姫子の話 2
「姫子、ずっとそばにいてくれてありがとう。俺は孤独じゃなかったってわかって、とても嬉しいよ」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「謝ることないじゃないか。でも、あの世でもそんな不思議な出会いがあったのか。ご縁てものは奥深いものだね」
「そうね。そして、神様のお手伝いを始めて早々、あなたがあの神社へやってきた。なんのお願いするのかと思いきや、まさかあんなお願いをされるとは思わなかったけど」
「冷静になると、だいぶ恥ずかしいよな。あんなお願いをまさか姫子に聞かれてたなんて」
「今更よ。気にするだけ損てこと」
「それにしても、縁結びの仕事を姫子が手伝ってたのはいいけど、縁の結び方がちょっと方向性がずれていたというか、あれはまだ姫子が縁結びに慣れていなかったってことか?」
「お恥ずかしい限りで・・・。ただ、言い訳をさせてもらえれば、一応、大神様には相談の上結んだのですが・・・」
「不思議だよな、三人目なんて、大神様と念入りに打ち合わせしたにも関わらず、結局イチャイチャ出来ず仕舞いだし、あれは何だったの?」
「そう、それ!私も思った!あなたを女とイチャイチャさせるはずが、なんかプラトニックな方向に話が進んでいくから、おかしいと思ったのよ!でも、今なら、大神様の意図が少しわかるかも」
「と、言いますと?」
「大神様が言ってたでしょ。あなたの本心を見抜いてたって。死んでいる私とあなたを会わせるなんて、本来できるはずがない。でも、その願いを叶えるために、あなたに先に働かせたんだと思うわ。
私から見ても、あなたが今まで会ってきた子たちは、大なり小なり心に傷を抱えていた。それを、あなたは癒したのよ。加えて、あなたは、あの子たちに財産を譲るつもりでしょ?それが功徳となって、あなたの願いを叶えることができたんじゃないか、って私は考えてる」
「まぁ、話の辻褄は合うのかな?でも、それにしちゃあ大盤振る舞いな気もするけど」
「そう、それ!それも私思った!ただ、大神様の深い考えは、私みたいな人間に近い存在では到底計り知れないし、違う考えなのかもしれないけど。多分、私の頑張りが求められているんだと思う。あなたの残り時間をいかに有意義なものにしてあげられるか。それが、私に課せられたお役目だと思ってる」
先ほどとはうって変わって、今度はやる気に満ちた表情だ。俺の余生を有意義にしてくれようとしていることは、もちろん嬉しい限りだ。俺の余命も半年を切っている。だが、これだけあれば、彼女とやりたかった事、やってあげたかった事ができるかもしれない。いや、やるのだ。
隣に座る姫子が俺の肩に頭を預けてきた。どことなく、疲れているようにも見える。
「大丈夫か、姫子。なんだか、かったるそうにも見える」
「あっ、ごめんね。やっぱり肉体に魂が入ってると、重く感じる事があって、まだ慣れてないみたい」
「あの世の生活に慣れると、そういうものなのか?」
「そういうものよ」
ふと、姫子の香りが鼻をくすぐる。小さな吐息が聞こえてくる。そして、俺の手に姫子がそっと触れてくるのだった。忘れかけていた男の本能が五感によって刺激される。
気がつけば、自ずと股座に住まいし象が目を覚まし、血走ったその鼻を天へと突き上げていた。自分でも驚くほどの象の威容に姫子も気づいていた。横目でしっかりと見つめていた姫子は、ただ一言、いいよ、と俺にそっと耳打ちをし、ベッドへと俺の手を引いて向かうのだった。
願いというものは、叶ってみればあっけないものだ。姫子にもう一度会いたいという大願も成就し、おまけにイチャイチャの願いまでここに叶うことと相成ったのだ。
お互いにとって、十数年ぶりの行為に、燃え上がらないはずもなく、その夜は、ただひたすらに愛しあい、生の特権ともいえる肉欲に耽るのだった。




