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若いっていいね

ちょっといろいろできそうな展開になってきましたねえ。

こう見ると第一話からの内容の薄さやばいですね笑

それでは第十八話!!

次の瞬間、僕たちは同時に地面を蹴った。




揺れる茂みを抜けた先、開けた道の端にいたのは、まだ十歳そこそこに見える子どもたちだった。




前に出ていたのは、茶色の髪をした男の子。


手には、細い枝を一本だけ握りしめている。




震えていた。


声も、足も、握った枝先さえも。


それでも、その子は下がらなかった。




「来るな……っ!」




震えた声で叫びながら、背後の女の子を庇うように立っている。




後ろにいたのは、肩までの髪を揺らした女の子だった。


泣きそうな顔でその子の服を掴みながら、それでも逃げ出さずにいる。




「バカ、無理に決まってるでしょ……!」




震え声でそう言いながらも、その子もまた一歩も動けずにいた。




グリムジャガーは低く唸り、地を這うように身を沈める。




狙っている。


次の一跳びで、あの子たちに届く。




「間に合えっ……!」




僕は右へ回り込みながら、掌に風を集めた。




姉さんは左から一直線に駆ける。




グリムジャガーが前脚に力を込めた、その瞬間だった。




「そっちには行かせないっ!」




姉さんが叫ぶ。




氷の細剣が、横から鋭く閃いた。




ギィンッ!!




狙いが子どもたちから逸れた。




「こっちだ!」




僕は一気に間合いを詰めながら、風弾を放つ。




バシュッ!




圧縮した風がグリムジャガーの肩口を打ち、魔獣の身体がわずかによろめく。




低く唸りながら、今度は僕たちへと向き直る。




「姉さん、子どもたちを!」


「分かってる!」




姉さんが一歩踏み込んで、グリムジャガーの注意をさらに引きつける。


その隙に、僕は子どもたちの前へ滑り込んだ。




「もう大丈夫」




短くそう声をかけると、枝を握っていた男の子がはっとしたように目を見開いた。




「だ、誰……」


「冒険者だよ。君たちは下がって」




言いながら、僕は風を薄く広げて子どもたちの前に壁のように走らせた。




次の瞬間、グリムジャガーが影を揺らしながら横へ跳ぶ。




「またそれ……!」




姉さんが舌打ちする。




風と影で位置をずらしてくる動きは、さっきの個体と同じだ。




でも、今度は守る相手がいる。




さっきみたいに距離を取って相手する余裕はない。




「アトラ!」




「うん!」




姉さんの声に合わせ、僕はすぐに風を上へ走らせた。




木々の間を抜ける風の流れに、自分の魔法を重ねる。


目で追い切れなくても、風の乱れは隠しきれない。




いた。




右上。




「姉さん、頭上!」




叫ぶと同時に、姉さんが身体をひねる。




そのすぐ横を、黒い影が矢のように駆け抜けた。




グリムジャガーは着地と同時に方向を変え、今度は僕の背後――子どもたちのいる方へ回り込もうとする。




「させるかっ!」




僕は地面を蹴り、風をまとわせて一気に加速した。




「……そこだ!」




掌を振り抜く。




薄く広げた風が、木陰に沈んだ影の輪郭をわずかに崩した。




グリムジャガーの位置が、一瞬だけ露わになる。




「姉さん、右!」




「見えてるわ!」




姉さんが地を蹴る。




氷の細剣が煌めく




グリムジャガーはとっさに飛び退く。


でも、その逃げ道にはもう僕がいる。




「これで、終わりだ!」




圧縮した風弾を至近距離から叩き込む。




バシュッ! と鈍い音がして、グリムジャガーの身体が横へ吹き飛んだ。




だが、まだ浅い。




魔獣は地面を転がりながらも、すぐに起き上がろうと前脚へ力を込める。




「しぶとい……!」




「でも、もう終わりよ!」




姉さんがその前へ飛び込んだ。




氷の細剣が低く閃き、今度は迷いなくその喉元へ走る。




グリムジャガーが唸り声を上げるより早く、姉さんの一撃が決まった。




次の瞬間、その身体からふっと力が抜ける。




森の道に、静けさが落ちた。




「……ふぅ」




姉さんが氷の細剣を消し、ゆっくりと息を吐く。




僕も緊張を解きながら、すぐに子どもたちへ振り返った。




「怪我はない?」




男の子は、まだ枝を握ったまま、ぽかんと僕たちを見ていた。


その後ろの女の子も、目を潤ませたまま言葉を失っている。




少ししてから、女の子の肩が小さく震えた。




「た、助かった……?」


「うん。もう大丈夫だよ」




そう言うと、今度こそ張り詰めていたものが切れたのか、女の子がその場にへたり込む。




男の子も、枝を握っていた手から力が抜けた。




ぱさり、と地面に落ちたその細い枝が、さっきまでの必死さを物語っているみたいだった。




姉さんが子どもたちの前にしゃがみ込み、少しだけ強い口調で言う。




「大丈夫じゃないわよ。なんでこんなところにいるの?」


「っ……」




男の子が唇を噛む。




女の子は俯いたまま、ぎゅっと服の裾を握っていた。




僕は二人の前にしゃがみ込んで、できるだけ声をやわらげる。




「すぐ怒ったりしないから、教えてくれる?」




その言葉に、女の子がそろそろと顔を上げた。




泣きそうな目で、僕と姉さんを交互に見る。




「わ、わたしたち……」


「3人で薬草を、取りに来たんだ。」




先に答えたのは、枝を握っていた男の子の方だった。




強がるように顔を上げているけれど、その声はまだ少し震えていた。




「薬草?」


「うん」




今度は女の子が小さく頷く。




「孤児院にずっと熱が下がらない子がいて……」


「依頼を出そうとしたんだけど、お金がなくて……」




男の子が悔しそうに拳を握る。




「そしたらギルドの前でおじさんが、森の中層で見たって言ってて……」


「だから来たの?」




僕が聞くと、二人は小さく頷いた。




姉さんが額を押さえる。




「はぁ……ほんっと、無茶しすぎでしょ」


「でも……!」




男の子が食い下がろうとして、言葉を止めた。




その時、僕はふと気づく。




「……待って。3人でって言ったよね」


「っ」




二人の顔色が変わった。




女の子が慌てたように顔を上げる。




「ランが……!」


「助けを呼びに行ったんだ!」




男の子が叫ぶ。




「まだ戻ってないの?」


「わ、分かんない……!」




女の子――ミリアが今にも泣き出しそうな顔で答えた。






「最初は三人で逃げてたんだ!でも、このままじゃみんな助からないって……!」


「だから、ランだけ先に走らせたの」


「僕とミリアで引きつけて、その間に……!」




そこでようやく、男の子の声が揺れた。




強がっていたけれど、本当はずっと怖かったんだろう。




「ラン、足遅いのに……でも、行くって……」


「まだ戻ってきてないんだね」


「う、うん……」




僕は小さく息を呑み、すぐにマナと意識を広げた。




風の流れ。


木々の揺れ。


森の中に残る人の気配。




でも――それらしい反応がない。




「アトラ?」




姉さんが不安そうにこっちを見る。




「……見つからない」




自分で言いながら、胸の奥がひやりとした。




子ども一人で、この森を走った。


もし途中で別の魔獣に遭っていたら――




「ラ、ランは……?」


「大丈夫よね……?」




ミリアの声が震える。




僕は二人の目を見て、できるだけ落ち着いた声で言った。




「とにかく、一度王都に戻ろう」


「え……」


「ギルドに辿り着いてるなら、それが一番早い」


「もし戻ってなかったら、その時はすぐ捜す」




今この場で闇雲に動くより、その方がいい。




姉さんもすぐに頷いた。




「そうね。まずは戻りましょ」


「でも、ランが……!」


「だから急ぐのよ」




姉さんがきっぱりと言う。




「ここで泣いてても、何も早くならないわ」


「っ……」




カイルが唇を噛み、ミリアが小さく頷いた。




「行こう」




僕がそう言うと、二人は不安そうな顔のまま、それでも必死についてきた。







王都へ戻る道のりは、行きよりずっと長く感じた。




風渡りの森を抜ける風の音も、今は妙に落ち着かない。


カイルもミリアも、ほとんど何も喋らなかった。




姉さんはそんな二人の少し前を歩きながら、周囲を警戒している。


僕も何度も探知を広げたけれど、やっぱりランらしき反応は掴めないままだった。




嫌な想像が頭をよぎるたびに、胸の奥が重くなる。




でも、まだ決まったわけじゃない。




ギルドまで辿り着いているなら、それでいい。


それが一番いい。




「見えてきた……!」




先に声を上げたのはカイルだった。




木々の向こうに、王都の外壁と冒険者ギルドの建物が見える。




その時だった。




「お願いします、お願いです……!」




入口の方から、子どもの必死な声が聞こえた。




僕も姉さんも、そしてカイルとミリアも、同時に顔を上げる。




「あ……」


「今の声……!」




カイルとミリアが駆け出した。




僕たちもそのあとを追ってギルドへ飛び込む。




中は少しざわついていた。




受付の前で、小柄な男の子が必死に頭を下げている。


息は荒く、服は土で汚れ、膝には擦り傷まであった。




「友達が、森に……! お願い、助けてください……!」




震える声で繰り返していたその子が、こちらに気づいて顔を上げる。




目が、大きく見開かれた。




「カイル! ミリア!」




叫ぶようにその名前を呼んで、その場から飛び出してくる。




「ラン!」


「ラン……っ!」




カイルとミリアも一気に駆け寄った。




三人が抱き合うように固まっているのを見ながら、僕は胸の奥の重さが少しだけ抜けるのを感じていた。




無事だった。




本当によかった。




ランはカイルとミリアの顔を見た途端、張り詰めていたものが切れたみたいにぼろぼろ泣き出した。




「よかったぁ……っ、ほんとに、よかったぁ……!」


「こっちの台詞よ、バカ!」




ミリアが泣きそうな顔のまま怒鳴る。




「なんであんたが泣いてんのよ!」


「だ、だってぇ……」


「でも、助け呼びに行ってくれたんだろ」




カイルがぐしゃぐしゃの顔でそう言った。




ランは何度も何度も頷きながら、嗚咽混じりに息を吸う。




「ま、待ってって言われたけど……っ、でも、僕……!」


「うん」


「二人が食べられたらどうしようって……!」


「うん」




その言葉に、カイルがぎゅっと唇を結んだ。




ミリアも目元を押さえる。




姉さんはそんな三人を見て、ふっと息を吐いた。




「……ほんと、無茶する子たちね」




その声は、森で言った時より少しだけやわらかかった。




受付の向こうでは、メレナさんが心配そうにこちらを見ていた。


どうやらランはここへ辿り着いてから、ずっと助けを求めていたらしい。




僕は三人の方へ歩み寄る。




「ラン」


「は、はいっ」




びくっと肩を揺らしながら、ランがこっちを見た。




「ちゃんと助けを呼びに来たんだね」


「……っ」




ランの目に、また涙がにじむ。




「えらかったね」


「ぅ、うぅ……っ」




今度こそ堪えきれなくなったのか、ランは声を上げて泣き出してしまった。




その隣で、カイルが少しだけ誇らしそうに胸を張る。




「ラン、足遅いくせに頑張ったんだ」


「そういう言い方しないの」


「でも本当だし!」


「いま言うことじゃないでしょ!」




ミリアがぺしっとカイルの腕を叩く。




そのやり取りに、姉さんが小さく吹き出した。




よかった。


本当に、みんな無事でよかった。




そう思いながらも、胸の奥には別の引っかかりが残っていた。




僕は受付の方へ視線を向けた。




「メレナさん」


「はい」




僕が声をかけると、メレナさんはすぐに背筋を伸ばした。




「依頼のグリムジャガー、討伐は完了しました」


「はい」


「でも、その子たちが襲われてたものとは違う個体で、合わせて2体討伐しました」




その一言で、周囲の空気がぴんと張る。




近くで様子を見ていた冒険者たちが、ざわりとざわめいた。




「もう一体……?」


「依頼票じゃ一体確認だったよな?」




メレナさんも驚いたように目を見開く。




「……っ」


「分かりました。この件はすぐに上へ報告します」




そう言ってから、今度は三人の子どもたちへ視線を向ける。




「それと……どうしてお子さんたちが、風渡りの森なんかにいたんですか?」


「っ……」




三人がそろって肩を縮めた。




カイルが少しだけ前に出る。


たぶん、この中で一番言い出しっぺなのはこの子なんだろう。




「薬草、月雫草(ナシリア草)を取りに行ったんだ」


「ナシリア草ですか…?」




メレナさんが首を傾げる。




ミリアがカイルの横に並んで、小さく頷いた。




「孤児院で必要なの」


「孤児院?」




そこで、ランが涙の跡の残る顔のまま口を開いた。




「ルミエラ先生でも、治せなくて……」




その名前が出た瞬間、近くで話を聞いていた冒険者の一人が、目を見開いて声を上げる。




「ルミエラって……あの白癒の天使か!?」


「えっ」


「まじかよ、あそこの孤児院の子たちか……」




ざわ、とギルドの空気が揺れる。




メレナさんも驚いたように瞬きをした。




「白癒の天使……ルミエラ先生の孤児院なんですか?」


「う、うん……」




ミリアが不安そうに頷く。




「ずっと熱が下がらない子がいて……」


「ルミエラ先生が神聖魔法も使ってくれたんだけど、よくならなくて」




ランがそう言うと、ギルドの中が少し静まった。




誰かが小さく息を吐く。




「白癒の天使でも駄目なのか……」


「相当だな……」




その反応に、三人はますます小さくなっていく。




姉さんがそれを見て、ふっと息を吐いた。




「だからって、子どもだけで中層まで行っていい理由にはならないけどね」


「……はい」


「でも、街で依頼を頼もうとしたんだ」




カイルが悔しそうに拳を握る。




「けど、お金がなくて、誰も受けてくれなくて……」


「そしたら、男の人が話しかけてきたの」




今度はミリアが言った。




その言葉に、僕は顔を上げる。




「男の人?」


「フードを被ってて……顔は、よく見えなかった」


「声も男の人だった」




ランも小さく付け足す。




「風渡りの森の中層で見た、って……それだけ言ってた」


「……怪しいわね」




姉さんがはっきりと眉をひそめた。




メレナさんも真面目な顔で頷く。




「はい。この件もギルドで確認してみます」


「二体目のグリムジャガーと関係あるかもしれないしね」


「そうですね……」




メレナさんは少し考えるように視線を落としてから、もう一度三人を見る。




「まずは、みなさんを孤児院へ送り届けましょう」


「送るの?」


「はい。このままお返しするわけにはいきませんから」




その言葉に、ランが少しだけほっとしたように息を吐いた。




カイルは気丈にしているけれど、足元はまだふらついている。


ミリアも限界が近そうだ。




姉さんがしゃがみ込み、三人と目線を合わせる。




「いい? 今日はもう絶対どこにも寄り道しないこと」


「……はい」


「返事小さい」


「は、はいっ!」


「よろしい」




姉さんが満足そうに頷く。




その横で、僕は三人に向かってやわらかく笑った。




「孤児院まで、一緒に行こうか」


「……うん」




答えたのはミリアだった。




そのすぐあと、ランも小さく頷く。




カイルだけは少しだけ意地を張るように顔を上げたけれど、結局ぼそっと言った。




「……ありがと」




その声が思ったより素直で、僕は少しだけ目を瞬いた。




姉さんも聞こえていたらしく、ふっと笑う。




「ちゃんとお礼言えるじゃない」


「うるさいな……」


「はいはい」




そんなやり取りを見て、メレナさんがようやく少しだけ表情を緩めた。




「依頼報告の手続きはこちらで進めておきます。グリムジャガー二体目の件も、すぐに確認へ回しますので」


「お願いします」


「はい」




僕が頷くと、メレナさんも真剣な顔で頷き返した。




「行こう」




僕がそう言うと、三人は小さく肩を寄せ合うように並んだ。






そうして僕たちは、孤児院へ向かう事となった。

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