12 動き始める…?
「にいさま、あまりくっつかないでください」
「だって、ルーナのぷにぷにのほっぺが僕を離さないんだよ?」
「そういうヴァンにいさまのほっぺも、じゅうぶんぷにぷにですよ!?」
「…うーん、ルーナのほっぺたぷにぷにで気持ちいいなぁ~」
「きいてますかヴァンにいさま?」
お風呂から出ると、一緒に寝ようと言う兄様達に即捕まり、今はベットの上でヴァン兄様に頬っぺたをスリスリされている私。これは一体…。
そして、ヴォル兄様は何をしているかと言うと、私達の後ろで順番待ちをしている。
何を、と思うだろうが今兄様が待っているのは、私との頬っぺたスリスリの順番だ。んなもの待つ価値もないと思うのだが…
「んー、やっぱり僕のルーナはとっても可愛いなぁ」
「ヴァン、そこは俺達のルーナな?」
「…ヴォル細かい」
「今からちゃんとしとかないとな。いつの間にか『僕だけのルーナ』とかお前言いそうだし?」
「……………ソンナコトナイヨ?」
「そうだと良いけど?」
「………」
「………」
…あの、そろそろ本当離してくれませんかね?
今まで順番を待っていた筈のヴォル兄様まで、いつの間にか頬っぺたスリスリ戦争に参戦してるんですけど?
何ですか、これは。
両手に華ならぬ、両頬に頬っぺですか?
これ、けっこう苦しいんですけど。
てか、私の顔の形変形してません?
「にいさま、そろそろはなれてください」
「ヴァンが先に離れろよ」
「そこは可愛い弟に譲ってよ、お兄ちゃん?」
バチバチバチ。
もうっ、どうしてこの兄弟仲良く出来ないのかしら。
あぁ、こんなことになるなら仲良し兄弟にしておけば良かった…。
…いや、仲は良いのよね、仲は。
だって私がルートに入らなければ、仲良く二人で国を納めるんだもの。
あるルートのエピローグには、そうしっかり書いたし。
ただ、ルーナが、私が居なければと言うのが大前提なんだけど。
…まぁ、設定上この二人は一番近しいライバル同士なのだ。幼少の時からルーナに恋心をお互い抱いている設定。
火花バチバチでも、何ら可笑しいことはない。
「ルーナは僕の方が好きだよね?」
「そんなの、俺の方に決まってるだろ」
「いや、僕に決まってるだろ!」
「いや、俺だね」
兄様達が、そんなどうでもいい攻防を繰り広げていると、コンコンと、控えめなノック音が部屋の中に響いた。
…兄様達は、言い争いに夢中で気づいていないようだ。
私は、その隙に兄様の腕からうまく抜け出してドアに向かって返事をした。
「はーい?」
「お嬢様、少々よろしいでしょうか?」
そう言いながら入ってきたのは家のメイドの1人だ。
見た目と、その落ち着いた雰囲気から何だか「ばぁや」と呼びたくなるのは、きっと私だけではないはずだ。
「就寝前に申し訳ありません。ですが、明日には旦那様と奥様がそれこそ朝一で帰っていらっしゃると連絡がありました為…」
「とうさまと、かあさまが?」
「はい。お嬢様の為とはいえ、お二人とも一週間も家を開けることはありませんでしたから」
それは嬉しい報告だ。
一週間手詰まりだった私の計画が今動き出す!
父様達が帰ってきたら早速家庭教師を頼まなければっ。
そう一人で意気込んでいると、私の頭の上にずしりとした重みが…
「あれっ、レティーシャじゃないか」
「あっ、本当だ」
「にいさま、おもたい…」
抜け出した筈の腕に、またしてもホールド。
私の頭の上に乗せられた頭は、私が重いと言うや否やすぐにどかされた。
…が、後ろから抱き締められる手は離れなかった。
そのままヴォル兄様は胡座をかくと、そこに私をひょいっと乗せる。
うん、いつもの抱っこスタイル…。
「レティーシャが部屋に来るなんて、どうかしたの?」
「就寝前に大変失礼と思いましたが、早急にお伝えした方が良いと思いまして。明日の朝、旦那様と奥様がお戻りになられます。」
「もう一週間かぁ。ルーナ良かったね」
「帰ってきたら、すぐ誕生日パーティー開いてもらわないとな!」
そう言いながら、ワシャワシャとヴォル兄様が私の頭を撫でる。
忘れていたが、そう言えば3歳の誕生日とか言ってたっけ…
「そっ、そうですね。たのしみです。…ところで、レティーシャ?とうさまとかあさまはどんなひと?」
私の容姿を見る限りでは顔面偏差値はかなり高そうだが、性格はどうなのだろう?税金滞納して脱税とか、大丈夫よね?
私の書いたルートには、没落展開無かったけど…
王道よね、貴族の没落って。
「とても良い方達で御座いますよ。民にも慕われておりますし、税だって、執事長にもっと増やすべきだと散々言われてる位でございますから」
「そのわりにごうせいな、いえね?」
「家?もしや調度品の事でございますか?」
「このベットとか。つつましいせいかつとはいえないんじゃないの?」
「それは、お二人が冒険者時代の貯金を切り崩しておいでですから…ここだけの話ですけど、おじょう…いえっ、奥様はお嬢様が産まれるまでは手がつけられないほどのじゃじゃ馬でしたんですよ?」
クスクスと、ばぁやはとても楽しそうに笑ってみせた。
「母さん、今は国の宝なんて言われてるけど相当ヤンチャだったらしいぞ?」
「そうそう。昔の仲間に会ったら100%気付いてもらえないらしいよ?」
「えぇ。何せ魔王を追い詰めたパーティーに入っていた位ですから。本当に、本当に旦那様とお嬢様には感謝しております。奥様は、お嬢様を身籠られてからは本当に落ち着いて下さって…」
レティーシャの話はとても長くなりそうだ。
それに兄様達の事を織り混ぜると嘘が多いため、(今は、私の実の兄弟設定だから)ここは私が書いた設定と共に、かいつまんで説明する事にしよう。
**********
ルーナの母親は貴族のご令嬢だが、元S級冒険者でもあった。
何故かというと、結婚相手に不満があった為に家から逃げ、ギルド登録。
元々の能力の高さから、冒険者としてあっという間にその名を馳せてしまったのだ。
まぁ、40も歳上のおじ様との婚約は、16ソコソコの娘にはそれは衝撃的であり、逃げ出したい気持ちはとても分かる…
ルーナの母親、マリア=フェルト・レィリレース。
元々魔術の才能があり、この婚約は、強い子を成すという目的の元に仕組まれたものだった。だがしかし、マリアはこの結婚に反抗した。
マリアだって貴族の娘として生まれたからには、ある程度の政略結婚にもそれなりに覚悟はあった。
義務としても理解はあったのだ。だが、この結婚はマリアの理解を超えていたのだ。
マリアの嫁ぎ先として白羽の矢がたったのは、既に3度の結婚をし、どの妻とも原因不明の死別をしている貴族の男であった。
嫁いだ娘達は皆、うら若き乙女ばかりで子供を産むと10日しないうちに皆原因不明の死を遂げる。貴族の中では知らぬものが居ないほど、それは有名な話だった。
マリアの家は、代々歴史に残るような魔術師を排出している家だ。マリアの両親もしかり、その前も、そのずっと前も、結婚とは強い子を成す為の手段であった。
そう、マリアの前までは。
マリアは自分の結婚相手は自分で決める、と置き手紙一つで10年もの間家出をしていたのは、まだほんの8年前の事。
25の時、勇者のパーティーに加入。魔王を瀕死まで追い詰めるという偉業を成し遂げるも、大怪我をし引退。その時に色々、そう色々あり人生初の恋人もゲットする。そのまま何処かの村で細々と暮らそうとしていたのだが、そうは上手くはいかなかった。
その理由は、マリアの生家にはマリアしか子供がおらず、後継者がマリアしか居なかったから。
マリアの両親が元気だった時は良かったのだが、二人ともほぼ時を同じくして病魔に侵されてしまったのだ。
マリアの両親は病床に伏せながらも、マリアに手紙を書いた。
貴族としての責務をお前もきちんと果たすように、と。
マリアは、結婚相手を自分の自由にするというのを条件に家へ戻ることを決意。
家に帰った後も、一悶着あったのだが話すと永くなるので割愛する。
そして26の時に現在の夫、ルーナの父親であるレイン=フォードをこの家に連れて来たのだ。
結婚して5年経っても子供を成せなかったら離縁するというのを条件に、レインは平民という立場ながらも貴族の仲間入りを果たす。
結婚してからも、マリアはその有り余る元気をもて甘し、度々レインに黙って魔物退治に出掛けていたという。
レインはと言うと、体が弱い彼はマリアの相手はそうそう出来ず、マリアの代わりに家の仕事をしていたという。元々頭の良かった彼は貴族としても優秀だったのだ。
そんな生活を4年した頃、マリア30歳の時、初めて妊娠したのだ。
レインは生まれもって病弱スキルを持っていたため、次は無いだろうとその時に医者に言われたのだ。
案の定、マリアの妊娠が発覚した3日後流行り病にかかり、病弱スキルMaxとなってしまったのは言うまでもない。
*
スキル 病弱LvMax
取得条件 大病を生還した者の証。
効果 とても病気になりやすくなる。
子を成す事は不可能。
*
その知らせを聞いたマリアは、妊娠後あれだけ止められてもやめなかった魔物退治をパタリと止め、貴族として働き出すのはすぐの事。
また、マリアが『国の宝』としての称号を得たのもこの時。
徹底した体調管理により大事に育てられ産まれたのが私、ルーナだ。
フェルト・レィリレース家の長女であり、一人娘。
両親の良いところも、悪いところも一身に受け継いで産まれたのが私だ。
良いところは、マリアとレインの魔力の高さだろう。
正にフェルト・レィリレース家に相応しい能力と言えるだろう。
そして、悪いところはこの病弱スキルだろうか。
確かに父であるレインは病弱設定だったが、ルーナは健康体そのものだったはずなのだが…ここは未だ理解出来ていない。
**********
「ほんと、RPGせっていなんてしてないんだけどな…」
「あーるぴぃじぃ?」
私がボソッと言った言葉に素早く反応したのは、ヴァン兄様。
聞かれても困らないが、説明するのは面倒なのでここはしらばっくれておく。
「どうかしたんですか?ヴァンにいさま」
「ん、ううん。何でもないよ」
どうやら、あまり気にしていないらしくそのままスルーしてくれるらしい。
有り難いことだ。
「じゃ、報告ありがとう。レティーシャはもう下がっていいよ」
そう言い放ったのはヴォル兄様。
普通なら、そう言われたメイド達は直ぐに部屋から出ていくのだが、この時のレティーシャはその場を動こうとしなかった。
「…レティーシャ?」
「…誠に差し出がましいのですが、ルーナお嬢様とは、別々の部屋でお休みになられた方がよろしいかと…」
「…何で?」
レティーシャの言葉に、一瞬にして場の空気が変わるのが分かる。
ニコニコとヴァン兄様はレティーシャにそう問うが、実際顔は少しも笑っていないのがよく分かる。
8歳でこの迫力だ、成人したらどうなるか…
先が思いやられる案件の一つになりそうだ。
「兄妹で一緒に寝る、それの何が悪いの?」
「帰ってきたレイン様が発狂してしまいます」
「あぁ、父さんね…」
納得したように腕を組み、あからさまに考え込む兄様達。
何か考えているようだが、きっとろくなことじゃない筈…
「じゃあ、こうしようか」
ポンっと、名案が浮かんだかのように手を鳴らすヴァン兄様
兄様が言ったシナリオはこうだ。
父様と母様が、長期で家を空けるのは今回が初めての事だったらしいのだが、ヴァン兄様はそこに目をつけた。
ルーナは今回、父様と母様が居ないことに酷く落ち込み、夜、一人では眠れないと駄々を捏ねたと。
…
……
………いやいや、記憶に無いですけど?
「あの、にいさま?わたしだだこねませんよね??」
「んー?ルーナは忘れちゃったのかな?丁度一週間前だったっけ、ルーナ僕達の手離してくれなかったんだから」
「そーそ。一人じゃ寝られないって、そりゃあ大泣き」
「そんなはずは…」
ない。
そう言い切りたいところだが、一週間前と言うのが引っ掛かる。
一週間前と言えば、私がルーナとして丁度目覚めた日なのだ。
あの日は確かに、兄様の腕枕で目が覚めた。
よくよく思い出してみれば、兄様の手を握っていたのは私だったような気がする…
「その日の事は私も記憶に御座います。お嬢様が旦那様と奥様が居ないのならば寝られないと、色々な執事、メイド達に泣きついておられました」
「そんな…」
「まさか、メイドも執事もルーナと一緒に寝るわけにいかないからな。皆困り果ててたところに俺達が通りかかった訳」
「で、ターゲットを変えたルーナに僕達は捕まったんだ」
「兄様、ルーナと一緒に寝て下さい!って。そりゃあ大騒ぎ」
「そう言えば、その日はお風呂もルーナがついてきたんだよね?」
「あぁー、そうそう。レティーシャが止めるのも聞かずにな!」
「それで僕達についてきたは良いけど、自分で服が上手く脱げないってまた泣いて」
「俺とヴァンでなんとか脱がして風呂に入れたんだよな」
「パジャマは、被るだけだったから着せるのは簡単だったよね」
「んで、その日からルーナの日ってのを俺らで決めて、次の日は家庭教師休んで、執事とメイドにルーナの服の着せ方、脱がし方講座と、髪のセット講座を開いて貰って…」
「…にいさま、もうじゅうぶんです」
よく分かりましたから。
私が毎晩兄様達と寝ているのも、お風呂も、朝の支度さえもが自らが原因だと言うことが。
あぁ、今の状態は私が招いたフラグ…
フラグを立てないと言いながら、始まる前からフラグ乱立させる私は天才かっ。
元々の私のルーナちゃんは、お風呂は一人で(メイド)と入ってたし、
着替えも、朝の支度もメイドにやって貰っていた、筈だったのに。
しかも、そのシナリオを壊したのが、自分自身とは全く笑えない。
今からでもシナリオを全力で修正しなければっ。
私の平和な日常エンドの為にも…!
「にいさま、もうわたしないたりしませんので、じぶんのへやにかえり…」
「ません」
「にっ、にいさまっ?!」
「って事で、レティーシャ。父さんへの説明は俺達がするから下がっていいよ」
「そうそう。ルーナは一人で寝るのはまだ危ないからね」
「そんなこと…!」
「そうだ、明日はルーナが気に入ってた泡のお風呂にしてあげるから。しかもスペシャルバージョン」
「にいさま、そういうもんだいでは…」
「ルーナは僕達の事「大好き」なんだから一緒に寝てくれるよね…?」
「…うっ、それは」
それから私は作者としての知識を使い、頭をフル回転して兄様達と戦ったが、すぐに兄様達に言い負かされたのは言うまでもない。
それにしても、なんて口の上手い兄様達なのかしら…?
あぁ、逃げ場が、逃げ場がどんどん奪われていく……




