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余命一年恋物語  作者: 榊 珠江
四の御縁 縁結びの女神

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雪降る海

 師走は読んで字の如く、走るように時が過ぎていく。クリスマスが終われば、今度はお正月の準備。そして、新たな一年が始まり、再び日常が動き始める。


 クリスマスイブからというもの、怪しい天気が続いている。温暖な地域に降るはずのない雪が降ったばかりか、積もったお陰で街は大混乱に陥っていた。


 この辺りの人達は車のタイヤを冬用に変えることなどしない。そこに雪が降り積もっただけで、夏用タイヤしか履いていない多くの車が道を走れなくなってしまった。結果、年末というのに交通網は麻痺。世間の人々は慣れない雪のある生活に右往左往する年の瀬を迎えていた。


 一方、私たちはというと、クリスマスからお正月にかけてはのんびり過ごそうということで、雪が揺る前から大量に食料を買い込み悠々と家で過ごしていた。それに、彼は自分の車のタイヤをちゃっかり冬用に変えていたらしく、雪で困ることにならなくて済んでいた。


 内心、余命いくばくもない状態でタイヤを履き替えたのが不思議に思って、それとなく理由を聞いてみたら、どうやら私と雪をもう一度見に行きたかったからだそうな。泣かせてくれるぜ。


 そして私たちはお正月を迎え、断続的に雪が降り続ける中、三が日が過ぎたところで縁結びの大神様が鎮座する神社へと車で向かっていた。私個人的には少々どころか、だいぶ会いずらい気分だけれども、彼はあいさつは大事と言って譲らない。


 結果、私達の初詣は海沿いにある縁結びの大神様の神社となった。神社の周辺は日当たりがいいのか、雪も少なく、社への登拝の道も若干の積雪はあったものの、無事に登り切ることができた。


 彼と一緒に社の前に立ち、歳を越せた感謝と新年を迎えての挨拶をしたが、大神様はそのお姿を表すことはなかった。というか、私が受肉してからというもの、大神様からのお言葉を耳にする機会はまるでなかった。


 こうして、社に参拝してもうんともすんとも言われないのは、逆に寂しくなってくるので、試しに私は大神様に問いかけをすることにした。問いの内容はこれ。彼の余命について。


 前回お会いした時に大神様が仰った、春が立つ頃に命が尽きるというあの言葉の真意。あれは立春、今から数えておよそ一ヶ月後に彼の命が尽きるという意味なのでしょうか。


 それを心の中で唱えると、頭の中に直接言葉が伝わってきた。


 『然り』


 たった一言、そう言われただけだった。


 お言葉を聞いた次の日から、彼の体調に異変が現れ始めた。明らかな衰弱が見られる。急いで彼をかかりつけの病院へと連れていくが、医者は彼の様子を見て首を傾げるばかりだった。


 この奇病は、ほとんどの場合、発症から一年後に死亡する。死亡直前になってようやく身体への影響が見られるようになり、そのほとんどが衰弱していき、枯れるように亡くなるのだという。


 だが、彼の場合は少し様子が違う。死期が早まり過ぎている上、衰弱が始まる時期も早いとのことだ。医者の見立てでも、おそらく立春を迎えられるかということらしかった。


 結末は初めから分かっていた。彼はいずれ病で死ぬ。彼が縁結びの神社へお参りした去年の春から分かっていたはずだ。けれど、改めて彼の運命に想いを馳せるとやるせなくて仕方ない。


 なのに、彼は取り乱すことも、泣き喚くこともしない。医者から病状の説明を受けている最中も、小さくため息をつく程度で、淡々と自分の運命を受け入れている様子だった。


 むしろ、動揺しているのは私だ。余命がさらに短くなったことに衝撃を受けている。病院から家に帰宅した後も、私は心をどう落ち着かせていいものか分からなくなってしまっている。


 ソファでぼんやりと座っている彼にお茶を出しながら、私も彼の隣に座った。不安に負けて聞いてしまった。彼の今の心境を。


「あなたは、死ぬのが怖くないの?」


「死ぬことは、今は怖くないかな。それより、どうしたのさ。そんな震えた声出して。声もいつもよりだいぶ小さいよ」


 彼はにっこりと笑いながら私の髪を撫でている。彼の言動は私を気遣ってくれていることが痛いほど伝わってくる。


「姫子の存在が、俺の死への恐怖を和らげてくれているよ。だって、死ねば終わりじゃないし、あの世に行っても姫子に会えるでしょ?それに、この病気は苦しむことはないらしい。そう考えると、怖さはないよ。無念とか未練はちょっとはあるけどね」


「そっか。すごいね。半年前は泣きべそかいてたくせに」


「あ〜、そうだったね。でも、姫子がそばにいてくれたおかげで、冷静に自分の死と向き合えたと思うよ。ひとりぼっちは、しんどいからね。ありがとう、一緒にいてくれて」


 彼の屈託のない笑顔と感謝の言葉に、目頭が熱くなる。


「私の方が、あなたの死を恐れてる。頭では分かってる。これはどうしようもないことなんだって。死んでもそれで全てが終わるわけじゃない。《《あちらの世界》》に渡っても、私達は離れ離れになるわけじゃない。なのに、私はあなたに死んでほしくないと思ってる。生きていて欲しいと願っている。それが、苦しい」


 本当にどうかしてしまったのだと思う。岩のような姿に化けて彼と一緒に過ごしていた頃は、彼の死を冷静に受け止めていたはずなのに、こうして彼と一緒に過ごすようになってからというもの、私は人間としての感情に振り回されている。


「いいんだよ。人生はいつか必ず終わりを迎える。俺にも、いよいよその時が来たってだけさ」


 達観する彼の言葉に、それ以上答えることができず、私は彼に縋り付いて泣き声を押し殺すことしかできなかった。私の背をさする彼の温もりが、私の心を慰めている。

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