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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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闘技大会 その3

日が暮れ、かがり火の明かりが檻を照らしている。

檻の中には大サソリがいる。


大サソリとはいってもちょっと小さい。毒のあるしっぽも人間の腹のあたりの高さまでしかない。まあ、人間の姿の私の頭の位置よりは高いが。

近くには一回り大きな檻も置かれていて、その中にはダンジョンでよく見かける人間よりも大きなサソリがいて、檻の中で窮屈そうに尻尾を振り回している。


檻は広場を囲む塀に作られた門のようなところの前に置かれている。

ここはギルド本部の前の広場ではなく、街の外側に新たに作られた広場だ。本部前のよりはちょっと狭い。

ここに作られている闘技場とやらでまだ完成していないとのことだが、木の塀で大きな円の形はできている。今は堀の外側に観客席を作っているのだそうだ。


広場には、剣士が10人くらいいる。射手も何人かいるか。カイは私のすぐ近くにいる。剣士の他にも学者と昼間の会議にいた人間、商業組合、ギルド本部、市役所、出版社、憲兵本部も集まっている。人数は倍になっているが。


観客席はできていないが、塀の外からこっちを見ている人間も多い。大サソリが見られるというのを聞きつけて集まってきたのだという。


で、私はここで何をしているのかというと、闘技大会に向けた予行演習ということで戦わされることになったのだ。

興味はないと伝えたのだが、小さいサソリは人間が戦っても迫力がないとかいう理由で、私が相手するようにということで説得されたのだ。ということで、久しぶりに鎧を着て剣を持ち、小さ目の大サソリの前に立っている。


「それじゃあ、開けますよ」

檻の上にいる人間はそういうと、檻の扉を引き上げる。周りに立っている剣士の何人かが剣を抜く音が聞こえる。私が相手をする役割ではあるが、サソリはそんなことを知らないからな。


扉は開いたが、サソリは動かない。檻の上の人間が檻の後ろの方を蹴って追い出そうとしている。しばらくすると、サソリがゆっくりと檻を出てくる。

檻から出たところで立ち止まったかと思ったら、その直後、私の方に向かって突進してくる。

塀の外で見ていた人間が驚いたように声をあげる。


突進してくるサソリを正面から見ると、胴体の方が目立ち前に突き出している尻尾の針は小さくてよく見えない。それがサソリの狙いなのだろうが、それを知っている私には通用しない。


跳躍力を活かしてその場で跳び上がる。塀の外から驚いたような声が聞こえてくる。

サソリが私のいたところを通り過ぎる。体を回転させ、サソリの方を向いて着地。サソリは体を回転させるのが遅いので、剣を横に振って後ろから尻尾を切り落とす。毒針のないサソリはとどめを刺すのも簡単だ。胴体の真上から剣を突き刺す。塀の外から小さな歓声が聞こえる。


「おお、大したものだな!」

学者が手をたたいている。

「あっという間でですね」

「確かに。あの大きさのサソリでは弱すぎですかね」

商業組合の男らが話している。

まあ、そもそも大サソリにてこずったことはない。

「それか、シイラさんが強すぎるのか、ですね」

これはレブランか。よくわかっているじゃないか。


「では、大きいほうの大サソリを出しますかな」

学者が大きいほうの大サソリが入った檻の上にいる人間に指示を出す。

塀の外の人間が歓声を上げる。やはり大きいサソリの方が注目を集めるようだ。この大きさのサソリでも私は倒せるが、人間に任せても大丈夫だろう。


「私が相手しましょう」

カイがそういうと剣を構えて前に出る。

「開けますよ」

そういうと檻の上の人間が扉を引き上げる。


扉が開くと同時に大サソリが飛び出してくるが、正面に向かわず広場の塀際に沿って走り出す。

「くそっ!」

剣士らが慌てて走り出す。広場は円形の塀に囲まれているので、大サソリが進む方に先回りしようとしている。人間の剣士は全員向かっているので、私は追いかけなくてもいいだろう。


人間に気づいたのか、大サソリが塀を上り始める。

塀の外にいた人間が慌てて逃げだす。

射手が弓を構える。


「胴体ではなく、塀の上を狙え!」

学者が叫ぶ。

射手が狙いを上方向に修正し矢を放つ。

矢に行く手を阻まれた大サソリは下に引き返し、今度は広場の真ん中の方に向かって走り出す。

剣士らも大サソリを追いかけるが、大サソリは速く追いつけない。反対側の塀にぶつかると跳ね返るように向きを変えて走り出す。


ダンジョンは洞窟で狭いので、そこでこいつらと出会っても走り回ることはないのでわからなかったが、大サソリは走るのが速い。

塀の外にいる人間から歓声があがる。逃げ回る大サソリを追いかける剣士を見て喜んでいるようだ。


しばらくして、ようやく剣士らが大サソリを塀に追い詰めた。剣士全員で行く手を阻み囲んでいるような感じか。

囲まれた大サソリが人間に向かって突進。正面にいた剣士が毒針の攻撃を盾で防ぐ。


「私が対応する! 手出し無用!」

盾で毒針の攻撃をかわしながら男が叫ぶ。これはカイの声だな。

周りの剣士らは盾を体の前に構える。手を出さないことに決めたようだ。


盾で大サソリの攻撃を受け、次の攻撃に向けて毒針が後ろに下がったところで、カイは剣を前に突き出し大サソリの胴体や足を攻撃している。

何度かそういったやり取りの後、大サソリの前足が切断されて動きが鈍くなる。こうなるともう剣士の勝ちだ。観客の声も大きくなる。


動きの鈍った毒針を攻撃を盾で受けた直後にちょっと横に移動し、尻尾に向かって剣を振り下ろす。

毒針が切り落とされる。大きな歓声が上がる。カイならもっと短時間で倒せそうなものだが、広いところでは戦いにくいのだろうか。


カイが大サソリの頭に剣を突き刺し勝負がつく。

周りから大きな拍手と歓声があがる。手こずったように見えるのに、私の時よりも喜んでるようだ。


「お見事です」

商業組合の人間らが拍手している。

「もっと早く倒すこともできたが、見せ場を作った方がよさそうに思ったのでな」

大サソリを倒したカイはそういうと、剣をしまい塀の外の観客の方を見る。

そういうものなのか。そういえば、私もネズミ狩りの時にすぐにとどめを刺さないことがあるが、あんな感じでサソリと戦えば見ている人間も喜んだのかもしれないな。まあ、人間を喜ばせる理由は私にはないが。


「これは、我々剣士の戦い方や技を知ってもらうには良い機会だな」

歓声はまだ続いているが、女の声が多いような気がする。

まあ、大サソリと人間の戦いの方が人気があるようなので、私が戦う必要はなくなったということだろう。


「これは、いけそうですね」

「塀に登り始めた時は肝を冷やしましたが」

「射手と剣士を適切に配置しておけば大丈夫でしょう」

話しているのは商業組合と市役所のに人間か。


「シイラさん」

声のする方を見るとレブランがこっちに向かって歩いてきている。

「さっきの戦いは見事でしたね。なんか一瞬で仕留めたような感じでした」


「興味のない戦いは早く終わらせるに限る」

「はは。そうですね」

レブランは楽しそうな表情だ。

「人間が戦うのを見る方が楽しんでいるようなので、私は闘技大会に出る必要はないのではないか?」

夜は早く寝たいのだ。

「そうなるかもしれませんね」

レブランはそういうと塀の外の観客の方を見る。

相変わらず剣士の方に手を振ってる人間が多い。


「カイさんは女性に人気があるんですよ」

「そうなのか?」

「はい。あの見た目で剣士で強くて領主の息子ですからね。闘技大会で活躍したら大変なことになりそうですよ」

見た目と領主の息子というのがどう人気とつながるのかわからないが、強い剣士が人気というのは分かる。

塀の方を見ると、手を振ってるのは女が多いな。男も何人かいるが。


「どうも」

声がした方を見ると、レブランの隣に男が立っている。

この男は確か憲兵団の男だな。名前は何だったか。


「この猫、いや、今は人間の姿だが、剣士としての腕前も大したものだな」

私の方を見ながらいう憲兵団の男。

あのくらいは大したことはないのだが、腕がいいことは確かだ。

「ええ。シイラさんは猫でも人間でもすごいですよ」

よくわかってるじゃないか。

「収穫祭の防犯対策だが、できればこの猫に協力してもらいたいのだ」

この男もギースのように私を名前でなく猫と呼ぶ。それと、私に協力してもらいたいというのにレブランに向かって話しているな。


「シイラさんに何か仕事を頼むなら白兎亭のアリナさんにいってください。もちろん、シイラさんにもお願いしてくださいね」

アリナさんに話せば引き受けるに決まっている。何を頼まれるのかわからないが、断るなら今しかないな。


「そういうことか。では、猫、以前も少し話したが、収穫祭で街の警備に協力してもらいたいのだ」

私の方を見ながらいう男。

「タスロエン、彼女にはシイラさんという名前があるんですよ」

そうだ。この男はタスロエンという名だったな。


「では、シイラ殿、以前窃盗団を捕まえるのに協力してもらったが、あの時は猫の姿で見事な活躍だった。収穫祭は人が多く集まるが、泥棒もたくさんやってくるのだ。そういう悪いやつらを捕まえるのに協力してはもらえないだろうか」

「シイラさんにとっても初めての収穫祭ですから、できれば楽しんでほしいんですけどね」

これはレブラン。

「別に1日中というわけではない」

悪いやつらを捕まえる仕事か。悪くはないな。

「そういうことなら手伝ってもいい」

「それは助かる」

表情が明るくなるタスロエン。


「私への報酬の話はアリナさんにしてくれればいい」

「では、そうさせてもらおう」

仕事の依頼が入ればアリナさんも喜ぶだろう。

「それと、報酬の3割をアリナさんが手数料として取るのだが、計算を間違えることがあるので、3割がいくらになるかもその時に伝えておいてほしい」


レブランとタスロエンが顔を見合わせている。何か変なことをいっただろうか。

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