いざグランバルドへ
昨日更新できなくてごめんなさい。あと下書きに残したままだったの忘れてました。
モチベ上げてくぞおおおおおおお
王都を出たその日は、まだ見慣れた景色が続いていた。広い街道の両脇には草原が広がり、荷を積んだ馬車や旅人の姿も多い。けれど日を追うごとに、周囲の様子は少しずつ変わっていく。
先へ行くほど荒れが目立つようになった。石畳はところどころ欠け、土の道と混じり、馬車の揺れも大きくなる。窓の外に見える木々は減り、代わりに岩肌の目立つ地形が増えていった。
それでも、人の流れは案外絶えない。
荷を運ぶ商隊。旅装の一団。僕たちと同じようにどこかを目指して進む馬車。その多くに、剣や槍を帯びた人影が混じっていた。
「やっぱりみんな冒険者を連れてるんですね」
向かいに座るアリシアさんが頷く。
「ええ。護衛をつけるのが当たり前ですから。出発地が目的地から離れるほど、それは顕著ですね」
「なるほど……」
「へぇー」
姉さんは窓の外を見たまま相槌を打つ。
その隣で、リィナがぐったりと背もたれに体を預けていた。
「でも、何も起きないっスねえ」
「ほんとよね」
「起きない方がいいんです」
「それは分かるっスよ? 分かるっスけど」
リィナが身を乗り出す。
「せっかく四人いるんスよ? 一回くらい、こう……道中で魔獣とか出てきてもよくないっスか?」
「よくないです」
「あたしたち4人なら一瞬で片付けられると思うわよ?」
「だとしてもです」
「キャトラちゃんと一緒に戦いたいっス!!」
「あたしもリィナと肩を並べて戦ってみたいわ!」
「だめです」
アリシアさんがぴしゃりと言う。
「はぁ。物騒なことばかり言わないでください」
「でも退屈っス」
「退屈ね」
「意気投合しないでください」
姉さんとリィナが顔を見合わせて吹き出した。
三日目の夕方、小さな村で一泊した。
宿場というには少し小さい。けれど広場には旅人の馬車が何台も止まり、武器を帯びた人影もちらほら見える。
「ここにも冒険者がいるんですね」
「辺境寄りの村には、こうして各地から冒険者が回されるんです」
アリシアさんが答える。
「週替わりで派遣される依頼があって、危険な時期ほど人数も増えます。魔獣の討伐だけじゃなく、周辺の見回りや村の護衛も兼ねています」
「へぇ……」
「その方が街道に人を立たせるより効率的なんですね」
「そういうことです」
広場の隅では、槍を立てかけた連中が食事を取っていた。王都で見かける冒険者より装備が重々しい。それだけで土地の空気が違うと分かる。
「料理は普通っスね」
「リィナは何を期待してたの」
「もっとこう、前線メシみたいなやつっス」
「前線メシって何」
「知らないっス!」
知らないらしい。
その夜は村で休み、翌朝また出発した。
四日目、五日目と進むうちに、街道の空気はさらに変わっていった。すれ違う馬車の数は減る。代わりに、城塞都市へ向かうらしい冒険者の姿が増えた。4人組、5人組、それにもっと大きなパーティ。みんな無駄口は少なく、周囲への警戒を怠らない。
「なんか、王都の冒険者と雰囲気違うね」
窓の外を見ながらそう呟くと、リィナが頷いた。
「こっちは実戦寄りっスからね。王都は人も多いし、仕事の幅も広いっスけど、グランバルドに集まるのはもっと露骨っスよ」
「露骨?」
「戦うための冒険者って顔してる人が多いってことっス」
「顔で分かるもの?」
「分かるっス」
「ほんとに?」
「たぶん」
たぶんだった。
「でも、そういう人が多いのは本当です」
アリシアさんが引き取る。
「城塞都市は本部があるだけでなく、周辺の依頼も危険度が高いですから。自然と、そういう者が集まります」
「Aランクの昇格戦を受ける場所としては、ちょうどいいってことか」
「ええ」
それからもしばらく馬車に揺られた。何度か休憩を挟み、小さな集落を通り過ぎ、また進む。空はよく晴れているのに、風だけが少しずつ乾いていく。
六日目を越えたあたりから、姉さんとリィナの退屈はかなり限界に来ていた。
「ほんとに、何も起きないわね」
「ここまで来ると逆にびっくりっス」
「もういっそ、自分から何か探しに行く?」
「やめてください」
「冗談よ」
「半分くらい本気だったでしょ」
「どうかしら」
どうかしら、じゃないと思う。
「リィナもそう思うでしょ?」
「思うっス!」
「仲良くしないでください」
「アーちゃんまた怒ってるッス!」
「怒っていません」
「怒ってるわね」
「怒ってません」
七日目の昼を少し過ぎた頃だった。
「そろそろ見えてきますよ」
アリシアさんの声に顔を上げる。
前方へ目を向ける。霞んだ影がみえはじめ、さらに進むとその輪郭ははっきりしていく。
「……でか」
「何回みても大きいっス!」
リィナが嬉しそうに身を乗り出す。
高い。王都の外壁も十分大きいと思っていたのに、それとはまた別の風格がある。厚く、重く、近づくほど空を塞いでくるみたいだった。壁の上には人影が並び、その奥にはさらに塔が覗いている。
「これが、グランバルド……」
「ほんとに城塞って感じね」
姉さんも窓の外から目を離していなかった。
馬車の列は、そのまま大きな門へ向かって進んでいく。手前には検問があり、騎士たちが通行証と荷を確認していた。並んでいるのは僕たちだけじゃない。商隊も旅人も、みんな同じように順番を待っている。
ようやく番が回ってきて、馬車がゆっくり門をくぐる。
石造りの建物が並ぶ広い通り。兵士の姿が多い。冒険者も多い。荷を運ぶ人、声を張る商人、武具を背負ったまま歩く者。王都より少し硬く、少し荒く、それでいて妙に活気がある。
「うわ……」
「面白そうね?」
「うん」
思わず頷いていた。
城塞都市。
長い道のりの先で、ようやく辿り着いた場所
馬車はその喧騒の中を進んでいく。Aランク昇格戦が待つ街。窓の外から、しばらく目を話せなかった。




