↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
向井綾菜とカケル日々 - 日替わり欠損体質な彼女は -  作者: 誰時 じゃむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/18

第10話 陰鬱な雨



 大内さんと衝突し、和解したあの後。


 僕は「一緒に考えてみない?」と言う言葉通り、応援合戦について話し合いをしようと席に着こうとした。



 が、それよりも先に大内さんが「で、綾菜とあんたはどういう関係なのよ……!」と詰め寄ってきたことで、僕は応援合戦のことなんか一言も言及させてもらえずに、授業中や駄菓子屋での出来事を洗いざらい話す羽目になった。



「――――なるほど。それで、綾菜と仲良くなったわけね」



 窓際の席。

 僕と大内さんは、1つ机を挟んで向かい合いになっていた。


「集団ダンスへの憧れ、か」


「うん。あの、大内さんって向井さんと一緒にダンスしてるんだよね。それって、どうにか出来たりしそうにないのかな」


「……現実的に難しいのよ。集団ダンスと綾菜の噛み合わせって。前に1回だけ挑んだことがあるんだけど、本番の日に体質のせいで綾菜は片目が見えなくなったの。で、本番はバランス崩しちゃって周りの子とぶつかって音楽も止まっちゃって……」


 そう言って、大内さんは気温差でモザイクのかかった窓から外を見る。


「全部が終わって、1番綾菜を責めたのは綾菜自身だった。私はもう、あの絶望した顔は見たくないわ」


 紫の髪の向こう側、少しだけ大内さんの目が細まる。


「……いや、それを知ってるからこそ、私には言いづらかったのかな」


 大内さんの呟きが、降り続ける雨に飲み込まれていく。僕も少しだけ、そのしんみりとした雰囲気に口をつぐんでいた。



「――――にしたって、ずるい!」



 が、しかし、次に大内さんの口から出てきたのは、教室に漂う静かな空気とは正反対の言葉だった。



「へ……?」


「そのキーホルダー、お揃いだなんて! ずるい!!」


 大内さんはそう言うと、机の上に身を乗り出してぽかんとしている僕を睨む。


「いや、ずるいって……」


「あーあ、私もその駄菓子屋行こうかしら。あ、でも、あんたともお揃いになっちゃうのは癪ね……」


「おいおい、本人を前にして……」


 大内さんは自分勝手に話し出すと、勝手に不満げになって、勝手に口を尖らせる。


「……ま、いいわ。もし下心があると思った時は、切り落とせばいいんだし」


「そうそう。ぶん殴っ……。え? 切り落とす? 何を……?」


「……」


 僕の探るような視線に、大内さんは答えない。


 そして、その代わりに、


「とりあえず、今日は解散しましょ。応援合戦に関しても、まだ具体的な説得材料も揃ってないし」


 と、空気を切り替えるように言って、立ち上がった。 


「あ、一緒にって言ったんだから、あんたも1つくらい解決策を考えてきなさいよ」


 振り返って釘を刺すように言う。どうやら落ち着いたようで、もう大内さんはいつもの調子に戻っていた。


「――――解決策、か」



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そして、現在。

 僕は悩みの中で、帰路についていた。


「うーん、僕もダンスは苦手だしなぁ……。そうそうやりたいとは思わないよなー……」


 パシャッ。

 防ぎようのない雨に晒され、輝きを増したローファーが水溜まりを蹴る。


 それを口にしてしまうと、思考が固まっていくようで、僕は頭を振ってよくない考えを払らう。


「いやいや、逆に大内さんと違ってやりたくない側の意見を持ってるんだから、そこからアプローチして考えてみよう。……やりたくなる、やりたくなる」


 正直、自分が応援合戦に出る立場だとしてどっちをやりたいかと言われたら、どっちもやりたくないと答えるだろう。付け焼き刃の演奏ではたかが知れてるし、失敗する可能性の方を想像してしまう。



 だが、そこで僕は気がついた。



「……ん? なら、やりたくなるっていうか、こっちの方がマシとか簡単そうって思わせればいいんじゃないか? 演奏って、ダンスくらいハードル高いし」



 そう。

 あの放課後の空き教室、大内さんと吹奏楽部が言い合いに発展する時までどちらが良いとも嫌だとも言わなかった他の3人は、どちらかと言えば演奏の方がマシだよねくらいなのだ。



 実際ぶつかり合った時ですら、3人はどちらの援護もせずどっちつかずだった。

 まあ、あと1ヶ月あるから、なんとかなるだろうという楽観もあるのだろうけど。


「しかし、簡単に思わせるってことは、自分たちが踊るのはどんなものなのかっていう具体的な振り付けが必要なのか……。しかも、ダンスの授業とかで恥ずかしそうにやるやつじゃなくって、なるべく見栄えするもの……」



 自分で言えば言うほど、どんどん現実味がなくなっていくように思える。



「それに、こういうのって誰に言われるかも大事なんだよなぁ……。僕なんかじゃ誰お前って感じだろうし、大内さんだとまた吹奏楽部の人たちと衝突しそうだし……」



 僕はなす術なしと言った感じでため息を吐き、項垂れた。


 目の前では、坂の溝を雨粒が1つの川のようになって排水溝へと流れていく。

 こんな時でも、道端の花は懸命に地面にしがみついていた。



 すると、そんな僕の視界の隅で、雨に濡れたカタツムリのキーホルダーが揺れた。



 ――――”現実的に難しいのよ。集団ダンスと綾菜の噛み合わせって”



 次の瞬間、持っていたビニール傘が空へと舞い上がり、僕は濡れる雨に構わず坂道に逆らって駆け出していた。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 身体が重い。


 Tシャツに短パン、布団の中。


 節々に熱が詰まってしんどいのに、掛け布団から暑苦しさを逃がそうとすると途端に自分を抱きしめたくなるほど寒くなる。



 窓の向こうでは、相も変わらず空から町へ雨に乗って憂鬱が降り注いでいる。

 そして、屋根があるというのに、それは私の元へも運ばれてきていた。



 まだ私が自分の体質を個性だと思っていた頃、1度だけ高望みをしたことがあった。



 きっかけは、テレビで見たアイドルグループだった。


 そのアイドルグループはポジション、人気関係なく、全てのメンバーが1つの生物のように感情のうねりと熱狂を表現していた。


 子供だった私は、チャンネルを変えるついでにふと何気なくそれを目にしただけなのに、圧巻のパフォーマンスの濁流に飲み込まれて、画面の前から動けなくなっていた。


 私も、ああなってみたい。

 たとえ、このアイドルグループに入れなかったとしても、誰かと一体になって何かを表現する。その一端に触れてみたい。



 そう思って私は、ダンススクールの門を叩いたんだ。



 その後、夢に梯子を外され、現実を叩きつけられるとも知らずに。



「……ゴホッ、ゴホッ!」


 自分の咳で、うたた寝から目を覚ます。

 どれくらい寝ていたのかは分からないが、身体は幾分か動くようになったようで、身体を起こして水を1口飲む。



 ほっと一息つくと、風が流れ込んできたわけでもないのに身体が震えた。



 初めて舞台に立とうとしたあの日。

 会場を最後に出た私に向けられた「事前に説明されて分かっていたことだから責めはしないよ」という態度。


 それで、私は優しさに冷たさがあることを知った。

 みんなの瞳の奥には、微かに確かに落胆がちらついていた。



 私は、みんなの努力も、自分の成功させたかった気持ちも知っている。

 でも、そんな希望を私は最悪の形で、それも自分の手で切り裂いてしまった。

 いっそ責めてくれればどんなに楽だったか。



 以来、私は1人でダンスを踊るようになった。



 それでもダンスを辞められなかったのは、ダンスを好きになってしまったから。

 それに、1人なら好き勝手大会に出られる。


 今のスタイルが私には合っている。



 学んだことは、人には出来ることと出来ないことがあるということ。

 後悔しているのは、みんなを裏切ってしまったことと誰かと踊る楽しさを知ってしまったこと。



 だから、しがみつくように今でも集団ダンスの授業には顔を出させてもらっている。

 みんなの練習のサポートも好きだったし、たまに欠員が出れば参加させてもらえた。



(……誰にも迷惑がかからないなら、良いよね)



 弱気になるのは、風邪のせいか梅雨のせいか。

 微熱にチラつくトラウマを抑え込むように、私は足を抱えて布団にくるまった。



 ――――バツ、バツバツバツッ……。



 静かな自室。

 責めるように、窓に雨粒がぶつかる。



 ――――バツバツッ……! バツバツ、バツッ!!



 雨音がヒステリックに鼓膜を叩く。

 窓の外を見れば周りにはいくつも家があるのに、顔を上げられなくて目の前は真っ暗。

 どこまでも孤独な気分になる。



 そして、その音に押しつぶされてしまいそうになった時――――。



 ――――ピンポーン。



 私の意識を掬い上げるように、インターホンが鳴った。



 そして、扉を開けるなり、私は面を喰らった。


 それもそのはず。


 だって、ここは私の家で、道草がてら様子を見にくるには、その帰り道からは大きく逸れたところにあった。



「――――あ、向井さん! ごめん、起こしちゃった?」



 しかし、そこに立っていたのは雨に濡れるのも構わず息を切らして走ってきた、隣の席の彼の姿だった。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。