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平穏

体調悪くて更新止まってました。。ごめんなさい!!

まだ完治してないのでゆっくり上げていきます。更新休みの日はtwitterで情報流してるのでぜひフォローお願いします。

青晶洞から戻った翌日、僕たちはガルドさんの鍛冶屋へ向かっていた。




 昨日のうちにギルドへの報告は済ませてある。宝石喰いが五体いたと話した時は、さすがにメレナさんも目を丸くしていたけれど、依頼達成の処理そのものは問題なく終わった。




「どんな剣になるかな??」


「もうすぐわかるわよ!」




 姉さんの声に頷いて、扉を開ける。




「すみませーん」




 声をかけた瞬間、奥からすぐに返事が飛んできた。




「おぉ!? 戻ったか!」


「はい」


「はよ見せろ! 虹晶魔鉱は取れたか!」




 急かされるまま、姉さんが袋を作業台へ置いた。




「ちゃんとあるわよ」




 まず取り出したのは虹晶魔鉱だ。青く透き通った結晶の中で、淡い虹色の光が揺れている。ガルドさんはそれを両手で持ち上げ、光に透かし、何度も角度を変えて眺めた。




「おぉぉ……!」


「足りますか?」


「足りる。これなら十分じゃ」




 そこまでは、まあ普通だった。




 次に姉さんが晶角を取り出して机に置く。


 その瞬間だった。




 ガルドさんの目が見開かれる。




「……お、おぉ?」




 さっきまでの勢いとは少し違う。


 今度は無言のまま手を伸ばし、親玉の晶角を両手で持ち上げる。




 表面を撫でる。重さを確かめる。先端から根元までじっと見て、それからもう一度光へ透かした。




「……でけぇ」


「親玉のだからね」


「それにしても質がいい……なんじゃこれ、最高じゃねぇか……」




 独り言みたいにぶつぶつ呟いていたかと思うと、次の瞬間には顔を上げて叫んでいた。




「これでハンマーを新調できるぞぉーい!!」


「そっち!?」


「やっぱりそっちなんだ……」




 僕と姉さんの声が重なる。




 ガルドさんは晶角を掲げたまま、完全に上機嫌だった。




「当たり前じゃろうが! 見ろこれ! この密度! この通り! こんだけ上等な晶角がありゃ、今よりずっといいハンマーに――」


「もしかして」




 姉さんがじとっとした目を向ける。




「本当はそっち目当てで依頼出したんじゃないでしょうね?」


「そ、そんなことないわいっ!」


「嘘! 声震えてるわよ!」


「ふ、震えとらん! これは職人としての高揚であってじゃな!」


「いや怪しすぎるでしょ……」




 さすがに僕もそう思う。




 姉さんがさらに半眼になる。




「じゃあ何? 虹晶魔鉱が足りないって話も怪しいわけ?」


「それは本当じゃい!」


「即答だ」


「ほんとなんじゃ! 剣に虹晶魔鉱は要る! 要るが、晶角は……その……あわよくば、じゃ」


「やっぱりついでじゃない」


「ついでとは言っとらん! 大事な素材のひとつとして期待しておっただけで――」


「それを世間ではついでって言うのよ」




 姉さんがばっさり切る。




 ガルドさんは「ぬぐぐ」と喉の奥で唸り、晶角を抱えたまましばらく固まっていた。




「……じゃあ」


「ん?」


「そこまで言うなら、とことん割り引いてもらおうかしら」


「なに?」


「だって、あわよくば欲しかったんでしょ? そのおかげでハンマーまで新調できるんでしょ?」


「うっ」


「しかも質も最高なんでしょ?」


「ううっ」


「だったら安くしてよ」


「ぐぅぅぅ……」




 目に見えてしょげた。


 さっきまであんなに元気だったのに、今は肩まで落ちている。ちょっと面白い。




「いや、その、儂も商売でやっとるんじゃが……」


「でも、あんたかなり得してるじゃない」


「そりゃあ得はしとるが……」


「なら決まりね」


「決まってしもうた……」




 晶角を見下ろしながら、ガルドさんが本気でがっくりしている。




 姉さんは満足そうだった。


 たぶん、最初からこうするつもりだったんだろう。




「で」




ようやく僕は本題に戻す。




「剣の方はちゃんと作れるんですよね?」


「作るわい……」


「そこは心配せんでいい。素材は揃った。あとは儂の仕事じゃ」


「……お願いします」


「任せとけ」


「ちゃんと割引いてよね」


「わかったわぃ、……」


「当然ね」


「ぐぬぬ……」




ガルドさんが悔しそうに唸る。




「数日はかかる。それまでは来るな」


「見に来ても?」


「駄目じゃ」


「そこはぶれないのね」


「当たり前じゃろ」




鼻を鳴らしながら、鉤爪を指でなぞる。




「待った分だけ、いいもんにしてやる」


「……楽しみにしてます」


「おう」




さっきまでの情けない声が嘘みたいに、そこにはもう職人の顔をしたガルドさんがいた。







孤児院へ顔を出すと、庭の方から今日も賑やかな声が聞こえてきた。




「アトラ兄ちゃん!」


「キャトラ姉ちゃん!」




 元気よく駆け寄ってくる子どもたちに手を振り返しながら、庭の空いた場所へ向かう。前よりずっと表情が明るい。




「今日は何やるの?」


「魔法見て!」


「もうできるようになったのあるの!」




 口々にせがまれて、姉さんが苦笑する。




「はいはい、順番にね。走らない、押さない」


「はーい!」




 庭の真ん中に子どもたちを集める。いつもの場所だ。少し前まで、ここでやっていたのは体の中のマナを感じる練習くらいだったのに、今はもう、こうして形にするところまで来ている。




「じゃあ今日は、遊びながらやろうか」


「遊び!?」


「ほんと!?」


「ただし、ちゃんと制御できる範囲で、だよ」




 そう言うと、みんなの目がぱっと輝いた。




 最初に前へ出てきたのは火属性を持つカイルだった。掌を前に出して、真剣な顔で息を止める。指先に集まった赤いマナが、ぽん、と小さく弾けた。




 花火みたいに丸く散って、すぐ消える。




「おおっ!」


「今の見た!?」


「ちっちゃい花火だ!」




 本人がいちばん驚いた顔をしていた。




「できた……!」


「うん。今のよかったよ」


「へへ……」




 褒めると、途端に胸を張る。




 その横では、水属性を持つセシルがそっと両手を差し出していた。集めた水がふわりと浮かび、ゆっくり形を変える。尾ひれのついた小さな魚。泳ぐところまではいかないけど、宙をゆらゆら漂うだけでも十分だった。




「すごい……」


「魚だ!」


「かわいい!」




 セシルが照れたように笑う。マナの流れは前よりずっと安定していた。やっぱり丁寧だ。




「セシル、いい感じ」


「ほ、本当ですか?」


「うん。崩れてない。すごくきれい」




 言うと、耳まで赤くして俯く。そこへ姉さんがしゃがみ込んだ。




「次、氷やってみる?」


「はい……!」




 今度はミリアだ。姉さんの手元を真似るように冷気を集め、指先で少しずつ形を整えていく。最初はただの塊だった氷が、ゆっくり花びらの形を取り始める。




「丸く、尖らせないで」


「う、うん……」


「そう。花びら重ねるみたいに」




 できあがったのは、小さな氷の花だった。陽の光を受けて、透き通った花びらがきらきら光る。




「できた!」


「上手いじゃない」


「ほんとに花になってる!」




 そこへ風属性を持つランが身を乗り出す。




「じゃあ僕、風で回す!」


「回す?」


「こうやって!」




 氷の花の周りで風がくるりと巻いた。最初はばらついていたけど、二周、三周と回るうちに形が落ち着く。花びらが風に乗って揺れるみたいで、ちょっと綺麗だった。




 小さな花火を見せてくれたカイルがそわそわしていた。




 火花だけではもう満足できないらしい。両手を前に出して、今度は火だけじゃなく雷のマナまで一緒に集め始める。指先で赤と紫がちらちら混ざった。




 嫌な予感がした。




「カイル、それは――」


「見てろって! こう、もっとばーんってできそうな」




 ごつん。




「いっっっ!?」




 鈍い音がして、カイルが頭を押さえて飛び上がる。




「何すんだよ! レオンのおっさん!」




 振り向いた先、庭の端に立っていた大きな影が、いかにも呆れた顔で眉を寄せていた。




「危ねぇから止めたに決まってんだろ! 基礎をちゃんとやれ、基礎を。あと俺はまだ二十九だ!!」




 庭がどっと笑いに包まれる。




「また言ってるー!」


「レオンおじさん二十九!」


「おじさんじゃねぇ!」




 騒ぐ子どもたちを前に、レオンさんがますます不機嫌そうな顔になる。前に、僕たちが朝から依頼で動く日は子どもたちの魔法を見てもらえないかと頼んだことがある。断られるかと思ったけど、「まあいいぞ」と返ってきたのがはじまりだった。


 それ以来、こうしてたまに顔を出してくれるようになった。



「みんなすごいね」


「へへ」


「えへへ……」


「もっとできるようになりたい!」




 火花が弾け、水が揺れ、風が流れ、氷が陽を返す。そのひとつひとつは小さいのに、見ていると不思議と満たされる。




「アトラ兄ちゃん!」


「ん?」


「今度、ばーんってやつも教えてくれる!?」


「基礎がもっとできたらね」


「えー!」


「あたりまえだ」




 僕とレオンさんがカイルを窘めていると、姉さんが手を叩く。




「ほら、今日はここまで、続きはまた今度」


「はーい!」


「もっとやりたかったー!」


「また来るでしょ!?」


「来るよ」


「レオンおじさんも!?」


「だからおじさんじゃねぇ!」




少しずつできることが増えていくこの時間は、たぶんみんな好きなんだと思う。僕も、姉さんも、多分レオンさんも。




 帰り際、ルミエラさんが小さく頭を下げる。




「ありがとうございます。あの子たち、本当に楽しみにしていて」


「僕たちも楽しいです」


「そうそう。たまにあっちの二十九歳も来るしね」


「おまえまで…」


「自分で言ってたじゃない」


「……ったく」




  姉さんが笑う。


子どもたちもつられて笑う。

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