昇格戦
二刀流冒険者の戦闘描写むずすぎないか??
翌朝、職員に案内されて向かったのは、建物の奥にある訓練場だった。
王都のギルドにあったものより、ずっと広い。石畳の床はところどころ削れ、端には木人や的が並んでいる。壁際には、すでに何人もの冒険者が集まっていた。
「……見られてるね」
「まあ、あたしたち特例だもの」
姉さんは気にした様子もなく前を見る。
ギャラリーの声が届く。
「おい、あれが王都から来た特例組か?」
「Bランクでヴァルフェニア倒したってやつらだろ?」
「本当にあの二人でか?」
視線が集まる。
昨日から分かっていたことだけど、こうして実際に見られると少し落ち着かない。けれど隣の姉さんは、むしろ楽しそうだった。
「いいじゃない。見てもらえる方が燃えるわ」
「姉さんらしいね」
訓練場の中央には、すでにニックさんが立っていた。
背には昨日と同じ二本の剣。こちらに気づくと、軽く手を上げる。
「お、来たね」
「おはようございます」
「おはよう。ちゃんと眠れた?」
「まあ、少しは」
「そっちは?」
「ばっちりよ」
姉さんが即答すると、ニックさんは楽しそうに笑った。
「うんうん。元気そうで何より」
少し離れた場所にはジュードさんもいた。手元の書類に目を落としてから、僕たちへ視線を向ける。
「これより、Aランク昇格戦を開始する。形式は昨日伝えた通り、二対一の対人戦だ」
「はい」
「勝敗のみで判断はしない。こちらで観戦した情報と試験官の評価をもって最終判断とする」
短く告げられる。
ニックさんが肩を回しながら、背の剣に手をかける。
「まあ、細かいことは考えすぎなくていいよ」
二本の剣が抜かれる。
「最初から本気でいいぞ」
「本当に?」
「ほんとほんと。ヴァルフェニア倒した二人相手に、様子見だけで済ませる気もないしね」
軽い口調のまま、ニックさんが笑う。
「だから、全力でぶつかってきな」
姉さんの指先に冷気が集まる。
「言われなくても、そのつもりよ」
「よし。やるか」
僕もアルクレイスの柄に手をかける。
訓練場の空気が、静かに張り詰めていく。
「では――始め!!」
ジュードさんの声が落ちると同時に姉さんが動く。
氷華細剣を作り、一直線に踏み込む。僕は半歩遅れて逆側へ回った。正面から姉さん、斜め後ろから僕。いつもの挟み方。
ニックさんは動かないまま。
姉さんの突きが届く。
その直前、細い剣がふっと上がった。
甲高い音。
氷華細剣の軌道が、わずかに外へ流される。
「っ」
そこへ僕が踏み込むが、迎え撃つようにニックさんの剣が右。違う、左から来る。
アルクレイスを合わせた瞬間、幅広の剣が刃の腹を押さえ、足の位置まで流される。
「いいね。速いじゃん」
「でも、まだ動きが素直だっ」
細い剣が視界の端を走る。
姉さんが作った魔法が間に割り込んだ。薄い氷壁が一枚、剣筋を受けて砕ける。
その向こうで、ニックさんが笑っていた。
「じゃあ、次はこっちから行くよ」
地面を蹴る音がした時には、もう目の前にいた。
「こっちだよ」
軽い声と一緒に、右手の細剣が走る。
喉元。
受ける。違う。浅い。
本命は左。
幅広の剣が下から跳ね上がり、《アルクレイス》ごと腕を持ち上げられた。
「っ……!」
「アトラ!」
姉さんが横から氷華細剣を差し込む。
けれどニックさんの右手が戻る方が早い。
細剣が氷の刃を弾き、そのまま姉さんの肩口へ流れた。
「くっ」
姉さんが体をひねって避ける。そこへ左の剣が追う。
速い。
右、左、右。
突き、払い、斬り下ろし。
受けたところに次が来る。躱した先にも、もう一本が置かれている。
防げてはいるが、少しずつ立ち位置を削られていく。
「ほら、足止まってるぞ」
言われた途端、足元へ剣先が滑り込んだ。
踏み替える。
遅い。
細剣が胸元を掠め、服の端が裂けた。
「アトラ、下がって!」
姉さんの冷気が広がる。
足元から氷が走り、ニックさんの踏み込みを止めにいく。
その上を、幅広の剣が叩いた。
氷が割れる。
力任せじゃなく、割れやすいところを見抜かれて叩かれた感じだ。
「いい発想だけどこれもわかりやすい」
「ほんっと、余裕ね……!」
姉さんが踏み込む。
正面から突き。続けて、氷の刃を短く分けて二連。
ニックさんは半歩下がってそれをかわす。
姉さんの二撃目を右の剣で弾き、左の剣で手首の近くを軽く打つ。
「っ!」
氷華細剣が一瞬だけ姉さんの手から浮く。
そこにさらに一歩踏み込んだニックさんの膝が腹の手前まで迫っていた。
「姉さん!」
水を足元に打ち込む。薄く広げて、踏み込みの軌道をずらす。
ニックさんの足がわずかに滑った。
「お」
初めて、声に少しだけ色が乗った。
その隙に姉さんが後ろへ跳ぶ。僕も横へ抜けようとした。
ニックさんが笑う。
「防いでるだけじゃ勝てないぞ?」
言葉が終わる前に、右から突き。
左で払い。
回り込みながら、逆手に返した細剣が背中側へ伸びる。
何だ、それ。
剣が二本あるだけじゃない。腕の向きも、足の運びも、全部が次の攻撃に繋がっている。
受けるたびに崩される。避けるたびに追い込まれる。
「っ、はぁ!」
姉さんが冷気を強めた。
氷の花びらが散るように、細かな刃がニックさんの周囲へ広がる。
正面から僕が水刃を重ねる。
左右から囲む。
これなら――
「ま、悪くはない」
二本の剣が交差する。
氷の刃が弾け、水刃が軌道を逸らされる。
そのまま一歩、二歩。
僕たちの間に入り込まれた。
背筋が冷える。
ニックさんの右手が姉さんへ、左手が僕へ向く。
同時。
受けるしかない。
「くっ……!」
「重っ……!」
姉さんの氷華細剣と、僕のアルクレイスが同時に押し込まれる。
次の刃が来る。
間に合わない。
水を指先に集め、無理やり弾く。衝撃で腕が痺れた。
横で姉さんも体勢を崩されている。
「おいおい、もう終わりじゃないよな?」
気づけば、また剣の間合いに飲み込まれていた。
「……っ」
息を整える暇がない。
正面に二本の剣。
横に姉さん。
背後には訓練場の端。
押されてる。
完全に。
観客の声が遠くで揺れる。
「おい、あの二人、戦えてんぞ……」
「でも押されてるじゃん」
「そりゃ相手ニックだぞ……!」
耳に入る。
けれど、気にしている余裕はなかった。
ニックさんが剣先を軽く揺らす。
「さあ、どうする?」
このまま受け続けたら、勝てない。
姉さんと目が合った。たぶん、考えていることは同じだ。
二重身体強化魔法をやろう。




