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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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子供連れの客 その1

朝食の後、中庭の木に登りしばらく寝転ぶ。日が昇り太陽の光が顔に当たり始めたら建物の中に移動する。

昼に向けて白兎亭の厨房は騒がしいが、朝食が終わった食堂は人がほとんど人がいない。通りに面した窓際でごろごろすることにしよう。


近くのテーブルに人が来たような音が聞こえたので目を開ける。

人間の子供か。

椅子の横に立って私の方を興味深そうに見ている。

子供はあまり得意ではない。ちょっと前に図書館でひどい目にあわされた。

ちょっと様子を見て何かあれば場所を移動しよう。


「おはよう、猫ちゃん」

にこやかだ。何が楽しいのかわからないが、害はなさそうだ。

あいさつを返してもいいが、初めて会う人間だし放っておこう。


「猫ちゃんはここに住んでるの?」

そういうとこっちに手を伸ばしてくる。これは背中を撫でようとしているのだろう。まあ、触らせてやってもいい。

そういえば背中を撫でられるのも久しぶりだな。


「お家があるといいよねー」

確かに私には作ってもらった家がある。

「わたしもお家に住みたいなー」

このいい方からすると、この子供には家がないのだろうか。

ちょっと気になったので、この子供を観察してみる。


人間の女の子供で、以前図書館にいた子供らよりはちょっと年上のような気がする。やつらは最悪だったな。

服装はそれほどきれいというわけではないが、かといって金のない人間のような貧相な感じでもないように思う。肩から鞄をかけているが、まだ開いてない昼前の食堂にいるということは宿泊者か。子供が一人で白兎亭に来ているのは見たことがないので、親と一緒に来ているのだろう。


「ここには昨日来たんだけど、たぶん5日くらいかなー、ここにいるのは」

昨日からか。もっと前からいたのなら気づいていたはずだから、そんなものだろう。


「同じところには長くても8日しかいたことないんだー。だから友達もいなくて...」

ちょっと寂しそうな表情だ。

決まった家がなくてここみたいな宿を渡り歩いているということなのだろうか。どうしてそんなことをするのだろう。


「ドーラ、夕方、いや夜には帰ってくる。外に出るんじゃねえぞ」

声のする方を見ると、男が階段を下りてきたところだ。大きな鞄を二つ肩にかけている。子供の父親だろうか。それと、この子供の名前はドーラというのだな。


「中庭は行ってもいい?」

ドーラが中庭の方を指さす。

「ああ。ここの敷地からは絶対出るなよ」

「お昼は?」

ドーラが質問する。

「ここで食え。昼飯代と、帰りは多分遅くなるから夕飯もここで食ってろ」

そういうとこっちに近づいてきてお金を渡す。シルバ硬貨を何枚か渡しているようだ。5枚くらいはあったように見えた。ここの食事は2シルバもあれば食べられるそうだから、子供には十分な額だろう。


「今日も遅いの?」

「多分な。日が暮れる前に夕飯食って、食ったら部屋に戻って寝てろ。夜はここは酒場になるからな」

そういうと出口に向かって歩き始めようとしたところで私に気づいたようだ。

「その猫と遊んでろ」

まあ、この子供の行儀が良い間は遊んでやってもいいが。


部屋といっていたが、リスタの作業場のある仕切りで区切られた大部屋のことだろう。個室の方は空きはなかったはずだ。最近ここはいつも人でいっぱいだが、ほとんどの人間は大部屋とか中庭とかの安いところを借りている。


父親と思われる男を見送ると、近くの椅子に座るドーラ。

「お父さんはいつも帰るの遅いんだー。それにお酒飲んで帰ってくるからお酒臭くて...」

この食堂は夜は酒場になるから酒の匂いは毎日のことだが、夜に子供がいないのは匂いが嫌いだからだろうか。


「昼間はお仕事で出かけてるんだけど、いつも心配なんだー」

何が心配なんだろう。

「ここに来る前はトールホリって街にいたんだけど、小さな町だったから2日しかいられなかったんだよ」

聞いたことのない名前だな。それに小さい町だと2日しかいられないということの意味が不明だ。


ドーラは話すのが好きなようなので近くで聞いてやるか。

窓辺からテーブルに降り子供の膝の上に移動する。ここなら背中を撫でやすいだろう。人間の膝の上に乗るのは久しぶりだ。


「さっき、心配してるっていったけど、多分お父さんのお仕事って悪いことなんじゃないかって思うんだ」

悪いこと? 父親は悪いことをする人間ということか。

「トールホリですごく怒ってる人たちに追いかけられたんだけど、その前にいたイルコマって街でも夜中に起こされて街を出たから、たぶんその時も追いかけられてたんだと思うんだー」

ということは、あの男はこの街でも何か悪いことをするということか。そして、それが見つかると逃げるということだな。さて、どうしたものか。


「悪いことをするのはいけないことだと思うんだけど、お金がないとこの服とかこの本とか、毎日のお食事も食べられないし」

そういうとドーラは鞄から本を取り出す。本が好きなら図書館を気に入りそうだ。

人間は金がないと何もできないからな。子供も働いているのを時々見かけるが、子供は働いても大したお金は稼げないとも聞く。


それはそうと、悪いことをしている奴なら憲兵本部に連絡したほうがよさそうだ。とはいえ、父親が捕まるとドーラが一人になってしまうな。どうしたものか。まあ、これまで捕まえるのに協力したやつらにも子供がいたかもしれないし、気にすることはないか。


「今日はいい天気だし、中庭で遊ぼうか」

そういうと私を抱えて立ち上がり中庭に移動する。

ドーラは私を木陰に降ろすと、近くにある背の高い草を一本抜いて私の方に向けて振り始める。

人間は時々その草のような短い棒状のものを振って遊ぶ。何が楽しいのかわからないが、相手をすると人間は喜ぶので付き合ってやるか。


ドーラは子供にしてはいいやつだし、父親の件は誰かに相談するのがよさそうだ。

どうするかはそれから決めることにしよう。

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