11 お風呂
「ヴァンにいさま、きょうはわたしがあたまをあらってあげますね」
「本当に?それは嬉しいな」
「じゃ、俺がルーナの頭洗ってやるよ」
「はい、おねがいします」
湯気の中に小さい影が3つ。
あのお風呂事件から6日後、私達は仲良くお風呂に入っていた。
…えっ?
恥ずかしがって逃げていた奴とは思えない?
そりゃあ、あれから毎日抱っこで兄様達と一緒に入ってるんですよ。
後ろから抱き締められて入るお風呂に、私の羞恥心は3日で死にました。
だって、あの日から兄様達タオルで隠す事もしないんですよ?
何を、とは言いませんが…
…でも、羞恥心とはいくつから芽生えるんでしょうか?
それとも、8歳児の男児に羞恥心を求めるのが間違いなんでしょうか?
誰か私に教えてください!
「よーし流すぞ」
「はーい」
泡を流すと、ヴォル兄様は私の髪を素早くタオルで纏める。この技は最早プロレベルだ。
なぜこんなことになったかと言うと、これは2日目に私が『おふろだとかみがからだにひっつくのではいりません!』と言ったからだ。
私の長い髪はそのままにしておくと体にまとわりつく、それを口実にお風呂拒否を試みたのだ。
が、結果はご覧の通り。
『つかないようにするよー』と又も強制連行、今のスタイルに落ち着いた。
これはきっと、メイドの入れ知恵に違いない。
本当なら兄様達が世話をされる立場の人間なのに、これではあべこべだ。
ちらっと隣を見ると、ヴァン兄様が鼻唄混じりに自分で体を洗っている。
王子である彼等なら、本来沢山の侍女達に世話を焼いてもらえるだろうに…
「ルーナ、体洗うからバンザイしろー」
「はーい」
最早、私にも羞恥心など御座いません。
何なら、このまま踊りだって踊れますよ。
そんなことより、今日はヴォル兄様の魔法で、泡風呂の日なので楽しみなのです。
4日目のお風呂から諦めて大人しく入るようになった私ですが、兄様達は私が
『お風呂嫌い』と思ったのか、少しでも入りたくなるようにと、趣向を凝らしだしたのだ。
4日目はフラワー風呂(色んな花弁が浮いてました)
5日目は雷の魔法を使っての電気風呂(これは少し入るのが勇気が必要だった)
そして今日は乙女の憧れ、泡風呂です。
初日は、兄様達と一緒にお風呂で周りを観察する余裕がありませんでしたが、今となっては余裕綽々、兄様達をガン見だって出来ます。
…いや、別にしませんけどね?
「ルーナ」
先に体を洗い終わったヴァン兄様に抱き上げられる。
勿論、湯船に移動する為だ。
自分で歩けると、最初こそ抵抗して逃げたのだが、またそれが良くなかった。
走った事がないと言っても過言ではない私の足は、少し走るだけでも縺れる。そんな私が走った結果は、頭から湯船への華麗なダイブ。
初日に続き、2日目までも兄様達の回復魔法のお世話になる羽目になったのだ。
こんな事が2日も続いてみろ、過保護を絵に描いた様な兄様達はもう私の話など聞いてはくれない。
私の、お風呂の中での移動手段は兄様の抱っこ一択。
まぁ、もとより他の選択肢など用意されてはいなかったのだが…
「ルーナ、100数えるまで出ちゃダメだからね?」
「はーい」
「じゃ、数えるよ。いーち~、にぃーぃ~。ほらっ、ルーナも一緒に数えて?」
「…はーい。さぁん~、しぃーい~」
毎日のように兄様とお風呂で100数えるのだが、実際めんどっ…げほげほっ。
イエ、何でも無いです。真面目に数えるんで睨まないで下さい。
っていうか、口に出してませんよね?何故バレた!?
「さんじゅうさん、さんじゅうしー」
「35、36、37、38」
「ヴォル速すぎ。ほらっ、お前も肩までしっかりつかれ」
「ヘイヘイ。分かりましたよヴァン母さん。さんじゅーくー、よーんじゅう」
「…出来の悪い息子持つと大変だよね、本当。」
ヴォル兄様は、手の上に泡を乗せてフーッと息をかける。すると、泡はシャボン玉になって湯船をフワフワと舞いだした。
…えっ、凄くないですか?!
「わぁー」
「ヴォルの魔力が入ってるからね。このくらいは出来るよ」
「流石、俺だな。出来の良い息子だろ?」
「…まぁ、ルーナが喜んでるからね。そう言うことにしといてあげるよ」
「すごい、すごいです!みてくださいにいさまっ、ばしゃばしゃしてもシャボンだまができます!」
私は自分の手を湯船でばしゃばしゃする。すると飛沫にのった泡がどんどんシャボン玉に姿を変えていく。
…ヤバイ、面白い。
ばしゃばしゃばしゃばしゃ、兄様達が何か言っているが、私の耳にはその声は届かなかった。
そして私の周りがシャボン玉で一杯になった頃、白を貴重にしたお風呂の中も私のばしゃばしゃで出来たシャボン玉で満たされていた。
「る、ルーナ、分かったからあまり暴れないで。飛沫が顔に…」
「ふへっ?」
忘れていたのだが、私は今もヴァン兄様に抱えられてお風呂に入っていた。
前でばしゃばしゃ、遠慮なしに暴れたのでヴァン兄様はそれこそ全身泡だらけだ。
「あわだるま…」
「…もう今日は泡はおしまい。ほらっ、ルーナ、ヴォル100数えちゃうよ」
怒っていないようだが、ここは従った方がいいだろう。
おしまいと言われたときにヴォル兄様が魔法を解いたのか、一瞬にして泡とシャボン玉は消え去った。
あぁーぁ、綺麗だったのに勿体無い…
「はい、55からね。ごじゅーご」
「ごじゅうろくー」
「ごじゅうしちー」
その後もヴァン兄様監修の元、私達は100数えるまで湯船から出られないのであった。




