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第8話 最終決戦!①

ご無沙汰してます。ひと月ぶりの更新になってしまいました。ごめんなさい。

全10話構成、残り3話の予定です。

是非、最後までお付き合いください。

 リシェル特製の録画スタジオは、王都のど真ん中に無理やり差し込まれた異物だった。


 瓦礫の山の上に、場違いなほど小ぎれいな床が広がる。半円状に並べられた照明から白い光が注がれていた。

 天井はない。黒煙の空と、崩れかけた建物の影が見える。

 複数のカメラが空中に浮かび、リシェルたちを囲んでいた。ケーブルはどこにも繋がっていないのに、不思議とカメラは回っている。


 中央には巨大スクリーンが鎮座し、クレスとシャドウの戦闘を映し出していた。

 その手前のテーブルには、実況席と解説席が用意されている。

 実況席に座っているのはリシェルだ。解説席に座っていたのは――。


 *


挿絵(By みてみん)




「ふわふわさんだあ!」



 枕ほどのサイズの白くフワッとした生き物に抱きつき、リシェルは頬ずりする。



「ペットにします! 今日からこの子はうちの子です!」


「王都に渦巻くふ力にあてられ、(ちり)から再生したんだ。良かったね」



 隣に座るアラン・スミスが、優しい微笑みを投げかけた。

 リシェルがムッとした顔でアランを(にら)む。



「まーたそうやって、あたかも昔からお友達だったかのような顔で居座る。あなたはいつもそうです」


「解説席に座るのは、僕がふさわしい。選手交代さ。ゲイリー君も役割を終えたようだし」


「ゲイリーさんの役割?」


「……カイル君は本当に、仲間と作戦を共有しないな。君もちょっと変だよ。よくそれで、動画配信なんて意味わかんない役目引き受けたね」


「知る意味ないでしょ? 私、あの人ほど頭良くないですよ?」


「……割り切ってるなあ」



 リシェルが軽く伸びをする。



「今のところ、あなたのシナリオ通りにお話は進んでいますか? 黒幕さん?」


「全然。僕が差し向けたのは、ムーと巨大戦艦(イクリプス)まで。強敵エイリアンとのバトルを演出する計画だった……ダークヒーローが来るまでは、僕の(てのひら)の上だったのになぁ……今や完全に盤面はひっくり返った。ここから先は、僕も知らない」



 アラン・スミスは(あご)をさすり、(たの)し気に目を細めている。



「……知らないって人の顔じゃないですよ。何を見据えてるんですか?」


「気のせいだよ、イレギュラーが多くて困ってばかりさ。ま、悪いことでもない。先が読めない展開は、エンターテイメントの一要素だ」



 解説席から追いやられ、スタジオの隅で縮こまっていたゲイリーが、怯えた顔でアランに向き直る。



「なあ、アンタ、やけに物知り顔じゃないか……今何が起きてるのか、アンタにはわかるのか?」


「まあ、大体は観測してるよ?」


「なら教えてくれ! あれは何なんだ!?」



 ゲイリーは大画面を指さした。

 そこでは今も、クレス=ウォーカーと彼の鏡像(シャドウ)が激闘を繰り広げている。



「皮肉だねえ。(ほか)ならぬ君が、アレが何者か知らないなんて」


「皮肉?」


「だって、シャドウは君が生み出した怪物じゃないか、ゲイリー君」


「俺が、生み出した?」


 ゲイリーが頭を抱える。質問前より困惑しているようだ。

 アラン・スミスが指を組む。



「ゲイリー君、君は怨霊を知ってるかな?」


「怨霊?」


「八王国が一つ、ノルディアが引き入れた侵略者さ。人間の恐怖心から生じる、ふ力と呼ばれる感情エネルギーが集約した怪物……でも、あの世界がもたらした災厄の本質は、侵入してきた妖怪たちより、流れ込んできたシステムにある」


「システム?」


「別世界と繋がったせいで、世界のルールが歪み始めているんだ」


「……意味わかんねえ。何だよ、世界のルールって!」



 ゲイリーが頭をかきむしる。そろそろ発狂寸前らしい。



「はは、そうだね。もっと身近な話から始めよう。物理法則があるだろう? 物体はより高い場所から落ちた方が、地面との衝突速度が速くなるとか。光は水やガラスを通るとき屈折するとか。アタリマエの世界のルールさ」


「……それなら、知ってるが」


「今、物理法則に等しい、アタリマエの世界のルールが一つ追加されたと思ってくれ」


「……ルールの、追加?」


「人がお化けに恐怖すると、そのお化けは現実になる。それが新しく追加された、この世界の(ことわり)さ」


「……そんな馬鹿な」


「その馬鹿を、ノルディアの(ゲート)が引き入れたんだ」



 ゲイリーは画面越しに、クレスの姿をしたシャドウを見つめる。



「あれが、アンタの言う……実体を得たお化け……なのか?」


「ああ。そして彼が顕現(けんげん)したのは、ゲイリー君のおかげさ。君がクレス=ウォーカーの大虐殺にビビり散らしている顔は、リシェル嬢のデバイスで王国中のゾンビに共有された。ゾンビたちはみな君の恐怖に共感し、(おそ)れの形をクレス君の色に統一した」



 アランは三本指を立てた。



「強い怨霊を生み出す条件は三つ。信じる人間が多い。その信仰心が深い。恐怖の対象のイメージが、信じる者の間で一致している。最後の一つを満たした立役者は、間違いなくゲイリー君だね」



 リシェルが片手を上げ、「ハイ先生! 何でカイルさんはその役目、私に振らなかったんですか!?」と割り込んできた。



「君は論外。単騎で国一つ落とす魔族の皇子……視聴者から共感を得るには人外(じんがい)()ぎる」



 リシェルは口を尖らせた。ふわふわさんを枕にしてテーブルに伏せ、横目で解説席を見やる。



「アランさんは、今の戦況をどう見ますか?」


「カイル君の意図は読める。怨霊とダークヒーローをぶつけ、ごちゃついた戦況でクレス君を狩る気だ」


「それ、上手くいくんですか? 成功率何パーセントくらいですかね?」



 アラン・スミスが指を組み、薄っすらと微笑んだ




「ゼロだよ」

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