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思わぬ同乗者

数日後に発つと決まってから、まずはレオンさんに話すことにした。




 朝の訓練が終わったあと、水を飲んでいた背中に声をかける。




「レオンさん」


「なんだ」


「ちょっと話があって」


「また朝から依頼か?」




 ぶっきらぼうな返しに、姉さんが肩をすくめる。




「今回はちょっと違うわ」


「違う?」


「特例で、Aランク昇格戦を受けることになったんです」




 レオンさんの目がわずかに見開かれた。




「……Aランク?」


「城塞都市で受けることになって。しばらく王都を空けます」


「ほぉ……」




 短く息を吐いて、それきり黙る。




「それで、その間――」


「孤児院のガキどもだろ」




 先に言われて、頷く。




「前に頼んだ時みたいに、見てもらえたらと思って」


「……まぁいい」




 低い声でそう言って、水筒を置いた。




「面倒は見といてやる」


「ほんとですか?」


「ただ、甘やかしはしねぇからな」


「それで十分よ」


「むしろその方が安心です」




 そう返すと、レオンさんは鼻を鳴らした。




「さっさと受かって戻ってこい」


「はい」


「戻った時に、あいつらが泣きつくくらいには鍛えといてやる」


「それはさすがに可哀想じゃない?」


「知らねぇよ」




 姉さんがくすっと笑う。




「でも、ありがとうございます」


「礼は受かってからでいい」




 やっぱり、レオンさんはいい人だ。




   ◇




 その足で孤児院へ向かった。




 庭に入ると、いつも通り真っ先に子どもたちが気づく。




「アトラ兄ちゃん!」


「キャトラ姉ちゃん!」




 元気よく駆け寄ってくる顔ぶれを見て、少しだけ言い出しづらくなる。




「今日はちょっと話があるんだ」


「話?」


「なに?」


「魔法じゃないの?」




 揃って首を傾げる。


 その奥から、ルミエラさんも顔を出した。




「何かあったんですか?」


「しばらく王都を離れることになりました」


「え……?」




 姉さんがそのまま続けた。




「城塞都市で昇格戦を受けるの」


「昇格戦?」


「Aランクの」




 その一言で、今度は別の意味でざわめいた。




「Aランク!?」


「すごっ!」


「兄ちゃんたち、Aランクになるの!?」




 目を輝かせるカイルだが、他の子達は表情が曇っている。


 




「……じゃあ、行っちゃうの?」


「うん。でも、昇格戦が終わったらちゃんと帰ってくるよ」


「ほんと?」


「ほんと」


「すぐ?」


「すぐ、とは言えないけど……向こうに行ったままにはしないよ」


「約束するよ」


「うん」




 それで少しだけ落ち着いたらしい。




 カイルがぐっと拳を握る。




「じゃあ、それまでに俺もっと強くなる!」


「わたしも!」


「僕も!」


「帰ってきたら上手くなった魔法を見てもらお!」




 口々にそんなことを言い出して、さっきまでの沈んだ空気があっという間に消える。




 姉さんが吹き出した。




「わたしも、もっとちゃんとできるようになってたいです」


セシルも見たことないくらいやる気に満ち溢れている。




「……戻ってきてくださるなら、子どもたちも待てますね」


「ちゃんと戻ってきます」


「気をつけて行ってきてください」




 ルミエラさんが胸の前で手を重ね、送り出しの言葉を言ってくれる。




「その間はレオンさんにもお願いしてきたので」


「レオンさんが?」


「えー! レオンおじさん来るの!?」


「あの人怖いんだよなあ」


「あんたが無茶しすぎるからでしょ!」


「カイルが悪い」




 ミリアとランに鋭くツッコまれたカイルは肩を落とす。


 そんなやりとりに、ほかの子たちもつられて笑った。




 帰る頃には、門のところまで子どもたちが見送りに出てきていた。




「約束だからね!」


「帰ってきたら沢山見せるからな!」


「わたしも見てもらいたいです!」


「分かった」


「帰ってくるまでにあたしたちを驚かせてみなさい!」


「「「うん!」」」




 元気な返事が重なる。




 手を振り返して、孤児院をあとにした。




   ◇




 出発の日は、朝からよく晴れていた。




 王都の停留所には、城塞都市行きの馬車が何台か並んでいる。荷を積み込む人、見送りに来た人、同じ便に乗る冒険者らしい姿もあった。




「思ったより人多いね」


「城塞都市って人気あるのかしら」


「ダンジョンもあるらしいし」




 そう話しながら、乗る馬車へ近づく。




 その時だった。




「おーいっス!」




 聞き覚えのある声が飛んできた。




 振り向く。手を大きく振りながら走ってきたのはリィナさんだった。その隣には、白を基調にした法衣を纏った女性がいる。初めて見る顔だ。柔らかな雰囲気なのに、立っているだけで周囲の空気が少し静かになる。




「リィナ?」


「やったー!一緒っスね!」




 嬉しそうに笑う。


 隣の女性が、丁寧に一礼した。




「初めまして。大聖女アリシアと申します」


「初めまして、アトラです」


「キャトラよ」




 名乗り返すと、アリシアさんはやわらかく微笑んだ。




「今回、ご一緒することになりました」


「一緒って……」


「城塞都市で七聖英雄の会議があるんスよ!」




 リィナさんが横から元気よく言う。




「だから拳聖のあたしと大聖女のアーちゃんが行くってわけっス! いやー、にしてもこの二人と一緒なのは楽しみっスね!」




「七聖英雄の会議なんて、そんなのがあるのね」


「定期的にあります」




 姉さんが聞くとアリシアさんは落ち着いた声でこたえてくれる。




「昇格戦を受けるとうかがいました」


「はい」


「どうか気負いすぎず」


「もちろん全力でいくわよ!リィナの時みたいに!」


「頼もしいっス!」




 こうして並ぶと、ずいぶん賑やかだ。


 二人きりの旅を想像していたから少し意外だったけど、悪い気はしない。




「そろそろ出ますよー!」




 御者の声が響く。




「じゃ、乗るっスか!」


「そうですね」


「行こうか、姉さん」


「ええ」




 馬車へ乗り込む。




 窓の外では、見慣れた王都の景色が少しずつ遠ざかっていく。


 城塞都市グランバルドへ向かう旅路が始まった。

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