空虚な目を空に向けた。
「世界の脅威に立ち向かうため、誰かを殺し、力を奪う。僕はずっとそうしてきた。でもまさか、異世界でも同じことをするなんてね」
「いや、お前の過去なんてどーでもいいから」
分断されたカイルの上半身と下半身――その断面から白い触手がうねうねと伸び、結びつく。やがてそれを繋ぎ目にカイルの身体が再生する。
「月が落ちるまであと二十分、さっさと決着をつけてもらう」
「長引かせてるのは、君だろ?」
「仕方ねえだろ。再生能力はオフにできねーんだよ」
カイルの纏う空気が、熱に揺らいだ。
横一文字にさっと手を振ると、蒼い炎が沸き上がる。
幾重にも重なった炎の壁がクレスに向かって押し寄せる。
クレスは何もしなかった。
歩みを緩めることなく、そのまま踏み込む。
炎の壁がクレスの輪郭に合わせて、一瞬だけ揺らいだ。
それだけだった。
次の瞬間、クレスはもう壁の内側にいた。
カイルが舌打ちする。
「……髪ぐらい燃えていいだろ。ムカつくぜ」
クレスの貫手が、カイルの身体に吸い込まれていく。
骨も肉も内臓も、全てぶち抜かれる。
カイルの背中から生えた手の中で、千切れた血管と心臓が脈動していた。
クレスは心臓を握りつぶし、つまらなそうに首を傾げた。
「僕はちょっと、飽きてるんだ」
「……何にだよ」
「人間の醜さに」
「……ふざけんな。闇堕ちヒーローのポエム聞くほど暇じゃねえぞ」
「さっきから急かすね。もういいよ、君。話してて大して楽しくないし、終わらせよう」
クレスの瞳に青い光が灯る。
透視能力でカイルの体内のパラサイト・コアの場所を特定した。
「寄生虫ごと、脳髄を撃ち抜く。無限の再生も、それで終わりだ」
クレスが手のひらを上に向けると、そこに、赤い光を放つ球体が生じた。
全てを焼き尽くす超高温の弾丸がカイルに放たれる、まさにその時――。
クレスが狂った。
【クレス=ウォーカーの独白】
僕の仲間の遺言は、どれもこれも、カッコイイ。
「あの世で君を待ってる。百年後くらいに、また競い合おう」
これはかつての仲間、マシューの遺言。彼は死を覚悟しながらも、爽やかに笑い、お互いを認め合うライバルでいてくれた。僕はそれが嬉しかった。
でも死に際、覚悟なんてどこに行ったのか、彼は無様に、助けを求める顔してた。
僕はその死にざまを見苦しいと思った。
「我儘ですまん。だが、託させてほしい。次の世代に」
これはかつての仲間、ニコラスの遺言。彼は歴戦のヒーローで、数十年の積み重ねに裏打ちされた落ち着きが、僕の不安を消してくれた。
でも死に際、長年の積み重ねなんて何処に行ったのか、彼は無様に、助けを求める顔してた。
僕はその死にざまを見苦しいと思った。
「クレスはもっと強くなれるよ。俺が保証する」
これはかつての仲間、クリストファーが遺した言葉だ。
彼は僕の師匠だった。いつだって僕を正しい道へ導いてくれる。彼から受け継いだ魂を道標に、僕は一生迷わないと確信していた。
でも死に際、彼は頼れる道標じゃなくなった。師匠が弟子に向ける顔とは到底思えない、みっともない、助けを求める顔を僕に向けた。
僕はその死にざまを、見苦しいと思った。
殺すたびに、悲しくなった。
カッコイイ最期の言葉を吐きながら、無様に死んだヒーローたちを、ダサいと思った。そして、命を捧げた彼らをダサいと思う自分が、嫌いになった。
殺したヒーローが百を超えたあたりで、僕は世界が嫌いになった。
「信じろ、未来は君とともにある」
「恐れるな、君には私がついてる」
「迷うな、クレス」
誰も彼も、遺言だけはカッコイイ。
今際の際、みっともなく、助けを求める顔をするくせに。
でも、不思議なんだ。
どうして僕は、懲りなかったんだろう?
次に命を捧げる誰かは、今までと違うかもしれないって、いつもいつも、期待してた。
百回期待して、百回裏切られたのに。
仲間を殺して殺して殺し尽くすその瞬間まで――。
次に殺す誰かは、笑顔で僕を見送ってくれるって、信じていたんだ。
【市街地:王国広場前】
「……何故だ……何故……何故ッ! 何故だッ!」
クレスの頭は壊れていた。
両手で頭を抱え、汗まみれの顔を地面に向け、叫んでいた。
「……僕はもう、みんなを殺したのに……どうして……今さら……」
脳みそをかき回されたかのように、彼の目に見える世界はグチャグチャだ。えづき、口に留まった涎が地面へ滴る。それに構う余裕はない。
クレスは血走った眼で、カイルを睨みつける。
「何故君は! 君だけがッ! 死を前に笑うんだ!?」




