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余命一年恋物語  作者: 榊 珠江
二の御縁 深窓の令嬢

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第一話 神紋をつけし女を探せ

 近所を散歩すると、紫陽花が咲いているのをよく見かけるようになった。春のポカポカとした陽気から空気はジメジメと湿り気で満たされている。今年も苦手な季節がやってきた。


 梅雨である。雨が落ちる音は好きだが、晴れ間を拝む日が減るとどことなく気が滅入るこの時期はどうにも好きになれない。出かけてみようかと思っても、こんな陽気では出かける気すら起こらない。


 だが、そんな季節の中にあっても、俺の残り時間は一日、一日と減っていく。壁に貼った年間カレンダーに目を向けると、今は随分と色とりどりの色がつくようになった。


 その後、俺は黒島さんとは定期的にメッセージのやり取りをしたり、食事に行ったりと交流自体は続いている。相変わらず彼女とは絵の話題で盛り上がるが、少し心境に変化が出てきたらしく、彼女は美術の学校に通いたいという夢を語ってくれた。


 そのために少しでも働いてお金を貯めていきたいというところで、今は仕事を増やしたり、節約したりと貯金に勤しんでいるとのことだ。試しに、俺が学費を出そうかと提案してみたところ、冗談と思われまともに取り合ってもらえなかった。


 確かに、卒業までの学費や諸々の費用を計算してみると、まとまったお金が必要なのも確かで、それなりの高級車を買うぐらいのお金が必要ということがわかった。だが、今の俺にはそんな大金がポンと出せてしまうし、出してあげたいのが本音だ。


 俺に必要なお金は、そう多くない。むしろ、親兄弟がいない俺にとってはこの有り余るお金をどう処分するかというのも、現実的な悩みとしてあった。どうせお金を残すなら、俺は納得した残し方を選びたい。であれば、黒島さんのパトロンとして学費を出すことは俺の望むところでもある。


 だが、金額が金額だし、黒島さんも素直に受け取ろうとしない姿は容易に想像できる。未だに彼女は俺と会う時は会計を最低でも折半に持ち込もうとしてくるので、毎度俺はそれを気合いで押し返し全額負担するという押し問答も、もはや様式美と化している。


 なんとも健気だが、夢を追いたいのにお金の問題が道を阻んでいる現状が悲しくて仕方がないのだ。どうやって俺の財産を黒島さんに納得してもらいつつ渡せるかが、最近のちょっとした悩みだ。


 天井に落ちてくる雨の音が少し大きくなった。屋根が薄いトレーラーハウスは、雨の音がよく響く。目を閉じその雨音に耳を傾け、梅雨という季節を堪能してみる。


 ぼんやりと雨音に耳を傾けていると、自然と一体になったような感覚があり、どことなく気持ちがよくなってくる。


「お楽しみ中悪いわね。ちょっと今いいかしら?」


 岩女だ。最近は新たなご縁探しということで日中はあまり見かけなかったが、久々のご登場だ。こんなナリをしていても、歴とした縁結びの神様だし、最近では姿を見ないでいるとなんとなく寂しくも感じてしまう存在になっている。余命短い人間にとっては、先のことを考えず楽しく話せる相手がいるというのはありがたいことだ。


「いかがわしいことしてるみたいに言わないでくれよ。俺はこうやって自然を味わっているの。まったく、我ながら暇人だと思うよ。お茶を淹れるから、のんびり待っててくれ」


「いつも悪いわね。今日は朗報を持ってきたのよ。見つけたわ、次のイチャイチャ相手」


「お〜、仕事が早いな。さすがシゴでき女神だ」


「今回はちゃんとイチャイチャできるように、よりあなたに好意を持ちやすい女達から厳選して縁を結んだわ。深く感謝し、カミを崇め奉りなさい」


「はは〜誠にありがたき幸せにございます」


 三文芝居もそこそこに、俺は岩女から今回のご縁がある女性についての説明を受けた。彼女は、黒島さんと俺の縁が色恋から友情へと結び直されたことを反省し、より色恋に繋がりやすい相手を細かく条件を指定して選んだらしい。


 最近姿を見かけないと思っていたら、街中探してくれていたとのことだったが、なんとありがたいことか。またお供物を奮発しよう。それにしても、条件を指定して探すなんて、神様が縁結びに使う専用のマッチングアプリでもあるのではと妄想が膨らむ。


 善は急げ。ご縁がある人が見つかったなら、まごついていても仕方がない。俺は岩女の告げられた場所へと早速向かった。それは、地元の図書館。そこに、次なるご縁の女性が待っている。


 今回も岩女はさりげなく周囲で俺をサポートするためについてくるということだが、よほど自信があるのか、岩女は図書館に向かう道中も助手席に座りながら鼻を鳴らし胸を張っていた。


 今回も前回同様、ご縁がある女性の額に岩の神紋があるという。図書館に到着して早速、女性を探すが不思議なことになかなか見当たらない。どれだけ探しても、額にアホみたいに赤く光る神紋をつけた女性など見当たらなかったのだ。


「おい、女神。これはどういうことだ?」


 俺は小声で岩女に釈明を求めた。なぜ小声かと言えば、ここが図書館であるというのも理由の一つだが、もっと切実な理由がある。俺と岩女との会話では俺の肉声は周囲にも聞こえるが、岩女の声は他の人には聞こえないからだ。街中で普通に岩女と話そうものなら、傍からすると俺が一人で見えない何かに話しかけている構図が出来上がる。赤の他人に怪しまれるのは心が傷つくのでどうしても避けたいところだ。


「おかしいわね・・・。確かに今この図書館にいるはず。でも、なんでかしら、はっきりと掴めない・・・」


「それって、おかしくないか?なんでお前が縁を結んだ相手なのに分からないんだよ。相手を見たんだろ?なら、今みたいに宙を浮きながら見渡せばすぐ見つかるんじゃないのか?」


「あっ、なるほど。あなた勘違いしてるわね。私があなたのお相手を探すのに、書類を見て決めたと思ってるんじゃない?カミはそんな探し方も選び方もしない。私たちは魂を観て決めるのよ」


「魂を観る?どういうこと?」


「そのままよ。魂は光を放つ存在。その光の色、強さ、大きさ、柔らかさ、明るさ、そうした特徴を観ればその魂を持った人間がどういう人物か容易に知れるわ。これはとても感覚的なもので言葉にするのが難しいんだけど、この魂の光具合で今のあなたに合いそうな人を選んでるわけ。


ぶっちゃけ、魂が観れると人間の顔なんて目に入らなくなるわ。生前に容姿で悩んでたのがバカみたいに感じてくるほど、魂こそがその人を表す存在だからね。


この話、なんとなく分かる?」


「正直、分からん。でもまぁ、ものすごいざっくりいうと、要はフィーリングってこと?」


「ざっくり正解!」


「なんだよ、ざっくり正解って。まぁ、いいや。とすると、人の顔を見ても分からないわけだ。でも、神紋は?ご縁のある人の額には神紋があるはずだろう?」


「そこなのよねぇ・・・。ただ、神紋は人間の額に直接私がスタンプみたいに押してるわけじゃないわ。ご縁のある女の子の魂に押してるから、それは間違いなくあるはず。にもかかわらず見当たらないとなると、その子の魂が一時的に乱れているのかもね」


「乱れる?それはつまり・・・。極端に落ち込んだり悲しんだりしてるとか?」


「その可能性はゼロじゃないけど、かなり低いわね。ここまで神紋が現れないというのは、魂の性質自体が何か変調をきたしているとしか思えない」


「おいおい、そんな魂レベルで情緒不安定な女と縁を結べと?それはさすがに荷が重くないか?神頼みしておいてこんなこと言いたかないが、なんでそんなお相手選んだんだよ。」


「仕方ないでしょ!私だってカミとはいえまだまだ修行中の身。私は縁結びの大神様にあなたの事を奏上奉りご縁を結ぶ神力を授かっているけれど、そこには大神様がお認めになった人物しか縁は結べないことになってるわ。だから、安心なさい。決して悪いことにはならないか。これが知られざる手習い中のカミの事情!ここだけの話よ!」


「さらっと神々の内部事情を漏洩すな!聞いていいのか分かんなくて普通に怖いから!」


「ともかく、ご縁のある人は今もこの図書館にいるわ。時間が経てば、神紋が顕現するかもしれない。落ち着いてもう一度探しましょう」

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