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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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ハルトの引っ越し先探し

朝食を終え中庭に向かうことにする。ちょっと前まではベルナが始めた朝食会で人間の姿で食事していたが、いつの間にか人数がそろわなくなって立ち消えになっている。私としても、道具を使わないといけない人間の食事よりは猫の方が楽でいい。


食堂を出ようとしたところでふと食堂の方を振り返ると、ハルトが食事をしているのが見える。

いつもベルナと一緒に朝食をとっていたように思うが、ベルナがいない。食堂を見回すと、ハルトの近くのテーブルにいるのが見えたが、ハルトに背を向けて座っている。どうしたのだろう。


まあ、いいか。

中庭の木の枝に登って寝そべることにする。

日が昇ると木陰にいても暑くなってきたので建物の中に戻る。そんな感じで涼しい場所を探して寝そべりながら充実した1日を過ごす。ちょっと前までエルナのボディーガードとか悪い人間を追いかけたりとかいろいろと仕事を頼まれて忙しかったので、のんびりと過ごせるのは久しぶりな気がする。こういった日が続くとよいのだが。


次の日の朝食の後、食堂を見るとやはりハルトとベルナは背を向けて違うテーブルに座っている。どうやら朝食は別々のテーブルでとることにしたようだな。


「なんだ? 喧嘩(けんか)でもしたのか?」


中庭に向かおうとしたところでギースの声が聞こえてくる。振り返るとギースがハルトとベルナの間に立って、二人を交互に見ている。

喧嘩? なるほど。喧嘩したから同じテーブルで食事していないのか。そういうことか。ちょっと興味がわいてきたので近くに移動することにしよう。

ハルトは剣、ベルナは火炎魔法を使うが、見たところ二人とも怪我しているようには見えない。どんな喧嘩をしたのだろう。


「え? い、いえ、別に、その、喧嘩ってわけじゃあ...」

ハルトがこたえる。後ろにいるベルナを気にしているような感じだ。

「そうなのか? ベルナ、喧嘩してるんじゃねえのか?」

ギースがベルナの方を見る。

「えっと、その、そういうわけではないんですけど...」

ベルナも後ろにいるハルトを気にしているようだ。

「なんだよ、はっきりしねえな」


つまり喧嘩していないのに別のテーブルで食事するということは、単に座る場所を変えたということではないのか。


ギースが二人の横にあるテーブルにつく。

「ま、そういうこともあるわな」

そういうとスプーンを手に取るギース。

そういうことというのはどういうことなのだ?


「そういえば、引っ越し先は見つかったのか?」

ギースがハルトの方を見る。

そういえば、ハルトは収穫祭の頃までには引っ越したいといっていたな。ベルナと一緒に住むとか住まないとかいってたような気もするが。


「よさそうなところがあったんですけど、家賃が突然上がることになって...」

ハルトがこたえる。

「まだ壁もできてないのに気の早いこった」

街が拡大する話か。街を囲む壁の外側にも壁ができて街が大きくなると、このあたりは街の中心部になるから地価とやらが高くなるというやつだな。


「ここの宿代も上がったりしねえか、それがちょっと心配だが」

ギースがつぶやく。

白兎亭には金をあまり持っていない人間が多くいる。ギースもそうだが。


「で、引っ越しはあきらめたのか?」

パンを引きちぎりながらギースがハルトの方を見る。

「いえ、他にもよさそうなところはあったんですけど...」

ちょっと顔を横に向ける。ベルナのいる方だ。

「女の人が多く住んでるところとかねー」

ベルナのつぶやきが聞こえてくる。

「どこに住むのかは僕の自由だし、それにここだって女の人多く住んでるし...」

ハルトはそういうと、ベルナの方を横目で見る。


「なるほど。そういうことかー」

ギースがハルトとベルナを交互に見ている。なんか楽しそうな表情だ。

「ま、そういうことを乗り越えていかないとな」

そういうとギースはお椀を手に取り、残った食べ物を口に流し込むと立ち上がる。食事を終えたようで食器を持って去っていく。


そういうこととはどういうことなのだろう。ギースは納得したようだが、私には何が何だかさっぱりわからない。しゃべっている内容は分かるが意味が分からない。人間の言葉は難しい。それに、別のテーブルで朝食をとることと引っ越し先探しがどう関係するのだろう。


まあ、ハルトとベルナの話からすると喧嘩はしていないということだし、気にすることはないか。さて、今日も1日ごろごろして過ごすことにしよう。


翌朝、やはりハルトとベルナは別のテーブルで朝食をとっている。別のテーブルとはいっても隣のテーブルで、背中合わせに座っている。ギースは特に何もいわないが、二人を見ながらなんか笑っているような楽しそうな表情をしている。朝食は別々のテーブルでとることに決めたということだと思うが、他にも空いてるテーブルはあるのにいつもすぐ隣のテーブルだ。隣に座るということに何か意味はあるのだろうか。


その次の日も隣の別のテーブルで食事をとっている。気づいてから4日連続になるな。

さて、ハルトとベルナの座っている場所も確認したことだし、今日も中庭に向かうとしよう。ごろごろして充実した1日を過ごすのだ。


「あ、シイラちゃん」

ベルナの声が聞こえる。

振り返ると、ベルナが隣の椅子を指さしている。どうやらその椅子に来いということか。まあ、隣に行ってやってもいい。

近くまで移動し隣の席に飛び乗る。

「みゃあ」

なにか用か?


「シイラちゃんとの朝食会もなんか無くなっちゃいましたねー」

「みゃあ」

そうだな。

「朝食は一人でとるより誰かの一緒の方が楽しいよねー」

「みゃあ」

いや、私はひとりの方がいいが。

「ですよねー」

適当に話しているな。


「いつも僕の方が先に来てて、自分から違うテーブルについてるのに」

後ろからハルトの声が聞こえてくる。

なるほど。別のテーブルについているのはベルナが選んでいるからか。


「はいはい、その通りですねー」

ベルナが私の方を見ながらいう。

「だから、何で()ねてるんですか!」

ハルトの声が大きくなる。

「拗ねてないです!」

ベルナの声も大きくなるが、相変わらず私を見てしゃべっている。

「拗ねてないならなんなんですか!」


「なんだなんだ、喧嘩してないんじゃなかったのか?」

ギースが朝食を手にこっちに向かってくる。


「喧嘩じゃないですよ」

「そうです。喧嘩じゃありません!」

「わかったわかった。何をもめてるんだ?」

ギースも戸惑っているようだ。


「別にもめてないです」

ハルトがこたえる。

あれはもめていない状態なのか? よくわからないな。


「どうせ、引っ越し先探しが関係してるんだろ」

席に着いたギースがいう。

「まあ、今はここで引っ越し先を探すのはあまりいい時期じゃねえことは確かだ」

そういうと、ギースはスプーンでスープをまぜる。

「俺の提案としてはだな、街が拡大すればそっちにも宿がいっぱいできる。そっちには1人で住むには広すぎるくらいの部屋でも安いところができるはずだ。それまで待つってのはどうだ?」

ギースがハルトとベルナの方を見る。

「つまり、それまではここに住むってことだ」

そういうとスープをすくったスプーンを口に入れる。


「ちゃんとした石を積んだ塀がすべて完成するのはかなり先だが、木の仮の塀は1年で街を囲むらしいしな」

そういうと、近くのテーブルにいる男が持っているニュースペーパーを指さす。


「それに、ガレス通り沿いは既に建物が並んでるし、木の塀ができればそのあたりを中心に安宿とかができるはずだ」

この街の一番大きな門、デニス門につながる通りがガレス通りだったな。ライゼルに向かう大きな通りだ。通りの先にはすでに門が作られているそうだ。デニス門よりも大きいと聞いている。

その新たにできた門から左右に塀が延びて街を囲んでいくらしい。このあたりは、エルナの会社が出しているニュースペーパーに絵が描かれていたのを見た。例のゴブリン騒ぎで通り沿いの建物の多くは壊れたようだが、その再建も進んでいるという話だ。仮の塀は、この通り沿いにも作られるそうだ。


「何といっても、ここは満室で中庭まで貸してるくらいだからな」

確かに。大部屋は常にすべて埋まってるし、アリナさんが中庭の軒下を宿泊場所として貸し出すようになってしばらく経つ。


「そうですね。確かに今は引っ越すには時期がよくないですね」

ハルトが腕を組む。考えているような感じだ。

「ま、1年もあればいいところが見つかるんじゃねえか?」

ギースがいう。

「そうですね...」


「1年あれば金も今より貯まって余裕もできるだろ? 俺は1年後も今と変わらねえだろうがな」

そういうとギースは立ち上がり食器を手に取る。

「まあ、それが俺の提案だ」


ハルトが組んでいた腕を組みなおす。

「えっと、今の話だけど、引っ越しはもうちょっと先にするのがいいかなって思うんだ...」

ギースを見送ったハルトがベルナの方を振り返る。

「そ、そうだね。その方がいいんじゃないかな」

ベルナが同意する。

「うん。じゃあ、その、引っ越し先探しはそれまでやめることにするよ」

引っ越し先を探しているときに喧嘩したようだから、それがよさそうだ。


「で、その...、明日からはまた、その...」

ハルトが何かいいかける。

「明日から?」

ベルナが立ち上がると食器をもってハルトのテーブルに移動する。


喧嘩してたのかどうかはわからなかったが、どうやら同じテーブルにつくようにしたようだ。

これも私がベルナのところに来て話を聞いてやったおかげだな。

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