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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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何でも屋シイラ その1

「シイラさん」


中庭の木に登って眠っていると、名前を呼ぶ声が聞こえたので目を開ける。

見るとアリナさんが木の近くに立って私を見上げている。


「みゃあ」

なにか用か?


「ちょっとよろしいかしら」

そういうと、体の向きを変えて白兎亭の建物の方に歩き始める。

ついて来いということなのか? 手招きしていたような気もするし、ついていくか。

木から地面に降りたところで、歩いていたアリナさんが突然立ち止まると振り返る。

「お話をしたいので、人間に変身していただける?」


そういうことなら、まずは自分の家に戻り人間に変身し下着を付けて服を着る。いつも思うが、なぜ人間は服を二重に着るのだろう。外から見えないのだから下着を着なくても良さそうに思うのだが。ベルナが絶対に下着をつけろとうるさいからその通りにしているが。


服を着て靴を履き、アリナさんが入っていった食堂に入る。

昼食の時間帯を過ぎているので客は誰もいない。食堂の厨房寄りのテーブルで厨房で働いている人間が遅い昼食をとっているくらいだ。


アリナさんは窓際のテーブルの席にいるので、向かいの椅子に座る。正確には椅子の背もたれに座る。人間のように椅子に座ると、私にはテーブルが高すぎるのだ。


「レブランさんとは最近会ってないんですか?」

レブラン?

「ちょっと前の地上げ屋騒ぎの時に会ったが」

あの時は白兎亭が狙われたのだったが。


「以前、レブランさんとライゼルに出掛けたでしょ?」

「そうだな」

乗合馬車で6日かった。


「その際、シイラさんがここでネズミ狩りができない代わりにお金をいただいたんですよね」

レブランがそんなことをいっていたな。


「昨日、物置で上の棚の奥の方に置いてあった道具を取ってもらったでしょ?」

なんか話がころころ変わるな。

「そうだな」

小さな道具だったな。大工道具とかいっていたか。


「その時に思ったんです。シイラさんしかできない仕事を引き受けることができるのでは、と」

ん?

「棚の道具を取るくらい誰でもできそうだが」

その道具も人間が置いたものだし。


「狭いところとか高いところでも、シイラさんなら簡単に入ったり登ったりできるでしょ? そういったところで何か困っている人っていると思うんですよね」

まあ、そうかもしれないが。

「そういったシイラさんが得意なお仕事を引き受けることにしたんです。もちろん、お金をいただいて」

仕事を引き受ける?

「その仕事をするのは、私なのか?」

「もちろんです」

アリナさんはにこやかだ。


「エルナさんの会社で出している瓦版にお仕事の募集を掲載できるので、載せてもらいました」

仕事の募集? ギルド本部に貼られている仕事の依頼のようなものなのだろうか。

「いただいたお金はもちろんお仕事をするシイラさんのものですよ。少し手数料はいただきますけど」

アリナさんのにこやかさが増す。

「手数料は3割くらいと考えていますが、それでいいですよね?」


3割というと、10シルバだと3シルバということか。この場合、私の取り分は7シルバか。お金の好きなアリナさんがにこやかなところを見ると、3割というのはアリナさんには十分な割合ということなのだろう。もしかしたら手数料としては多いのかもしれない。ギースに聞けばそのあたりはわかるかもしれないが、まあ、使う用もないしお金を集めているわけではないので構わないが。


「朝のネズミ狩りが終わったら、1日寝そべって過ごしたいのだが」

仕事がどのくらいあるのかわからないが、忙しいのはちょっとな。

「それは、猫ちゃんらしいですね」

アリナさんはちょっと驚いたような顔をしているが、私が猫だということを思い出してくれたようでなによりだ。


「ネズミ狩りは十分やっていただいていると思うんですよ。今では立派なお家を白兎亭の中に設けてらして、まあもちろん猫ちゃんですからお家賃をいただこうなんてことは思ってないんですけどね。(はり)の上とはいえ白兎亭の中につくられてますけどね。まあそれでも、これまでに何度かお仕事で出かけられた際にはお金をいただいたこともありましたし、それにシイラさんは普通の猫ちゃんじゃなくて特別な猫ちゃんですからね。これからも時々は私の、いえ白兎亭のためにお仕事していただいて、お金を稼いでいただけると助かるんですよね。白兎亭がよくなるとシイラさんもうれしいでしょ?」


なんか早口でまくしたてられたが、要は仕事しろということか。


ということで、依頼された仕事をすることになった。

仕事の報酬をいくらにするかはアリナさんが交渉しているが、金額で折り合いがついたものはすべて引き受けているようだ。私の意見を聞くことなく。


やった仕事は、屋根裏のネズミの巣の駆除、家具の後ろに落とした物を探したり木の枝にかかった洗濯物を取ってくるとか、子供の遊び相手とかいうのもあった。幸い行儀のよい子供だったが、今後は引き受けないようアリナさんに注文しておいた。今のところ2日に1回程度の仕事で、それほど時間のかかる仕事もないので、寝そべる時間も十分に取れている。


そんな感じで安くてすぐに終わる仕事をしばらく引き受けていたが、アリナさんの機嫌がだんだん悪くなってきた。どうやら安い報酬の仕事しか依頼がないからしく、瓦版への掲載もやめたと聞いた。寝そべって過ごせる時間が増えるのは良いことだ。


それから何日か経った日、夏にしては涼しかったので食堂の窓辺て寝そべっていると、アリナさんがやってきた。

目を開けると、ベルナのような感じの服装の若い女も一緒だ。


「シイラさん、この方はカーラさんといって、瓦版を見ていらっしゃったそうです」

久しぶりに見るアリナさんの笑顔だ。

「みゃあ」

どうも。

「初めまして。私は、カーラ・アウテオ、といいます。見ての通りの魔法使いで、主に薬草なんかを扱ってます」

そういうと手を伸ばしてくる。

これは握手というやつなので、前足を延ばして握らせてやる。


「カーラさんは、ダンジョンの狭い横穴にある薬草やキノコ、結晶の採取をお願いしたいんですって」

アリナさんは更ににこやかだ。報酬が良かったのだろう。

「シイラさんはこれまで何度もダンジョンに出掛けてますし、狭い横穴も得意ですからね」

まあその通りだな。

「それで、3日間、カーラさんと一緒にダンジョン、よろしくお願いしますね」

仕事はすでに引き受けたということか。まあいいだろう。

「みゃあ」

いいだろう。


「では、早速ですが前金をお願いします。残りはお仕事が完了してからで構いません」

アリナさんは猫の言葉は分からないが、これまでアリナさんが持ってきた仕事を断ったことがないので、私の言葉を了解と判断したのだろう。

「はい」

そういうと受付に戻っていく二人。


しばらくするとカーラが食堂に戻ってくる。

「よろしくお願いします。護衛の任務もやったことがあるということなので心強いです」

そういうとカーラは頭をちょこっと下げる。

「それでは、どんなことをお願いしたいのか説明しますね」

「みゃあ」

わかった。

ダンジョンは久しぶりだ。

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