16 悪趣味、そして逃走
「「却下」」
てっきりそう言われたから今日もヴォル兄様か、ヴァン兄様が私の着替えをするのかと思ったのだが、
二人は早々にレティーシャに別部屋に連れていかれてしまった。
なので、私がルーナになってから人生初
メイドさんによるお着替えの開始、であるのだが…
「お嬢様、今日のドレスはどうなさいましょうか?」
「えっ?」
ドレス?
今、私にドレスの事聞きました??
私が何故こんなに驚いているかと言うと、
自慢じゃないけど、この一週間私が自分の服に注文出来たこと無いから。
えっ、だって全部兄様達の好み?に仕立てられていたんだもの。
服の色くらいは何度か提案するも、聞いてもらえた試しがないし。
(大体は兄様達とお揃いになるように着させられていたから)
…なので、結果私は自分の服の色すら未だ選んだことがない令嬢なのだ。
「お嬢様は肌が白くいらっしゃいますので、濃いお色のドレスなんてステキなんじゃないかと思うのですが」
「えぇっと…わたしは、なんでもいいのですが…あっ、なんでもいいは、ごへいがある…?」
うーん、と考えた末に、私は目についた一着を指差す。
私が適当…ゴホッゴホッ、失礼。
真剣に選んだドレスは、ショッキングピンクのフリル満点ドレス。
…あらっ、よく見ると適当に選んだ割に可愛いんじゃない?
私、ルーナによく似合いそうだわ。
「えっ…こちら、ですか?」
「ピンクが、かわいいとおもいます」
「えっ、えぇっとですねお嬢様、そちらのドレスは少々常軌を逸し…あっ、いや、お嬢様にはお似合いかもしれませんが、私の技術が足りないばかりにコーディネートの方が難しく…」
おいおい、今常軌を逸してって言ったよね?
私の趣味が悪いってかっ!
失礼な!!
…えっ、待って。
私ってそんな趣味悪い?
もしかして、たまーに兄様達に服の注文つけると、怪訝な顔されてたのは私の悪趣味のせい??
「じ、じゃあ、あっちの…」
「おっ、お綺麗なお色ですね。ですが、お嬢様には…」
マジか、全部却下されるぞ?!
それなら選んでもいい服だけ置いておいてよ!?
「な、ならあれは…!?」
「お嬢様そちらは…」
…
……
………
真剣に選んでも却下とは…
最早、私の悪趣味確定じゃないか。
…それにしても、服一着、一着選ぶだけなのにさっきから長い。長過ぎる。
このままじゃ、午前中一杯『着替える服を選ぶ』だけで終わっちゃうんじゃないの?!
それもこれも私の趣味が悪いせいなのは、もう言うまでもないけど…
このメイドさんだって少しは悪いと思うのよ?
だって、私が選ぶ服選ぶ服切り捨てるし…
まっ、まぁ私のせいなんだけど。
でっ、でも、最初っから、似合わない服はちゃんとしまっとけば良い話じゃない?
そう思うでしょ?!
あ、あぁっ、もうこうなったら似合わなくっても良いっ!
着るのも、笑われるのも最終的に私なんだものっ!!
それに、服を選ぶだけでこの長時間よ?
私の時間は無限じゃ無いの。
それこそ、自分を着飾るために使う時間があるなら、私は日常エンドを目指すためのフラグ折りに時間をかける。
…まぁ、普通のご令嬢だったら、婚約者や未来の旦那様候補のため、自身を着飾る重要な時間なのかも知れないが、(ゲーム内ではルーナも楽しそうにドレスを選んでいた)生憎私にそんな必要も知識も、ましてやこの時間を笑って過ごす耐性もないのだ。
ほらっ、それに服は着れれば何でも良いし。
…えっ?
その割に自我が強いですって??
もう放っておいて頂戴っ!
「おっ、お嬢様はどんなドレスもお似合いになるから、あぁーっ、どれにしましょう?!」
「…どんなのでもにあうなら、さいしょのでいいとおもうんです」
「……」
「……」
私の趣味が悪いばかりに、この沈黙が辛い…
はっきり言って私はドレスなんて良くわからないし、動きにくいから出来れば着たくない、と言うのが本音だ。
今は寝間着を脱いで、白のインナー(ワンピースキャミソール)
早く言えば下着だけ、と言う格好なのだが…
「…あ、あぁっ、久しぶりのお嬢様のお着替え、腕がなりますわぁっ!」
腕がなる割には、顔が引きつってるよメイドさん?
…はぁ。
何か私、このままでも十分いい気がしてきた。
だって、動きやすいし。
ワンピースキャミソールって言ってるし。
上等な布使ってるから、見た目薄めの普通のワンピースよ?
それに、私とこのメイドさんとは、絶対的に趣味が合わないみたいだし。
…
……
………うん。
もう、これでいいや。
幸い、口煩い兄様達もここには居ない。
「わたし、このままでいいです。メイドさんはおしごともどってくださいませ」
「…えっ、お嬢様っ!?」
私はそのままメイドさんを残し、父様達の部屋を目指して走り出す。
着替えや食事より大事なのは父様達に早く会って、家庭教師を手に入れること!
別に全裸で走り回っている訳じゃないんだから、このままで会いに行ったって構わないでしょ?
それに、ちゃんとパンツは穿いてるもの!!
「おっ、お嬢様、お待ちください!!」
メイドの声を背に受けながら、私はそのまま部屋を後にした。
**********
私が部屋を出てから早、10分。
「……ここ、どこっ?!」
私は早々に迷っていた。
自分の家で迷うってどうなのよ、もうっ…
こんな格好をしているのがバレたらメイド、執事には確実に自室へ連行されること待った無し。
早いとここのまま父様達に会わなければ…!
因みに、あのまま服をきちんと着て父様に会う選択肢もあったのだが、私は将来のためにそれはパスした。
何故かと言うと、日常エンドでの私はとんでもないお転婆令嬢なのだ。
どこの家からも縁談を断られるようなじゃじゃ馬。
勿論、じゃじゃ馬が王配に就くことは万が一にも無し。
兄様達が居ると、まずこんな事出来ないし(100%捕まる)メイドさんも服選びが異様に遅いので、突発的に決行したのだが…
「…いえのちずでも、つくってからにするんだったかしら?」
早速詰んだ感も、待った無し。
固有スキルの方向音痴発揮しちゃってるわよね、これは。
「さてさて、これからどうしたもんかしら?」
よくよく考えてみると、私が行った事があるのは食堂、自分の部屋、兄様達の部屋、お風呂、中庭…
あらっ大変、片手で足りたわ。
勿論、父様達の部屋がどこにあるかも把握していませんし、把握していたとしてもこの固有スキルで、きっと辿り着くのも難しいでしょうね。
現に、今は食堂に向かおうとしているのだけれど…
「あらっ?」
綺麗な花が沢山咲いている中庭に到着!
うん、前迷った時も思ったけど家の庭師いい仕事してるじゃないのっ!
ほらっ、一面に植えられた色とりどりのこの花なんて
…何か分からないけど、とっても綺麗だし
…
……
………
おっと、いけないいけない。
花を見て、現実逃避している場合じゃないのよ私
早く父様達の部屋を見つけなくっちゃなのよ!
「…でも、てがかり0なんだよねぇ~」
すくっと立ち上がった私だが、また膝を抱えるように座り込んでしまう。
むーーーーーーー。
もうっ、こーいうときは普通お助けキャラ出てくる所じゃないの?
ほらっ、庭師のお爺さんとかお爺さんとか…
『こりゃあお嬢様、どうかしただんべか?』
そう言って私を颯爽と助けてくれる、イケメンお爺さん。
略してイケジジ!!今こそ貴方の出番よ…!
「………まぁ、そんなキャラつくってないんだけど」
結局、私には歩く以外の選択肢はないのだ。
グダグダ言ってないで歩きましょ、
っ…!!?
「危ない!!」
段差もなにもないのに躓くのは、私のお約束なのかしら?
顔面から地面へのダイブ…
私は、父様の部屋への第一歩を、盛大に踏み外した。




