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白癒の天使

第二十話から投稿時間を18時固定にしようかなと。

あとエピソードタイトルあったほうがいいよね!?センスないんだよなあ。

それでは第十九話です!!長め!!!

西に傾きかけた陽が、王都の街並みをやわらかく染めていた。




ギルドを出たあと、僕たちは三人を連れて孤児院への道を歩いていた。




カイルは少し落ち着かない様子で何度も僕たちの方を見上げている。


ミリアはそんなカイルを呆れたように見ながらも、ちゃんと隣を歩いていた。


ランは少し後ろ寄りを歩きながら、でももうさっきみたいな怯えきった顔ではなく、どこかほっとしたような表情をしている。




「……それにしても!」




やがて我慢できなくなったみたいに、カイルが声を上げた。




「魔法、すっげぇよな!」




その一言に、ミリアもこくりと頷く。




「うん。あの氷の細剣……すごく綺麗だった」


「でしょ!」




なぜか姉さんが得意げに胸を張った。




「わかってるじゃない、ミリアちゃん!」


「なんでキャトラさんが得意げなのよ」


「そりゃあ、褒められてるから?」


「自分で言うのね……」




ミリアが半分呆れたように言うと、姉さんはまったく気にした様子もなく笑う。




その横で、カイルはもう止まらなかった。




「ほんと、すごかったんだって! こう、最初にバッて走ってきて、そっからドーン! ってなって、バーン! ってして、それで――」


「全然伝わってないわよ」


「なんでだよ!?」


「大雑把すぎるのよ!!」


「だってすごかったんだって!」


「語彙が死んでるのよ」


「ごい?」


「そこからなの!?」




ぎゃあぎゃあと始まった二人を見て、思わず小さく笑ってしまう。




すると、少し後ろを歩いていたランが、おずおずと口を開いた。




「……ぼ、僕も」


「ん?」




僕が振り返ると、ランは少し恥ずかしそうに俯きながら言った。




「僕も、見てみたかった……」




その声は小さかったけれど、憧れが伝わってきた。




カイルとミリアが見たもの。


自分は見られなかったもの。


でも、二人があれだけ目を輝かせて話すくらいなんだから、きっとすごかったんだろう。




そんな気持ちが、その一言だけでよく分かった。




「そーだ!」




そこでカイルがぱっと顔を上げた。




「アトラ兄ちゃんたち、魔法教えてくれよ!」




突然の言葉に、僕は少しだけ目を瞬いた。




「え?」


「ちょっと、カイル」


「だっていいだろ!? あんな魔法使えたら絶対すげーじゃん!」




カイルはすごい勢いで僕に詰め寄る。




「俺、冒険者になりたいんだ!」


「あんたがなれる訳ないじゃない」




ミリアが呆れたように突っ込む横で、ランも少しだけ勇気を出すように言った。




「ルミエラ先生、神聖魔法しか使えないから……」


「普通の魔法は、教われないんだ」




なるほど、と思う。




子どもたちが僕たちの魔法に憧れるのは自然だ。


ルミエラ先生がどれだけすごい人でも、使える魔法の系統が違うならなおさら。




「ねぇ、だめかな!?」




カイルが身を乗り出す。




ミリアは「いきなり何言ってんのよ」と言いたげな顔をしながらも、完全には止めなかった。


ランも不安そうにしながら、でもどこか期待した目でこちらを見ている。




その視線を受けて、僕はすぐには返事ができなかった。




教えること自体は、嫌じゃない。


むしろ、少しでも力になれるならと思う。




でも――




「いきなりは駄目」




答えたのは姉さんだった。




三人がそろってしゅんとなる。




「えぇー……」


「だって、あんたたち今日なにしたと思ってるのよ」




姉さんがじとっと三人を見る。




「薬草を取りに森の中層まで行って、魔獣に追いかけられて、助けを呼びに走って、もう少しで大怪我どころじゃ済まなかったのよ?」


「うっ」


「魔法なんて教えたら絶対無茶するわ」


「……はい」




三人そろって小さく返事をする。




でも姉さんの声音は、突き放すようなものじゃなかった。




「だから、とりあえずルミエラ先生に会って、ちゃんと話してから」


「話してから……?」




ランが恐る恐る聞き返す。




姉さんはちらっと僕を見る。




「アトラ?」


「うん。まずは先生に会ってからだね」




僕は三人を見て、ゆっくり言葉を選んだ。




「勝手に決めるわけにはいかないし、みんながどうしたいのかも、ちゃんと聞きたい」


「どうしたいか?」


「うん」




カイルの目を見ながら、僕は続ける。




「強くなりたいって気持ちだけじゃ、難しいこともあるから」


「……」




カイルが少しだけ真面目な顔になる。




さっきまでの勢いだけじゃない、ちゃんと届いた顔だった。




「でも」




僕は少しだけ笑った。




「話は聞くよ」


「……!」




三人の顔が、ぱっと明るくなる。




「ほんとか!?」


「まだ決まったわけじゃないからね」


「でも、可能性はあるってことだろ!?」


「まあ……うん」




そこで姉さんが小さくため息をついた。




「ほんと、こういうのにはすぐ甘いんだから」


「姉さんもたぶん同じでしょ」


「……まあ、否定はしないけど」




少しだけ照れたみたいに視線を逸らす姉さんに、ミリアがくすっと笑う。




カイルはもう、教えてもらうことが決まったかのように喜んでいる。




「よっしゃ!」


「まだ決まってないって言ったよね?」


「でもルミエラ先生がいいって言えばいいんだろ!?」


「極端なのよ、あんたは」


「ミリアだって見てたじゃん、すっげーって顔で!」


「してない!」


「してた!」


「してない!」


「してたって!」




また始まった。




――そんなふうに騒ぎながら歩いているうちに、やがて目的の場所が見えてきた。




「あれが、僕たちの孤児院」




ランが小さく言う。




門の向こうには、ひとりの女性が立っていた。




門の向こうに立っていたのは、黒髪の女性。


飾り気の少ない淡い色のワンピースに、動きやすそうな上掛けを羽織っている、整った顔立ちの美しい人だった。


けれど今はその綺麗さよりも、表情に滲んだ不安の方がずっと強く目に入る。




「ルミエラ先生……」




ミリアが呟いた、その瞬間。




こちらに気づいた女性の瞳が大きく見開かれた。




「カイルっ……ミリア、ラン!」




その声は張りつめていた。




次の瞬間には、彼女は裾を乱すことも気にせずこちらへ駆け出してくる。




三人も一斉に走った。




「先生!」


「ルミエラ先生っ!」




ぶつかるように駆け寄った三人を、ルミエラさんはそのまま強く抱きしめた。




「よかった……本当に、よかった……!」




その声は震えていた。




三人の無事を確かめるように肩や頬に触れ、それから少し離して、今度は本気で叱りたいのに叱りきれないような顔になる。




「あなたたち、どれだけ心配したと思って……」


「ご、ごめんなさい……」


「ごめんなさい、先生」


「……ごめん」




三人がそろってしゅんとする。




ルミエラさんはそんな三人を見つめて、それ以上きつい言葉を飲み込んだみたいだった。




代わりに僕たちへ向き直り、深く頭を下げる。




「ありがとうございます……!」


「この子たちを助けてくださったのですね」


「い、いえ」


「べ、別に、そんな大したことじゃないわよ」




思っていたより真っ直ぐに礼を言われて、僕は少し慌ててしまう。


姉さんも同じだったらしく、珍しく少しだけ歯切れが悪かった。




ルミエラさんは顔を上げて、静かに言った。




「この子たちは、私の大切な子たちですから」




その言葉に、カイルたちが少しだけ嬉しそうな顔をする。




それから少しだけ困ったように微笑んだ。




「詳しいお話は中で……せめて、お礼だけでもきちんとさせてください」






ーーーーーーーーーーーー




ルミエラさんに案内されて、僕たちは孤児院の中へ入った。




建物の中は外観と同じで、華美なところはひとつもない。でも、よく手入れされているのがすぐに分かった。




磨かれた床。


丁寧に繕われたカーテン。


壁に飾られた子どもたちの拙い絵や、色紙で作られた花飾り。




決して裕福じゃない。


それでも、ここで暮らす人たちが大事にしている場所なんだと伝わってくる空間だった。




「すみません、少しこちらで待っていてください」




ルミエラさんはそう言って、三人の方へ優しく視線を向ける。




「カイル、ミリア、ラン」


「……はい」


「あとでちゃんとお話は聞きます。だから今は、手を洗って着替えてきなさい」


「うっ」


「やっぱり……」


「ひぃ……」




三人がそろって顔を引きつらせる。




けれど彼女は、そこでふっと表情をやわらげた。




「無事に帰ってきてくれて、本当に安心したのです。だからまずは、他のみんなにも顔を見せてあげて。」


「……はい」


「はーい」


「わ、わかりました……」




三人はしゅんとしながらも、どこかほっとしたように頷いた。




その時だった。




「カイルたちだ!」


「ほんとだ! おかえり!」




奥の部屋から、ばたばたと小さな足音が聞こえてくる。




気がつけば、数人の子どもたちが顔をのぞかせていた。


みんな、心配していたのだろう。カイルたちの姿を見た途端、ぱっと顔を明るくして駆け寄ってくる。




「無事だったの!?」


「遅かったから、ルミエラ先生ずっと心配してたんだよ!」


「どこいってたんだよ!?」




一気に囲まれて、カイルたちが「わっ、押すなって!」と慌てている。


その様子を見て、ルミエラさんがまた頭を下げる。




「本当に……ありがとうございます」


「そんな、頭を上げてください」


「最近、王都の中でも行方が分からなくなる子がいるという噂もあって、あの子たちの姿が見えないと分かった時、本当に不安で……無事に帰ってきてくれただけでも奇跡のように思っています。」




ようやくホッと胸を撫で下ろすことができたであろうその姿に、僕も嬉しくなる。




「ところでお二人のお名前は?」




「ええと……そういえば、ちゃんと名乗ってなかったわね」


「そうだった」




僕も頷く。




「僕はアトラです」


「あたしはキャトラ」


「アトラさん、キャトラさん……」


「改めまして、ルミエラです。あの子たちがお世話になりました」




自己紹介が済んだところで、ルミエラさんから事情を聞かれる。




「……ところで」


「はい?」


「あの子たちを見つけたのは、どこだったのでしょうか…先程グリムジャガーに襲われていたと仰っていましたが…」




僕と姉さんは一瞬、顔を見合わせる。




「風渡りの森です」




その言葉に、彼女の目が大きく見開かれた。




「森の中……?」


「はい」


「どうして、あの子たちが森の中に…」




呆然としたように呟く様子に、姉さんが小さく肩をすくめた。




「月雫草を探してたみたいよ」






「まさか、あの話を……」




苦しそうに目を伏せながら語り出す。




「昔、教会に勤めていた頃の伝手から、その薬草が特効薬になるかもしれないと聞いたことがあって……」


「ですが、依頼を出すだけのお金が足りなくて、どうすればいいのか悩んでいました」


「あの子たちの前で話したつもりはなかったのですが……聞かれてしまっていたようです」




その声には、自分を責める響きが滲んでいた。




「最初は、ちゃんとギルドでお願いしてたみたいよ」


「え……?」


「依頼を出して、誰かに採ってきてもらおうとしてたんですって」




ルミエラさんが顔を上げる。




僕も続けた。




「でも、依頼料が足りないって言われて、なかなか受けてもらえなかったそうです」


「そんな……」


「そのあと、ギルドの外でどうしようかって悩んでたところに、男が話しかけてきたらしいわ」




声が少し低くなる姉さん。




「男、ですか?」


「ええ。フードを被ってて、顔はよく見えなかったって」




彼女の表情がわずかに曇る。




「その男が、月雫草を知っていたんですか?」


「風渡りの森の外縁部で見た、って言われてそれなら自分たちでも取りに行けるかもしれないって思ったんでしょうね」


「……」


「でも探してるうちに、気づけば中層まで入ってしまっていて、そこでグリムジャガーに襲われた」


「そこからは、あたしたちが助けたわ」




話がそこまで進んだところで、ルミエラさんはしばらく言葉を失ったようだった。




やがて、震える息をひとつ吐いてから、また深く頭を下げる。




「本当に……ありがとうございます」


「なんとお礼を申し上げればいいのか……」




何度も繰り返されるその言葉に、僕は少しだけ胸が痛んだ。




この人は、あの子たちがしたことまで、自分の責任として受け止めようとしている。




やがて彼女は、ぽつりと呟くように語り出した。




「この孤児院にいる子のひとりが、“マナ飽和症”なんです」


「マナ飽和症……?」




聞き慣れない言葉に、僕は眉をひそめた。




ルミエラさんは静かに頷く。




「生まれつき体内のマナ量が多すぎる子が、ごく稀に発症する病です」


「マナが多いと病気になるの?」




姉さんが驚いたように言う。




「はい。本来なら、成長とともに魔法を覚え、練習の中でマナを外へ流す術を身につけていくので、発症することは少ないんです」


「でも、その子は……」


「私は神聖魔法しか使えません」




自分を責めるように目を伏せた。




「普通の魔法を教えてあげられないのです」


「……」


「本当に、不甲斐なくて……」




その肩が、かすかに震える。




僕は言葉を失った。




「何とか神聖魔法で症状を和らげてはいるんです」




続く声は静かだった。




「ですが、効果は薄くて……熱を下げても、またすぐにぶり返してしまう。ずっと、その繰り返しなんです」


「月雫草が、その特効薬なんですね」


「ええ」




小さく頷いた。




部屋の中に、短い沈黙が落ちる。




何とかしたいのに、どうにもならない。


そんなもどかしさが、さっきからずっとこの部屋には滲んでいた。




姉さんも何も言わなかった。


たぶん、同じことを感じているんだと思う。




僕は一度だけ息を吸ってから、静かに口を開く。




「……ルミエラさん」


「はい」




やわらかな返事だった。


けれどその奥には、少しだけ張りつめたものが残っている。




「その子に、会わせてもらってもいいですか」




言った瞬間、わずかに目が見開かれる。




「アトラ……?」


姉さんが小さく僕の名を呼ぶ。




でも、もう口にしてしまった以上、引っ込めるつもりはなかった。




「何かできるって、まだ言えるわけじゃありません」


「ただ……話を聞いてるだけだと、どうしても気になってしまって」




視線を受け止めながら、言葉を続ける。




「実際に、その子の様子を見てみたいんです」




ルミエラさんはすぐには答えなかった。




無理もない。突然こんなことを言われたら、僕だって簡単には返せないと思う。




それでも、しばらくして――




「……そう、ですね」




静かな声が返ってくる。


その表情には、まだ迷いが残っていた。


 


「分かりました」


「ですが、その前に……あの子も今は眠っているかもしれません。少しだけ、様子を見てまいります」




「はい」


「ありがとうございます」




 


そう言って席を立った背中を、僕は黙って見送った。




その子に会っても何も出来ないかもしれない




それでも――




ただ見過ごして帰ることだけは、どうしてもできそうになかった。

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