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第8話 最終決戦!②

【市街地:王国広場前】


 爆炎が晴れる。

 土煙の中から、二つの影が同時に飛び出した。クレスとシャドウだ。


 激闘を繰り広げる二人の姿は、まるで鏡のようだった。

 同じ構え、同じ踏み込み。

 拳と拳が重なり合う度、衝撃波が波紋(はもん)状に広がり、市街地を削り取る。

 それでも二人の拳は、皮一枚(かわいちまい)()けることさえない。



「……超人同士の殴り合い。本来なら、俺が踏み込める次元じゃないんだろう」



 カイルは瓦礫(がれき)の影に隠れていた。

 (うつむ)き加減に、二人の姿をじっと見ている。

 顔を上げ、左手を宙にかざす。



「停滞は終わりだ」



 カイルの手元で、景色が(ゆが)んだ。

 クレスが拳を繰り出した瞬間、横から衝撃波を受け、ほんの一センチ、軌道が曲がる。

 その一センチが致命的だった。

 クレスの拳は(くう)(すべ)る。シャドウの拳がクレスの顔面を吹き飛ばした。



「ぐっ……!」



 クレスの顔が(くも)る。

 ――僕と影の力は拮抗(きっこう)している。

 ――完全に釣り合った天秤。だから、あの少年一人に均衡(バランス)を崩される。

 ――かといって、少年を先に潰そうとすれば、影はその隙をつく。



「……うざったいな」



 シャドウが突進してくる。

 カウンター狙いでその姿を見極めようとした瞬間、クレスの目元を青い炎が覆う。この程度の火力でダメージはない。だが、最悪の目くらましだ。



「……!」



 無数の拳がクレスを襲う。闇雲に打ち込んだ乱撃ではない。一発一発が全て、クレスのパワーを百パーセント再現している。

 骨が砕ける音がする。

 内臓が(きし)む感触がわかる。

 回避不可能の連撃に、クレスは一方的に削られていく。


 クレスの視界に、血が(にじ)んだ。



【スタジオ内】



「これはもうカイルさんの勝ちでしょ」



 リシェルが誇らしげに言う。

 アラン・スミスは余裕ある笑みを浮かべている。



「やめたほうがいいよ、そういうの。フラグだから」


「でも、逆転はありませんよ。相性やコンディションで戦況がひっくり返ることはありますが、今回は、どっちもクレスさんですから」


「これは純粋に疑問だが……シャドウがクレス君を倒したとして、果たしてそれは君らの勝ちなのか? その後どうする気だい? シャドウは別に君らの味方じゃないんだよ?」


「クレスさんが死ねば、一旦シャドウはスルーです。シャドウは巨大戦艦(イクリプス)を潰す気がないようですし。私たちは月の衝突を止めに行きます」


「そっか、戦闘する義務もないのか。君たちの勝利条件は、世界を救うことだから。良い目標だね、まるで物語の主人公(ヒーロー)みたいだ」



 アランがクスクスと笑う。



「……何が可笑しいんですか」


「だって、皮肉じゃないか。主人公たる君たちが、物語の圧力に負けるなんて」



【市街地:王国広場前】


 クレスは満身創痍(まんしんそうい)だった。

 少しずつ、それでも確実にダメージは蓄積し、動きもキレを失っていく。

 血の(したた)るクレスの口元が、わずかに歪む。



「……すごいな、君は」



 シャドウがクレスの肩を掴み、投げ飛ばす。

 クレスの身体が王都の城壁へ叩きつけられた。

 ただの背負い投げのはずだった。それでも、まるで爆発が起こったかのように、瓦礫と土煙が舞い上がる。


 城壁の残骸(ざんがい)の中、クレスはがっくりとうなだれていた。



「……僕を百パーセントコピーしている……君は強い……だから……」



 クレスはゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。

 その瞳には確かな希望が宿っていた。



「だから僕も、強くなる」



 クレスは、血の滲む手で前髪をかきあげる。白い歯を見せ、爽やかな笑みを浮かべた。



「知ってるかい? ヒーローはみんな、ピンチを前によく笑うんだ」



 空気が、変わる。

 クレスの周囲に、見えない圧が広がる。

 それは闘気ではない。


 ――“物語の圧力”だった。


 シャドウが踏み込む。

 緻密(ちみつ)に計算された構え。流麗なフォームで放たれる、完璧な一撃。

 クレスはそれを真正面から受け止めた。



「さあ、反撃の時間だ」



 クレスの拳が、シャドウの顔面にぶち当たる。

 衝撃が遅れて炸裂する。

 シャドウの身体が錐もみ回転しながら宙を舞った。



「堅いな! さすが、僕だ!」



 クレスは追撃をしかけた。

 怒涛(どとう)(もう)ラッシュがシャドウを襲う。

 無数の拳。傍目には手数(てかず)勝負(しょうぶ)――闇雲に打ち込んだ乱撃に見えるだろう。

 しかし、一発一発すべてが、これまでのクレスの百パーセントを越えている。


 クレスの中で、これまで存在しなかった力が覚醒していた。

 クレスはシャドウのボディにショートアッパーを打ち込み、その身体を浮かび上がらせる。



「君が僕の百パーセントだというのなら! 僕は今ッ、僕を越えようッ!」



 七色の光が集約し、クレスの手のひらで閃光が(ほとばし)る。

 光を包み込むように、クレスは拳を握りしめた。

 シャドウの身体が落ちてくるのに合わせ、放つ。


 拳が命中した瞬間――核融合をイメージさせる赤い光が球状に(ふく)れ、爆発した。

 シャドウの身体に巨大な穴が開く。

 その四肢はバラバラになり、王都のあちこちへとばら撒かれた。



 クレスは拳を突きだし、勝どきを上げた。




「これがッ、ヒーローだッ!」


挿絵(By みてみん)

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