表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命一年恋物語  作者: 榊 珠江
二の御縁 深窓の令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/25

第四話 来客

 図書館から帰ってからというもの、岩女はすっかり本の虫と成り果てていた。日がな一日、我が家のソファやベッド、テーブルなど居場所や姿勢をゴロゴロと変えながら読書に耽っている。その立派な体躯と岩のようなゴツゴツした体が家の中を動き回るのだ。まるで巨石が移動している錯覚にも陥る。


「な〜。あんま文句言いたくはないけどさ。もうちょっと一つところで落ち着いて読むことはできんのか」


「いいじゃないこれくらい。同じ姿勢でいると腰が痛くなるのよ」


「腰が痛いって、神に肉体の苦痛が存在すんのかよ」


「前にも言ったけど、私の体の状態は半霊半物質。読書という物理次元での行為に及ぶには、物質寄りの体になるから、そりゃ腰だって痛くなるわよ」


「あ〜・・・。そういえば、そんなことを言ってた気がする」


「それよりあなた、例の美人さんとは進展あったの?」


「まぁ、のんびりやってるよ。こういうのは焦らぬが吉ってもんだろ。ほどほどにメッセージのやりとりをしている。なんなら、今度また会う約束も取り付けた」


 俺はピースサインを岩女にしてみせる。


「やるじゃない。やっぱり、私って仕事できるのね〜。まさかあんな美人で気が合う相手を見つけ出したんだから」


「それについては、マジ感謝。だから最近お供物も奮発しているだろ?」


「誠にご苦労。良い心がけよ。引き続きお供えをしなさい。さすれば、何か他に困ったことがあっても助けてやろう」


「はは〜」


 随分と上機嫌だ。お供えの効果かな?日頃もお供えは欠かさないでいたが、姫乃咲さんと出会ったあの日は奮発して岩女が所望するケーキを買って帰ったのだった。随分喜んでいたから、また別の日に買うと、これまた喜ぶものだから、まるで餌付けしている感覚になってこちらも喜んでケーキを与えてしまった。


 まぁ、あの体躯だ。少しぐらい甘いものをとったところで太りはしないだろうが、いや、そもそも太るのか、神という存在は。少々気になるところだ。


 カレンダーを眺める。今日は珍しく来客の予定が入っている。相手はトレーラーハウスを購入したお店の人だ。こちらからお願いして、今日俺の家に来てもらうことになっている。要件は、このトレーラーハウスの売却についてだ。


 買ったばかりのトレーラーハウスを一年で手放すなんて、そんな贅沢かつ無駄なことは普通は誰もしない。当然、お店の人からも何が目的かと無駄に警戒されたが、事情を話すと恐縮し、理解を示してくれた。


 何を隠そう、俺は余命一年を切った人間なのだ。この世で後を濁さずあの世に行くために、死に支度、もとい終活を始めている。トレーラハウスの売却も、その一環だ。


 お店の人には来年の春には手放すことを伝えており、新たなオーナーを探してもらっていたのだが、購入を検討している人が現れたので、うちのトレーラーハウスを見にきたいという申し出があったのだ。


 そんなわけで、今日は珍しい来客が来る。時計を見ると、そろそろ約束の時間だ。お昼前には来ると言っていたから俺は部屋を簡単に掃除し、岩女をゴロゴロと部屋の片隅に追いやり、支度を整えた。


 車が止まり、ドアの開閉の音が聞こえてきた。新オーナー候補のご到着だ。


 俺は玄関を出てお店の人と新オーナー候補に挨拶をする。驚いたことに、新オーナーは随分と若い男性だった。男性なのに流れるような綺麗な髪に筋が通った目鼻立ちをしている。中性的なイケメンとでも言おうか。嫉妬する気すら起きないほどのイケメンぶりで、家の中から岩女も感嘆の声をあげ覗き見していた。


 お店の人に紹介され、俺は彼に挨拶をするのだが、彼はどこか少しおどおどしていた。人見知りなのだろうか。


「はじめまして。このトレーラハウスのオーナーです」


「あっ・・・。はじめまして・・・ルイと申します。今日はよろしくお願いします」


 随分と大人しい。そしてどうやらシャイらしい。伏し目がちに挨拶をしてくる。それにしても、この顔、どこかで見たことあるような・・・。


 お店の人から、見学をよろしくお願いしますと挨拶されたところで、気を取り直し、お客さんにトレーラーハウスを案内する。見学が始まると、男性の節目がちな目は開かれ、輝きを放ちはじめた。


 おや、この目の輝きは・・・。なるほど、この人、相当なトレーラーハウス好きと見た。「俺、こういうの好きなんです」的なオーラが漏れだして止まらない。


 中も案内したが、どれも興味津々で見学を続けている。岩女はいつの間にか読書をやめ、男の顔を凝視している。普通の人間から見られることが無いことをいい事に、指で顎をさすりながらまるで品定めをするかのようにじっくり顔を見ている。「こんな綺麗な顔した男って実在するのね〜」と、なんとも気の抜けた独り言を言っている。


「いかがですか?このトレーラーハウス、だいぶ住み心地いいですよ」


「そうでしょうね。まるで夢に描いたような家です」


「相当お好きみたいですね。俺もですけど、この秘密基地感と毎日が旅気分なのもいいですよ」


「素敵じゃないですか。僕もそんな毎日を送ってみたくて、トレーラーハウスを探しているんです。でも、こんな新しくて素敵な家なのに、なぜ格安で譲る事にしたんですか?見たところ、何か不具合があるわけでもなさそうですし」


 もっともな質問だ。購入してから一年。俺の事情を知らなければ訝しがるのも当然だし、格安で売りに出されているとなれば、何か欠陥があるのではと警戒しても不思議ではない。


 だが、俺にはもはや金を稼ぐ必要はない。残す必要もない。だから、せめて俺が残した家や車はなるべくお金に変えるのではなく、大切にしてくれる人に渡って欲しくて格安にしている。


 だが、そこまでの事情を赤の他人に言えるわけがない。なので、こんな言い訳はどうだろうか。


「旅気分は止めて、本当の旅に出る事にしたんです。荷物は軽い方がいい。格安で譲るのは、浮いたお金でいずれ必要になる修繕費にでも当ててもらえればと思いまして。この家を大事にして欲しいですから」


 なんとも月並みな言い訳だ。己のセンスが恨めしい。だが、思った以上に彼は感動しているらしく、目をキラキラとさせながら俺の言い訳を間に受けたようだ。


 ふと、彼の額に視線が引き寄せられた。垂れたている前髪でよく見ないが、一瞬紅く光った気がする。気のせいだろうか。いや、気のせいか。


「僕は、この家がとても気に入りました。是非、譲渡のお話を進めていきたいです」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「せっかくなんで、お茶でも飲んでいきませんか?庭にテラスもありますし、そこで飲むと最高ですよ」


「では、お言葉に甘えて」


 お店の人と男性をテラス席へ案内し、俺はコーヒーを淹れていく。今日は天気もよく、そこまでジメジメしていない。外で飲むには絶好な日だ。岩女もチャカチャカと食器を用意し、しれっと手伝ってくれていて、なんとも気がきく女神だなと感心してしまった。


 俺はお店の人とイケメンの彼とコーヒーを楽しみ、トレーラーハウス談義に花を咲かせた。この場にいる全員が同じ好きを共有している。話が盛り上がらないわけがない。気になるのは、チラチラと彼が俺の顔を気にしていることだ。見学中もそうだ。トラーラーハウスに目を奪われていても、チラチラとこちらを伺っている様子だった。


 そこで、ふと思い至る。この彼に似た人と最近会っていたことに。


「ルイさん、つかぬことを伺いますが、君と同じようにトレーラーハウスが好きなお姉さんか妹さんっていらっしゃいますか?」


 ルイさんはコーヒーを吹き出した。このあからさまな狼狽ぶり、やはりか。


「ど、どうしてそう思ったんですか?」


「顔が似てたんですよ。ひょっとして双子とかですか?」


「あっ、ははは・・・。実はそうなんです・・・。双子の姉がおりまして・・・」


「どうりで、いちいち反応がどこかで見たことあるなと思ったんですよ。いや〜世界は狭いですね〜」


「そうでしたか。よく見ているんですね、姉のこと。ひょっとして姉が言ってた図書館で出会ったトレーラーハウス好きの人って、あなたですか?」


「えぇ、それは俺ですね。なんだ、兄弟でトレーラーハウスお好きだったんですね」


「ははは・・・。その、こちらからも聞いてみてもいいですか?姉を見てどう思いました?あんな見かけと違って独特な趣味なものですから、たまに奇異の目で見られることもありまして。変じゃありませんでしたか?」


「そんなことありませんよ。とても可愛らしい方でした。それに、趣味に男も女もありませんよ。好きなら好きで、いいじゃないですか」


「ふ〜ん・・・。そうですよね、そうですよね。よかった」


 落ち着きを取り戻しつつある彼は髪を掻き上げ一息ついた。その時、今度は俺がコーヒーを吹き出してしまった。


 神紋だ。紅く光る岩の神紋がルイさんの額にクッキリと現れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ