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余命一年恋物語  作者: 榊 珠江
三のご縁 畑の美魔女

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レッツ草刈り

 刈払機と言われる道具がある。田舎では草が生い茂る季節になるとよくお目にかかる草を刈る機会だ。今までの俺の生活では使う機会のなかった道具だが、今日はなぜだかとてもお世話になる道具だ。


 一面に広がる耕作放棄地、もとい、我が家の畑を復活させるべく、まずは雑草は払うことから始めなければならない。ということで、俺と榎本さんは真新しい作業着に身を包み、早速作業に取り掛る事にした。


 榎本さんの指導は実にわかりやすく、道具の扱い方から予測される危険やその回避方法などなど丁寧に教えてくれた。おかげで、初めて触る機械だが、なんとか扱えている。それにしても、この草刈りという作業は、地味かつ地道だが俺の性に合っている気がする。


 普通に作業が楽しい。草を刈ると背が高い草がバタバタと倒れていくのが快感だ。そして、畑の奥へ奥へと草を刈っていくと、そこには俺が切り拓いた道ができる。目に見えて作業の捗りが見えるし、達成感もあってとても満足だ。


 燃料を継ぎ足し、調子を上げて雑草を払っていく。榎本さんとは二手に分かれて作業をしているが、ふと彼女の作業後を見ると草の借り方一つとっても熟練度が見えてくる。俺が刈った雑草はまるで下手な床屋が雑に髪を切った虎刈りのように不恰好な仕上がりだが、榎本さんが刈った場所は綺麗に駆られていて実に清々しい。思わず感嘆の声を上げると、榎本さんは親指を立ててみせた。


「いや〜、久しぶりにいい汗かいた気がします。これは確かに気分がいい」


「そうでしょ?この仕事って体けっこう使うし、とても健康にいいのよ。たまにしんどい時もあるけどね」


 榎本さんはあっけらかんとしているが、この華奢な体でよくハードな農作業を続けられるなと感心してしまう。日頃の運動不足も祟っているのだろうが、この草刈りだけでも俺はけっこう疲れを感じてしまう。


 これは照りつける日差しや暑さもあるのだろうが、榎本さんは溌剌と作業に没頭している。この人、本当に俺より年上なのだろうか。どう見ても年下にしか見えない元気さだ。


「よし、そろそろ休憩しようか。初めから飛ばすと後がもたないしね」


「賛成です」


 榎本さんは軽トラックらゴトゴトと何やら荷物を下ろし始めた。クーラーボックスや、大きなパラソルにアウトドア用のコンパクトな折りたたみ椅子。準備がいい。ほらよと渡された麦茶が、体に染み渡る。


「なかなか広い畑だ。これだけやってもようやく一割って感じだから、しばらくは草刈り三昧になりそうね。続けられそう?」


「なんのこれしき。畑の復活ならがんばりますよ。榎本さんにはだいぶ頼ってしまうと思いますが」


「いいんだよ、そんなの。むしろ、畑借りるのに、諸々の費用とか全部、君が持ってくれるなんて、本当にいいのかい?私は大助かりだけど」


「いいんですよ。後のことは任せたいので」


「後のことって、私は畑借りれればそれでいいんだけど・・・」


「実は色々と事情があって、この畑は榎本さんに譲ろうと思ってます。あっ、お金とかは気にしないでください。俺が畑を持っていても持て余すだけなので、榎本さんに是非有効活用してほしいんです」


「えっ?!いいの、そんなこと!その話本当ならめっちゃ嬉しい!」


「でも、一つだけ約束してください。この畑を大事にするって。できるだけ畑として榎本さんの活動の助けにしてくれるととても嬉しいです」


「嬉しいのは私だよ〜!ありがとう!」


 手に持っていた麦茶をこぼしかけるほどの強烈なハグをされ、心臓が思わず飛び出るかと思った。本当にこの人は距離感がどうかしている。そんな簡単に抱きついていいものだろうか。いや、縁が結ばれているのだから、これはこれで順当なのだろうか?何よりいい匂いがして脳みそが花畑で戯れているかのような気分になる。


 結局この日は、日が暮れる時間まで作業は続き、随分と草刈りは進んだのだが、終わってみればまだまだ辺り一面草だらけ。これは長い戦いになりそうだと榎本さんと顔を見合わせて笑い合い、なんともいえない疲労感と心地よさに包まれ、作業一日目は終了した。


 これまでは余命短いことをいいことに、面倒事を避け、割とダラダラ過ごしていた俺だったが、畑の作業をしてからというもの、俺はまるで別人のように働き出した。一番驚いていたのは岩女だった。つい最近まで死ぬことを恐れ、涙を流しいじけていた人間が、毎日朝になるといそいそと畑へ向かい働くのだから、何が起きたのか、何か悪い物でも食べたのかとしきりに心配されてしまった。


 事情を話すと、「これこそ縁結びの大神様のご神徳なり」と涙を浮かべて喜ぶ姿がまるで出来の悪い子供を見守る母親のようで可笑しかったが、裏を返せばそれだけ岩女は俺のことを心配してくれていたということだろう。


 実は、俺は内心、畑仕事に没頭することでかなり気が紛れていたことは事実だ。昔、どこかで聞いたことがある。仕事に没頭することで嫌なことを忘れることができた、という話だ。


 ワークライフバランスが叫ばれる今、下手をしたら炎上しかねない言葉に思う。だが、この言葉が意味するところは、労働の賛美ではない。時に、日常の行動が耐え難い苦しみから遠ざけてくれることがある、という話だ。


 社会に出てからレールに乗っかり自主的に生きてこなかった俺だが、日々の職務を卒なくこなすだけでそれなりに貯蓄もできて日々の生活に困ることがなかったのは、実に運がいい。文句を言いたいことも多々あったが、総じて言えば悪い会社ではなかったのだろう。


 だが、仕事の充実感を考えると、今ほど充実していたかどうかは甚だ疑問だ。嫌いな仕事ではなかった。苦手な仕事でもなかった。だが、どれだけ仕事をこなし成果を上げたとしても、それはどこまでいっても俺の夢ではなく、この会社を運営している人達のものだ。俺の夢ではない。

 

 だが、今は違う。俺は、俺の願いとその願いを受け継いでくれる人のために汗水垂らし働いている。これは今まで味わったことのない満足感だ体は辛いし、疲れるが、それすらも心地いい。


 まだまだ暑い日差しが続く中、俺は自分の人生と先祖代々受け継いできた畑と向き合い、仕事に邁進した。

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