劫火の滅剣
GWどうでした?皆さんもお仕事頑張ってくださいね!!
あと良ければリアクションなどモチベになるのでお願いします!
昔、森に大きな魔獣が迷い込んできたことがある。
木々を薙ぎ倒しながら近づいてくるその姿を見ても、魔女は少しも慌てなかった。
「んー……あれはちょっと危ないわね、せっかく洗った洗濯したのにまた汚れちゃうじゃない!」
そんなことを言いながら、窓辺に干していた布を取り込むかどうかで迷っていたくらいだ。
僕は棚の上で尻尾を丸め、外から近づいてくる気配に耳を伏せていた。
魔女はそんな僕を見て、ふっと笑う。
「大丈夫よ。すぐ終わるから」
片手が上がる。
次の瞬間、森の上に炎が膨れ上がった。
炎は巨大な大剣の形を取り、赤い刃として空に固定されていた。
「この魔法、便利なのよね」
そんな軽い声と一緒に、炎の大剣が振り下ろされる。
魔獣は一撃で焼き断たれた。
けれど、周囲の木には火が移らない。地面の草も、焦げたのは刃が触れた場所だけ。
魔女はそれを見届けると、何事もなかったみたいに僕を抱き上げた。
「ほら、怖くなかったでしょ?」
僕には、それがどれほど難しい魔法なのか分からなかった。
ただ、魔女が使っていた魔法の一つ。
それくらいにしか思っていなかった。
◇
「アトラさんは、最上級魔法まで使えるんですか!?」
アリシアさんの声で、意識が灰燐窟へ戻る。
目の前には、焼き断たれた黒灰色の魔獣。少し離れたところで、リィナがまだ興奮した様子でこちらを見ている。
「……最上級魔法だったんですね」
「知らずに使ってたんスか!?」
「昔、見たことがあったので」
「見たことがあっただけで最上級魔法を使えるのもおかしいっスよ!?」
リィナが勢いよく言う。
その横で、姉さんが首を傾げた。
「でも、それならあたしも使えるわよ?」
「え?」
リィナとアリシアさんの声が重なる。
「前にアトラから教わったもの。」
「キャトラさんも使えるんですか……?」
アリシアさんの声が、いつもより少しだけ上ずっている。
「アトラから教わった魔法はだいたい使えるわ」
リィナが額に手を当てた。
それから少し考え込んで、妙に納得したように頷く。
「……いや、まあ、二人ならなんか納得したっス」
「ふふっ、そうですね」
アリシアさんまで、少し困ったように笑った。
姉さんはどこか得意げに胸を張る。
「アトラが教えてくれたんだから、当然でしょ」
「姉さん、それ理由になってないよ」
リィナが小さく笑う。
「魔法については、必要があれば後で確認させてください。今は、こちらを優先しましょう」
アリシアさんはそう言って、倒れた魔獣の残骸へ視線を向ける。
黒灰色の殻は焼け割れ、焼き断った部分は、もう再生する気配がない。
そこで、ふと違和感に気づいた。
「……おかしいですね」
「え?」
姉さんがこちらを見る。
「さっきまで倒した魔獣は、ダンジョンに吸収されてました。でも、こいつはそのまま残ってる」
「……たしかに」
姉さんの表情が変わる。
リィナとアリシアさんも、同時に残骸へ目を向けた。
通常の魔獣は、倒されるとしばらくしてダンジョンへ沈むように消えていく。素材として残る部分はあっても、体そのものは魔素へ戻っていった。
でも、この魔獣は違う。
「アーちゃん」
「はい。通常の灰燐窟の発生個体ではない可能性が高いです」
アリシアさんが残骸へ手をかざす。
「外から入ってきたってこと?」
「断定はできませんが、恐らく。」
アリシアさんが慎重に答える。
「記録にない魔獣であること。討伐後ダンジョンに吸収されないこと。まさに異物ですね。」
「残骸も持ち帰るっス」
リィナがしゃがみ込み、焼け残った殻の一部を確認する。
「私が保護します」
アリシアさんが小さな布と封印用の容器を取り出した。
「コアの確認はどうするんですか?」
僕が聞くと、リィナは奥へ視線を向けた。
深層のさらに奥。
「確認するっス。そこを見ないと、本部に戻っても判断材料が足りないっスから」
「同じ魔獣がいたら?」
「その時は即撤退っス。本部に報告してから、討伐隊の要請って形になるッスね」
残骸の一部を回収してから、さらに奥へ進む。
通路は狭くなり、壁の燐光も少なくなっていった。代わりに、肌に触れる魔素の濃さだけが増していく。
奥へ進むほど、足音がやけに大きく聞こえた。
やがて、目の前が開ける。
そこは、広い空洞だった。
天井は高く、壁一面に灰色の燐光が浮かんでいる。中央には、結晶のような塊が半分ほど地面に埋まっていた。
淡い光が、ゆっくりとその表面を巡っている。
「あれが灰燐窟のコアっス」
リィナが小さく言う。
近づくほど、魔素の濃さが増していく。
けれど、そこで妙なものに気づいた。
コアの表面、その一部が欠けている。
割れたというより、えぐり取られたような形だった。
「……欠けてる?」
思わず呟くと、アリシアさんの表情も変わった。
「本当ですね」
アリシアさんが記録板を構え、慎重に近づく。
「管理ダンジョンのコアに、このような損傷がある記録はありません」
「自然に欠けることは?」
「少なくとも記録にはありません。初めて見ました。」
コアの欠けた部分から、魔素がじわりと滲んでいる。
安定した流れじゃない。欠けた場所から漏れたものが、周囲の空気に混ざって、ゆっくり広がっているように感じた。
「ここから、魔素が漏れてます」
「私にも分かります」
アリシアさんが手をかざす。
白い光がコアの周囲をなぞり、欠けた部分で小さく揺れた。
「本来なら、魔素溜まりの内部で循環するはずの流れが、外へ滲み出ています。灰燐窟が変動型に寄り始めている原因は、おそらくこの欠損です」
「じゃあ、さっきの魔獣も?」
「無関係ではないと思います」
その時、アリシアさんが持っていた封印容器が、かすかに鳴った。
中に入れた黒灰色の外殻が、薄く赤い光を帯びている。
「……反応してるっスね」
リィナの声が低くなる。
「はい。未知の魔獣の残骸が、コアの欠けた部分に反応しています」
「つまり、あの魔獣はこのコアと関係があるってこと?」
「可能性は高いです。ただし、どう関係しているのかまでは、ここでは断定できません」
アリシアさんは封印容器を慎重に包み直した。
「これ以上は本部で確認する必要があります」
「同感っス」
リィナが周囲を見渡す。
「コアの欠損、未知の魔獣、持ち帰る情報としては十分っス」
「戻りますか」
「戻るっス。ここで長居する理由はないっス」
リィナが来た道へ向き直る。
「ジュードさんに報告しに行くっスよ」
見つけた異変を持ち帰るため、僕たちは灰燐窟を後にした。
最近更新頻度減って申し訳ないです。
体調がなかなか回復してくれなくて…毎週日曜は絶対更新するのでよかったら見に来てください。
みつけてくれた人たちには感謝してます




