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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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ボディーガードの仕事 その2

「待て! この野郎!」

ギースの叫び声が聞こえる。白兎亭の隣の建物で煙が上がっている。

最近、ギースら白兎亭の住民は夜中から早朝にかけて交代で白兎亭を見張っている。酒場で騒ぎを起こそうというやつらは来なくなったが、火をつけるやつらは今でも時々やってくるのだ。しかも白兎亭だけではなく同じ通りに並ぶ建物も狙われているので、怪しいやつらがいないか通りを見張っているのだ。


今日も凝りもせずにやってきた男を見つけたギースが、そいつが逃げた方向を指さしている。

ここからは私の出番だ。人間は走るのが遅いのですぐに追いつく。そしていつものように後ろから逃げる人間の腰のあたりに鋼鉄の爪を振り下ろす。

「うわっ!」

ベルトを切断されてずり落ちる下半身用の服が男の足を止め、走っていた勢いで地面を転がっていく。あとはギースらに任せよう。私は念のため男に見つからないよう建物の屋根に駆け上がる。


確かこいつで5人目だ。懲りない連中だな。まあ、のろまな人間を追いかけるのはネズミ狩りより簡単だが、通りを追いかけるのは走る距離が長くなるところがちょっと面倒だ。体力的に問題があるわけではないが、なんというか、ネズミのようにあっという間に追いつけないところがどうも気に入らない。いつまでこんなことを続けるのだろうか。まあ、やつらが騒ぐのは夜中から朝にかけての時間帯だから昼間は寝転んですごせるのでよいのだが。


捕まえたやつはタスロエンに引き渡している。取り調べがどうなっているのか気になるところだが、夜もあけて明るくなってきたことだし、さっさとネズミ狩りを済ませ、朝食を食べてひと眠りすることにする。今日は良い天気で暑くなりそうだから宿の受付の裏で寝そべることにしよう。


「あ、シイラちゃん、ここにいたんだ」

誰かに揺り起こされる。この声はエルナか。

目を開けるとエルナがかがんでいる。後ろには剣士がいる。会ったことはないが、こいつがエルナの護衛をやっているのだろう。


「またこの前のメンバーで打ち合わせしたいっていうから迎えに来たんだ」

肩にかけている鞄を指さしている。

「みゃあ」

わかった。

鞄に乗りエルナに運んでもらうことにする。


ギルド本部の会議室に着くとこの前と同じ人間が集まっている。我々が一番最後のようだ。

「お待たせしました」

エルナはそういうと手前の席に着く。


「さて、今日捕まえてもらった男で5人になった」

タスロエンが発言する。

「そいつらを軽く締め上げたところ、どこに行けば依頼した男に会えるかがわかった。それと人相も」

人相? 聞いたことのない言葉だ。

「それはよかったです」

レブランがいう。

「さっそくだが、今日の夜、仕事の話を聞きに行ってくる」

仕事の話を聞く? どういうことだろう。男を捕まえるのではないのか?

「私もご一緒していいですか?」

ルネがタスロエンに向かっていう。なんか楽しそうな表情だが、これは楽しい話なのか?


「君はこういった仕事を引き受けるって感じではないな」

タスロエンが腕を組みながらルネの方を見る。

「確かに。ルネさんだと怪しまれるかもしれません」

レブランがいう。ルネのどこが怪しいのだろう。

「逃げ道は雇った剣士で塞ぐ予定だから、そのあたりで待機していてくれ」

「そうですか」

タスロエンの提案にちょっと残念そうなルネ。

いまいち話がみえない。


「場所はここだ」

タスロエンがテーブルの上に広げた街の地図を指さす。

地図の見方はだいたいわかるようになった。街の広場と白兎亭につながる通りを見つければ、そこを基準としてどのあたりのことをいっているのかがわかる。

「剣士らには、こことここ、それにここで待ち伏せてもらう」

「じゃあ、私はこのあたりにいて、しばらくしたら通行人を装って歩いてみますね」

これはルネ。待ち合わせ場所に行きたいようだ。

「まあ、いいだろう。近くまで来ても私の方を見るなよ」

タスロエンがルネに向かっていう。なぜ見てはいけないのだろうか。誰もこの点を聞こうとしないということは、理由がわかっているということか。人間の言葉がわかるようになっても、こういった言葉通りではない事については分からないことが多い。人間は回りくどいことをやるものだ。


結局、今日はここに連れてこられたが特に何か頼まれることもなく。そのままその日はエルナのボディガードとして夕方まで付き合わされた。今日は1日中ごろごろしてようと思っていたのに。


次の日も夜明け前から見張りについていたが、騒ぎを起こすような奴は来なくなった。タスロエンが悪いやつらを捕まえたのだろうか。


「なんか、憲兵団の男が地上げ屋の奴らを捕まえて取り調べしてるって話だな」

ギースがあくびしながら近づいてくる。

「みゃあ」

私のおかげだけどな。

「どんな状況か聞いてみてきてくれ」

そういうと、またあくびしながら白兎亭の中に戻っていくギース。


まあ、もう捕まえたのなら見張りをしなくても済むし、どうなかったのかは気になるのは確かだ。

エルナの会社かギルド本部のレブランを訪ねてみるか。いや、それは面倒だな。呼ばれるまでは寝転んで過ごすことにしよう。まあ、私を見つけやすいよう、眠る場所は昨日と同じ宿の受付の裏にしてやるか。


昼、白兎亭の食堂が騒がしくなる頃、エルナがやってきたようだ。

「ねえ、シイラちゃん、例の件で進展があったらしいから迎えに来たんだ」

「みゃあ」

人間に変身するからちょっと待っててくれ。

そう伝えると、(はり)の上にある自分の部屋に駆けのぼり人間に変身、素早く服を着る。

「今日は人間の姿で行くんだね」

「ああ」

「さ、行こうか」

エルナはそういうと肩にかけてる鞄を指さす。では、人間の姿でもそこに乗せてもらうとするか。


ギルド本部に到着するといつもの人間が集まっている。いつもエルナは最後に来るようだ。

「シイラさん、です?」

ルネが驚いている。人間の姿で会うのは初めてだったな。


「地上げ屋の2人は逮捕した。社長も、といいたいところだが街を出ていったたそうだ」

「逃げ足が早いですね」

レブランが残念そうにつぶやく。

「手引きした奴がいるのかもしれん。まあ、手配書は発行したし、この街に戻ってきたら捕まえてやる」


「放火はもうされないのか?」

と聞いてみる。

「多分、大丈夫だろう」

多分、なのか?

「例の副市長なんだけど、昨日うちの社長を訪ねてきたんですよねー」

これはエルナ。副市長というのは地上げ屋に関係しているのではなかったか?

「え?」

レブランが驚く。

「そうなんですか?」

ルネも驚いている。エルナと同じ会社で働いているんじゃないのか。


「どうやら、地上げ屋の記事が結構効いたみたいなんですよねー」

そういえば白兎亭でも話題になっていたな。

「確かに街でも噂になってますね。副市長とは書いてませんけど、あれは知ってる人が読めばわかります」

レブランがエルナの方を見る。

「なるほど。手引きしたのは副市長だな。で、たぶん、別の儲け話でも見つけたんだろ」

肩をすくめるタスロエン。

「まあ、そんな感じです。次期市長の座を狙う立場からすると、ここで市民に不人気なことはできないってことですね」

エルナがこたえる。

「街の拡大の方で儲ける方がいいってことに今さらながら気づいたようなんです」

人間の考えかたは金が基準になるようだ。

「なるほど。それはそうですね」

ルネが感心している。


「そういうことなら、もう放火されることはないのではないのか?」

もう一度聞いてみる。

「社長が街を出て副市長も手を引くそうですし、街に人にも知られましたから大丈夫といっていいのでは」

レブランが私の方を見る。

「そうだな。地上げ屋の件は解決といっていいだろう」

タスロエンも同意する。それはよかった。

これでネズミ狩りの前に働く必要はなくなった。


「ただ、副市長みたいな人とうちのような出版社が近づくのは、いいこともあれば悪いこともあるのよねー。まあ、これも会社の影響力が大きくなったってことだから仕方ないんだけど」

エルナがつぶやいているが、何をいっているのかよくわからない。


「これで、今回の地上げ屋の件も解決ですね。副市長はちょっと気を付けてないといけませんが」

レブランがみんなの方を見まわしながらそういうと、みんなの表情がちょっと明るくなる。

「そうだな。この集まりもこれで終了だ」

タスロエンが組んでいた腕をとく。


「きっかけはシイラさんですし、最も多くの男らを捕まえるのに協力いただきましたし、シイラさんの活躍が大きかったですね」

レブランが私の方を見る。

他の人間も私の方を見る。みんな笑顔だ。


「まあな」

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