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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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特に何もない日

朝食の後、中庭の木に登りしばらく寝転んでいたが、太陽の光が顔に当たり目が覚めた。建物の中に移動しよう。

今は白兎亭の住民向けの朝食の時間は終わり、昼食に向けて準備中の時間だ。厨房(ちゅうぼう)から騒がしい音やいろんな匂いが漂ってくる。

厨房にはネズミ狩りで入ることはあるが、早朝なので人間は誰もいない。どんな感じで食事を作っているのかちょっと覗いてみるか。


厨房を入口から覗くと、5人の人間が働いているのが見える。野菜を切っているやつ、肉を切っているやつ、火の上でなんとかという鉄でできた鍋をかき回しているやつとか、何かを洗っているやつらがいる。今は夏でただでさえ暑いのに、火を使っている厨房はさらに暑い。中に入るのは無理だな。別の場所に移動しよう。


「あれ? ここにタラ芋を置いといたと思ったんだけど...」

振り返ると、野菜を切っていた男があたりを見回している。

見ると、野菜を切っている台の下に芋が一つ転がっている。男からは見えないところだ。

手伝ってやるか。

台の下に入り芋の側面を前足で叩く。芋が男の足元に転がり足に当たる。

「ん?」

気づいたようだ。

「あ、シイラ、ありがとう」

台の下から出てきた私に気づいた男がいう。

「みゃあ」

どういたしまして。

なんか、以前街に出かけた際に子供が落とした人形を拾った時みたいな感じだな。


さて、いったん中庭に戻るか。

カウエンがいつものように火を焚いているのが見える。暑いのに大変だな。近づくのはやめておこう。

中庭を見回すと、ザノトフがいる。二人の男と話をしている。男らは狩った動物を持ってきたらしい。足元に死んだ動物が何匹か転がっている。どのくらいの金になるのか話しているのだろう。狩った動物の代金はここの宿泊代として使えるのだ。


話がまとまったようで、男らは去っていく。

ザノトフは動物の後ろ足に紐を結びつけると、洗濯物のように木で作った枠にぶら下げる。頭の部分はまだ地面に付いた状態で、桶に入った水をかけて洗っている。死んでからも水で洗われるとか気の毒だな。

この動物は頭に大きな角がある。大きさは、ザノトフと同じくらいか。首のところに剣で切った跡がある。あれは血を抜くためのものだったか。もう一匹はトカゲだな。腹に大きな切った跡がある。これは内臓を抜いたのだろう。人間は細かく切った肉を食べるが、単に切っているだけではなく、決まったところで切り分けているのだそうだ。野菜も切るところが決まっているのかもな。人間は何をするにもこだわりがある。


動物を洗い終わったようで、ザノトフは紐を引っ張り上げる。今度はぶら下げた動物の腹を切って内臓を引っ張り出すようだ。この後は皮をはいで、その次に肉を切り分けるのだったな。

そのあたりになると、近くに行けば肉の切れ端をもらえることもある。人間が作った食事の方が肉をそのまま食べるよりもおいしい。料理とやらをすると味が変わり、同じ肉でもまったく別の食べ物になる。朝食も食べたし切れ端をもらわなくてもいいだろう。



昼前のこの時間帯、白兎亭の住民はほとんどいない。みんなギルド本部とかダンジョンに行っている。まあ、掃除とか洗濯といったここの仕事をしているギースらは別だが。

ザノトフにもらった肉を食べながらあたりを見渡していると、中庭の軒下に宿泊している男がかぶっていた布から顔を出し、慌てたようにあたりを見回す。


「え? くそっ、寝過ごした!」

そういうとその男が立ち上がる。

慌てて立ち上がり歩き出そうとするが突然動きを止め、寝ていたところに戻り布の下から鞄を引っ張り出す。布はそのままにして白兎亭の中に走っていく。もう朝食の時間は終わっているのだが。

確か、あの男は何日か前から中庭にいる男だな。腰に剣をぶら下げてはいるが剣士という感じでもないし、魔法使いにも見えない。何をしている男なのかは知らない。



次の日の朝、食堂を見ると昨日の男が朝食を食べている。今日は早く起きたようだ。

食事の合間に手帳に何かを書いている。時々横の方を見ているが何を見ているのだろう。男の視線の先には一人の男がいる。こいつも中庭で宿泊している男で、こいつも剣は持っているが剣士ではないな。その剣士ではない男が立ち上がると、そいつを見ていた男も立ち上がる。


その後もなんとなく中庭の男を見ていると、どうも例の剣士ではない男の後をつけているように見える。距離を開けているし、知り合いという感じではない。ちょっと気になるので、中庭の男をつけてみることにしよう。


朝食の後、剣士ではない男が出かけるようだ。中庭の男もやはりついて出ていく。私もあとをつける。

街の広場に入る。歩いている方向からすると、どうやらギルド本部に向かっているようだ。冒険者という感じでもないが、何か仕事を引き受けるのだろうか。


本部に入ると、仕事の依頼が貼られている壁ではなく、まっすぐ受付に向かっている。中庭の男はちょっと離れたところで様子をうかがっている。

剣士ではない男は受け付けで何かを受け取ったようでだ。外に向かって歩き始めた男の後ろを中庭の男がついていく。


広場に出たところで、中庭の男が剣士ではない男に小走りして近づく。


「お、おい、ランドリオ!」

中庭の男が呼びかける。

剣士ではない男が振り返り中庭の男を方を見る。表情を見るとなんかしかめっ面だ。にらみつけているという感じか。

「あぁ? なんだてめえは」

二人は白兎亭に泊まっているだが、気づいていなかったようだ。

「い、今、お金を受け取ったよな?」

なるほど。金を受け取っていたのか。何かの報酬かな。

「それがどうした?」


「か、金を返してもらおうか!」

中庭の男はこの剣士ではない男に金を貸していたのか。


「はあ? お前に金を借りた覚えはねえなあ」

そういうと剣士ではない男が振り返り歩き始める。

なんなんだ。中庭の男は人違いしたのか?


「コラリアさんからだまし取った金だ!」

中庭の男がそういうと、歩き始めた男が立ち止まり振り返る。


「なるほど、そういうことか」

どういうことなのだ。人間はときどき意味のわからないことをいう。

「あれはもらった金だ」

そういうと、再度振り返り歩き始める。

もらったということは、金は借りていないということになるな。やはり中庭の男の勘違いか。


「そ、そんなわけあるか!」

中庭の男は剣士ではない男に駆け寄ると肩に手をかける。

つまり、剣士ではない男のいうことは正しくない、ということか。

「うるせえな!」

剣士ではない男は振り返ると剣を抜く。


剣を見た中庭の男が後ずさる。その後、あわてて剣を抜く。ちょっと震えてるような気がするが。金が絡むと命がけということか。人間は大変だな。

騒ぎに気づいた広場にいた人間も二人の人間を遠巻きにして見ている。


「おまえら、何やってるんだ!」

声のする方を見ると、こっちに向かって男が二人走ってきている。あの格好は憲兵団だな。この広場を囲む建物の中には憲兵本部もあるから、本部の人間が広場にいたのだろう。


「くそ!」

そういうと、剣士ではない男は突然走り出す。周りにいた人間が慌てて道を開ける。

「待て!」

中庭の男も慌てて追いかける。


剣士ではない男が悪いやつなら捕まえるのに協力してもよいのだが、今のやり取りではどっちが正しいのかわからないしどうしようもないな。


さて、今日も暑くなりそうなのでどこか日の当たらない場所に移動して寝転がって過ごすとするか。

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