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魔法のコツ

結構頑張って更新してるけど表現力が上がってる気がしない…

もっと書くぞおおおおおおお

ヴァルフェニアとの戦いから、1週間。いつの間にか日課になっているレオンさんとの訓練を終えた頃には、朝の空気もだいぶ柔らかくなっていた。




打ち合いの熱がまだ腕に残っている。木剣を下ろして息を整えると、じわりと汗が浮いた。向こうも額の汗を袖で乱暴に拭いながら、いつものぶっきらぼうな顔でこっちを見る。




「今日はここまでだ」




「ありがとうございました」




軽く頭を下げると、レオンさんは鼻を鳴らしただけだった。近くの切り株に腰を下ろして水を飲む。喉を潤したところで、レオンさんがふと思い出したように口を開いた。




「そういや、何かわかったか?」




一瞬だけ何のことかと考えて、すぐに思い当たる。




「今、練習中です」




そう答えると、隣で水を飲んでいた姉さんが口元を拭いながら笑った。




「ああ、アトラが夜にこそこそやってるあれのことね」


「こそこそって……」 




 レオンさんから借りた本に載っていた古代魔法の記述は、まだ全部が全部理解できたわけではないが、今まで自分が感覚で使っていたものと、文として残された知識が少しずつ繋がり始めていた。




もちろん、まだ形にはなっていない。




「まだ全然です。なんとなく、これかなっていう感覚はあるんですけど」


「ふん」




レオンさんは短く鼻を鳴らし、木剣を肩に担ぐ。




「まあ、できるようになったら見せてくれや」


「……はい」




そう返すと、姉さんが少し面白そうにこっちを見る。


少し風が吹いた。訓練場の端に積もった砂がさらりと流れる。




「今日も行くのか?」




そう聞かれて、僕と姉さんは顔を見合わせるまでもなく頷いた。




「はい」


「子どもたちが、早く魔法を教えてくれってうるさいのよ」




姉さんが肩をすくめる。


レオンさんもそれを聞いて、ほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。




「……ま、悪くねえな」


「そうですね」




短いやり取りを終えて、僕たちはそのまま孤児院へ向かった。




   ◇




孤児院の扉を開けると、今日もすぐに明るい声が飛んできた。




「アトラ兄ちゃん!」


「キャトラお姉さん!」




子どもたちがぱたぱたと駆け寄ってくる。


前に来た時よりずっと足音が軽い。その中心にいるセシルの顔色も、もう見違えるくらい良くなっていた。




「おはよう」


「お、おはようございます……!」




セシルは少し照れたように笑って頭を下げる。


あの時ベッドの上で苦しそうに息をしていた姿を思うと、それだけで胸の奥が少しだけ温かくなった。




「今日も魔法、教えてくれるんでしょ!?」


「昨日の続きやりたい!」


「今度こそ僕できるかも!」




子どもたちが口々に騒ぎ出す。


それをルミエラさんが苦笑しながらたしなめた。




「こらこら、そんなに一度に言ったら困らせてしまうでしょう」


「だって待ってたんだもん!」


「わたしも、早く知りたいです……」




セシルまで小さく手を上げるものだから、姉さんが吹き出した。




「ほんと元気になったわね」


「はい。まだ少しだけだるい時はありますけど……でも、前よりずっと楽です」




その言葉に、ルミエラさんも穏やかに頷く。




「じゃあ、今日も昨日と同じところから始めようか」




そう言うと、子どもたちが一斉に姿勢を正す。


前よりずっと真面目だ。特にカイルは、今にも食いついてきそうな顔でこっちを見ている。




「まずは、体の中にあるマナを意識するところから。焦らなくていいから、ゆっくり」


「うん!」


「はい!」


「……うん。」




みんなで床に座り込み、目を閉じていく。


僕もその輪の中にしゃがみながら、一人一人の様子を見る。




マナの感覚は、それぞれ違う。


流れを掴むのが早い子もいれば、まだぼんやりとしか分からない子もいる。けれど確かに、前より進んでいた。




ミリアは油断するとマナがブレるけど、今日は前より長く保てている。ランはまだ感覚を掴みきれていないものの、体の内側へ意識を向けるのが上手い。そんな中でひときわ伸びが早いのがセシルだった。




「……すごい」




思わず小さく漏れる。


セシルの中では、もうマナが途切れず巡り始めていた。まだぎこちないけど、確かに循環している。ここまで来れば、魔法を使える日もそう遠くないはずだ。




「セシル、すごくいい感じだよ」


「ほ、本当ですか?」


「うん。もう少しで形になると思う」




そう言うと、セシルの顔がぱっと明るくなった。


その横で、カイルがぐっと唇を噛む。




「……いいな」


「カイル?」


「俺、全然わかんない」




ぽつりと零した声は、普段のカイルからは想像できないほどだ。




「みんな少しずつできてるのに……俺だけ全然だ。やっぱり俺、魔法使えないのかな」




その顔を見た瞬間、少しだけ遠い記憶が胸の奥を掠めた。




   ◇




暖炉の火がぱち、と弾ける。


薄暗い部屋の中、揺れる光の向こうで彼女は本を片手に何かを唱えていた。




空気が震える。


見えないはずの何かが形を持ち、次の瞬間には光になり、炎になり、風になって消えていく。




何度見ても不思議だった。


あらゆる魔法を扱うその姿を、床の上からただ見上げながら、あの頃の僕は何度も同じことを考えていた。




 ――僕も、使えるんだろうか。




そんな顔をしていたのだろう。


ふいに彼女が振り向いた。




「なぁに?」




柔らかな声だった。


少しだけ笑って、こちらへしゃがみ込む。




「あなたも魔法を使いたいの?」




言葉は返せなかった。


返せるはずもない。ただ、じっと見上げることしかできない僕に、彼女はくすっと笑った。




「コツはね――」




細い指が、鼻先をつんと突く。




「どんな魔法でも使えるって信じることよ」




   ◇




「アトラ兄ちゃん?」




呼ばれて、意識が戻る。




目の前には不安そうなカイルの顔。


少しの間だけ黙って、それから僕は笑った。




「コツはね」


「え?」


「使えるって信じることだよ」




口にした瞬間、少しだけ懐かしさが胸を掠めた。




「使えるって……信じること?」




カイルが少しだけ眉を寄せる。


「……でも、アトラ兄ちゃんは最初からできたんじゃないの?」


「え?」


「なんか、なんでもできそう……」




思わず苦笑する。




「そんなことないよ。使えるようになるまで、ちゃんと時間はかかった」


「ほんとに?」


「ほんと。結構苦労したし、初めて使えた時はすごく嬉しかった」




そう言うと、カイルが少しだけ目を丸くした。


姉さんが横でくすっと笑う。




「あたしは二、三日で使えるようになっちゃったのよね」


「そこ、ちょっとひどくない?」


「だって本当じゃない」




悪びれもせずに言う。


実際その通りで、僕がおしえてから数日でものにした姉さんは普通にすごい。多分魔法のセンスは姉さんに敵わない。




「だから焦らなくていいんだよ」




カイルの顔を見る。


悔しさも焦りも、そのまま出ていた。前に進みたいのに思ったようにいかない、そのもどかしさも分かる気がした。




「マナを感じる速さも、掴み方も、人それぞれだから。セシルみたいにすっと入れる子もいるし、ゆっくり慣れていく方がうまくいく子もいる」


「……うん」


「カイルの場合は」




少しだけ考える。




「使いたい魔法を、ちゃんと頭の中で思い浮かべてみるといいかもしれない」


「使いたい魔法?」


「うん。火でも、水でも、風でもいい。自分が何をしたいのか、どういう形で出したいのかを思い浮かべながらやってみると、案外そこから掴めることもある」




カイルは黙って聞いていたけれど、少しずつ顔つきが変わっていく。




「……やってみる」


「うん」




 


今度のカイルは、さっきより少しだけ呼吸が深い。焦りはまだ消えていないけれど、さっきみたいに空回りしてる感じじゃなかった。




その様子を見ていたところで、玄関の方から控えめに扉を叩く音がした。




ルミエラさんが立ち上がる。




「はい、今出ます」




扉を開けると、見覚えのあるギルド職員が立っていた。


ギルドの中で何度か見かけた若い男の人だ。




「あ、どうも。ギルドからです」


「ギルド?」


「はい。アトラさんとキャトラさんに届け物を」




そう言って差し出されたのは、一通の封書だった。


孤児院の中まで持ってきてもらい、ルミエラさんから受け取る。




「呼び出し、ですか?」


「いえ、今回は呼び出しじゃなくて」




職員の人が少しだけ苦笑した。




「鍛冶屋への案内書だそうです」


「鍛冶屋?」




思わず姉さんと顔を見合わせる。




封を開くと、中には簡単な地図と店の名前、それからキースさんらしいぶっきらぼうな一文が入っていた。




『剣を作る気があるなら、ここへ行け。話は通してある』




短い。


姉さんが吹き出した。


職員の人が少しだけ肩をすくめる。




「キースさんからは、“どっちにしろ1回行ってみてくれ”とのことです」


「……そうですか」


「では、確かに届けましたので」




軽く頭を下げて帰っていく。




案内書を見下ろす。


この一週間で、僕はヴァルフェニアの鉤爪からできる剣を作ることに決めていた。




「いつ行く?アトラがきめていいわよ。」


「明日でいいんじゃないかな?」




そんなやり取りに、カイルたちが何事かとこっちを見ている。


その視線に気づいて、僕は案内書をいったん畳んだ。




「まあ、それはそれとして」


「うん。今は授業の続きね」




姉さんがそう言って手を叩くと、子どもたちがまた慌てて姿勢を正す。




気づけば窓の外の陽はだいぶ高くなっていた。



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