灰燐窟≪アッシュレイン≫
作品のクオリティーを上げるためにも構想を練る時間が欲しい。。
お待たせしました!!毎日更新が難しくなった来たぞお
翌朝、ギルド本部での手続きは思っていたよりあっさり終わった。
古い冒険者証と引き換えに渡された新しい証には、はっきりとAの文字が刻まれている。
「これで、お二人は正式にAランク冒険者です」
受付の人にそう告げられて、手の中の証を見下ろす。
「ふふ」
「姉さん、嬉しそう」
「当たり前じゃない。Aランクよ、Aランク」
姉さんは新しい冒険者証を大事そうに眺めていた。
その時、部屋の奥からジュードさんが姿を見せる。
「手続きは済んだな」
「はい」
「では早速だが、Aランクとして初仕事をしてもらう」
「え、もう?」
「早いですね」
「本来なら昇格直後に回す仕事ではない。だが、昨日の試験を見る限り、お前たちなら任せられると判断した」
ジュードさんが机の上に地図を広げる。
「城塞都市外縁部にある管理ダンジョン、《灰燐窟》の調査および抑止任務だ」
「抑止任務?」
「ダンジョン内部の魔素濃度が上昇している。加えて、魔獣の活性化兆候も確認された」
「ダンジョンって、管理されてるんですか?」
「安定型ダンジョンはな」
ジュードさんが地図の一点を指す。
「ダンジョンには、核になる魔素溜まりがある。現場ではコアと呼ぶ者も多い」
「魔素溜まり……」
「そこが落ち着いていれば、内部構造や魔獣の発生はある程度予測できる。これを安定型ダンジョンと呼ぶ」
「じゃあ、変動型ダンジョンは?」
「魔素溜まりが活発化し、内部構造や魔獣の種類が変わり始めた状態だ。過去の記録が当てにならなくなる」
姉さんが地図を覗き込む。
「つまり、今まで大人しかった場所が暴れ始めてるってことね」
「そういうことだ」
ジュードさんは頷いた。
「灰燐窟は本来、安定型に分類される。定期的に調査もされていて、内部に出る魔獣も大きく変わらない。だからこそ素材採取や新人の実地訓練にも使われていた」
「それが変わり始めてるんですね」
「ああ。魔素濃度の上昇だけなら、まだ経過観察で済むこともある。だが今回は、内部で確認される魔獣の動きまで変わっている」
そこまで言って、ジュードさんの声が少し低くなる。
「放置すれば、内部で増えた魔獣が外へ溢れる可能性もある」
「スタンピード……?」
「そうなる前に止める。だから抑止任務だ」
「それと、今回は同行者がいる」
「同行者?」
「ちょうど来たようだ」
ジュードさんの視線が、僕たちの後ろへ向く。
振り返ると、見慣れた顔が二つあった。
「やっほーっス!」
「おはようございます」
リィナとアリシアさんだった。
「リィナ? アリシアさんも?」
「今回、視察役として同行するっス」
「私も記録係として同席します」
姉さんが首を傾げる。
「七聖英雄の会議は?」
「 一旦区切りがついたっス。その流れでこの視察が決まった感じッスね!」
「七聖英雄が動くって結構やばいことなんじゃ…」
「詳しくは言えないっス」
リィナは少しだけ困ったように笑う。
「ただ、魔素が濃くなってる場所が増えてる。それはここ周辺だけの話じゃないっス」
「……それで視察に?」
「そうっス。二人には普通に調査と抑止をしてもらって、あたしたちは異常があった時に確認する役っス」
アリシアさんが静かに頷く。
「危険が大きい場合は、すぐ撤退してください。調査も大切ですが、今回は情報を持ち帰ることも重要です」
「分かりました」
「でも、魔獣がいたなら倒してしまってかまわないのよね?」
「姉さん…その言い方なんか不安になる。」
「無論だ。だが目的を忘れるな。今回は討伐依頼ではない。魔獣の活性化の有無、魔素溜まりの発生、内部構造の変化。それらを確認することが第一だ」
姉さんが少しだけ肩をすくめる。
「ちゃんと分かってるわよ」
「本当か?」
「本当よ」
「受けます」
そう言うと、姉さんも頷いた。
「ええ。やるわ」
「なら準備を整えろ。出発は昼前だ」
ジュードさんが書類を閉じる。
◇
準備を整え、昼前には灰燐窟へ向けて出発した。
馬車に揺られながら、自然と話題は今回の任務へ移っていく。
「他にも、変動型になりかけてるダンジョンがあるんですか?」
そう聞くと、リィナは少しだけ真面目な顔で頷いた。
「あるっス。グランバルド周辺だけじゃなくて、各地でいくつか確認されてるっスね」
「それで七聖英雄が動いてるんですね」
「そうっス。基本は二人一組で、それぞれの場所を見に行ってるっス」
二人一組。
でも、七聖英雄は七人のはずだ。
それなら、一人余る。
「一組だけ三人で行動してるグループがあるんですか?」
「剣聖だけは一人で動いてるっス」
「一人で大丈夫なの?」
「大丈夫っス」
リィナは迷いなく言う。
その横で、アリシアさんも静かに頷いた。
「剣聖は、人類最高戦力とも言われていますから」
「人類最高戦力……」
昨日、ニックさんが話していたことを思い出す。
あのニックさんでさえ敵わないと言っていた剣聖。
一体どれほど強い人なんだろう。
「なんか、どんどんすごい人が出てくるわね」
「ただ、今回みたいな視察が増えてるのは、あんまりいい傾向じゃないっス」
「魔素が濃くなってる場所が増えてるから?」
「そうっス。安定型だったダンジョンが、変動型になりつつある。それも複数ッス。これが偶然なのか、何か原因があるのか。それを調べてる最中っス」
たしかに、偶然にしては重なりすぎている。
もしかしたらヴァルフェニアや青晶洞での出来事もなにか今回と関係あるのかもしれない。
「王都周辺には、ダンジョンってあまりないんですよね」
気になって聞くと、答えたのはアリシアさんだった。
「あるにはあります。ただ、王都周辺のものはほとんどが休眠状態です」
「休眠状態?」
「魔素溜まりが弱まり、内部構造もほとんど変化しない状態です。魔獣の発生も少なく、危険度は高くありません」
「だから、王都ではあまりダンジョンの話を聞かなかったんですね」
「はい。それと、結界の影響も大きいとされています」
「結界って、王都を護ってるあれ?」
「魔女が張ってくれたって言い伝えのある結界のこと?」
姉さんの言葉に、アリシアさんが頷いた。
「ええ。確かな記録は残っていませんが、王都周辺はあの結界のおかげで魔素が淀みにくいと言われています」
「そのため、大きな魔素溜まりも生まれにくい。結果として、変動型へ移るようなダンジョンも少ないのです」
魔女の結界と聞いて頭の隅で小さな光が瞬いたような気がした。
「だったら、その結界をグランバルドにも張ればいいんじゃない?」
「それができればよかったのですが」
アリシアさんの声が少しだけ落ち着いたものになる。
「王都の結界術式は、現代では完全に再現できていません。解析は進められていますが、あまりに複雑で、同じものを別の土地へ張ることはできないのです」
「そんなに難しいんですか?」
「はい。今の結界術師たちが使うものとは、根本から違うと言われています」
「だからグランバルドには、結界の代わりにギルド本部が置かれているんス」
リィナが説明を引き取る。
「魔素が集まりやすくて、ダンジョンも多い。なら、有事の時にすぐ精鋭が動ける場所にしておくしかないっス」
「人で抑えるってことだね」
「そうっス」
「冒険者も騎士も多いのは、そのためっス。グランバルドは、ただ大きい街ってだけじゃないんスよ」
「新しいダンジョンが生まれることはあるんですか?」
今度は僕が聞いた。
「あるっスよ」
リィナが答える。
「魔素が一か所に溜まりすぎると、空間が歪み始めるっス。放っておくと通路ができたり、魔獣が湧いたりして、ダンジョンとして形になっていくっスね」
「生まれる前に分かるものなんですか?」
「前触れはあるっス。周辺の魔獣が増えたり、空気中のマナが濃くなったり、地形が少し変わったり」
「それを見つけるのも冒険者の仕事なんですね」
「そうっス。早めに見つけられれば被害は小さく済むっスから」
「そろそろ灰燐窟での役割を伝えるっス。前衛はあたしとキャトラちゃんに任せてもらって、アーちゃんとアトラくんは後衛よろしくっス」
「リィナとタッグを組めるなんてワクワクするわ!」
「自分もっス!それにアーちゃんとアトラくんが後衛にいてくれれば怖いもの無しってスよ」
「任せてよ」
「分かりました」
僕とアリシアさんも頷く。
「私は記録と回復、異常があれば浄化を担当します。アトラさんには、ダンジョン内での違和感を探して貰えると助かります」
「違和感、ですか?」
「はい。もちろん魔獣の気配はあると思うのですが、もしそれ以外の気配を感じたらすぐに報告を。アトラさんほどマナ制御に優れた方なら、その変化も感じ取れるかもしれません」
「分かりました」
それからしばらくして、リィナが窓の外を指した。
「さあ、見えてきたっスよ」
前方に黒っぽい岩山が見える。
麓には、ぽっかりと口を開けた洞窟。
「あれが灰燐窟っス」
御者に礼を言って外へ降りると、入口の前には、本部の調査用らしい杭と封鎖線が立てられている。
その奥から、濃いマナの気配が漂っていた。




