第8話 最終決戦!③
【スタジオ内】
リシェルが目を丸くしていた。
「何で!? シャドウはクレスさんと同じ強さのはずなのに!」
アラン・スミスがケラケラと笑った。
リシェルがジトっとした目でアランを見やる。
「……教えてください、先生」
「シャドウは、誰が作った?」
「……それはさっき説明したばかりでしょ。ゲイリーさんたちです」
「その通り。だから勝てない」
「……どういうことです?」
アランがゲイリーを指さす。
「シャドウをこの世に生み出したのは、ゲイリー君や、ゾンビ化したアストリア王国民たち……つまり、ヒーローという存在を今日はじめて知ったにわか共さ。コミックに触れたことさえない連中の、数分動画を見ただけで作ったイメージが具現化し、シャドウは生まれた」
「……それって問題なんですか」
アランは少し芝居がかった、大げさな手ぶりで両手を広げた。
「大問題だよ! シャドウの生成に携わった十五万人、誰一人、クレス=ウォーカーをわかっていない! 彼の上辺だけを見て、ヒーローの本質を再現できるわけないんだよ!」
「ヒーローの本質って?」
アランは斜に構えた顔で、不敵に言った。
「主人公補正ってやつさ。ヒーローはね、最後に必ず勝つんだよ」
【市街地:王国広場前】
カイルは土煙の影から、霧と消えていくシャドウの死骸を眺めていた。
「……最終決戦は、俺の負けか」
ため息をつく。
シャドウの敗北を憂えているのでない。
ついさっき、パラサイト・コアを通じて七本槍の脳内から引き出した情報が、カイルに絶望をもたらしていた。
内容は、クレスの能力について。
クレスの能力は、”継承”。
彼を愛してくれる友人を殺したとき、その力を引き継ぐことができる。
そして同時に、呪いも受ける。
殺した仲間の無念が、力とともに彼の中へと流れ込むらしい。クレスは、死者の遺志を全うする義務を負う――つまり、彼らの憎き怨敵を討伐せねばならない制約を課される。
大抵の場合、クレスがこの制約で困ることはない。縛りなど課されなくとも、死んだ仲間たちの仇をクレスが討つことに変わりないからだ。
しかし、カイルにとっては大問題だった。
故人の遺志を継ぐ呪い。それが意味する事実は、すなわち――。
「……どうあがいても、巨大戦艦は見逃してもらえない」
本来、クレスが巨大戦艦に執着する理由はない。巨大戦艦が先に手を出したから、応戦していたに過ぎないのだ。
だが、クレスが七本槍を殺し、能力を継承したことで話は変わった。クレスは彼らの遺志を継ぐ。彼らが最後に討つと決めた敵――巨大戦艦を破壊するまで止まらない。
「……別にいい。度重なる絶望も、これで終わりだ」
カイルはすっと目を閉じた。
零コンマ一秒、思索を広げる。
――新たな索は、今浮かんだ。成功すれば月から世界を救える、逆転の一手。ただ一つ、懸念点があるとすれば、俺の死を前提としていることくらいか。
目を開けると、クレスがいた。
どうやら居場所が割れたらしい。
「さあ、少年。何か言い残すことは?」
カイルは据わった眼で、クレスを見つめる。
その顔が、不意に綻んだ。
「愛してるよ、クレス」
カイルは儚げに微笑んだまま、首を傾げる。
その顔はクレスにとって、見覚えのあるものだった。
世界を守るために命を捧げた、かつての仲間の声がクレスの脳内に蘇る。
「僕らの世界は終わらない、だってクレスがいるんだから」
「君の未来に栄光があらんことを」
「クレスは、僕らが紡いだ最後の希望だ」
「私の道はここまで。でも、君はまだ歩き続ける、君の後ろに道ができる」
「泣く理由なんてないよ。だって、クレスがいるもの」
「あとは頼んだよ」
「君が生きてくれれば、それでいい」
「愛してるわ、クレス」
瞬間、クレスは幻を見た。
死んだ仲間たちの笑顔が、まるで生首を並べたかのように、ズラリとクレスを取り囲む。
その顔が突然、苦悶に歪む。
皆そろって、助けを求める顔になる。
「……最期まで君が嫌いだ、少年」
クレスだって、頭では分かっている。
彼らはもうこの世にいない。トラウマが見せた幻覚だ。
「……幾度となく、凶悪な敵が現れた。その度に、僕は仲間を殺した。何度も何度も繰り返した。もう、思い出したくなかったのに……」
「幾度となく繰り返した? そいつは頼もしい限りだな」
「は?」
「今から世界を救うのも、お前にとっちゃルーティンだ」
「何の話だ?」
「世界を救う勇者が、俺である必要はないって話さ」
次の瞬間、カイルはナイフを構え、雷速の脚で突進する。しかし当然、ナイフはクレスの肌に一ミリもささらない。
鉄の刃が粉々に砕け散る。
クレスが反射的に繰り出したカウンターが、カイルの胴を粉砕した。
その身体は上下に分断され、血しぶきをまき散らす。
次元の違う敵に対する、無謀な特攻。ただ殺されに行っただけだ。
それでもカイルは笑みを浮かべている。
「“継承”だよ、ダークヒーロー。お前は今から俺を殺し、月を壊すんだ」




