夜の秘め事
「教えて。君にとって私は女として見えるの?」
「えっ?あ、はい。もちろんです」
辰姫さんは驚愕の顔を見せつつ、みるみると顔が赤くなっていく、静々と椅子に戻り座ったかと思えば、髪を指でくるくるといじり始めた。
「君って、そんな大胆な人だっけ?結構ビックリかも」
「大胆というか、実は俺は辰姫さんにお伝えしたいことがあります」
俺は腕を組み、辰姫さんを正視する。一方、辰姫さんはオドオドしながら潤ませた目で俺を見据える。
「へっ?!な、なんでしょうか?!」
「辰姫さんは自分を卑下しすぎだ。特に年齢に関して。あなたはそんな卑下するような女性ではない。十分綺麗だし、魅力もあるのに、年齢を理由に卑下するなんて、それはあなた自身への冒涜だ。もっと胸張ってください」
「えっ?あぁ、はい・・・。っていきなり何の話をしているの?」
「初めて会った時からずっと思ってたんですよ。この人、やけに自分を卑下するなぁ、って。でも、会話の端々で卑下してるから、そんな時は決まって寂しそうな顔してて、どうにかしてあげたいと思ってたんですよねぇ。だから、言います。あなたは女性として魅力的だし、美しい。自信を持ってください!」
目をまん丸くして話を聞いていた辰姫さんだったが、次第に顔が緩み静かに微笑んだ。
「ありがとう。まさかそんなこと正面きって言われるとは思わなかった。そう言ってくれるのは素直に嬉しいよ。ありがとね。でも、ごめん、私にはその言葉が受け取れないんだ・・・」
そう言うと、辰姫さんは缶ビールを手に取り蓋を開けたと思ったら、一気に飲み干してしまった。
「実は私さ、結婚する前は結構モテてたんだよね。男に困る事はなかったし、言い寄る男をどうやって遠ざけるか、そっちの方が悩みだったくらいでさ。でも、旦那と結婚して、死別して、それからは全く浮いた話はなし。さすがにこれでは私の女としての価値を感じることなんてできないよ〜」
辰姫さんはさらに缶ビールを開け、酒を煽る。
「だってさ、みんないい人ばかりなのよ。ここに来る若い子は私の事は母親か親戚のおばさん扱いだし、近所の独身男性農家からは同業者としてしか見られないし、そもそもこんな山の中で毎日畑と向き合ってると出会いなんかそもそもないし。男にモテたのは今や昔の話。いつの間にか、わたしゃ未亡人のモテないおばさんになってましたよ」
また酒のペースが一段と早くなっている気がするが、大丈夫だろうか。俺の予想だが、おそらく辰姫さんがモテない理由は、別にある。そして、もっと単純な理由だ。
辰姫さんが酒でへべれけになりつつあるのをいいことに、俺は彼女の胸元をこれでもかと観察している。なんといっても、キャミソール姿の今なら、そのたわわな胸が拝み放題なのだから。だが、拝めるのは、それだけではない。胸に広がる刺青もしっかりと目に入る。この刺青が厄介だ。気合いが入りすぎてる。
特に、辰姫さんは私服はもちろんのこと作業着姿でも胸がたわわだからか、よく胸元が広い格好を好んでしている。男からすれば、ありがたい物を拝ませていただけて感謝感激雨霰であるが、一緒にそのゴツい刺青まで目に飛び込んでくれば、一体どんなヤンチャをしているお人だろうか、と思われたとしても不思議じゃない。
俺が安心して辰姫さんと会えているのは、他でもない、縁結びの女神のお墨付きがあるからだ。たとえ刺青が無くとも、この目力あるキリッとした目に元ヤン独特の圧を漂わせる美人を前にして、臆さぬ男がどれだけいるのだろうか。女神によって縁が結ばれていなければ、俺だって近づこうとは思わない。
だが、この一ヶ月間辰姫さんと過ごしてみて感じたのは、彼女はただの気風のいい綺麗な年上のお姉さんということだ。
「辰姫さんは心配すべきは、年齢だの見た目ではないですよ。人間、中身が肝心です」
何かを誤魔化しているようで、少々、罪悪感がある。その刺青が原因なのでは?などと言えるわけがない。俺だってまだ彼女のことを深く知っているわけじゃない。どんな経緯で、どんな思いであの刺青を彫ったのかすら知らないのに、軽々しく言及するのは、どうも違うと思うからだ。
「君がそこまで言ってくれるのなら信じたいけど、口だけだとちょっと弱いかな。何事も行動で示さないと、信用されないよ?」
「行動で示す、ですか。なるほど、具体的にどうすればいいですか?俺ができることなら、なんでもしますよ」
辰姫さんの卑下癖が治まるなら、手伝えることは伝手だってあげたい。望むところだ。ここで、はたと気付いた。辰姫さんがほくそ笑んでいる。
「今、なんでもするって言ったね?」
「・・・できることなら、ですよ」
「逃げを打とうとしてもダメだよ。別に、簡単なことだから」
辰姫さんは立ち上がると、旦那さんが飾られている写真立てを手に取り、パタンと静かに伏せた。
「私を、抱いてくれないか?」
「なんですと?!」
部屋の隅で岩女がガッツポーズをしているのが見える。岩女め、まだなりを潜めて様子を窺っていたか。それに、まるで勝利を確信したかのような喜びようだ。
辰姫さんは照明のスイッチを手に取り、部屋を薄暗くすると、スルスルと服を脱いでいく。
「君のその言葉が嘘じゃないなら、身をもって証明してほしい」
あっという間に下着姿になり、止まることなく脱ぎ続け、俺の前にはまるで彫刻のように美しい女性の裸体が姿を現した。胸がたわわなだけではない。腰のくびれや脚線美。こんな完璧な体をした女性がいたなんて。
彼女は俺の手を取り、ベッドへと誘う。俺は抵抗もできず彼女のなすがままに服を脱がされ、一矢纏わぬ姿でベッドへと寝かされた。そのまま俺に跨り、体を重ねてくる。
「君の体、暖かいね」
「あっ、ありがとう・・・ございます?」
彼女のペースに乗せられて、頭が彼女は俺の体を優しく撫でまわしている。だが、ここでも、俺の股座に飼いし象はわずかに鼻をもたげるだけで、依然として大人しいままだ。これほどの好機を前にしても、これではイチャイチャの仕様がない。
「・・・辰姫さん、ごめんなさい。実は俺、体に問題があって・・・。その、象が、元気にならなくて・・・」
「ん?ゾウ?元気がないの?そんなことないんじゃない?」
「えっ?」
股座に突然、精力が迸りはじめた。まるで、俺の体から切り離され自由を勝ち取ったかのように、股座の象はその威容を示し、鼻を屹立させたのだった。
「えっ?!嘘ぉ!なんで?!」
自分でも驚くほどの屹立具合。辰姫さんは、「まぁ・・・」と口を押さえ感嘆の声を漏らしている。鳴り響くのはシャンシャンと紙が擦れる音。ふと隣を見るとベッドから少し離れた位置に岩女は正座し、大幣(※神社の神主さんがお祓いで振るう白い紙がついた棒)を右へ左へと振り回し、何かブツブツと唱え祈祷をしている。
おい、岩女!やりやがったな!ここまで強行策を取るとは思わなかったぞ!俺の象は、俺の意思とは関係なく、御神力によって屹立したに過ぎなかった。これではムードもなにもあったもんじゃない。
すっと、辰姫さんの手が、俺の象の鼻に触れ、優しく撫で回す。俺が身悶えしていると、耳元で彼女が囁いた。
「準備オーケーってことで、いいんだよね?」
甘く囁く声に、俺は頷くことしかできなかった。ここでも俺は彼女のなすがままに、象の鼻が辰姫さんが腰に据えた花の蜜壺へと浸されていくのを、ただ待つばかりとなり、いよいよ、俺の願いも成就する時を迎えようとしていた。




