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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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ボディーガードの仕事 その1

エルナと出かける時には、いつも彼女が肩から掛けている鞄の上に乗っている。

今はボディガードの仕事中だが、人間の姿だと剣を持たないといけないし、しばらくは一緒にいることになるので目立たない猫の姿でいることにした。


鞄の上に乗るのはいつもの通りだが、後ろから襲ってくるやつを警戒しないといけないので、後ろを向いて座っている。いつもと違うところはもう一つある。鞄の上に乗っている時、たいていの間は目を閉じていて半分眠っているような感じなのだが、今回は護衛なのでそういうわけにもいかない。護衛の仕事は出かける時だけなので、エルナにはあまり出かけないでもらいたいものだ。


通りを歩く人は多くにぎやかだ。例の新しい洞窟が見つかってから冒険者やら剣士が大勢街に来ており、ゴブリン騒ぎがあってからはさらにその数が増えたようだ。白兎亭の中庭で寝起きしている人間も常にいる状態だし、アリナさんがベッドを増やす方法はないかいろいろと検討しているという話も聞いた。


ということで、通りを歩くエルナの鞄の上で後ろを見ているが、さっきから男がついてきているような気がする。通りに人は多いが、その男はずっと見えている。まだちょっと離れているが怪しいことは怪しい。そいつだけを気にしているわけにもいかないので、時々体を起こしてあたりを見回すようにはしているが、その男以外にずっといるような人間は見当たらない。やはりその男は怪しい。注意しておくか。


出かける前に聞いた話はこうだ。

出版社は記者、取材したり記事を書いたりする人間のことをそういうらしい、が出かける際には、必ず護衛を付けることに決めたのだそうだ。出版会社の人間は剣士ではなく戦いは苦手なので、会社の建物には警備の人間を雇い、記者にはそれぞれ剣士を警護につけるのだという。私はエルナ専任として雇われたが、他の記者の場合は特に誰が誰を護衛するとは決まっていないとのこと。


エルナの会社で今つくっているニュースペーパーとやらでは街の拡大と地上げ屋の記事を書いており、連中がこれを妨害してくる可能性が高いということで護衛を雇うことに決めたのだそうだ。暴力による脅しに屈しない場合は、命を狙ってくる可能性もあるのだという。出版社の仕事も危険なのだな。


護衛として雇われたのでお金をもらえる。1日1アランだ。1アランというのは100シルバと同じ。白兎亭の大部屋が1日4シルバだから、10日で40シルバ、20日で80シルバ、後20シルバ余る。20は40の半分だから10日分の半分で5日分か。つまり1日で大部屋25日分のお金ということだな。ギースによると悪くない賃金だそうだ。出版社というのは儲かってるんだな、ともいっていた。

それと、警備やっている間はネズミ狩りができないので、白兎亭にも私を雇う分のお金を払うそうだ。以前ライゼルに出掛けた際に、レブランが支払ったそうだがそれと同じか。アリナさんはよろこんでいるそうで、いつでも私に仕事を依頼してくれといっていた。


ということで、しばらくはエルナと一緒に行動することになった。夜もエルナの家で寝泊まりする。これまでも何度か尋ねたことはあるが、以前の同居人の部屋のような雰囲気がある。


さて、さっきから注意している男だが、距離を詰めてきた。剣は持っていないようだが、右手を服の中に入れている。何かの武器を手にしている可能性がある。

鞄の上で体を起こす。エルナにも知らせておくか。

「みゃあ」

怪しい男が近づいてきているぞ。

言葉は理解できないから、後ろで何か見かけたら足で体を押すことにしている。

「ん?」

私が体を押したのに気づいたエルナが足を速める。男も速度を上げついてくる。やはり後をつけているようだ。

左の前足でエルナの体を二度叩く。エルナが走り始める。取り決めた通りだ。男も追いかけてくる。

私は鞄から通りに飛び降りる。男は私の方を見ていない。好都合だ。

見ると男は手に小さな剣を持っている。後ろから刺そうとしているようだ。では、私も後ろから襲わせてもらうか。


男の後ろに回り込む。男がさらに速度を上げたところで飛びかかる。腰のあたりをめがけて鋼鉄の爪を振り下ろす。私の得意技だ。

「んあっ!」

ベルトを切断された男は下半身用の服がずり落ち、走っていた勢いで通りに倒れこむ。

「なんだ?」

「おい、大丈夫か」

「剣?」

「剣を持ってるぞ!」

通りを歩いていた人間が慌てて逃げだす。この隙にエルナを追いかける。走り回る人間の足元を駆け抜けエルナに追いつくと、鞄に飛び上がる。

「あ、シイラちゃん、大丈夫?」

「みゃあ」

問題ない。

「剣って聞こえたけど、シイラちゃんのおかげで助かったよ」

エルナが振り返る。

「みゃあ」

まあ、それが仕事だからな。

「急いで逃げないとね」


走って逃げる人間に紛れて一緒に通りを走るエルナ。

しばらくして街の広場に到着。どうやらギルド本部に向かっているようだ。

中に入るとレブランがいる。

「どうもエルナさん。走ってきたんですか? あ、シイラさんも一緒ですね」

「剣を持った男に襲われそうになって、シイラちゃんに助けてもらったんです」

「え?」

レブランが驚いている。

「それは大変でしたね。まあでも、さすがシイラさんです」

「みゃあ」

まあな。


「みんな来てます。こっちです」

レブランの案内で階段を上り二階に登り廊下を奥の方に進む。

「ここです」

レブランがそういうと扉を開ける。

会議室のようだ。中には3人いる。出版社のルネと、もう一人の男は確か憲兵団のタスロエンという男だな。以前泥棒を捕まえるのに協力した際に出会った。もう一人は知らない女だ。


「こんにちは」

エルナが挨拶しながら部屋に入る。

「あ、その猫ちゃんですね!」

知らない女が私の方を見る。

「はい。シイラさんです。シイラさん、こちらは市役所のリリアナさんです」

レブランが女を紹介する。

「はじめまして、リリアナです。よろしくね」

リリアナが私の方に手を延ばしてくるので私も前足を出す。握手というやつだな。猫の手では握れないが。

「みゃあ」

よろしく。


「さて、ここには憲兵団、市役所、ギルド本部、の若手、そして出版社の関係者が集まっています」

レブランがテーブルを囲む人間を見回す。

「それと、シイラさんもですね」

私の方を見るレブラン。


「例の地上げ屋、メルデルス商会の社長ですが、憲兵団に連れていかれましたが結局釈放されました」

そういうとレブランは集まった人間を見回す。

「公式には証拠不十分ということだが、上からの指示で捜査を中止にされたって話だ」

これはタスロエン。

「やはりそうですか」

レブランが反応する。

「ああ。単なる酒場でのもめごとで捜査は不要ってことだ」

そういうと肩をすくめるタスロエン。


「その会社、市役所でも名前は時々聞くんですよ。街の拡大計画に関わってるんです」

市役所で働いているというリリアナがいう。

「それに、そこの社長が副市長と一緒にいるところをよく見かけるんですよね」

「副市長?」

エルナが言葉を繰り返す。副市長というのは市長、つまり市のボスのようなものか。

「あいつか」

タスロエンがつぶやく。なんか不快そうな感じだな。

「どんな人なんですか? 副市長って」

エルナがたずねる。


「えっと、いろいろあるんですけど...」

リリアナがちょっと困ったような表情になる。

「エドラルド商会の会長でもあるんだが、街の拡大で大儲けすることは間違いない」

タスロエンがいう。

「それと、とにかく横柄(おうへい)で若い女子職員を見ると近寄ってきて触ってくるんで嫌われてるんです」

リリアナが不愉快そうにいう。

「そんな話も聞きますね。相手が男だとよく怒鳴るそうです」

レブランが付け加える。リリアナが肩をすくめている。

怒鳴るというのは大声を出して威嚇することだったか。人間は時々びっくりするような大きな声を出すからな。


「なんでそんな人が副市長になれるんですか?」

エルナがレブランに質問する。

「副市長はガレス会っていう町の有力者の組織が選ぶんです。まあ、これも三つの派閥があるんですけど、基本は利益誘導系の人が選ばれるんですよね」

「そうなんですね」

エルナが手帳に何か書いている。


「副市長の会社は建設やレンガや木材の扱い、それに人の手配までいろいろやってますから、街の拡大で大儲けすることは間違いないんです。もちろん、同じような会社は他にもありますし、副市長の立場で自分の会社が有利になるようなことをするのは厳密には違法なんですが」

「違法なら逮捕できないんですか?」

エルナが追加で質問する。

「同業他社にも仕事をまわしたり高い価格を維持したりとかして、誰も損しないように立ち回ってるんです。それに今この街は景気がいいですから誰も文句いわないんですよ」

レブランが説明する。よくわからないが、その副市長は自分だけが得するのではなく、他の人間も得するようにしているのか。いいやつなんじゃないのか?


「でも、街の拡大には税金が使われるんですよね」

エルナがいう。税金とは何なのだろう。

「壁や道路、下水の建設はそうですね。その建設にも副市長の会社が関わりますが」

「市民の税金が副市長の利益に使われてるなら問題ですよね」

「まあ、そうなんですけど証拠は残してないでしょうし、みんなそれなりに儲かるので問題視されないんですよね」

それなら何も問題なさそうだが。


「なるほどー。そんな感じなんですね」

腕を組むエルナ。

「でも、そんなセクハラ、パワハラな副市長は辞めさせたいですよね」

そういうとレブランの方を見るエルナ。

「セクハラ?」

レブランがちょっと驚いたような顔をする。これは私も聞いたことない言葉だ。

「あ、ここにはそんな言葉はまだなかったですね。要は偉そうなスケベじじいは副市長にはふさわしくないですよね」

「ははは。まあそうですけど、違法じゃないですからどうしようもないですね」

レブランがこたえる。


「まあ、とにかく、地上げ屋の件だな。脅しや放火、破壊活動は明らかな違法行為だからな」

しばらく黙っていたタスロエンが発言する。

確かに、そもそも警備をしないといけないことになったのもそれに関係している。


「何があれば社長とか副市長を逮捕できますかね」

レブランがタスロエンに尋ねる。

「実行犯は雇われたやつらだし、口頭で指示されただけならなんとでも言い逃れができるだろうな」

タスロエンの言葉にみんな考え込む。どうしようもなさそうだな。襲ってくるたびに撃退するしかなさそうに思うが。


「証拠なしで憶測で記事を書く、って方法もあるんですけど、それだとこっちが危険なんですよねー」

みんなエルナの方を見る。

「となると、やっぱりこの街の歴史の紹介から始めて古い通りを残すのは大事ってことを街の人にわかってもらうしかないかなー。地道だけど」

うなずくレブラン。

「まあ、それはそれでいいと思うが、襲ってくる連中を片っ端から捕まえて誰から指示されたかを調べるのも重要だな。そういった連中はちょっと痛めつければすぐにしゃべるだろうし、何人も調べればみんな同じ奴から頼まれたってことになるかもしれない」

これはタスロエン。

「そういうのも違法じゃないんですね」

エルナがちょっと驚いたような表情だ。


「そうですね。狙われている白兎亭のある通りに張り込んで、問題を起こすやつらを片っ端から捕まえる、ってことですすめますか」

レブランが提案する。

「じゃあ、雇った剣士らにも張り込んでもらうよう、うちの社長に話してみますね」

これはルネ。警備に雇った剣士らのことか。

「追いかけるのはシイラさんが得意ですから、犯人の追跡に協力をお願いします。エルナさんの警備は別の剣士に頼みましょう」

レブランがいう。なるほど。まあ、走るのは人間より早いし人ごみを駆け抜けるのも得意だ。

「みゃあ」

任せておけ。

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